13 企んでいるのか?
伝言ゲームは簡単だ。
与えられたお題を、言葉を駆使してに相方に伝える。
ただ、それだけ。
相方がちゃんと意味を理解すれば、双方に2500ポイント。
お互い一回ずつ行えるのだから、合計で5000ポイント。かなり破格だと思う。
じゃあ、【相方】って誰だ?
『今年の一年生は、奥手の人が多いようですね。座席表を見せていただいた所、本日は運良く、隣り合っている二人がパートナーであるという人はいないようです。そこで、パートナーのいない一年生の方々には、隣席の男女でペアを組み、擬似パートナーとしてゲームに参加していただきたいと思います。する・しないは自由ですが、パートナーが参加を表面した場合、恐れ入りますが、相方はゲームに強制参加となりますのでご注意下さい』
なに、それ。無責任すぎじゃね?
生徒手帳には、ゲームの参加を問う通知メッセージが届いている。
[生徒会のゲームに参加しますか? YES・NOをタッチして下さい]
失敗してもペナルティはないのだから、ポイントが欲しいなら、ほぼ参加するだろう。
あとは、よく知らない二人でこのゲームをやるかどうかの判断次第なわけで――パートナー関係を意識せざる負えないこのゲームを、今朝顔を合わせたばかりの男女で話し合って決めるわけだ。
それでなくても、パートナー選びにギスギスしている状況なのに、ついにイベントにて強制的にお試し関係を結ばされる。
《好きでもない》――っていうか、《勘弁して》と思っていた相手であっても組まされるだなんて、酷い話じゃねぇか、これは。
[パートナーより参加の意思が表明されました。ゲームの詳細を表示します。下記のリンクをタップして下さい]
俺は、生徒手帳の画面を食い入る様に見詰めた後、隣に座る相方に苦虫を噛み潰したような顔を向けた。
ユキエがヒラヒラと生徒手帳を振りながら、憎たらしい笑顔で参加完了の画面を見せ付けている。
ヤロウ……なに企んでやがる……。
『この合間にもすでに、参加を表明された方々がいるようです。参加表明の期限は、午前の授業が終わるまで。ゲームは6限にあたる自由選択科目の時間を割いて行われます。有意義な学園生活のため、多くの皆さんの参加をお待ちしております』
生徒会長が言葉を締めくくると、いくつかの事務連絡が行われ、全校放送による朝礼は終了した。
授業開始まで5分もないが俺は、ユキエに真意を確かめずにはいられなかった。
「な、何のつもりだテメエ」
「あら、ポイントほしくないの?」
「そりゃあ、欲しいけどよ……その、パートナーとしてだなぁ……」
「擬似でも私とじゃあ嫌ってわけ?」
「い、や……あのですねぇ……」
み、見える……!
メラメラと赤い炎が、目だけ笑ってないユキエの背後で揺らいでいるのが見える!
なんで、どうして?
ぶるぶる。僕、悪いスライムじゃないよ。
キーンコーンと授業開始のチャイムが鳴り、押し寄せてきていた炎の波は消え失せた。
素知らぬ顔でユキエが正面を向くと、呪縛から解き放たれたかのように俺の身は軽くなり、ホッと胸を撫で下ろすことに成功した。
ちくしょう、何なんだよ。
よりによって今日で、隣の席がユキエで、擬似パートナーなんて組まされて、その上強制ゲームで――
あり得ないほど、最悪じゃねえか。
あ~あ、早く今日一日終わんねぇかなぁ~。
って、思っている日に限って1限目が数学とかね。
ああ、駄目だ。長い――長すぎる……。
* * *
「ゲーム自体ではペナルティが付かなくっても、別の方法で相手にペナルティを付ける方法ならあるよ。ユキエさんは、それを狙ってるんじゃないのかな?」
俺とジュンは男子便所で並んで立ち、用を足していた。
「元気?」とジュンの方から気さくに声を掛けてきた。
この男は、俺がノノカの事を黙っていたことをあまり気にしてないらしい。というよりも、始めっから知ってたふうな様子もあるし、俺がノノカからされた告白も、【愛の】ではないことも知っていそうな気配だ。
どうして、そんなことを知っているのか問いただしたい所だが、「僕の情報は高いよ」とのことなので、訊かないことにしている。
俺のモットーはリーズナブルだ。高いのなら、遠慮しておく。
「擬似とは言えども、今日一日はパートナーだからね。不純異性交遊の現場を押さえて、相手にペナルティを科す事が出来る。カズキとノノカちゃんが一緒にいる現場を押さえて、二人が一緒にいられないようにするとか。カズキを出し抜こうっていうユキエさんなら、あり得ないことじゃないと思うよ」
「パートナーになっている時だからこそ出来るペナルティってわけか。ヤロウ、あくまで俺を騙すつもりってわけだな……」
「カズキは、どうするんだい?」
「だったら簡単だ。今日一日は、ノノカと会わなければいい。――つうか、始めっからノノカとほとんど会う機会ないしな。怯えることはねぇよ」
「そういうことじゃなくって。カズキは、逆に何か仕掛けるつもりはないのかい、ってこと」
「どういうことだ?」
「この機会を利用して、ユキエさんの弱みを握るんだよ。そうすれば、カズキもユキエさんにいちいち怯えなくて済むだろ? ノノカちゃんの事で気を揉む必要はなくなるんじゃないかな」
「弱みねぇ……」
弱み――は、すでにかなりでかいのを握っているとは思う。
あのロリコン百合姫の実態を暴露すれば、かなりの打撃を与えることが出来ると思う。
だが、それは別のファンが付きそうで怖い。
最近は、女の子だけの漫画も増えてるしな。
美少女同士のモノを愛でる人種にとって、ユキエのような女が少女に走るのは、むしろ大喜びなんじゃないだろうか。
俺が暴露した所為で、その手の人種がユキエに近づき、もっと面倒な事態に発展しないか気が気ではない。
紳士として、犯罪を助長するような事はしてはいけない、と思う。
まあ、実際は思うだけなんですけどね。
「そういえば、昨日ユキエに失礼な依頼をされたんだよ」
「依頼? ユキエさんがカズキに? 面白い組み合わせだね」
「ユキエが勝手に、俺が撃沈王だって誤解してやがってよ。知らない奴から告白されたから、それを断る文面を考えてくれっていうんだよ。ふざけてると思わねぇか? んな、フラれまくる経験なんてしてねぇっての」
「えっ! してないの!?」
ジュンのやつが、鳩が豆鉄砲を食ったような顔してやがる。
もう、なんていうかね。
お前らの俺に対する印象が、ことごとく失礼だよ。
芸能通で、漫画好きで、告白する端からフラれまくってるって、どんな奴だよ。
まあ、そんなこと、どうでもいい。
「実は、その手紙にはちょっとした細工がしてあんだよ。きっと、面白いことになるぜ、フフフ」
「いい顔してるね、カズキ。カズキには、そういった悪巧みしている顔が、一番似合うよ」
なんとでも言うがいい。
ユキエが何を企んでいるかは知らない。
だが、俺が何もしてこない木偶の坊だと思っていたら大間違いだ。
ユキエのやつを、たっぷり困らせてやる!




