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12 どんな一日になるんだ?

 しまった!

 俺は、この学園のシステムを完全に忘れていた!

 こんな日が、こんな日が来るだなんて……。

 どうして俺は気付かなかったんだ……。


「おはよう、カズキくん。今日は隣の席ね」


 いや~ん。

 今日は、ユキエ様のお隣の席なのね。

 ユキエの席は、教室左端の一番前だ。

 ベルトコンベア方式に別席に移動する男子は後ろに席がない場合、右隣の列の一番先頭に移動する。

 土曜日まで俺は教室の一番右下端にいた。右隣に列はないため、月曜日には教室の一番左端の席に移動することとなる。

 俺は、すぐ後ろのカサネを睨みつけた。

 どうして、お前はこんな大事なことを教えてくれなかったんだ!

 視線を意に介さず、無表情でカサネは俺を見据えてくる。

 な、なんすか……お前に教えなきゃいけない理由はないと、そう言いたいんすね。

 わかります……。


「突っ立ってないで、座れば?」

「おう」


 俺はできるだけ自然に、男らしく席を引いて座った。

 俺は、ビビってない。ビビってないぞ! ガクブル。


「おい、そういえば。この前の相談料、振り込まれてねぇじゃねえか。どういうことだよ?」

「あら、それは仕方ないわよ。私とあなたは、お友達でも何でもないんですから。無関係な人間からはGP(お金)の貸し借りは出来ない。そういった、システムになっているのは知ってるでしょ? お友達登録していれば、あげられたのにね~。あなたが嫌がってるんじゃない、違う?」

「ぐぬぬ……」


 そうだ。

 学園の通貨であるGP(学園ポイント)を譲渡や受け渡しは、相互が友達以上であると認めていない場合は出来ない仕組みになっている。

 知り合い、友達、友達以上、親友、恋人、パートナー、その他にもいろいろな関係が個人レベルで登録できる仕組みだ。

 部活仲間とか、同じ趣味の人間とか、そういった形で学園内のコミュニティを個別に登録し、人間関係を意識させるように出来ている。

 実際に登録できるのは、生徒手帳同士が一定以上の距離に近づいたことがある場合のみで、互いの情報を通信していて初めて登録できる。

 すれ違った回数、一緒にいる時間など、もろもろを考慮して学園側から標準的な関係性が自動的に振り分けられる。

 個人的にその人との関係は似つかわしくないと判断すれば、登録変更ができ、特に友達や恋人など信頼関係を重視する項目に関しては、自分から登録しないと反映されない仕組みとなっている。


「私の計画に乗ってくれていればねぇ~。パートナーとして登録されていたわけだし、お金の受け渡しなんて、全ッ然わけもないんだけど。どっかの誰かさんが、いきなり逃げ出すんだもの。仕方ないわよねぇ~」

「ふぐぬぬ……」


 俺の生徒手帳の中で、ユキエは『知り合い・クラスメイト』となっている。

 これでは、金の受け渡しは出来ない。

 まあ、抜け道はあるんだが、そんなことまでして金の受け渡しをする理由がユキエにはない。

 結果的に、俺には一銭も渡って来なかったという訳だ。


「なんだったら、今からでも友達登録して上げてもいいわよ? パートナーなんかには、絶対ヤだけど。お友達としては、仲良くしてあげる。彼女のためにもね。むふふふ……」


 気味の悪い笑いを、ユキエは向けてくる。

 嫌だー怖いよー。

 しかし、今の俺にはどのようなポイントでも惜しい。


「友達登録したら、金を振り込んでくれるんだろうな? それなら、やってやらんでもない」

「いいわよ、それぐらい。お安いご用よ」


 即座に、ユキエは自分の生徒手帳を取り出し操作し始めた。

 俺も不服そうな顔を作って、生徒手帳を操作。ユキエを、金銭譲渡が出来る友達以上に登録した。

 やったね、タ◯ちゃん。お金がもらえるよ!

 俺はユキエに画面を見せ、登録したことを示す。

 ユキエも納得した顔で、自分の生徒手帳を見せてくる。

 すでにその画面は、送金の完了を示すものであった。


「しばらくすれば、反映されるでしょう。待ってなさい」

「言われんでも、分かってる」


 ホクホクした気持ちで、ポイント画面を呼び出す。

 残念ながら、ユキエの送金した1000GPは、まだ俺に届いていなかった。

 ゾロゾロと他の生徒達も席に付き始めた。

 月曜日の朝は、授業前に全校放送による朝礼がある。

 特別なイベントがない場合は、簡単な挨拶で終わるのが常だ。

 今日もすぐ終わると思っていたのだが、俺の予想は裏切られた。


『全校生徒の皆さん、おはようございます。生徒会長の泉谷奏二郎です。本日は、生徒会より重大な発表があるため、学園よりこの場をお借りして、皆様にお伝えしようと思います』


「うぅ~ん!?」

「なによ、変な顔して。不細工な顔が、より不細工になって、見れたもんじゃないわね」

「そりゃあ、悪うござんしたね」

「で、なんなのよ? なんで、そんなに驚いてるわけ?」

「いや、生徒会長の名前が聞き覚えのある名前だった気がしたんだけど、知ってる声と全然違うんだよ。誰だ、こいつ?」

「そりゃあ、生徒会長でしょう? 自分でそう名乗ってるんだから」

「う~ん。まあ、そうなんだろうけど。じゃあ、俺が知ってる人は誰なんだろう?」

「馬鹿なの、あんた? あんたしか知らない人のことを、なんで私が知ってんのよ」


 そりゃあ、そうでしょうけど、尋ねてきたのお前じゃん?

 せめて、もう少しやさしいフォロー出来ないのかよ。

 変な空気の俺らを置いてけぼりにして、自称・生徒会長は話を進めていく。


『すでに新学期が始まり、二週間が過ぎています。学園のシステムを熟知した2年生・3年生の方々は今日もポイントの浮き沈みに、一喜一憂されていることでしょう。ですが、まだ入学したばかりの1年生の中には重要性を認識していないばっかりに、大幅にポイントを減らしてしまい、学園生活に窮屈な思いをされている方もいらっしゃるのではないでしょうか?』


 うっす。まさに、その通りでございます。


『我々生徒会は、生徒一人ひとりの味方です。一人でも多くの学生が、自由で快適な学園生活が送れるよう助力する所存です。そこで、我々生徒会は、救済イベントを用意してあります。在校生の中には、待ちわびていた方もいらっしゃるでしょう。ご期待に添えるよう、確実なポイント収得イベントを御用しております』


 これか。

 ノノカが言っていた『生徒会の動き』ってのは。

 確かにポイントをゲットできるのが、授業や部活動以外でもあるなら、それに越したことはない。

 パートナーが作れない俺のような状況の人間にとっては、願ってもないチャンスだ。


『それでは、発表しましょう。我ら生徒会主催するポイント救済イベント――その名は!』


 ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。

 クラス全員の視線が自称・生徒会会長の声を届けるスピーカーに注がれている。


『伝・言・ゲェェエエム!!!』


 急にキーの高くなった声はハウリングを起こし、教室内を嫌な不協和音で満たした。

 ほとんどの生徒が、耳を塞いでいた。

 もちろん、俺もだ。

 ああ、なんだろう……。

 なんだか、とっても――嫌な予感しかしない。

申し訳ありません。連載再開に先立ちまして、本編一部が修正されています。以降、ないよう気をつけますのでよろしくお願いします。

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