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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第二千九百六十七話

 



 マシンロボに戻り、いくつかの実験をする。

 キューブスーツ姿の私を黒いのカメラで撮影したら? キューブスーツを展開する前の服がべたっと体に張りついた状態で写る。化け術で着ぐるみを羽織っても同じ。生身の私しか写らない。化け術は撮影できない。

 撮影位置に写真を置いて念じてみる。私以外のだれかがやったらどうなるのか。

 やはり消えた。黒いのカメラで撮影した写真の通りになる。

 だからキューブスーツはキューブに戻るし、着ぐるみは消える。

 事情を聞いていたファリンちゃんやマドカ、キラリも協力してくれて撮影して、写真に念じてみる。すると獣憑き部分がぱっと消えた。消えた瞬間に、再びもとに戻った。

 お姉ちゃんと話したとおりだ。獣憑きになる力が常に働いているから、三人とも一瞬だけ獣耳と尻尾が消えるものの、すぐに元通りになる。


「撮影した写真の状態になる。だけど、力そのものを消すわけじゃないか」

「マシンロボには急所になるな」

「いえ。ノンたちが維持しますから。消えてもすぐに元通りにしてみせます」


 レオくんたちのいる艦長室で情報をまとめたところ、少なくともカメラの管理は厳重にして、必ず通し番号をつけることになった。みんなに配るときは、その管理遵守が徹底されるべきだというところで話がまとまる。

 黒いのカメラの力はすさまじい。


「できるだけ台数を限定して運用したいね」

「壁だけど、上空から撮影して術を使えば一発じゃないか?」

「写りによるかもしれない。氷がある箇所をきちんと撮影できなきゃ通用しないかも」

「青澄くんたちが線路で試した壁は、どこまで消えた?」


 ただちに前方上部立体映像に、マシンロボの頭部カメラから捉えられる線路の状態が映る。

 お姉ちゃんとふたりで降り立った駅から東京を向いての壁除去は、線路の起伏と視界の関係から、一キロ近くの壁の除去に成功していた。一キロ先はフィルムに写る範囲に限界があったのか、線路近くの低い壁が残っていた。

 それくらいだ。一キロ先は壁が顕在なんだ。

 もっと効果的に撮影して、術を使う必要がある。


「それで? 春灯の消耗は?」

「ん? 術を使うよりは楽かな。黒いのの力を借りることができてるってことなのかも」


 マドカの質問に答えながら、改めて実感する。

 そんなにつらくない。これならまだまだいける。

 このぶんなら、黒いのカメラや写真の霊子情報を探る余裕さえあるかも。

 もっとも、いまじゃないだろうけどね。


「山吹さんはコピーできるのかな?」

「さすがに無理かな。春灯が手探り状態だからさ」

「そうなると、負担をかけてすまないけれど、青澄さんに頼むほかない」

「カメラはたくさん増やせるよ?」


 レオくんの結論が意外だったから、思わず割り込んじゃった。


「敵がどこにいて、なにをするかわからない状態だし、カメラについてはまだわからないことが多い。いつでもカメラを消せる人がそばについていることが望ましい」

「おぅ」

「相手に露骨に手の内をさらすことにもなるけどね」

「もちろん、ひとりで行かせるとは言わないさ。カメラの撮影もね」


 みんな、ピンとこない。

 私もレオくんがなにを言っているのか、さっぱりわからない。


「作戦を説明しよう」


 そう言ってレオくんが説明してくれた作戦を最後まで聞き終えたとき、みんなしてなんとも言えない顔になった。けど、レオくんだけは得意げに語る。


「そもそもカメラの数は必要ない。マシンロボの中で完結できる。手の内をさらすこともないんだ」


 艦長用の帽子のつばをレオくんが指先で撫でた。


「東京西部の氷の壁と柱の除去を進める。作戦名は、目からビームだ」


 ふっと格好つけて笑っている。

 日本屈指の大企業の長男が。二枚目が。

 新しくてうまい手を思いついちゃったぜって、どや顔している。

 どうすればいいのかわからず、操縦席から降りて話し合いに加わっているタツくんを見た。レオくんに気兼ねなく、だけどギンみたいに言葉を選ばないような無神経さもないタツくんなら、なんとかこの場を収集できるのではないか。


「うまい手だな」


 流したぁ!

