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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第二千九百六十八話

 



 どれほど警戒してもし足りないということはない。

 情報共有の舞台は調査班の現場に集中させて、カメラの情報は、会議の共有の段階で一切流さない。

 黒いのカメラでの撮影と術による壁除去を続けながら都心を目指す。

 その間にノンちゃんたちが作ってくれたマシンロボ胸部撮影スポットで、お姉ちゃんと肩を寄せてささやきあう。具体的にカメラでなにを撮影するべきか。それが問題だった。


「術を使わない形にして、撮影だけできないか?」

「つまり考えるよりもやまほど撮影したほうが早いってこと?」

「ああ。幸い、春灯だけにしか使えないわけではないのだから、こっそり潜入して撮影しまくってきたほうが得だろう?」


 一理ある。


「こっちはペースをあげられない設定でいる。すこし進んでは時間を置いての繰り返しだ。予想できるフィルム数を用意して、お前は偵察してくるのがいい」

「ううん」


 理にかなう提案だ。

 問題はどうやって抜け出すかだし、どうやって潜むかなんだけどね。


「よっ」

「「 うわ!? 」」


 人が一人通れるぎりぎりの二メートル程度の通路に突然、カゲくんの声がした。ふたりして飛び上がってしまう。振り返ると私たちの背中の影になった壁から、カゲくんの顔がにょきっと生えていた。


「操縦を狛火野に代わってもらってきた。たいして大暴れしねえし、あいつならだいじょぶだろ」

「じゃなくて、なにぃ!?」

「静かにしろって。住良木と話してきた。ちょうどおんなじようなことを考えてたんだよ」


 うん?


「聞いてたの?」

「休憩に飯を食べがてらな。ちょっとだけだけど」

「覗いてたんだ」

「そっ、そんなことしてません!」


 疑わしい。

 考えてみると、カゲくんの霊力は影に飛び込んで隠れることができる。表に対する裏のような影の世界から、現世を眺めることができるんだ。


「実はこっそり覗きとかしてないよね」

「しねえよ! というか、したらバレるようになってんの」

「どうして?」


 実に疑わしい。

 双子による猜疑心の視線を浴びたカゲくんがうなだれた。


「マモリちゃんにいつどこにいるのかわかるよう、霊衣を改造されててさ。オロチスーツを展開してなくても筒抜けなんだよ。履歴が残るんだよ」


 なるほど。尻に敷かれているのか。

 意外と束縛するタイプなんだなあ。日下部さん。


「俺の力は悪用し放題だし、浮気し放題だろうからって」


 正義感と浮気防止策か。両立してるとぎりぎり言えそうな感じ。

 ちょっと気になる話だけども。まあ、よし!


「信用してくれてもよくね?」

「力には責任が伴うものだぞ」

「そうだよ、カゲくん。ある程度は管理しないと危ないよ」


 思春期男子がいつでもどこでもこっそりのぞきに行ける力なんて、制限なしにはいどうぞとはいかないよ? さすがに。

 考え方を変えたら、これはなるほど大泥棒にお似合いの力だけども。


「レオとタツ、山吹の四人で、こっそり通信で確認したんだ。二駅ほど進み、一時間ほど待機。これを三度繰り返す。その間に、俺と仲間と、ふたりのうちのどっちかで、まずは警視庁と国会を調べてこいってさ」

「トモがいるの?」

「すでにこっちでスタンバイ中だ」


 おおお。やる気だ。

 雷足ダッシュのトモと、カゲくんと、私かお姉ちゃん。


「なら春灯、行ってこい。フィルムだけ予備を置いてけよ?」

「う、うん」


 カートリッジ式のフィルムを金色で作り出す。

 ポラロイドはバッテリーがフィルムとセット。フィルムだけにバッテリーを後付けして交換することもできなくもないらしいけど、フィルムの厚みが出ちゃうから空になって交換するときが大変だそう。

 逆にいえば正規の方法で使うとバッテリーセットになるので、まあまあお高い。枚数だって十枚もないものでも、けっこういいお値段になる。

 なので、そこまで再現する必要性がある。こち亀で絶対、面白くて楽しい取り上げ方をしているにちがいないけど、お父さんの漫画本棚の一部もまだ十分に網羅できていない私はまだ知らない。がっでむ!

