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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第二千九百六十五話

 



 みんなと相談するものの、なかなか名案が出ず。

 結局、細々とした術の組み立てから始めるしかないのでは? という結論に落ち着く。

 黒いの、黒澄ちゃん、あるいは黒輪廻の盟主。

 彼女が仕込んだ世界中の霊子への干渉システム。それこそ数千年、あるいはそれ以上をかけた仕込みと鍛錬、知識と技術量は私たちの一生じゃ追いきれない。

 もっとシンプルに、もっと初心者レベルから考え、仮説を立てて、実験の設計をして、実験し、結果を分析して改善してかなきゃ。

 じゃあ具体的にどうするの?

 だれのどんな霊子でも、すべてが黒いのの仕込んだ霊子成分を含んでいる。そうならざるを得ない。だから干渉したい。存在を知っていて、方法を知っていたら通れる抜け道なのだ。霊子ひとつぶを情報システムにするなら、黒いのはマスターキーを設定している。それは私にも利用できるという。

 こういうイメージから、まずは入る。

 だけど、霊子ひとつぶをシステムとして捉え、干渉することさえ私にはできない。そもそもだれにもできていない。だから、このアプローチでいくなら、霊子をシステムとして捉えられるようにしなきゃならない。めんどくさいぞ。これは!


「どう捉えるかが緻密であるほど、緻密な仕組みがいるわけだな」

「めんどくさ!」

「なんか、こう、あれみたいにならないか? ほら。今月出るっていう、あれ。アレクサ」

「なんそれ」


 「だからぁ」と茨ちゃんが説明する。

 家電とリンクして、私たちが呼びかけると家電の操作をしてくれたり、ネットのちょっとした調べものをしてくれるそうだ。音楽再生をしたり、今週の天気を教えてくれたり、いまの気温がわかったりするという。

 だけど私の化け術には縛りがある。

 私の知らないことは再現できない。

 ちゃんと学び、理解しないと、うまく組み立てられないのだ。

 なんとなくでできることもある。その加減も実のところ、よくわかっていない。

 むしろ、わかっていることなんてスズメの涙くらいのものだ。

 そのスズメの涙で肩で風を切る生活をして、自分すべてわかってますって顔をして、そういうものだと認識して生きてる人生もあるんだろうけど。

 残念でしたぁ!

 私はちがう。たぶん、大概の人もちがう。放っておいても勝手に増す資産、それをさらに膨らませるのに都合のいい資本家であり権力者である者たちの小さなサークルに入れないかぎりは、ちがう。

 世界の理不尽、無慈悲さ、冷酷で残酷なところに出くわしては、いかに知らないことがあるのか、できないことがあるのかを思い知る。公正さは私たちが築きあげなきゃたやすく崩壊することを思い知る。先人たちの開拓してきたものの恩恵が届かない領域に、私たちは思わぬ形でいくらでも落ちてしまうことを思い知る。

 問題なんて、きりがないくらいある。人類史、学問、知識、技術。法律! 叡智の結集だけど、それさえ私たち万人が穏やかに安らかに暮らすには、まだ、足りない。どんなに結集した叡智も、私たちだれもが理解して、運用できるわけじゃない。学べるとも限らない。学びたいとも限らない。

 みんながちがうことに私たちも、叡智もまだ、耐えられるようにできちゃいないのだ。

 おかげさまで! わからねえ、どうにもならねえとうなりながら、私たちは生きている。

 だれかにはできても、自分にはどうにもできないことをやまほど抱えて生きているのだ。

 あーあ。


「残念だけど、そういうのはちょっと無理かな」


 単純な話、アレクサを作れないのよ。

 ぬいぐるみ、しゃべる小さなブリキ人形、浮かびはするけどいやだ。気が進まない。

 理由はある。ぷちたちのように、あるいは現象ちゃんのように生き物になったら? その世話は骨が折れる。命になってしまう。作らないようにしたい。背負えないのだ。これ以上の責任は。もう手一杯!


「もっと単純なのがいいんだよね」

「それなら、目的設定から決めない?」


 ノノカの言葉に思案する。

 目的。世界のすべての霊子に存在する黒いのの情報に繋がる。

 問いが立つ。

 どうやって?