 タツくんが流しちゃうから、みんな口をはさみにくくなる。

 なんとも言いようのない空気で、なにに困るのかってさ? そんなに悪くない手なんだよね。

 マシンロボの中から撮影、呪文を唱える。消すときに、目を光らせて、対象箇所に光を照射する。

 それだけで周囲からは、マシンロボがなにかをして、壁や柱を除去しているように見える。

 そりゃあマシンロボにヘイトや関心が集中するけど、少なくとも黒いのカメラと私のことはわからない。隔離世での挑戦や駅でのことを見られていなければ、だいじょうぶ。

 それにあちこちにいる人たちから見ても、マシンロボの活動として捉えられる。そのほうが、私個人へのダメージは軽減される。

 悲しいくらい理屈だけどね。

 なにやってんだか。

 遊び心でごまかしていいところなのかなあ。

 まあ、でも、いっか。いろいろごまかせるし、壁と柱も消せるのなら、それで。


「青澄さん、ふたりか三人ほど選んで頭部へ。タツ、それくらいの人数は入るだろう?」

「見晴らしも保証するが、動き出したらどこよりも揺れるぞ。頭部ばかりは刀鍛冶がいないからな。マシンロボ搭乗者の安定制御が弱いんだ」

「戦闘になったら頭部から降りてもらうしかないか」

「いざとなったらそうも言っていられないだろうから、ふたりか三人までにして、操縦席にしがみつけるくらいにしてほしいかな」

「わかった。そういうことなんだが、頭部から場所探しを始めてもらえるかな」

「ん、わかった。えっと、同行者は」


 レオくんに振られて、そう悩まずに「じゃあ私とお姉ちゃんで」と答える。

 消していく。敵が出した社会を阻むものを、消していく。

 そうたやすくはないし、こんな雑な、一面的な見方じゃ捉えきれない。

 術者はどこにいて、いまこのときにいったいなにをしているのか。

 目的さえわからないまま、私たちは対応するほかにないだけだ。気持ちよくなってはいけない。

 お姉ちゃんとふたりで、タツくんについていって頭部操縦席へ。カゲくんがちびちびとペットボトルの水を飲んでいた。目の前にモニターがあって、周囲が見える。壁が見えない。代わりに周囲の景色がそのまま映っている。

 お父さんが好きなやつだ。全天周囲方モニターだっけ? ガンダムに出てくるやつ。

 ただ複座の座席の正面に小さなウィンドウが表示されていて、艦長室が映っている。たぶん会議の内容もぜんぶ見ていたのだろう。


「お。いらっしゃい」

「カゲ、楽しそうなことやってるな! 余にも触らせろよ」

「そういや副パイロットつけたことないよな。検討すべきじゃねえか?」

「たしかに」


 頭部は四畳半ほどの広さだった。縦に並ぶ椅子のそばにコンビニ袋がひとつ置いてあり、タツくんとカゲくんのリラックスタイム用のドリンクとお菓子が入っているのが見える。

 それだけだ。頭部スペースはシンプルな作り。そのぶん、椅子の後ろにドアがあるのだろう線が見えるし、そもそも椅子自体がごてごてしてる。手元に計器を示すパネルが設置されていて、コントロールレバーやペダル、様々な細々としたボタンがついていた。椅子の頭を受け止める部分にスピーカーパネルがついていて、そこから艦長室の音声が流れている。

 撮影するだけなら、モニターのおかげで不便を感じない。だけど、術を使ったら、たぶんマシンロボが消えちゃう。


「ねえ、艦長室と通信できる?」


 下まで行かなきゃ無理だと言われたら困る。

 エレベーターはない。梯子だ。人力移動なのだ。まあまあの長さがあって、腕がぱんぱんになる。


「ああ。カゲ」

「おう。話していいぞー。スイッチひとつで繋がるんだ」


 カゲくんがどこかをぽちっと押したのか、スピーカーから聞こえる音が大きくなった。


「レオくん、聞こえる?」

『ん? ああ』


 艦長室をモニターする画面のレオくんがカメラ目線になって手を振ってくれた。カメラの位置、把握してるんだね。

 状況を知らせる。

 術を発動する前に頭部に模した目の部分をかぱっと開けて、発光させながら術を発動させるか。そうしてごまかすか、という案が出た。術を使う私の後ろに超強力な発光装置を置いて照射しつつ術を使えば、たしかに消せる。私もごまかせる。でも、手間がかかる。おまけに強力な発光を浴びたら私は熱でどうにかなってしまう。できればそれは避けたい。


