第二千三十三話
別れる前にふたりで立ち寄る場所がある。
シロくんたちが待つ温泉だ。広間でのんびりくつろぐみんなと合流した。
二年生の顔ばかり。ざっと見ても四、五十人くらいがわいわいと賑やかに湯上がりドリンクやアイスを片手に思い思いに過ごしている。
軽く情報交換を済ませて、温泉に入る流れに。
「先に行ってて」
マドカがシロくんに話があるそうだ。
疲れ果てていたのでマドカに甘えることにして、更衣室に移動。
さくっと脱いで、人の姿に戻って湯船へ。尻尾のことを考えずにお風呂に入れる幸せを堪能しながら、めいっぱい満喫する。
湯上がりほかほかで広間に戻る頃には人数が七割がた減っていた。
浴場で会ったトモと一緒に、マドカと三人で仙桃すりおろしゼリーをいただく。
トモが「しめはごほうびでしょ」と口角をあげて、目尻は下げて、にやにやと蕩けた笑顔でソファに伸びた。霊力回復にいいよ、というメニューをひたすら消費しているそう。身体の回復は現世に準拠。心のくたびれがどうにかなるものでもないけれど。
おいしいもの食べると気分があがるのは、たしか。
隣に座るシロくんに全力でもたれかかっている。
しっかり受けとめながらも反応せず、シロくんは眼鏡のツルを指であげて直して、タブレットを忙しなくタップしていた。
「それ、寝るまでやる感じ?」
「あ。いや、もうちょっと……で、できた」
まとめていたんだと呟いて、ホーム画面に戻る。
電源を落としてテーブルに置くと、トモの手を取る。
ふたりして自然に指同士を絡めている。
わお。思わず横目でマドカと見つめあっちゃったよ。
「警察の意向がわかったからといって、それに合わせる必要もないからね」
ん?
「殺人事件とビルの爆破。前者は何日も。後者は一日に限定して。ホテルで見た犯行の様子と、なにかを試して調整していたという見立てだったね」
「スイーツ食べながら聞きたい話じゃないし、あたしは見てないけど。蜂騒動も、肉に包まれた七人も、なにかの実験ってこと?」
「そう。だけど捕まる気はない。警察の動きもどこかまだ鈍く思える。そのあたりは探れない」
トモの問いも挟んだシロくんのまとめを聞きながら「あ」と思い出す。
失念してしまっていた。そうだ。社長と呼ばれた男について、警察はそれなりの情報を既に掴んでいるはずなのでは。
今度は身体を向けてマドカを見たけど、同じ勢いで顔を背けられました。
忘れていたはずがない。マドカに限ってそれはない。
「マドカさん?」
「やあ。桃ゼリー、うっま」
露骨にごまかすじゃん!
「し、シロくん。ごめん。私、聞くの忘れてた」
「いいんだ。欲しい情報ではあるけどね。警察からふたりに向けて特別に情報の提供、共有がなされるとは思っていないんだ。山吹さんも、僕もね」
聞いても教えてくれないだろうから、しょうがないでしょうってこと?
そりゃそうだけど、それでいいのかな。
「山吹さんの霊力で、今日出会った人たちがなにを欲しているのかわかればよかったんだ」
なんですと?
聞いてないよ!?
「お腹が空いてご飯のことを考える人たちほど露骨じゃなかったよ。役立つなら、それでいい。そうでなくても、賑やかしになれば、それはそれでくらいかな」
うっわ。容赦ない!
マドカの所感にシロくんが鼻で笑う。
「こう言っちゃあなんだけど、そこまで期待されてない」
続けて。
「役立つならいい。そうならずとも、賑やかしになれば。東京湾の巨人騒動のときは、具体的に求められたものだけど、今回はどうもそうじゃないらしい」
「単純にどうにもしようがないから、じゃなくて?」
私の問いにシロくんは「断言できないけど」と前置きを挟む。
「刑事部の捜査一課長が宝島に来て夕食をくつろいで食べる、という状況を考えると、むしろ見通しが立ったんじゃないかな? なんて風にも考えられるかな、と」
「可能性に過ぎないよ? ただ、あそこで会った他の三人からも、あとすこしでひと区切りだという喜びを感じたの」
「山吹さんの力とか、探りを入れている感をだすと、警戒されたときに対応できる気がしなくて。他に手も浮かばなくてさ。あえて、なにも伝えなかった」
「春灯なら流されるんじゃないかなーって思ったし!」
おぉい!
