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闇ニ玉散レ百剱  作者: 亜空間会話(以下略)
王歴8年:灰白はやがて黒へ
12/61

1「蟲毒荒らし」

 ひっでぇ引きからの今回、ただの無双。


 どうぞ。

 液能「魔力眼」は、魔力を感知できる生物ならば簡単に身に付けることができる。肉体性能のみで生活している生物の方が珍しいため、これに適性を持たないものはほとんどない。ユキノは短時間で等級についての基礎知識を理解していた。


(魔力の濃さが虹の後半に行くほど強い、かな。きれいな緑のトカゲだなー)


 等級に付けられた色名は、魔力の濃さの色を表している。橙やら黄色が多いなかで、美しい青緑の魔力を持つトカゲ――正確にはミズチ――は、彼女の目にとても強力な魔物であるように映った。


 四脚のそこかしこに鋭い突起を持ち、尾は下の方に刃が付いた刀になっている。背には六本の結晶が生え、鱗は赤みがかった鉄色、よくまとまった魔力とこれまで見たどのモンスターよりもまともである。


『決めた、これを手下にしよう』


 乗り物としても使えそうで、かつ成長性もかなりのものを見込んでよいだろう。液能「精神操作」はほとんど使ったことがないにも関わらず、使い方自体はほぼ理解している。精神操作の影響で気付かれていないかと思ったが、眠ろうとしたミズチは目を開けてきょろきょろと辺りを見まわしている。


『ん? 気付かれちゃった?』


 液能「陰影」を使って瞬間移動し、ユキノはミズチの背後に回り込む。


(――あの背中の水晶、ぜったいヤバい)


 急速に超高レベルの魔力が集まり、射出されようとしていた。闇魔法で晶殻を破壊し、さっそく精神に働きかける魔法でも少し難しいものを試す。


『えっと……? そうそう、〈精神操作〉』


 相手の精神を支配し、命をなげうってでも忠誠を尽くさせる外道の術である。支配するにはある程度相手を上回った強さを持つ必要があるが、あいにくと彼女は自分より弱い相手を見たことがなかった。


『わりと知能高めかな。強靭じゃないけど』


 人語を解する程度の知能はあるが、それ以上に期待できるようなものはない。命令すればその通りのことをするというような、操るには都合のいい度合いである。きっちりと固めた後に忠誠を埋め込み、操る素地を作る。二、三の命令をしてこなせるかどうかを見たあと、彼女はさっそく次の命令に移った。


『じゃあ人型になるから、背中に乗せてくれる?』


 ミズチはこくりとうなずき、人の形になったユキノを乗せる。




 友達を亡くして数日、彼女は異様にモンスターが少なくなった洞窟を見て、もともと洞窟にいるモンスターはそう多くないのだと悟った。そして、洞窟性のモンスターはどちらかといえばマイナーであり、外のものばかりが集められていることを知った。


(集めて殺し合わせる儀式……そんなのがあった気がする)


 遠いところから、近いところから、さまざまなものが集まっていた。弱いものばかりだったことは不思議だが、おそらくは強くなる可能性に賭けたのだろう。勉強で賢くはなくとも、彼女は察しがいい方である。


(なら、集めたやつを殺しに行く)


 無謀かもしれない。そして、無駄かもしれない。しかし、決心はついている。


「行こ、トカゲ。好きにしていいから、私の助けになって」


 忠誠を植え付けられたかれは、もとよりそうする気になっていた。何の疑問もなく、ついさっきまで最大限に警戒していた怪物を相手にして「これは味方だから絶対に守る」というふうな態度をとっている。


「まずは……力の使い方、かな。トカゲも、その力ってまだ不慣れなんじゃない? これからあちこち殴りこみに行くから、鍛えたら?」

「シュゥ……」


 晶殻に溜め込んだ魔力はいわば貯金であり、手持ちの――つまり体に帯びていつでも使える魔力と同等に考えるのは危険である。魔力が流れる素地ができたとはいえ、ミズチの魔力は晶殻から供給されて体に蓄積しているもの、つまりは貯金の切り崩しにすぎない。魔力を纏うことで自壊を防ぐような、半ば物理法則を無視したモンスターでもなければ生死に影響はないが、いざというときの対応がひとつに絞られないためにも、ミズチは魔力を蓄積しておきたかった。


 精神支配術式の弱点はこれである。ある目的を与えはしても、手段を支配者と共有するわけではない。そのため、より最適化された手段を発見したものは主人の命令とは食い違ったことも行う。役に立つこともあれば、主人よりもはるかに愚かな生物を従えた場合に、恐ろしい悲劇へと発展することもある。


 砕けてはいても、何かを乗せるために形を整えつつ再生している晶殻は魔力を蓄積している。しかし破断面から抜けていくであったり吸い寄せたのに固着できないであったり、ミズチは人知れず自分も知らない苦労を重ねていた。


「魔力の濃さ上限ってどれくらいなんだろ……? 自分は見えないし、相当強くなったと思うんだけどなぁ」


 彼らを作ったタルク・ザーンはその答えを知っている。しかし、並みの魔力眼ではそれを観測することすら叶わないだろう。否、見えたところでその意味を知ることはできまい。


「じゃ、出るよ」


 かれはこくりとうなずき、彼女を乗せたままゆったりと歩き出した。




 気能を使いこなすに苦労は要らない。口を開けるための知識というものが必要ないのと同じで、それは体を動かすだけ、生きているだけで為し得ることである。ミズチの「甲殻変性」は取った食事の成分に呼応して甲殻の材質が変わっていくものだが、その取捨選択に彼の意志は介在しない。