『カメラ部分に青澄姉妹がいられるようにして、カメラセンサー部分に写真が出る穴を作る。穴以外の部分から超強力な光を放つ、というのは?』

「頭部にそんな隙間はねえし、こっそり撮影して術を使うなら胸部でよくねえか? そんで、目の発光の後に術を使うんだ」

『目から光は残るね?』

「当然だろ!」


 カゲくんとレオくんが同時にサムズアップをした。

 なに。その団結感。


「ルミナちゃんの力がすげえ役立つんじゃねえかな」

『お。光らせますか? びかびかっとやりますか!?』

『ああ。日中でも露骨な光線が出るといいな』

『それなら全力でやりますよー!』

「その場合も、結局は頭部のカメラセンサーに加工がいるけど、目くらましにはなる。なにより目立つし、かっこいい!」

『『『 それが一番大事! 』』』


 気のせいじゃなければ、レオくんとルミナだけじゃなく、それなりの人数がハモってた。

 こういうところ、趣味人だよなあ。みんなしてさあ!


「降りるときは気をつけろよ」

「いや、雲を出して降りたほうが楽だ」

「ちょ。え。もう終わり? 余は満足してないが!」


 渋るお姉ちゃんをなだめて、艦長室へと降りることに。

 梯子を律儀にのぼることはなかった。金色雲があったじゃないか。


「もうちょっと移動が楽になるように改良すべきじゃないか?」

「実際のロボットとちがって、重量制限がないからね」


 実際のロボットなら様々な壁が立ちはだかる。

 なによりも重量。重量が増すほど立体の金属の塊は動くことに必要なエネルギー量が増す。関節部分への消耗も著しくなる。重量が増せば動作にかかる負担もすごいことになる。

 部品は基本的に消耗品だ。一度つくれば、それでおしまいっていうものじゃない。

 原付はメンテが委ねられているけど、二輪車になったら話は別。四輪になったら? それが鉄道や飛行機になったら? 必要なメンテはもっと重要性を増す。

 とりわけ飛行機のメンテナンスはすごく精密性が求められる。ネジのゆるみが飛行機の墜落に繋がりかねない。そして飛行機が乗せる人間は数百名になることも。

 宇宙飛行機だって変わらない。

 車は安いものから百数十万、セダンタイプやバンなどになって数百万。高級車は桁がひとつ増える。

 でもそんなの目じゃないのが電車や飛行機、ヘリだ。

 とんっでもなく! お金がかかる。

 部品の精密さも、求められるレベルが増す。

 ネジなんて振動で緩むんだし。いちいち面倒を見なきゃいけない。

 巨大ロボットなんて時代錯誤なんていうけれど、いくつもの技術的障壁を乗り越えないかぎり、メンテ不要で最低活動限界時間を確保するのは、かなりむずかしそうだ。

 そこをごまかしてるのが、マシンロボ。

 そう。

 ごまかしているのである!

 ニチアサ戦隊ヒーローのロボットのようにどかどか歩くけど。

 それっぽく見せているだけなのである!

 ごまかしがきくというか、霊子の術でいろいろゴテゴテ盛れるので、お姉ちゃんの言うような便利機能も盛れる。盛れるけど、刀鍛冶が逐一フォローしないと術だから解けちゃう。歩くだけでも刀鍛冶が総出で霊子を操作しなきゃならない。

 なので、必要設備には余力を投じるけど、関わる人数が少ないところにはあんまり、ね。操縦室と、操縦室に向かう通路がいい例だ。


「そういえば校舎や鳥居を軸にしてないんだな」

「あ? マシンロボか?」

「うん」


 建物を軸に術で作り上げる方式のマシンロボが多かったけど、今日のはちがうみたいだ。

 いつの間にか、新式になってる。バージョンアップしている。

 でも、もしも旧式マシンロボだったら、黒いのカメラで撮影したらどうなっていたんだろう。

 ちょっと気になるね?