「マドカさん!?」
「他に手が浮かばなかったの。キラリも連れていきたかったんだけど、今日の午後は仕事だったし、先送りできる状況でもないし? しゃあなし!」
「もう」
ずっる!
ええい。桃ゼリーをやけ食いしてやる!
いや! あと一個食べるにしても、一気に食べるのもったいない!
あとふたつ食べよう!
『夜更けにずいぶんとまあ、見苦しい大盤振る舞いを』
おぅ。
タマちゃんに怒られちゃったよ。
真夜中のゼリーおかわりは危険を伴うもんね。カロリー的な意味で。
くそう。
シュウさんと因幡さん、それに佐藤さんとあねらぎさん。
あの四人を相手に腹芸をやる自信なんて、一切ない。
気づけばシュウさんと因幡さんの軌道修正を受け入れちゃってたもんね。
シロくんはそんなの受け入れる気なんか、さらさらなさそうだ。
でも帰り道でマドカが話していたこととズレがある。
「じゃあ、作戦はどうするの?」
「僕はあちこちを化かす筋で継続を、山吹さんは改良案に修正を。で、いいんだよね?」
「今後の仕事とか、みんなの進路とかへの影響を考えると、守りに入りたくなる」
う。
痛いとこ突いてくるなあ。
警察が言うんじゃあしょうがないなって流れで私もさらっと受け入れた。
「緩衝材になるなら、守りに入っての修正はありだと思う。一方で、まるごと化かして、これくらいのことができなきゃよそへいけと牽制する意味での攻めの一手で考えるなら?」
「軸がぶれる。骨抜きになる」
「加えて、警察に首輪をつけられたイヌになる」
あれ、シロくんどうしたの? 過激か?
「そうなれば警察にとっては利があるけど、それってつまり、警察がやりがたいことを水面下で繋がっていながら、無関係ですって顔して、僕ら学生が責任を負う流れになるだろう?」
「いいとこ取りされるの間違いないし、私たちは風評被害を受けるだけになる。おじさんたちが言っていたでしょ? 警察の厄介になるようなことはするなって」
あっ!
やや遠回しにではあったけど、たしかに言ってた!
「いつから私たち、お金ももらわずに働くことになったの? そうじゃないよね。そこで、おじさんたちはこうも言っていた。学生ってもっと、無茶するものだって」
振り回すくらいがいいんだって! と結論づけて、マドカは残りのゼリーをひとくちで食べる。既に食べ終わっていたトモから容器とスプーンを受けとって、カウンターに返しに行った。私はまだ残っている。もうすこし、ゆっくり堪能させてよ。
「協力を得るにしたって、言いなりにならなきゃいけないわけじゃない。主張すべきは主張して、やりたいことは譲らず通していいんだ」
帰り道までに私が考えた内容は、最初の発案から尖った部分が引っこ抜かれたようなもの。
シロくんはそう考えているのかな?
尋ねてみると、すぐに笑われちゃった。
なにゆえ?
「犯人と残った六人を探査術で探り出す。七人の対処を隔離世で行なう。この二点についての言及はなかったんだよね? 肯定も否定もされずに」
「あ」
「足並みをそろえるために話し合いが必要な内容なのにね。なんでだと思う?」
「え、ええ?」
なんだろ。さっぱりわからない。
シュウさんたちが話題に出さなかった理由なんて。
「私たちがやってくれたらいいなって思ったから、とか? で、話したら責任を取る流れになっちゃうかもしれないから、とか?」
おとなはずるいとトモが唸る。
「もしもそのとおりになったらね。明日にでも連絡が来て詳細の詰めを、なんてなるかもしれない。先生方と協議中かも」
「「 まあ、そう、かも 」」
「それにしたって一言くらいあってもいいところだけど。疲れきっているか、余裕がないんじゃないかな。捜査で手いっぱいなのに、わかる範囲で法律に照らし合わせてどうか用意してきた。で、そこまでで限界だった、と」
「警視庁の偉いおじさんたちと一緒に来て?」
トモの問いに「だからさ」と、シロくんは肩を軽くすくめた。
「僕らはたぶん、そこまで期待されていない。今日に始まったことじゃなくてね。警察にとって僕らは学生だから。いい大人が学生に期待して事件解決のあてにするって、むしろよっぽどのことだよ」
たしかにシロくんの言うとおりだ。
「言い換えれば、彼らは自分の仕事の範囲でどうにかできると見立てているのか、見通しが立って気が緩んでいるのか。そこまで配慮することをしなかったのか」
う、ううん。
「ここ最近、連続して起きている事件群はどうかしているだろ? 気を抜くことは許されないと考えがちだけど、ずっと気を抜けずにいたら、それこそいざという場面で祟るから。いかにして、意図的に抜くかが大事」
ずっと緊張していられないもんね。
「そういうの得意そうな組織ってイメージないな」
「そう? 悪い映画だと警察の息抜きって、だいたいひどくない?」
