それは公でやる話ではありません、殿下
この作品は生成AIを使用して作成しています。
音楽が止まるより早く、その腕は掴まれていた。
「――殿下。こちらへ」
低く、しかし有無を言わせぬ声。
「な、何をする! 私は今、婚約破棄を――」
「“今だからこそ”です」
王子の宣言は、大広間に響き切る前に断ち切られた。
腕を取ったのは、王宮礼法長。
そしてすぐさま、宰相、近衛騎士団長、教育係――いわゆる“止めるべき大人”が揃って動く。
気づいた時には、王子は舞踏会場の外。
重厚な扉の向こう、応接室へと連れ込まれていた。
バタン、と扉が閉まる。
沈黙。
そして――
「まず確認いたします、殿下」
宰相が口を開いた。
「婚約とは何か、ご理解されていますか」
「……は?」
「家と家との契約であり、国家の利害調整です。個人の感情で、公衆の面前で、一方的に破棄してよい性質のものではありません」
淡々と、しかし容赦なく言い切る。
王子は眉をひそめた。
「しかし私は王太子だぞ!」
「ええ。ですから“なおさら”です」
即答だった。
「王太子の言動は、そのまま国の規範となります。先ほどの行為は、婚約制度そのものへの不信を招きます」
言葉の重みが、空気を沈ませる。
「……さらに」
今度は礼法長が一歩前へ出る。
「婚約中の令嬢以外と、公の場で親密に振る舞うことは“不貞”に該当します」
「なっ……!?」
「少なくとも、そう“見なされる”行為です。王族であれば尚更、誤解を招く振る舞いは厳に慎むべきかと」
王子の顔色が変わる。
思っていた展開と違う。
明らかに。
「私は……彼女を守ろうと……」
「であれば」
騎士団長が静かに言った。
「なおさら、場を選ぶべきでしたな」
逃げ場がない。
言葉の一つ一つが、正論で固められている。
そして――
「最後に、最も重要な点です」
宰相の声が、わずかに低くなる。
「エリシア嬢の件について」
王子がびくりと反応する。
「彼女には、王太子妃教育が既に完了しております」
「それが何だというのだ!」
「機密情報へのアクセス権を持つ、ということです」
静寂。
重く、冷たい理解が落ちる。
「外交交渉の内情、財務状況、各貴族家の力関係、軍の配置計画」
一つ一つ、指を折るように数え上げる。
「それらを“すべて知っている人物”を、理由なく切り離すことはできません」
王子は言葉を失った。
「追放? 論外です」
きっぱりと断じられる。
「保護下に置くか、正式に婚姻関係を結ぶか、あるいは国家機関に組み込むか。いずれかです」
「……そんな」
「そして、ここからが本題です」
宰相が一歩、近づく。
「殿下は、彼女を“代替可能な存在”と認識されているようですが」
その視線は、冷静で――そして厳しい。
「王太子妃教育が、どれほどの年月と資源を要するか、ご存じですか」
答えられない。
王子は、何も知らない。
「最低でも十年。専属の教育官、各分野の専門家、実地訓練、そして各国との関係構築」
淡々と告げられる現実。
「同等の人材を“もう一人用意する”ことは、事実上不可能です」
沈黙。
完全に、詰んでいた。
ようやく王子は、かすれた声で言う。
「……では、どうすればいい」
その問いに。
宰相は、わずかに肩をすくめた。
「簡単です」
そして、はっきりと言い切る。
「まず、先ほどの発言を撤回なさってください」
「……っ」
「その上で、正式な場――両家立会いのもとで協議を行うこと。感情ではなく、条件と責任の整理を行います」
逃げ道は、もうそれしかない。
「そして」
礼法長が最後に付け加える。
「エリシア嬢に対して、不敬を働いた件については」
一拍置いて。
「きちんと、謝罪を」
王子は、うつむいた。
拳を握りしめる。
だが――
否定できる要素は、一つもなかった。




