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王であって、王ではない者

この作品は生成AIを使用して作成しています。

 婚約は、維持された。


 あの場での撤回は正式に受理され、エリシア・ヴァレンシュタインは引き続き王太子妃候補として王宮に留まった。

 だが。


 “何もなかったこと”には、ならなかった。

 数日後、王宮は静かに動いた。

 表向きは、あくまで穏便に。

 しかしその実態は、徹底的な“是正”である。


 まず、王太子の権限は――ほぼすべて剥奪された。

 外交決裁権、軍への命令権、財務への関与、貴族人事への発言権。

 その一つ一つが、慎重に、しかし容赦なく取り上げられていく。


 理由は明白だった。

 ――国家を揺るがす判断を、感情で行った。

 それだけで、十分だった。


 やがて、父王が崩御し、戴冠の日が来る。

 荘厳な儀式の中で、王は誕生した。

 だが。


 その王は――何一つ、決めることができなかった。


「陛下の本日のご予定でございます」

 差し出される書類。

 そこには、一日の行動が分刻みで記されている。

 誰と会い、どこへ行き、何を話すか。

 すべてが、事前に決められていた。


「……これは」

「エリシア王妃殿下と貴族院議会による承認済みのものです」

 淡々とした説明。

 逆らう余地はない。

 署名欄に、自分の名前を書く。

 それが、王としての“仕事”だった。


 王妃であった母親は、今は王太后として健在である。

 あの日、毒杯を掲げたその人が。

 今は王の後ろに座り、補佐として静かに国を動かしている。

 そして。

 王の隣に座るのは――エリシア。

 王妃となった、公爵令嬢。

 彼女達は変わらない。

 常に正しく、常に冷静で、常に国益を最優先にする。


 王が何かを言おうとすれば、その前に最適解が提示される。

 反論の余地はない。


 いや。

 反論するだけの知識も意欲も、もう彼にはない。


 そして、もう一人。

 かつて、王子が選ぼうとした少女。

 ミレイユ。


 彼女は今、“寵妃”として王宮にいる。

 だが、その立場は明確だった。

 王妃ではない。

 側室ですらない。

 ただの――愛人。


「……どうして、こんなことに」

 ある夜、王は呟いた。


 ミレイユは、少し困ったように微笑む。

「陛下が望まれたこと、ではありませんか」

 責めるでもなく、ただ事実を言う。

「あの日、私の制止を振り切って宣言したということはお覚悟があったのでしょう?」


「私は……ただ、ミレイユのそばにいたかっただけで……」

「ですから、こうしてここにおります」

 柔らかな声。


 だが、その奥にある現実は、あまりにも冷たい。

 彼女には、すでに処置が施されていた。

 子を成すことはできない。

 王位継承に関わる可能性は、完全に排除されている。


 それが条件だった。

 それが――許された理由だった。


 王の精神安定のため。

 ただ、それだけのために。


 王は理解している。

 彼女がここにいるのは、愛の結果ではない。

 “配慮”の結果だ。


 壊れかけた自分を、これ以上壊さないための。

 それでも。

 彼は、彼女の手を取る。

 それしか、できないからだ。


 一方で、政務は滞りなく進む。

 王太后と貴族院議会、そして新王妃エリシアによって。

 判断は常に合理的で、迅速で、正確だった。

 国は安定し、むしろ以前よりも強固になっていく。

 皮肉なことに。

 “王が何も決めない”ことで、国はうまく回っていた。


 玉座に座る。

 王冠を戴く。

 だが。


 その手には、何の力もない。


 彼は王だ。

 だが、同時に。

 王ではない。



 かつて、彼は選ぼうとした。

 感情で。

 責任を知らずに。

 軽く。


 そして今。

 彼は、選ぶことを許されていない。


 それが。

 あの日、毒杯を掲げられたときに示された――

 “覚悟の代償”だった。

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