「ま、まあね」
「警察勤めの人が起こす犯罪でニュースになるのも、ね?」
「あああ」
トモの指摘がえぐい。
欲に絡んだものほど目立つ気がする。
警察のみならず公務員の犯罪って。
官僚から教師まで。
職業でくくるのはどうなのかって話はあるね。
印象に残るし、その印象を土台に考えちゃうからなあ。
世の中のあらゆる犯罪が明るみにでるのか。すべてがニュースになるのか。
そんなわけないもんなあ。
歩行者の信号無視さえ最大二万円の罰金もしくは科料に処される可能性がある。信号無視、歩道などなく禁止されている場所での横断などで交通事故を起こす原因になったら? 歩行者がケガをしていなくても、アウト。
でもじゃあ、そのすべてが明らかになっている?
歩行者信号が点滅して走って、赤信号になってもまだ横断中。右左折進入する車が待ってる、なんて状況、よく見かけるし? なんなら私もたまにやってしまいそうになる。
みんな待つ? 待たないよね、みんなは。
警察官が笛を手に誘導していて、それでも三、四人赤信号で走って渡ろうとして。四人を捕まえる警察官がいるかっていったら、どうかな。けっこうむずかしいとこある。逮捕できるよう態勢を整えておかないと、交通誘導に支障をきたしそう。
お父さんの運転で交通違反の取り締まり現場を通り過ぎたことがあるけど、複数人態勢だった。車にせよバイクにせよ、乗り物を置いてはいけないし? 盗難車両でもなきゃ乗り物に個人情報が紐づいているよね。ナンバーが名刺代わり。逃げても意味ない。
でも、その縛りがない歩行者だと?
渋谷のスクランブル交差点で赤信号の信号無視を取り締まるなんてことになったら、いったいどれだけ大勢の警察官が必要なんだろう。考えただけでぞっとする。
ハロウィンなんか毎年すごい人手になるけど、交通誘導だけで頭がどうにかなっちゃいそう。
その場にいても、間に合わない。
通報してもらうだけでも足りない。
窓口の人が不十分な対応をしたら? その先の情報共有がなかったら? されても仕事が忙しすぎて、だれも受けつけられなかったら? 取りこぼしてしまう。
重箱の隅をつつきたくてしているんじゃなくて、物理的に限界があるよねって話だし、いまある仕組みでできることにも限界はあるし、だからいいやと投げやりになると悪化するばかりだし、変えようとするにはたくさんの問題があるよねって話だ。
全体像なんてわからないまま、簡単に言えることなんてないもんね。
ないから、ひとりひとりの実態がどうかはわからない。ましてや集団の実態になると、余計に謎だらけ。
「みんなけっこう、参っていると思うんだよ。今回のことにはさ」
「いい加減、回りくどいよ。要するにどういうこと?」
トモさま、つっこむなあ。
鋭くいくじゃん。
「余裕ない人にあれしてこれしてって言っても、なかなか期待できるリアクションは得られないよね。カゲがぼやいていた。名前さえ聞かなきゃ教えてくれなかったし、全員目のクマがえぐかったって」
「ああああああ」
言われてみれば私、因幡さんの名前を聞いたの宝島のおやどで会ったときだ。
現場では聞いていない。もちろん、そのあと警察署で会ったときだってそう。
「緋迎さんたちも同じじゃないかな。なるべく綺麗に、見やすくまとめたつもりだけど、元気なときに比べたらあまり頭に入ってないんじゃないかな」
「おぅ」
そこまでつまびらかにして教えてくれはしなかった。
そこまで腹を割ってお話できる関係性ではない。
彼らにしてみれば私たちはこどもで、学生で。彼らはおとなで、警察官なんだもの。
「やっぱり、むずかしいのかな。今回の作戦」
「おとなたちがその気にならなきゃ協力はむずかしいんじゃない?」
「させるにしても現場に出てる人ほど消耗しているだろうし。僕らが言うより、おとなの協力を借りたほうがスムーズに行くこともある」
トモとシロくんの考えを聞きながら実感する。
不慣れだったり、初挑戦だったりする内容ばかり。
それにしても、私自身、疲れてあまり頭が働いていないみたいだ。
思いもよらない部分がいっぱいある。シロくんもマドカもいろいろ考えて、備えたり対処したり、探ったりしてくれている。
この時点で今回の作戦で打ち出した「みんなに頼るぞ! 依存の糸を増やしまくるのだ」というテーマは力になっている。
ただ、まだまだ足りない。
ミコさんやウィザードに声をかけるだけじゃ届かない気がしてきた。
シュウさんたちが言っていたように、現状で思いつく正攻法ではぶつかる限界もまた存在するね? どれだけ協力の輪を広げたらいいのかな? どれだけ繋がりを増やしたらいけるのかな。
強固に連携を取ろう。
深く繋がって挑もう。
そうするほど、必要なことが増える。
必要さの内訳には元気さだってあるし?