 なんにせよ撮り放題じゃない。

 そりゃあライト層ほど「スマホでよくなぁい?」になりがち。

 精いっぱい丁寧に作って十個。これだけあれば、足りるはず。駅まで向かうのに三枚か四枚ほど撮ったら多いほう。一枚や二枚で事足りるペースで進んでいる。でも、なにがあるかわからないから、多めに用意。


「交換方法はわかる?」

「聞いておく」


 カメラを使って事細かに説明する。

 もうひとつ交換フィルムを出して、私のカメラで交換してみせる。そのあと、お姉ちゃんに実際にやってもらう。念押しに、カメラもフィルムも形だけ模したものを金色で出して、もう一度、お姉ちゃんにやってみせてもらう。いずれもすんなり成功。


「だいじょうぶだ。いざとなったらマドカになんとかしてもらうさ」

「ん。じゃあ、行ってくるね」

「おう」


 握りこぶしを向けられたから、私も拳を作って重ねた。

 カゲくんに手を引かれて影世界に誘われる。するとたしかにトモがいた。コンビニ袋を手首にぶら下げて、おにぎりを食べている。急いで咀嚼して米粒を飲みこむなり、袋から紙の包みを出した。


「食べる?」

「食べる!」


 チキンは私の大好物!


「いろいろ買っといた」


 そう言ってトモが袋の中身を広げてみせてくれた。いろんな具のおにぎり、お茶のペットボトル、サラダスティック。あれやこれや。

 明太子とシーチキンマヨを選んだ私をカゲくんがもの言いたげに睨んでくる。


「なに」

「モデルの天使が節制してるのはわかる、山吹もまあまあ食事制限してるけど、青澄はもりもり食べるよな」

「おおん?」


 ケンカ売ってるのかな?


「ハルはこれくらい食べていいんだって。ほっぺもちもちだし」


 なんのフォローにもなってないんだけど。

 でも食べる。止まらない。今日は忙しすぎて、気が抜ける時間がほとんどなかった。

 お茶で流し込んだら、ようやく一息ついた。

 待っててくれたのかな。落ち着いた私を見て、カゲくんが切り出す。


「そんじゃ、まずマシンロボと学校から行くぞ」

「え? 警視庁と国会じゃなく?」

「まずは身内の確認からだ。山吹が青澄から受け取ったカメラで、司令部と俺、仲間とかは確認済み」


 いつの間に。

 カゲくんからフィルムを渡されたので、金色アルバムを出して保管しておく。

 トモがスマホを出して、グループメッセージアプリを起動。今日のマシンロボ搭乗者たちの名簿を出してくれた。私がカメラを手に、三人で確認しながらマシンロボの生徒を全員たしかめる。

 外から撮影すれば、ざっくり写せる。なにせ黒いのカメラはマシンロボを認識しない。だけど、あんまり遠くから写しても、だれがどんな状態かがわからない。カゲくんの霊力により生じる影世界からでも、現世を撮影することはできるのだから、地道に近くで撮影していくほかにない。

 全身が写るような形で、大勢が写るように撮影。無理なら近づいて、個別に。

 なるべく急ぐ。

 マシンロボが済んだら高等部のメンバーをさっと写すべく戻る。

 移動の主軸はカゲくんのオロチバイク。これにサイドカーをつけてトモが座る。私は金色雲を出して、バイクと雲をローブで繋いで引っ張ってもらうことにした。

 カゲくんは後ろに乗ればいいっていったんだけどね。密着したくないとか、そういう理由よりなにより、撮影したフィルムになにが写るのかを後ろで確認したかったのだ。

 道中、じわじわと現像が進んでいくものから見ていくけど、異常は見当たらず。

 学院につく頃には最後の一枚まで、おおよその現像が進んでいた。やはり問題ない。

 二年生は黒いのカメラで見るかぎり、だいじょうぶ。

 ふたりに共有して、トモにはマドカに連絡してもらう。

 その間にカゲくんと方針を確認。

 一年生はこんなときでも通常授業なので、まずは一年生から確認していく。教室に入ってぱしゃっと撮影すれば終わりだから、そう困ることがなかった。

 三年生が大変だ。あちこちに散らばっている。だけど、三年生の多くは現状の対応に奔走していた。そのためグループで動いている人ばかりだ。職員室も押さえて、アルバムに入れていく。