「仮に黒いのの霊子に接続しようにも、空気中に漂う特定の酸素原子に干渉する、みたいな無理難題じゃん?」

「う」

「ううん」


 みんなして固まる。


「呼んだら反応してくれねえの?」


 茨ちゃんの問いは素朴でいい。


「おーい、契約者でーす! って、やってみたけど、ちょっと無理かな」


 金色を散らしながら呼びかけても反応がない。

 探ろうとしてみるけど届かない。

 なにかちがうアプローチがいる。たぶんね。


「思うに、黒い青澄さんがばら撒いた霊子って、まだ、契約する前じゃない?」


 岡島くんのツッコミにみんながぽかんとするなか、ファリンちゃんが溜息を吐いた。


「つまり契約を軸に語り掛けても、霊子に溶け合う盟主の霊子は契約についてなにも知らないわけか」

「そう。もっとも彼女が世界から立ち去る前に、なんらかの情報共有を行った可能性もあるから、断言はできない。ただ契約を利用する方向性は、うまくいかないんじゃないかな」

「そうなると、盟主の仕掛けの施された霊子さえ、私たちにとってはそこらの霊子と変わらないことになるね。それこそ壁の術者の霊子のように」


 ダメだ。なんてこった。

 私は契約者だ作戦、即座に挫折!


「逆にいえば黒春灯の力を形にできたら干渉できるってことじゃない? 彼女もそう言ってたし」

「術者の力を得られるのだから、術者の霊子も扱えるようになる。むずかしい話じゃないね」


 ノノカの提案にファリンちゃんも、岡島くんたちもうなずく。

 そして当然のように、こう尋ねるのだ。


「で、立沢たちの力を手に入れたときはどうやってやってたの?」

「再現したら、ぱっと手に入らない?」


 そうなるよね!

 ここで明快にちゃちゃっと答えられたらいいんだけど、手掛かりがない。


「なん、と、なく?」

「「「 ええええ!? 」」」


 そんな抗議の声をあげられても困るよ!

 姫ちゃんは自分の霊力の形を自発的に手に入れていた。実は理華ちゃんもそうだ。

 私はふたりの力を借りることを考えて、そのままモチーフを持ってきただけ。

 特別なことはなにもしていない。私が作ったり、探ったり、考えたりするまでもなく”ある”のだから。それを取り出せばいい。


「ふわっとしてるなあ! なんだぁ? つまり、よくわからないってことか?」


 私の説明にお姉ちゃんが言いにくいことをズバリと言った。

 刺さるぅ。ずきずきと心の脆いところにぃ!


「あ! だから、御霊の縁を結んだ他の人たちの力は使えないんだ! 彼らがわかりやすい形にしてないから!」


 ノノカの指摘も、


「ワトソンは精霊たちを剣にする術を使うし、大鎌を振るう子や治癒術を使う子もいるのに、その力きっかけではだめなわけね?」


 ファリンちゃんの分析もえぐってくるねえ!

 容赦がないね!?

 そりゃそうだよね! いまは契約を結んだ相手の力を借りれるかどうかが明暗を分ける局面なんだもの!

 私だって焦ってるよ!


「でもわかんないんだもん。私の金色で、彼らの力っぽくごまかしているだけなのか。そうじゃなくて、明確に彼らの象徴なのかもわからない」


 姫ちゃんの鍵、理華ちゃんの指輪は明確に、それぞれの人のものだ。私のものじゃない。

 境界線がないんだ。私に見分けられる術がない。


「それって、大事?」

「私にはね」


 ノノカの疑問と私の気持ちがかみ合わない。

 なんでなのか。どうしてなのか。なにが、なのか。

 それさえさっぱりわからない。

 ただ、ファリンちゃんが人差し指をぴっと立てた。


「なら、盟主だとはっきりわかるなにかがあればいいんじゃない?」

「でも、イメージできるようなものがないよ? 彼女は滅多に話しかけてくれないし、接点もない」

「ワン。お前はどうなんだ? 組織の情報に、それっぽいのはないのか」

「ない。神出鬼没でさえない。存在は認識されていたものの、滅多なことでは表舞台に出てこない。力を使った記録もない。ただ連中が敬愛し、崇めていることくらい」


 なんせ、秘密組織のボスだもんね。それも隔離世の。現世にいるとも、隔離世にいるともかぎらない。

 教授は肉体と魂を切り離すことなく現世と隔離世を行き来していた。黒いのだって、同じことができたかもしれない。そうなると、世界かける二、おまけに隔離世は衛星を利用できないというおまけつき。本気で隠れられたら、そうそう見つけられない。


「どこも同じじゃないかな」

「手がかりなしだってよ」


 お姉ちゃん、あきらめが早すぎない?


