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闇ニ玉散レ百剱  作者: 亜空間会話(以下略)
王歴8年:灰白はやがて黒へ
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3「歩いて向かう先」

 どうぞ。

 それは偶然の結果だった。同じことをもう一回繰り返せば、あるいはボルコスが有効打を与えて勝利に手をかけたのかもしれない。


 ――どちらにせよ、鱗に通っていない時点で仕留められはしないのだが。


『く、ふふ……あなたの勝ちですよ。何がお望みです? 知っている限りの、魔将軍の情報でも教えましょうか?』


 キメラとはいえ、蛇の生命力を持つ彼の頭部はしぶとい。数分程度ならば会話も可能、命があるというだけなら倍はつなげるだろう。


『あなたを作った「従魔将軍」タルク……彼は数々の紫等級を作っている。あなたも例外ではない、ただのトカゲでいたかったとは言いますまい?』


 ミズチは、静かにボルコスを見ていた。


『驚くべき情報はたくさんある。興味がないのですか? ……』


 ボルコスは、その視線を見たことがあった。ひどく不快な思いをさせられて、殺した相手の目だ。その相手がいったい何を言ったのか、ボルコスはゆっくりとしか思い出すことができない。


(確か……そう、確か。味の話でしたね)


 ――素材の味っつうがよ、マズいもんをどう食うって話だろォ?


(そう、そう……。それで、)


 ――調味料ってのが必要なんだよな。いろいろ。

 ――しっかしよォ……おまえ、キメラにしちゃ面白ェ見た目してんな?


(そうだ、あれは――ソミクレは、わたしを)


 ――爬虫類ってあっさりして美味ェんだろ? っつうとよ、おまえ……トカゲとコブラのキメラってのは、いったいどういう味してるわけだ、おい?


 ソミクレはワニから享華した竜の化身だった。人の形をとってもすさまじいまでに健啖で、出会い頭に「お前は旨そうだな」などと声をかけるのは日常茶飯事。とはいえ食らいつくという攻撃は周囲を不快にさせても歯向かわせない程度の恐るべき力を持ち、将軍の御前で彼らの配下を食い殺したことさえあった。トカゲ牧場の肉をもっともよく食っていたのは彼だと言われるほどに、彼は肉が好きだった。肉ばかり食い、モンスターに食らいついてそのまま殺し、血の滴る肉を骨ごと食うのが好みだったと記録されている。


 ボルコスは、出会った瞬間にソミクレが嫌いになった。傲岸不遜、それはいい。ちょっと調子に乗った魔物ならいくらでもいる。将軍の部下たちにも、威光を笠に着たクズは少なからず混じっていた。その程度の愚行は大目に見るべきだろう。


 いつも腹を空かせていて、目の前にあるすべてを「食える」「食えない」で分類する愚かさが、ひどく気に障ったのだ。


(違いますね、あの目は――違う。そういうものではない)


 食う気でいる、つまりは勝った気でいるのだ。優劣を明確に決めたがる彼らの中で、最初から勝った気でいる相手というものが好かれるはずはない。


『ま、待ってください……』


 呼吸――でなく、息が苦しくなってきた。もはや肺とつながっていない口は空気を通して喉にぽっかり空いた気道から出すだけで、苦しみが和らぐことはない。


『あなたは知りたくないのですか? 自分がなぜ生み出されたのか、自分に宿る力がいったい何なのか? アレ(・・)が何か……知っていて放っておくというのですか』


 ミズチの目は変わらない。否、爬虫類に表情筋などない。


 ボルコスの見る視線の意味もまた、変わっていなかった。


『慈悲を……せめて、生きたまま食べないでいただきたいものです』

「シュウゥ」


 ずだんっ、と尾剣がボルコスの頭部を砕く。彼の脳が万力で砕いた小石のようにはじけ飛び――それらの中に分散して入っていたのかどうかはともかく――、ボルコスの意識はさらりと消し飛んだ。