 ひととおり撮影を終えたら、ようやく警視庁を目指すことに。

 おんなじ態勢で、信号も他の車もいない道を全速力で飛ばしていく。その最中にアルバムに入れた写真の、現像が早かったものから確認する。

 一年生たちも、授業をしている先生にも異変は見当たらない。九組に至って、シャルだけ、いまの身体と教授の身体がそれぞれ半透明に重なりあっていた。理華ちゃんの術によって変えられた名残なのだろうが、彼だけ心霊写真のようになっていて不思議だ。

 三年生の先輩たちも異変なく。数少ない獣憑きの先輩たちも、人の状態で写る。小楠ちゃん先輩はもちろん、カナタでさえもだ。

 いまのところ、私とシャルだけ霊子情報のはずのものが写りこんでいるのが気になるところ。いっそ、病院に寄ってミコさんになるようあれこれ改造された、あの人を撮影してみたらよかったんじゃないかとさえ思えてきた。

 もどかしい気持ちでいる間に、職員室の写真の現像が進んでいく。

 ホノカさんが平塚さんたちと写っている一枚に、目を奪われる。あちこちに火傷の痕が見えるんだ。顔や手に。平塚さんも平塚さんだ。パンツスーツスタイルにジャケットのホノカさんとちがって、平塚さんはいつもの赤パン姿だから、身体中が露出している。あちこちに、現世の平塚さんにはない傷がある。火傷、刀傷、なにかに抉られたような痕など。

 黒いのカメラで撮ったら異質なのに、現世のふたりはそんな気配がかけらもない。

 不思議だ。

 いったいなんなんだろう?

 わからないけど、いかにもクローンだって人はいなかった。それだけでスパイはいないとは言い切れないけれど。ひとまずは、問題なさそうだ。

 牽引してもらうために改造した金色雲の中で、トモとマドカにメッセージを送る。

 現状で、怪しい人は見当たらない。懸念事項として、私とシャル、そしてホノカさんと平塚さんの写真を撮影して共有しておく。

 すぐに既読がついて、マドカから「警視庁は緋迎さんたち、国会は総理を筆頭に調べて。国会にいなかったら官邸に」と返信が届く。私を呼び出したクローンの入れ替わりは、本当に人なのか。内閣だいじょぶそ? という確認がしたいのだろう。警視庁は、シュウさんたちの安全確認が主だね。警察が信用できるかどうかを確かめたいのもあるはずだ。

 シュウさんが無事でも、シュウさんから確認を頼まれる相手がいるかもしれないし。

 そう思って急ぐしかない。

 オロチバイクの全速力でかっ飛ばしてもらって、警視庁にたどり着いた。

 私たちの影から見える現世は人も車も見当たらない。バイクを止めて、金色雲を消した。三人で警視庁に入る。フィルムを交換しながら歩いていると、先を行くトモの背中にぶつかった。


「ご、ごめん」

「いいよ、いいんだけど、そうじゃなくて。なんだろ?」

「人がいないな」


 カゲくんがぽつりとつぶやく。

 トモがあちこちを見渡した。私も影から見える現世を確認する。たしかに警官の姿がない。それどころか、影から見える建物のあちこちに傷がある。

 急いで階段をのぼって上階の様子を確かめていくと、警棒や刀を手にした警備部の面々が壁に背中を預けて息を切らしていた。通路は倒れている人で埋め尽くされていた。スーツ姿の男性や女性に混じって警官もいる。暴徒化した人たちの襲撃かなにか? 警官もぉ? なにそれ。

 写真で撮ってみる。焦れる思いで現像を待っている間に、トモとカゲくんが様子見に上層を見に行った。数分を待って、ようやく見えてきた。倒れている人たちがみんな奇妙だった。服だけがぺたんと、倒れた人たちの姿勢で置かれている。ところどころ盛り上がっているけれど、人の胴体の厚みじゃない。デコボコしている。どうなっているのかは、頭部から推測ができた。