「考え方を変えたらよくねー?」

「茨ちゃん、もうちょっとちょうだい! たとえばどんな風に?」

「だからさー。力の借り方だって、初心者レベルからやったらいいんじゃねーの? 青澄が契約した相手が、みんな、自分を形にしてるわけじゃないんだろー? だったら、立沢と時任が熟練者で、まだまだな相手から力を借りるなら、青澄も、相手も初心者の状態から借りてみたらよくねー?」

「最初から完成したものばかりじゃないから、一から探してみたらいいんじゃないか、だね」

「そうそう!」


 岡島くんがきちっとまとめてくれたのもあって、腹落ちした。

 なるほどね。

 自分の形って、そうそうわかるものじゃない。

 わかったら、それでおしまいってものでもない。姫ちゃんも理華ちゃんも変わって不思議はないんだ。

 刀さえ真打を見つけられない人が侍隊にだって大勢いるという。

 自分はこれでいく、これがいいっていうものさえ、そうそう見つかるものじゃない。

 別にそれでいい。

 だけど、探し方があったらいいよね。

 その場限りでも、これって思えるものがあるといいよね?

 試行錯誤して、改めて、批判して、やり直してくとき、私たちはいつだって初心者として始める。

 レベルや熟練度がいきなりゼロのことをやらなきゃいけないときなんて、いっぱいあるもんなあ。


「彼女の長年の蓄積、そのすべてを解明したら百点だとしたら、いま必要な、一点。一点でいい」


 岡島くんの例えがすんなり入る。

 彼女の形としても、彼女への理解にしても、なんにしても、全部をいきなりは無理。

 そもそも彼女は岡島くんがまとめてくれたように、数千年、あるいはもっと途方もない時間をかけて下準備をした。そのたびに彼女が仕込んだ霊子も術も、すこしずつ変化しているはずだし? 霊子が記録した彼女の状態も変化しているはずだ。ぜんぶ同じじゃない。同じじゃなくても扱えるのは、彼女本人ならではのことだろう。

 でも私は彼女じゃない。

 自分のことでも積み重ねるのはたいへんなんだから、いきなり百点は無理だ。

 落ち着こう。

 ちょっとずつでいいし、ちょっとずつでも大変だ。

 切り替えていくぞ?


「彼女の力を借りる。ちょっとずつ。まずは、とっかかりを見つけるところから」


 腕を組んで思案する。

 この術ばかりは私にしか使いようがないから、完全に私次第の依存限定。

 きっついなあ。

 彼女もきつくなかったのかな? 自分の世界を救えるかどうかは完全に自分次第。

 あらゆる依存が彼女に限定される。

 それはひどく孤独だし、だけど同時にものすごい責任がかかるしさ?

 なによりも、加害と隣り合わせだ。なんでも自分の思いどおりになっちゃうようなものだもの。

 そんなの、ひとりで背負いきれない。

 仲間が欲しい。一緒に背負ってくれる人がいる。私たちはひとりではいられない。自分ひとりを背負うのでさえ、だれかがいる。必要なんだよ。私たちには。

 じゃあ彼女は?

 策を見出して待つにしたって、仕込みをするにしたって、あまりにも途方もない時間を、いったいなにを支えに生きたのだろう。語る人のいないとき。あるいはだれかに出会い、関わりを結ぶことを選んだとき、拒んだとき。なにを支えに生きたのだろう。

 私なら?

 私なら、一緒に考え、一緒に感じ、一緒に悩み、一緒に失敗して、一緒にめげて、一緒に元気だして、一緒にさあもっかいと向かえる人たちかな。もちろん衝突したり、そりが合わなかったりしていい。一緒にとしながら、逐一、意見が合わなくていい。

 究極の孤独を前にしたとき、私ひとりじゃないと、そう思えることが大事。

 いまとかね!