 気になるといえば、あの電車もだ。

 写るんだろうか。

 写るんだとしたら、なにが写るんだろうか。本当に電車なのかな?


「ちょっと止まれ、春灯」

「なに?」


 雲での降下を中断。

 声を潜めるお姉ちゃんにつられて、小声で問い返す。


「レオは警察とかにこの件を連絡していない。なんでだと思う?」

「え、そうなの?」


 ううん。


「カメラは秘密にしておきたい、とか?」

「それだけじゃない。ビルの爆破から続く事件がずっと主張もないまま推移していること、おかしく思わないか?」

「まあ、そりゃあ?」


 社長たちはまだ主張があるように思えるけど、それさえ十分理解できているわけじゃない。

 ミコさんそっくりにされた、あの人さえ国会のクローンを消してみせたけど、関東事変を起こした下手人じゃない。

 この雪と氷による柱と壁での混乱だってそう。

 だれが、なぜ、どうして? さっぱりわからない。

 日本屈指の人口過密都市東京を中心にした関東で、これだけ長く異変を”演出”する理由はなんだ。

 まるで演出それ自体が目的かのように。立て続けに。

 この国がとても危険で、恐ろしく、問題があるかのように。

 シュウさんたちは社長たちを捕まえる寸前までいった。けど、止められた。クローンたちの差配によってか。クローンはすべて消え失せたのか。証明できていない。

 カメラを使えば、わかるかもしれないけどね。

 そっか。

 カメラを使えば、わかるかもしれないのか。未だに潜伏している可能性のあるクローンさえ。

 だけど、どの組織に、どれくらい紛れ込んでいるのか、まだわからない。

 うちの学院の生徒もだいじょうぶなのかどうか。

 艦長室は狭く、全員が入れるほどのスペースがない。振り返ると、さっきのカメラに関する報告と情報共有のための会議では、いつものメンバーだけが入室を許可されていた。


「でも住良木には霊子を撮影するカメラ技術があるはずで」

「まだ不十分だろ」


 そうだった。

 レオくんちの開発した技術はまだまだ、黒いのカメラほどの精度がない。

 レオくんちといえば、技術研究をしている研究所に働いていた黒木さんだったかな? 彼はいくつかの罪を犯して警察に逮捕されて、聴取を受けている最中だ。彼は名も知らない業者に頼られて、協力していたという。その協力相手は、カゲくんたちが手に入れて生み出しちゃったプロテインマッチョ鬼もとい、シオリ先輩似の子たちの素材となったプロテインが関係している可能性がある。

 そのプロテインは流通している。当たり前に。

 そもそもクローンだって一企業が表立って関わっていたんだ。

 個人にできることじゃない。

 じゃあ集団で、これだけの演出をして、いったいなにがしたいのか。


「政府も司法も信頼できない。その可能性があるなかで、レオはなにかを警戒している。マドカたちもだ。だから共有してないんだ。だからこそ、だからこそなんだよ。意外なことに、ゲームチェンジャーになりえるぞ、お前のカメラは」


 お姉ちゃんの指摘に思わず黒いのカメラを出して、見つめてしまう。

 ただのポラロイドカメラにしか見えないけれど、これは現世のものじゃない。

 そして、このカメラは霊子でできたものを見抜く。絶対に。

 だからこそ秘匿性を持たせたい。このカメラに。


「作戦を練るにしても、壁や柱を消したあとが本番だぞ」


 お姉ちゃん、心配してくれているんだ。

 カメラはことによっては必殺になり得るかもしれない。

 だけどたぶん、それでも足りない気がしているんだ。

 クローンを生み出したのは、だれ?

 人間じゃないか。

 カメラで写しても、そのまま写る人間じゃないか。




 つづく!

お読みくださり誠にありがとうございます。

もしよろしければブックマーク、高評価のほど、よろしくお願いいたします。

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