「ごめん寝坊あんど寝相悪すぎた……なにこれ」


 ユキノがあの激しい戦闘のなかでなぜ起きなかったのか、なぜ現れなかったのかといえば答えは簡単、寝ている間に空中を漂泊してあらぬ方向へと転がっていっていたからだった。さらに寝ぼけまなこで戦闘が終わるか終わらないかというあたりの音を聞きつけ、かなり迷ってからミズチの魔力を探知しつつやってきたねぼすけである。


 壁に張り付いた六角晶が照らすのは、血だまりとキメラの死骸、そしてそれらをあらかた骨に変えようとしているミズチの姿だ。


「シィイゥ」

「うん、言ってもわかんない。別にいいから」


 なまもの(・・・・)を倒すと食う、というのがミズチのルールらしいと彼女は考えていた。


 生物が死ぬというのはすなわち、自分の疲労という対価を払って食糧を買ったのと同じこと。食わないのはそのまま腐らせるという意味であって、まるっきり損だ――はっきりとした思考にはなっていないが、ミズチの認識はおおむねそのようなものである。いわゆる「いただきます」の文化に似ているかもしれないが、より原始的な食う・食われるの関係における明確な意思表示である。殺したものを食わないということは、生物としてあるまじき事態――つまりは生命へのむごたらしいまでに直接的な罵倒なのだ。


『トカゲも進化しそうだよね。魔力が濃くなってるし』


 彼女は魔力眼をうまく扱いきれていないため、部位ごとの見分けも下手だった。魔力を吸着しつつ、それそのものを固定して形にしていく晶殻にはかなり強烈な――藍等級にも匹敵する量のものが凝集しているが、全体でいうと供給される量は増えていないため、等級は進化した瞬間の緑青等級から変わっていない。


『でも、ちょっと違う気がしてきたんだよね……トカゲって、魔力とあんまり関係ないでしょ? 等級だけで測ると違う気がする』


 ようやく気付いた事実は、その通り――等級は直接に戦闘能力を指すのではない。緑等級モンスター「射手蝦蟹」の放つ空気弾の一撃は、青等級のモンスターを一撃で殺傷できる――といったような例はほかにもある。


 かの有名な「流星蹴砕兎」はばね状になった筋肉や硬質な足裏、その体の小ささやすばしこさから藍等級のドラゴンさえも瞬殺する。彼らが黄色等級に分類される理由はといえば、「キックできることを知らない」そして「相手を殺さずとも食糧が手に入る」という単純な事実による。加えて蹴撃一点特化の生物である彼らは、攻撃はともかく防御はできない。実際にドラゴンを相手取っても、蹴りの届く範囲にたどり着く前に彼らの特殊能力に敗れ去ることだろう。


「というか、これ何だったのかな? ふつうにいそうなモンスターじゃないよね」


 トカゲの首にコブラがくっついている、といった姿のモンスターは天然のものとは思えない。実験の結果や何がしかの術の存在を思わせる、――「人」の介在を思わせるものだった。


「やっぱり作ってるんだ……何かのために」


 価値観が違うために、その「何か」が何であるのかは想像もできない。もし彼女が元いた世界で大人になっていれば、あるいは理解できたかもしれないが、まだみずみずしい感性では理解できようはずもなかった。


「行こう。私はぜったいやる」


 ミズチはわずかに嫌がるようなそぶりを見せたが、逆らうことはない。


(私は強くなったんだ――簡単に負けたりしない)

 はい、負け確定。


 キメラの作り方としては「攻撃力+移動力」とか「防御力+殲滅力」みたいな組み合わせが多い印象。ボルコスは初期試作型の子孫なので、どこがどうというわけではありません(別に弱くはない)。食品としてのキメラとか、天然キメラとかも……トカゲくんが最終覚醒、クソトカゲと同等の強さを得るあたりで語られるんでしょうか。そこまで書けるのか、私。

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