 じゃあ、彼女にとっての他者ってなんだろう。

 たったひとりでも思い描ける、その形ってなんだろう?


「写真、とか?」

「アルバム片手にこの次元に逃げてきたって?」

「さすがにないでしょ。あ! でもさ、こういうとき、ペンダントトップに大事な人の写真なんて、お決まりじゃない?」

「アルバムでもなんでも、再現は無理だよ。だれを思い浮かべるのかだってわからない」


 手がかりを得て、待っているばかりだったみんなが推測しはじめる。

 だけど、そう。答えは無理。わからない。解決できない。

 彼女がいないし、きっと彼女は答えない。

 一点でいい。完璧じゃなくていい。

 理解しようとすることが大事。よく考えること、挑むことが大事。

 少なくとも、彼女はそうした。この世界に限らず、あらゆる世界を旅しながら、それを試みた。

 彼女は求めていない。完璧も、満点も、私たちの失敗なき成功も。

 そうじゃない。そういうことじゃない。

 どうするんだと思う?


「おい、それ」

「なに出してんの?」


 お姉ちゃんとノノカが気づいた。

 私が金色を集めて化かしたものを不思議そうに見ている。


「カメラ?」

「おもちゃみたいだな」

「うっわ! スマホじゃなく?」

「一眼レフとか出せるでしょー! デジカメでいいやつとかさー!」


 私の手元にあるものを眺めるべく、みんなが集まる。

 それにしても文句がすごい!


「おばあちゃんにね? 教えてもらったんだよね。インスタントカメラっていうの」

「チェキじゃね?」


 チェキじゃありませんー!

 展開すると横から見たら三角形に近い形に見える、不思議な不思議なカメラ。

 撮影して、すぐに写真が浮き出る。といっても実際は、鮮明になるまで二、三十分ちょいかかる。カラーだと。白黒なら、もっと早いそうだ。温度にも影響を受ける。それでも、その場で現像できるのがなによりも便利。もうひとついいところがある。スマホのカメラをはじめ、一眼レフなんかはとにかく高解像度などがウリ。だけどポラロイドは色味に味があると聞く。

 ちなみにポラロイド社のカメラでポラロイド、撮影して出てくるフィルムをパタパタする場面を、お父さん・お母さん世代の人は見たことがあるそうだ。あれ、実はNGなんだって。あったかい場所で安置するのがいいらしいよ?


「とにかくやってみるよ」


 だれかの写真を見るのも手だけど、それだけじゃない。

 だれかに見せるんだという、そういう意欲で他者を感じるっていうアプローチもある。

 それに、カメラを通じて世界がどう見えるのかを考えるとき、私たちはしばしば、自分の視界から、世界から離れることができる。

 目の前の空間じゃなんだから、離れたところに見えるお店に向けて、太陽を背にしてレンズをチェック。おばあちゃんにあれこれ説明してもらったから、だいたいの仕組みは頭に入っている。ざっくりと、ふわっとだけど。化け術でなんとかなる範囲。フィルムもセットしてあるけど、いちおう確認。

 シャッターボタンを押下。撮影する。音がして、フィルムがするすると排出された。真っ白けだ。

 すっと取った。金色雲を出して、そこに置く。カメラを閉じて、いったん消す。すぐに新たな金色本をアルバム仕様にして出して開いた。金色雲に置いたフィルムを置いて、しばらく待つ。

 息の詰まる沈黙ののち、お姉ちゃんがそっと尋ねた。


「で? いつまで待てばいいんだ?」

「早くて十分ちょい。でも十一月でもうずいぶん寒いし、時間かかるかも」

「待つのか?」

「待たなきゃ現像されないよ」

「そうか」


 再びの沈黙。いたたまれない空気のなか、ノノカがそっと呟いた。


「待ってる間に、もうちょっと撮らない?」

「あ」


 ファリンちゃんもため息交じりに乗っかってくる。


「どうせなら、同じカメラをいくつか出せない? 私たちで撮ってみたら、枚数が増えるしテストになるでしょ」

「そ、そだね」


 黙って待ってるよりはいいね!

 なにやってんだかね?




 つづく!

お読みくださり誠にありがとうございます。

もしよろしければブックマーク、高評価のほど、よろしくお願いいたします。

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