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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第二千九百六十六話

 



 お姉ちゃんと鬼組が集まって、鬼の角をはやして身体能力を強化した状態でどこかへ飛んでいく。

 私たちも自分たちを撮ってみたり、生まれたてのちっちゃな邪を撮影してみたりする。

 ファリンちゃんなんか、隔離世の建物は壊れても戻るんだからって破壊して撮影していた。無茶するよ! まったく!

 三十分ほどしてスマホに通話。マドカからだ。油を売ってないで、いますぐ戻ってこいという。ちょっと怒ってた。思わずスマホから顔を離すくらいには声も大きかったし。

 金色化け術でメガホンを出して、みんなに「集合!」と号令を発する。三分くらいは待たされた。特にお姉ちゃんたちが遅かった。


「春灯、枚数が少ない! フィルム無限とかにしろ!」

「ゲームじゃないんだから」

「術でそれくらいの融通はきかせろよ」

「検討するよ」


 無茶なことばかり言って。

 みんなの撮ったフィルムを預かり、アルバムにセットする。ひととおり終わってから、現世へ。

 マシンロボ腰部分に設置された保健室のベッドで目覚める。すぐそばに怒り心頭だとわかる強張り顔のマドカが立っていた。他にも、一緒に隔離世に行ったメンバーがベッドや布団に寝かされている。


「このクソ忙しいときに、いくら暇だからってねえ!」

「まあまあまあ! 情報収集してきたから! ね!? 成果があるから!」


 急ぎマドカをなだめながら、金色アルバムを出す。

 開いてみると、ちゃんとフィルムが保管されていた。早めに撮影したものは、既に色がくっきりと浮かんでいる。


「撮影を楽しんできただけじゃないの?」


 声に角があるんだよね。ぷりぷりしちゃってさ!

 まずは事情を説明したいところだけど、いったん待った。


「そんなに急ぐって、よっぽどのことがわかったとか?」

「逆。なんにもわからなくて行きづまってるの」


 おぅ。不機嫌の理由は進捗ゼロだからか。

 あるよねー!


「じゃあ、ちょうどよかったよ」


 黒いのと会って情報提供してもらったこと。

 教えてもらったことを活かすには、いろんな技術が必要なこと。

 その第一段階として、写真を撮ったことを伝えながら、ページをめくる。お店が並ぶ線路沿いの道。戸建ての住宅。小さなアパート、マンション。だれがいつ撮ったのか、私がいて、そばにファリンちゃんがいる。私は九尾でも、ファリンちゃんは獣憑きじゃない。

 お姉ちゃんと茨ちゃんの自撮りがある。お姉ちゃんの額から角が生えていた。もやもやと燃える炎で形作られた角だ。茨ちゃんは違う。どこかに行くとき、たしかに角をはやしていたはずだ。獣憑きになるのと同じように。ふたりは線路に立っていた。

 あちこちの線路を撮影していたようだ。私たちが解放した学院の最寄り駅もあれば、隔離世に来る前に開放した隣駅も。そのあとは、その次の駅や途中の線路を、離れた建物の屋上から撮影していた。

 ファリンちゃんが壊したはずの建物は何事もなく、そのまま。壊す前とまるで変わらない状態で写っている。


「ううん?」


 違和感は、ある。

 だけど言葉にできない。


「いろいろツッコミどころがあるけど、まず、隔離世で壁はあった?」

「もちろんあったぞ」


 マドカが指摘する間にも、お姉ちゃんたちが集まってくる。

 アルバム一冊じゃ、みんなと見るのに限界があるな。

 保健室を独占するわけにもいかない。

 いったん部屋の外に出て、金色化け術で巨大なコルクボードをいくつも出した。アルバムの写真たちに金色を注ぎ、ふわふわと浮かべてボードに金色で貼りつけた。みんな限界ぎりぎりまで撮影したせいで、ボードが四つは埋まる。だけど、それでもまだ足りないっていうので、金色を注いでコピー! 四枚ボードを別の場所にも設置する。合計で四か所。これで文句もなかろう!


