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闇ニ玉散レ百剱  作者: 亜空間会話(以下略)
王歴8年:灰白はやがて黒へ
21/61

B-Brilliant Blue:2

※大事なお知らせ


 構成やら執筆が終わっていない部分が多いので、しばらく投稿を休みます。これからは章ごと、もしくは周期を決めての投稿となります。ご了承ください。


 どうぞ、お楽しみください。

 ――家族だろう? 秘密があっていいじゃないか。これを食わないと約束するなら、何をしたっていい。……俺は、家族を養いたいだけだよ。これがいちばんいい方法なんだ。



 妹を叩き伏せたのちのものとは思えないほどに静かな言葉だった。どうしても殺さねばならない相手が目の前にいるというのに、敵わないと知ってしまった。まだ道場の門下生にすぎない少女にとって、それはあまりにも巨大な敵だったのだ。


 ――しかし、好機はすぐに訪れた。


 その日、ユウグスはひどく疲れた様子だった。なにやらよくわからない石ころを小箱に収めたかと思うと、すぐに寝床へ向かってしまった。血を浴びた後らしく湯に浸かったような気配もあり、これは間違いないと思わせるものだったのだが――予想に反して、彼はその小石以外に何も持って帰っていない。ミヅノがその小箱を開き、その小石はいったい何だったのかと確かめようとした瞬間――。



――やめなさい!! それは封龍石だ、飲まれるぞ!

――いいことを聞きました。


――まさか!?

――古来より、龍と人は契りを結ぶもの。


――違うッ! 悪なる龍に耳を傾けてはいかん、今すぐに、

――あなたが善だとは言いますまい、兄上。



 気が付くと、骨の龍がたたずんでいた。


『年端もいかぬ娘ごが、この我を呼び覚まそうとはな。因果なものよ』

「龍は人と契りを結び、力を与えるという。娘では不服なのか、龍よ」


 剱蜥蜴のように、骨に鋼を溜め込むでもない。表面がぬらぬらしたまがい物のように骨の形を取った何かというわけでもなく、それは死した龍の骨だった。


『不服とは言わぬさ、それもまた因果。次なる「骨龍面」の餌食が年若き娘であるというだけの話。命尽きるまで死なぬものを娘というかどうかは知らぬがな』

「そんなことはいい」


『く、クク……! そんなこと、と抜かしたか貴様。狂うてもなお逃れ得ぬ無間地獄を嗤うか――良かろう、それなりの力はくれてやる。しかしながら貴様、尋常の死を迎えられるなどと思うなよ?』


 狂ったように笑う龍は、やがてひとつの形を作る。


『貴様の体は痛みもなく作り替わる。――行きて帰らぬ修羅の門、覚悟あらば、いざ』


 ミヅノはずっと思っていた。剣を志してもう五年になるが、いっこうに強くなったように思われない、と。


 肉体の成長は乙女の成長であり、剣を振るう腕は頑健な鋼でなく白くたおやかな細腕だった。剣客の武勇伝としてモンスターを倒したの竜の尻尾を切り落としたのと聞くたびに、彼女はいつもこう思った。



――できまい。

――魔力はおろか、剣の腕さえままならぬ身で。

――人ならざるものを屠るどころか、傷一つ。

――私には……。



 瞬間に、ミヅノは乙女としての体もしあわせも、尋常に生きて得るべきすべてを失った。人の身、みずみずしい柔らかな身体は戦うにはあまりにも弱かった。龍は彼女の望みを叶え、若々しさを保つ――つまりは時を含めた可能性を奪う呪いをかけた。


 彼女はもう、命が失われるまでの未来永劫、変わることができない。その肉体にわずかでも筋肉がつくことはなく、どのような病も起こることはない――人として過ごすべき大部分を、彼女は亡くした。その代わりにミヅノは、龍骨のように恐ろしく丈夫、かつ凄まじき力を誇ることになる。だが、それを喜んで良いものかどうかは分からない。


 瞬間に仕留めた彼女の兄、ユウグスは間違っていなかったのである。


 骨龍面がもたらした力は大きかったが、彼女はすぐさま修羅の道に旅立たねばならないことを悟った。歳をとらない肉体は、年頃の娘が過ごす空間において異質に過ぎたのである。かくまわれた先の宿、現在のハルカ・ミチユキの前身となる場所でも、化身でもないはずなのに年をとらない彼女は不思議がられた。


 それもそのはず、モンスター「骨龍面」は寄生体。成長や老化といった現象を食って生き、とりついた生き物が生命という意味で死ぬまで生かし続ける地獄の使者、因果を導く刑吏なのだ。人は親に先立たれるが、面に呪い食われるものは人という人に先立たれる。人に忘れ去られ人を忘れ、龍を友とするほどに生きても、命尽きなければ死ぬことはできぬ。面を付けたものは、修羅として滅び去る以外の道を失うのだ。