 魔力や気力を使うぶん強力である液能の使い方は、習熟する必要がある。


『死んで、ザリガニ』


 射手蝦蟹は、真正面から断ち割られた。仇に叩きつける一撃は液能「闇魔法」の始点にして到達点、虚無状態(ゼロ・エナジー)を以てぶつかったものを消滅する「黒玉」の原理を応用した技――虚無状態を凝縮した細線「黒斬」である。込められた魔力の分だけ当たった部分が切れるため、それは減衰していく暗黒の三日月にも見えただろう。


『トカゲは魔法の練習しなくていいの?』

「ギュウ」


 シュウ、ともギュウともつかない、微妙な声でミズチは応える。


 ――お前がそれだけできていることが、こちらにできないとでも思うか。


 含意としてはそのようなものになるが、トカゲにもミズチにも言葉というものを使う機会がないため、それを伝える手段はない。


 ミズチがトカゲだったとき双命核によって手に入れた液能「刃気」は、自分の尻尾と同じ(・・・・・・・・)切れ味のオーラを発生させ、それを移動することで疑似的に遠距離斬撃を繰り出すというものである。肝心なのは「尻尾と同じ」という点であり、これが理由となって、彼は尻尾を操るのと同じ感覚で刃気を操作できる。鋭変を可能とする程度には使いこなした尻尾、それ以外のことをするとしても、振るのと同じ感覚ならば問題はない。


『尻尾を鍛えたいってことなのかなぁ……? ま、いっか』


 彼女の察しは珍しく正解である。足が斜め下に突き出したトカゲとは違い、ミズチの足は真下に出ている。爬虫類よりも獣や恐竜に近くなったミズチは、もう少しだけその体に慣れていない。尻尾の刀は体の中でも恐らくもっとも大きな器官、重心が低いために無茶ができていたころよりは扱いが難しい。修羅場に飛び込むという宣言をした彼女に付いていくため、ミズチは積極的に自分を鍛えていた。


 実験室52号――という看板も何もないため名称を知ることはできなかったが――に踏み込み、さんざん荒らしまわった二体のモンスターは、ようやくすべての敵を倒し終えた。やはりミズチよりも強力なものは非常に少なく、勝ち残ったものも回収がやや遅れたためかずいぶん弱っていた。


 ミズチが体験したような「進化」というべき成長は、魔力と気力、そして生命力をはち切れんばかりに蓄積した個体にしか為し得ないものだ。そして、いったん始まれば止めることも選ぶこともできない。諸刃の剣というよりは首に突き付けた鋭刃といったところか、次なる進化の可能性をもたらすと言えどそのデメリットは大きすぎる。


 戦いによって命をすり減らしたせいか進化した個体はいなかったようだが、もしもそれを目撃したのならば、ミズチは即座に逃げの一手に回ったことだろう。


 デメリットがあれば、それを上回るメリットがなければならない。進化することによって生じる諸々は、知った風に語る学者を黙らせるだけのインパクトを持っている。体構造そのものが作り替わることによって、筋力であれ魔力であれ体の受け入れる限界は大幅に上がる。そして成長の幅や可能性も広がり、有り体に言えば個体ごとの格差が強く表れることになるだろう。とはいえ一度でも進化したものは等級が変化し、地味でも恐るべき変化を起こす。加えて体力を消耗したために飢え渇き、無差別に獲物を求めることになるため、近付かないに越したことはない。


『進化とかしないのかな?』


 必要な条件が足りているかいないか――異世界より訪れた魂には、示されることがある。しかしながらそれは、世界に対する理解のしかたが完全に狂っていなければならない。命を数字として考え、ものというものの存在する理由を知らず、乱数表やフローチャートによってスケジュールが決められる――などと考えている人間はいまい。彼女はものが存在する理由を知り、命を命として捉えていた。


 ゆえに――緑等級モンスター「闇球」には進化形が存在しないのだと、知ることができない。等級がいかようにも変動し、超越的な強さや天災にも劣らぬ巨大さを持つ個体がいるとも言われるその一方で、弱いものは蟲毒に利用されたり双命核に加工されたりする。上から下まで格差の大きいモンスター、それが「闇球」であった。


 そして彼女の間違いはもうひとつ――モンスターがいるならあるだろう、と考えたものがこの世界にはなかったことである。


『経験値とかそうとう貯まってるはずなんだけど……』

 ザリガニ(じつは亜種)、説明されてないので弱そうですが、かなり強い方です。ちなみにハサミが空気弾発射装置になる前、進化で体が作り替わる前の「陸蝦蟹」(原種)はクソ以下雑魚のパワータイプ。装甲を一撃でぶち抜ける魔法使いとか想定してないので負けてますが、原種でも装甲+そこそこのパワーで騎馬兵一人以上の戦力があります。強力な空気弾まで加わったザリガニ、単騎で砦落とせるレベル。


 進化先なしはフラグなのだ……

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