「私と彼女は獣憑き状態で写ったはずなのに、私は人、あなたは獣。このちがいはなに?」

「線路の壁なくね?」

「余だけ角が生えているぞ?」


 みんながあれこれ疑問を口にする。


「邪が写ってない!」

「刀も写したのになー。なんもないぞ?」


 マドカが私の耳を引っ張った。獣耳じゃなくて、人の耳を。


「いてててて!」

「謎が増えてるんですけど!」


 そういわないでよ。


「黒いのの力を再現するための試作カメラ、写真の仕組みが出てるんだよ」

「つまり?」

「ううんと」


 考えろ。

 壁を写せどフィルムに出ず。刀も邪もフィルムに出ない。壊した建物も。

 ファリンちゃんの尻尾は写らず、私の尻尾が写る。

 ただ霊子だけなら、それは写らない。だけど、現世のものなら写る?

 じゃあなんで私の尻尾は写るんだ。なんで獣憑きがふたりいて、私だけ? 八尾の成り立ちのせい? 思いつくちがいは、それだけ。私の獣憑き状態は、私が思うよりももっと現世の情報を含んでいるのかもしれない。

 お姉ちゃんは写っている。霊体、霊子だけの存在じゃない。なにかつながりがあるのかもしれない。

 線路のうえにあるべき壁が写らない。術だけで成り立つものは、写らないんだ。


「待って」


 黒いのポラロイドを出してから、金色を出す。ぎゅっと集めて円を描いた状態で維持。それを撮影する。

 それからすぐ、


「お姉ちゃん、炎を出してみて?」

「ん? ああ」


 右手を胸の高さにあげて、炎を出してくれた。黒く燃える地獄の炎だ。

 すぐに撮影する。吐き出されるフィルムを取っては、さっと出した金色雲に乗せる。

 それから、そもそもマシンロボはどうなんだと気づいて、いったん外に出た。金色雲に乗って離れたところから、マシンロボの全景を撮影する。ふと思いついて、宙に浮かぶための金色雲を上から撮影してもみる。

 中に戻って、しばらく待つ間、徐々に現像されていく。

 フィルムを確認したら、どうなっていたか。

 金色は写らない。炎も。マシンロボだって、金色雲だってそうだ。だからトリックアートみたいになっている。金色雲がないので、空から自由落下中に撮影したみたいになってたし、マシンロボに至っては肝心のロボが写らないので、みんなが宙に浮かんでいるような写真になっていた。


「なんか、ばぐったゲームみたいだな」

「これ、ここから上を写したらパンチラが撮れるってことか?」


 騒ぎに集まってきたカゲくんやミナトくんがぼそっと言う。

 マドカが「カメラを渡す相手には気をつけて」と釘を刺してきた。

 人、それを盗撮という。そして盗撮は犯罪である。やめろ。

 女子だけじゃなく、男子もまあまあの人数が冷ややかな目で睨むので、カゲくんたちは咳ばらいをした。


「やっちゃだめだよな!」

「まったくだ!」


 ダメが出るのが遅いんだよなあ。

 露骨にえっちなふたりが言っても説得力はない。

 だけど、えっちで済まないからね。ほんとに。やめろ。

 前科がつく。ついたら一生に障る。それほど重大な加害だからね。

 絶対にだめだ。


「話が変なほうに逸れたじゃん」

「黙ってなよ、ほんと」

「思うだけで言うな、やるなだよ?」

「どうせえっろい漫画やゲームでそんなの見たりやったりしてるんでしょ」

「現実に持ち込むなよ」


 止まらねえなあ!


「いやほんと、まったくだよな!」

「悪用できる技術って話だよ。絶対だめだぞ」

「おう」


 ふたりして肘でお互いをつつきながらも、ごまかしあっている。

 ほっとくと叱責が止まりそうにないので、咳ばらいをして話を強引に戻す。


「霊子だけだと写らない。黒いのの霊子が捉える世界は、現世がベースなのかもしれない」

「春灯のカメラがうまくできていたら、でしょ?」

「そこはできてると仮定する!」


 マドカのツッコミはごもっともだけど、明らかに普通のカメラとはちがう現象が起きているから、ヨシ!