 ――そして、彼女は自分が思ったよりもはるかに強くなっていることを悟る。


 旅の道行きで、彼女は偽竜に出会ってしまった。偽という字はそれに至る力がないと読むこともできるが、まがい物とできるほどに似ているという解釈もある。竜になれる生物の中でも、あと少しで至らないというだけの、並みの生物としては最高峰の力を持つと言っていい――三つの頭を持つ「三頭偽竜(エボルヒドラ)」は、人の身には倒し得ない。だが、彼女はそれを倒してみせた。


 うっかり攻撃を避け損ねて尻尾が腕にかすってしまい、衝撃の大きさから腕が吹き飛んだかと諦めたが、彼女は目を向けたそれを見て驚愕した。それは、薬草を当てて布ででも縛っておけば後も残りそうにない、ただの刃物傷のような――モンスターとの衝突があったとはとうてい思われないようなものだったのだ。






 行脚すること数十年、彼女はモンスターが変異するさまを間近に見てきた。生来持つものとは思われない異常な力を発揮するものとも戦い、生き残ってきた。だからこそ、今回出たというものにも感じるところがある。


「とかげ、貴様ではなかろうな……?」


 彼女は、あの剱蜥蜴が変異したものだということに感づいていた。ただ一回会っただけの、人でもないものに愛着を多少なりとも感ずるほうがおかしいのだろう。しかし、離れ形見をよこすとかげなど聞いたこともない。それは知らず行われる、かれによる確信なのだ。自らが伝説の登場人物になるのだと知ってミヅノは驚いたが、それは慈雨のごとき報せでもあった。


「たとえ貴様であろうと、私の守るべき人々に仇為すのであれば――」


 今であれば――斬れる。鋼のような鱗を切り裂く刀はある。とかげの首を落とすにためらいはない。その力が竜に及ぶ前であれば、どうにか倒す手段はあるのだ。


 決意を嗤うように、剣気が伸びた。


(む、この感じは――)


 ひどく冷たい、氷に触れたような寒気。剣気の形は、青い紅葉が幾重にも折り重なる、見上げた木漏れ日を思わせるものだった。


「……跳ねっ返りか。安心したぞ」


 青い宝石柱を連ねて、人と蜘蛛の相の子にしたような姿――国神たる龍晶の手足となってそれを守護する「瑠璃玉牙」である。龍晶の子であり彼らの力を分け与えられているという玉牙ならば、剣気が使えたところで何の不思議もない。


「通じるか――」


 鍛冶屋だった叔父のアマサダは、失敗作を量産したという不名誉を知られている。エディルム・モールトという硬質合金をふんだんに使用した刀もそのひとつだ。硬いだけあって重く、大の男ですら持ち上げはしても水平に掲げることさえできないという。いったいどうやって打ったのか、逸話からして無理があるような代物である。


 両腕が剣へと変じた剣士のような動きで、玉牙は襲いかかる。疲れを知らない宝玉の体に後れを取らぬよう、ミヅノはするりとかわして小さく切り付けた。火薬が炸裂するような音が轟き、ごくわずかなかけらが散る。


()くぞ、契綱(ちぎりづな)

『――』


 了承の音が返った。柄の先がガバリと開き、与えられるものを飲み込まんと待っている。しかしお預けだ。先にこの刀の素の力を発揮せねば、かけら程度のものでは長続きさせることができない。


 相手の体の高さは、目測にして二身。常人の二倍はあろうかという、威圧感たっぷりの大きさだ。だが、それはチャンスでもある。叩き潰さんとして振り下ろす腕剣も、横薙ぎに胴体をまるごと吹き飛ばそうという勢いの一撃も、小柄な彼女からすれば大振りに過ぎる。一身と少しあるかないかの彼女は、この死線でも生存しうるのだ。


「ふっ!」


 玉牙は、衝突の結果にひどく驚いたに違いない。不壊にも近い瑠璃の剣に雷光のような亀裂が走り、きしみを上げて大きく砕け散った――その理由が理解できるはずもない。理由は明白、その刀は剣にして剣に非ず、本質は柄に開く口にあるからである。空腹を満たすための余禄は手早く済ませたがる刀は、そそる匂いを嗅ぎつけて目を血走らせている。


「こぶし大だ。大きかろう?」

『――――』


 満足ではないが、不満ではない。腹八分目には足りないが、ともかくも食事ならよし、といった様子である。


 そして、白銀の「霊刀・契綱」はその姿を変えていく。


 柄の端にある口がカチリと閉じ、何もなかったと言わんばかりに澄ました動作で宝玉に変わる。刀身はすうっと鋭く尖り、峰は鱗が層をなすように牙棘が折り重なる。玉牙を形作る瑠璃の色が刀身を染め上げ、先端がきりりと鏃の形を描き――ばけものは、その正体を現した。


