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婚約破棄は段取りを踏んでからお願いします

この作品は生成AIを使用して作成しています。

「エリシア・ヴァレンシュタイン! 私は君との婚約を破棄する!」


 ――来た。

 と、思ったのは私だけではないはずだ。


 王宮大広間、春の舞踏会。

 音楽はぴたりと止まり、貴族たちの視線が一斉に集まる。


 中央には、胸を張る王太子殿下。

 その隣には、彼の腕にしっかりと絡みついた可憐な令嬢。

 そして、呼び出された私――エリシア・ヴァレンシュタイン。


(教本通りですね)

 内心でそっと頷く。


 ええ、ええ。

 知っていますとも。

 こういう場合、次に来るのは――


「理由は明白だ! 君は彼女をいじめていた!」

 はい、正解。

 私は思わず、ほんのわずかだけ目を閉じた。

(満点ですわ、殿下)

 ここまでテンプレート通りだと、逆に感心する。


 周囲の貴族たちも、ざわつきながらもどこか冷静だ。

 ――ああ、始まったな、という顔をしている。


 その瞬間だった。

「――殿下。こちらへ」

 低く、よく通る声。

 すっと現れたのは、王宮礼法長。

 そしてその後ろには、宰相、近衛騎士団長という“止める専門家”が勢揃いしている。

 早い。仕事が早い。


「何だ! 私は今――」

「承知しております」

 礼法長は微笑みすら浮かべている。

「ですので、“今すぐに”こちらへ」

 ――あ、これダメなやつですわ。


 王太子殿下は一瞬だけ抵抗を見せたが、両脇を固められ、見事な連携で回収されていく。

 まるで暴走した馬車を止めるかのような手際だった。

 バタン、と扉が閉まる。


 沈黙。

 そして――


 ぱち、ぱち、ぱち。

 どこからともなく、小さな拍手が起きた。


(やめなさい)

 視線だけで制する。

 犯人は大体わかっている。あの辺の伯爵夫人だ。

 楽しそうにしないでください。


「……再開いたします」

 楽団が恐る恐る音を戻す。

 何事もなかったかのように、舞踏会は続行される。

 ええ、これが通常運転です。


「お嬢様」

 背後から、小さな声。

 専属侍女が、控えめに寄ってくる。

「……大丈夫でございますか」

「何がです?」

「いえ、その……婚約破棄、でございますが……」


 私は少しだけ考えてから、答える。

「未遂ですわね」

「……未遂」

「正式な手続きを踏んでおりませんもの」


 婚約とは契約である。

 両家の合意、文書、証人、調整。

 それらをすべて飛ばして「破棄する!」と宣言されても。

「それはただの“発言”です」

「は、はあ……」


 侍女は納得しきれていない顔をしている。

 無理もない。

 普通は、こんな光景見ない。

 私はグラスを手に取り、軽く回す。

 液面が静かに揺れる。


(それにしても)

 ふと、違和感が胸をよぎる。

 視線を巡らせる。

 高い天井、煌びやかな装飾、集う貴族たち。

 ――そして。

(やはり、いらっしゃいませんね)


 国王陛下の姿がない。

 この規模の舞踏会において、それは明らかに不自然だ。

 もっとも、理由に心当たりがないわけではない。

(ご容体が、思わしくないと伺っておりますが)


 公式には“静養中”。

 だが、宮廷にいれば分かる。

 それが、どの程度の意味を持つか。


「お嬢様?」

「いいえ、何でもありません」

 思考を切り替える。

 今考えるべきは、そこではない。


 おそらく今頃、別室では。

 婚約とは何か。

 不貞とは何か。

 王族の責任とは何か。


 それはそれは丁寧に。

 そして逃げ場なく。

 説明されているはずだ。


(……お気の毒に)

 ほんの少しだけ、同情する。

 本当に、ほんの少しだけ。


「戻ってこられますでしょうか」

 侍女の問い。

「ええ」

 私は即答する。

「戻っていらっしゃいますわ」

 確信をもって。

「ただし」

 一拍置く。

「少しだけ、成長して」

 侍女が、きょとんとした顔をした。


 音楽が、再び広間を満たす。

 笑顔と談笑が戻る。


 けれど。

 あの扉の向こうでは、きっと――

 取り返しのつかない何かが、始まっている。


 そして私は、そっとグラスを置いた。


「さて」


 小さく呟く。


「本番は、これからですわね」

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