「いや、調べておいたほうがいいよ」

「む」


 マドカのツッコミは止まらない。

 そして彼女の言うとおりなのである。


「なら、ただのポラロイドを作る」


 化け術で黒いのを意識しないで、ただのカメラにする。

 それで同じものを撮影してきた。フィルムの現像が終わるのを待つ。それなりの時間を待って、結果を確認。私の金色も、お姉ちゃんの炎も、ファリンちゃんの獣憑き状態も、マシンロボも、壁だって写った。


「証拠としては弱いけど、ひとまず違いは出たよ?」

「じゃあ普通のカメラと黒いのカメラをひとつ貸して? 佳村さんたちに調べてもらうから」

「おぅ」


 ほんとに周到で丁寧だなあ。マドカの進め方は。

 でも、確かめようのないことをずっとするんだ。

 これくらい念入りじゃなきゃだめだね。私も気をつけよう。

 マドカが戻るのを待つ間も思案する。

 黒いのカメラは霊子だけの現象を捉えない。

 これは黒いのの心のありようか、あるいは霊子の干渉の捉え方に繋がる情報になる。でも決定的じゃない。それに解釈の余地がけっこう残る。

 霊子を否定しているとはいえない。写らないからって、ないということを意味しない。黒いのが、ある程度の意図をもって写していないだけかもしれない。その意図がなにかはわからないんだ。

 ただ、彼女の見方のひとつではある。

 膨大な見方のなかの、たったひとつ。

 百点じゃなくて、たった一点。

 でも、案外ちょうどいいかもしれない。


「この写真のようにならないかな」

「は?」

「なんて?」


 マドカやお姉ちゃんたちが、こいつなに言ってんだって顔をする中、私はコルクボードの写真を剥がす。お姉ちゃんが茨ちゃんたちと撮ってきた、線路を捉えたものをあらかた全部取っていく。お姉ちゃんの手を取って、駅に向かう。


「なんだよ」

「いいから! どこで撮ったかわかる?」


 金色雲をいくつも出して、マシンロボの胸部から飛び出した。着地しては飛んで向かっていく。

 駅のホームに降り立って、お姉ちゃんの手を離す。周囲を見渡しながら、お姉ちゃんが「ううん」と唸った。


「え。覚えてないの?」

「遊びながらだったからな。でも、東京方面に向けてだったのは間違いない。写真をかざせ」

「重なるところを探せばいいって?」

「わかってるじゃないか」


 面倒! でもやるか。覚えてないなら、これがいい。

 剥がしてきた写真を何枚もめくって、駅のホームが写っているものを選ぶ。東京方面にかざして、高さや位置を調整するべく歩き回る。はたから見たら変な振る舞いでも、いまは咎める人がいない。駅員さんさえ、まだ入ってきていない。安全が確認しきれていないせいで。

 写真を構えた先、線路の向こうに壁が見える。私が溶かしたのは、せいぜい駅のホーム周辺、駅員さんたちが凍らされた箇所までだ。だから、線路に降りて一分もしない近距離にはもう、壁がある。ただ、私が削った箇所へ浸食してくることはない。術はうまく機能している。


「もうちょっと、低いと思うぞ?」

「ええ?」

「茨が屈んで撮っていた。いつもとちがう目線で撮ると面白いんじゃないかって」

「へえ?」


 意外。茨ちゃんって面白いこと思いつくんだね?


「あいつ、元は男だったんだって?」

「ああ、うん。そうだよ? いま思えば童顔で、かわいい顔立ちしてたかも」

「それ、本人には言うなよ? あれでもまだ、消化できてないんだから」


 すぐには返事できなかった。

 まとめてある写真の中には、お姉ちゃんと茨ちゃんが写ったものがある。その写真においてさえ、女の子として写っている。

 獣憑きが耳としっぽが生えちゃうように、茨ちゃんは性別が変わっちゃった。まれにあるケース。男の子から女の子になるだけじゃない。逆もある。世界には両性具有になる事例もあるとかなんとか。

 体が変われば、あまりにも多くのことが変わる。ホルモン分泌の度合いも変化する。生理的なこともがらりと変わるし、自分が接する社会の文脈も、偏見や差別も変わる。

 霊子は存在するだけで私たちの人生を、人によって、あまりにも変えすぎる。だけど隔離世に行けない人からすれば、あってもなくても関係ない。自分の人生にさしたる影響なんてない。そう思って過ごせる。

 実際には、これだけの変事を起こす人が出てくる以上は無関係ではいられないんだけどね。

 黒いのもそうだ。

 自分たちがどうありたいかなんてお構いなしに、憎悪したり嫌悪したり、利用したり消費したりしたい人たちによって虐待されたり殺されたりしてきた。

 霊子のない、あるいは影響しない世界がもしもあるのなら?