 脳だけがあったり、眼球ひとつと歯が数本あるだけだったり。身体のごく一部だけが存在しているのだ。

 彼らがクローンってことなんだろうか。それとも、これはまた別物なのかな。わからない。

 とにかく現像が終わったんだ。急いでトモたちを追いかけるべく、階段に戻ったところで、ちょうどふたりが戻ってきてくれた。どの階も、二階ほどではないにせよ、暴徒が入り込んできて警官たちが対処したあとだという。

 ざっくりと各階を撮影しながら上を目指す。偉い人たちのいる部屋や、重要な会議室ってだいたい上層という偏見があるよ! 私にはね! フロアガイドさえしっかり利用しながら、部屋をかたっぱしから覗いていく。ようやく見つけたとき、シュウさんはだだっ広い部屋にいた。佐藤さんとあねらぎさんの姿はない。

 みんな忙しなく話し込んでいたり、怒声をあげたりしているなか、シュウさんは侍隊員とおぼしき人たちに指示を出していた。撮影して、焦れる思いで待つ。現像が進んでいくなかで、やっと部屋にいる全員がただの人であることがわかる。

 すぐにでも知らせたいし、それならそのまましゃべったほうがずっと早い。だけど、まさに大忙しの人に「ねえ聞いて」は通用しにくい。だからって、ほったらかしにもできないじゃない?


「どうする?」

「俺が呼ぶよ。気を引いてみる」


 カゲくんがそう言って、屈んだ。影を通して現世に手を出して、シュウさんのスラックスを摘まむ。そしてくいくいっと引っ張る。

 最初のほうこそシュウさんは煩わしそうに無視していたが、三回目になってやっと見下ろした。すぐさま、カゲくんが手をひらひらと振って見せる。

 露骨に眉間にしわを寄せながらも彼は咳ばらいをして「三分だけ席を外す」と伝え、そばにいたおじいちゃんに呼びかけた。やたらにガタイのいいおじいちゃんを見て思い出す。カナタの師匠である光葉先輩のおじいちゃん。未だ現役の凄腕刀鍛冶だ。


「楠さん、すこし頼みます」

「ああ」


 返事を聞くなり、シュウさんはすごい大股で早歩きをしながら部屋を出て、通路の端まで移動する。スマホを出して耳に当てる振りをして、身体で壁との間に影を作った。追いかけた私たちは、カゲくんの力を借りて、影世界から顔だけをひょっこりと出す。ちょうど、お姉ちゃんといたときにカゲくんがしたように。


「うお」


 さすがのシュウさんも思わず身体がびくっと強張った。

 めずらしい。カナタに教えたら、どんな反応するかな。なんて考えている場合じゃないのだ。

 手短にカメラと写真を見せて、状況を直接伝えると、シュウさんはスマホにしゃべりかける振りをして簡潔に教えてくれた。私たちがこれから、警察内でだれを撮影するべきか。そして、官邸と国会を訪ねたときにだれを狙うべきかを。

 政治家においてはクローンだった人たち全員を。警察内では?


「えらぁい人たちや、みんながちゃんと仕事してるか確認する人たち、みんな漏れなくお願いね」


 笑ってゆるめに軽く言うわりに、重たくない?

 シュウさんの疑いが向けられた相手は立場上、警察の重要な脊髄に当たる人たちではないか。

 要職にあたる人たちと、公安の人たちを確認しろってことでしょ?

 戸惑う私たちを気にする余裕もないのか。


「それじゃあ戻るから。わかり次第、すぐに教えてね。じゃ」


 スマホを耳から外す。カゲくんが私たちを引っ張って、顔を引っ込む。それを確認して、シュウさんがすぐさま先ほどの大部屋に戻っていった。


「つまり、どういうこと?」


 トモがいぶかしむなか、カゲくんは引きつった顔で黙っていた。

 言いづらいよね。政治家だけじゃなくて、警察にも、立場上クローンになってたらやばい人がクローンになっているかもだなんて。




 つづく!

お読みくださり誠にありがとうございます。

もしよろしければブックマーク、高評価のほど、よろしくお願いいたします。

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