 命一つを代償に作られるという双命核を溶かし込み、ごく単純な心を埋め込まれて生まれたゆえに明確な霊が宿る「霊刀」連番の第一。喰らうということしか知らぬ魂を宿し、喰らったそれを真似る力を持つ刀――それこそが「契綱」である。


 放たれたあまりの力を怖れ、玉牙はわずかに退いた。しかし、ごく単純な事実を思い出したか、かれはミヅノを叩き潰しにかかった。


 力を放ったのはあくまで刀、彼女は玉牙の攻撃をしっかりと避け続けている。すなわち当たれば死ぬということであり、当てれば勝てるのだ。先ほどよりも格段に精密さの増した攻撃を繰り出し、玉牙はミヅノを屠らんとして――腕剣を片方失った。


「この刀は液能を真似ることもできてな。なるほど、棒よりもやすりのほうが傷はひどいと聞いたが……試せたのはそれがしくらいのものであろうな」


 擦過する瞬間に、玉牙の出した剣気を真似ただけのことである。同じ使い方をしただけで発展性皆無、呆れるべき低級の部類だった。しかしながら出力は同じ、人が自ら使う道具でケガをするのと同じこと、玉牙は自らの刃を受けてその腕を削り落とされてしまう。


 かれは、そこで賢い選択ができなかった――否、すでに命運は尽きていたが。


 液能による体の補強を行い、なくなった腕を再度生やす。そして大きく振りかぶり、自分の腰ほどの高さしかない娘へとそれを振り下ろした。


「――読んでいるぞ(・・・・・・)


 ミヅノはそれを難なくかわし――そして、かれが命を懸けて放った後ろからの一撃を刀に纏った剣気で以て弾き、跳ねるための足掛かりとしてみせる。腕力をもって跳躍するという人外の業を為した直後、彼女はとかげの行っていた「鋭い部分を一直線に揃える」という技術を使って、紅葉型の剣気をノコギリ状に並べた。


 刀の動きと連動した一撃が振り抜かれ――海をかき分けるような響きとともに、玉牙は砕け散った。






 宿に戻ったミヅノは、自分の無事と「何か」の正体を伝えた。そしてすぐに出立の準備をする――といっても、かの呪物のおかげで部屋の片付けをする必要はない。


「もう行くん? ……大丈夫なん?」

「ええ。傷も負っていないし、面白いこともあったみたいだから」


 マナツはしきりに心配していたが、彼女には傷一つない。これよ、と取り出したとかげの鱗を見て、マナツは目を見開いた。


「生きてる鱗……もしかして離れ形見?」

「私が言ってたとかげの鱗。あのときとは違う……」


 鈍く輝く鉄色だった鱗は、赤みを帯びたものに変わっている。それは紛れもない享華の証であり、かれが強くなっていることをも示していた。


「鱗の色が変わるときが楽しみね。私の人生で足りるのかしら」

「それ言うたら、あたしなんかぜんぜん足りひんやんか」


 それ以前の問題――また、ここへと生きて戻れるかどうか、それを口にするほど彼女らも真剣ではなかった。


「じゃあ、行くわ」

「……行ってらっしゃい」


 骨龍面のもたらす未来は、修羅に堕ち命を失う結末のみ。それを知っているからこそ、彼女は進み続ける。願わくは心を保ったままにたどり着けることを望んで――。

 ヒドラ! ライダーシステム! エボリューション!!(幻聴)


 ドルト将軍はしばらく出てこられない……。というかミズチくんを忠実に追い続けると王国方面へはほとんど向かってない(カラヴサとグレベルス痕源野、別の大陸には行っている。王国にいちばん近付いてもまだ魔王領)ので、将軍下手すると二度と……!? やだ、絶対出す。


 ミヅノはふつうの女の子だったんですが、契約して龍に近い体に作り替わりました。ゲーム的に言うと「戦闘時ステータス入れ替え」。取られたのは「未来」、時間経過で体に起こる変化ぜんぶ。永遠に老いないし病気にもならないけど、時間に置いてけぼりです。傷以外では死ねないので、どれほど強さを求めても最後には死を求めるようになるクソ仕様。


 確か「三倍体」(遺伝子操作のひとつで、生殖能力がなくなる代わり、そのエネルギーを成長に回す。通常個体よりかなり大きくなるため、食用に利用されている。筆者はアユの三倍体の写真を見た、食ったことない)というのをモデルにして作ったと思うんですけど、アタマ亜空間だからすごい改変してますねー。

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