 この写真のように、まるで原点かのような光景があるのなら。


「あ」


 写真に景色が重なる。駅の端から落ちないようにするフェンスが目印。

 お姉ちゃんの言うとおり、屈んで背中を丸めてようやく視点が合った。

 壁がない。遠くが見える。線路の起伏や、カメラの限界からか、ぼやけてしまって先までは見通せないものの、壁のない景色が写っている。


「見つけたのか?」

「う、うん」

「なにか起こせないのか!」


 肩を掴んで揺さぶられる。

 できたらいいんだけど、ひとまず重ねるだけじゃだめらしい。


「立沢や時任の力を使うときのような、なにかがいるんじゃないのか?」

「あ、そか」

「おっまえさあ!」

「怒んないでよ! 手探りなんだから!」


 写真がぶれるでしょと文句を言いながらも、必死に思案する。

 ええ。なんだ? 力を使うときのようななにかって、つまりなに?

 ああするこうする、さあやるぞっていう具体的なイメージと、その行使だ。

 じゃあ、写真を前提になにかをするというのなら?


「ええい! 写真にない雪と氷の壁の術は消えちゃえ!」


 思わず口走る。そんなアバウトな要求でどうにかなるんだろうか。


「いや、いくらなんでも」

「なんとか、なってるぞ?」


 お姉ちゃんの言うとおりだった。

 目の前の壁がみるみるうちに消えていく。

 こんなにも、あっさりと。まるでなにもなかったかのように。


「お、おい! あれだよあれ、出せるか!? あの、ほら! 術の!」

「ぐっ、具体化の術だよね!」


 急いで立ち上がって、フェンスを飛び越えて線路へ。

 壁のあった箇所に近づいて、金色を放つ。そして理華ちゃんの指輪をはめて、因果をたどる。

 だけど、反応がない。文字列は出せる。線路を行きかう人たちの霊子を記録した文字列が。氷を意味するアルファベットが出ないか。

 出た。

 出たけど、動かない。


「うそ」


 カメラのとおりになった。

 術の霊子は残っている。私のお願いは通らなかった。

 だけど術自体は破壊された。


「こ、これって、じゃあ、どういうこと?」

「術は残る、しかし働きが破壊された。景色が優先された、いや、奴の記録したものが優先されたというべきか」

「もしも、たとえばファリンちゃんにこれを使ったら、獣憑きの力は失われるの、かな」

「いや。霊子は残るんだ。たぶん、すぐに獣憑きに戻るだけだろう。獣憑きになる力が破壊されるわけじゃなければ」

「そっか」


 私は何度か、獣憑き状態が体力と気力、怪我や病によって変化してきた。

 消耗すると、どんどん弱くなる。だけど、それでも獣憑きになる力それ自体が失われたわけじゃない。

 そう。力があるんだ。たぶんそれは、破壊できるものじゃない。

 黒いののカメラ術は撮影した状態にすることを望む。それくらいの干渉を、カメラに写った景色の範囲の霊子に行う。でも、人の獣憑きになる力とか、霊力を変えるわけじゃないなら?

 撮影した状態にすることはあっても、霊力や力が動くかぎり、いくらでも元に戻る。


「じゃあ、壁は術者がいないから術を破壊できた。でも、術者がすぐそこにいるのなら、破壊しても、すぐに元通りにされちゃう?」

「たぶんな」

「おぅ」


 万能じゃない。

 でも、すごく有用だ。

 いけるぞ。これなら盤面をひっくり返せる。




 つづく!

お読みくださり誠にありがとうございます。

もしよろしければブックマーク、高評価のほど、よろしくお願いいたします。

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