抜けなく相談する手抜かりのなさ、進行の手際なんかも含まれる。
現状で警察にその余力がない。それに、あっても私たちに割いてはもらえない。
特に今回のように連続して起きている事件があまりにも恐ろしいものだったら。
仮に、もし、シロくんたちの見立てのように因幡さんとシュウさんたちが犯人逮捕の目処をつけていたとしたら、ますますもって「学生の相手どころじゃない」となりそう。
彼らにしてみれば侍隊は私たちの上位互換。なにより侍隊のみならず、シュウさんたちの仲間はみんなして、正式なおまわりさんだもの。社会的にも、学生の出る幕ではない。少なくとも警察内部はそういう筋だろうからね。
「そこまで考えてなかったよ」
うっわ。
頼んだらなんとかなるんじゃない? くらいの浅はかさだったよ?
「この手の交渉、僕らにとっては初めてのことだからね。警察以外も方々お願いしている最中なんだけど、手探りで進めているからさ。うまく連携取れなかったりしていて、苦戦している」
方々とな。
既にいろいろ手を回しているのかな。
でもって、うまくいくかというとむずかしいのか。
それもそっか。
さっき例に出したハロウィンなんかさ?
別に会場が用意されているわけじゃなく、なんとなくみんなで渋谷に集まる。
おかげで周辺地域の人や、通学よりは時間帯的に通勤で渋谷を通る人はもろに影響を受ける。
飲食店はお客さんが増えてよさそう、と一概に言えないか。
酔っ払った人がたくさん入ってきて面倒なことが起きているお店もあるかもしれないし。
人が集まると、それだけでトラブルが発生しがち。
鉄道各社もたいへんそう。
「たとえば私たちは事前に渋谷のハロウィンをまるごと調整するようなことに挑戦しているのかもしれない、のかな」
「むしろ、それよりずっと規模が大きいよ。なにせ東京中なんだから」
「二十三区に絞っても広すぎるね」
シロくんとトモの返しになにも言い返せない。
なるほどなあ。
昨日感じた万能感が萎れてしまう。
「いまのやり方だと無理だね」
シンゴジラは政府主導、責任をもつ形で右往左往しながらも、なんとか対処した。
それにしたってかなり時間がかかっていたし、調整役となる人がやまほどいたはずだ。
連携を取るために必要な人もたくさんいたことだろうし?
取りまとめる苦労はかなりのものだったんじゃないかな。
私たちには、まず、窓口がない。
繋がりもなければ、法的に果たせる責任も負える責任もない。
いまそれを作ろうとしたって、到底まにあうはずがないんだ。
「協力してもらうにも、段取りがいるんだ」
ううん。段取りだけじゃない。
いろんな段階がいる。
なのに、私たちには時間がない。
そこまでの余裕がない。
協力してもらえる余力のある人と繋がるだけでも、どれだけかかるかわかったものじゃない。
いや。なにいまさら、当たり前のことに驚いているんだ。私は。
ユメたちのことで困っていることがやまほどあって、施設や支援が世の中にあるとして、ろくに繋がれていないのに。
そこだ。
みんなヒーローになっちゃえー! も、コンセプトはありだと思うんだけど。
みんなの利に寄り添ったものでなきゃ進みようがない、だけじゃないんだ。
足りない。
利だけでもだめ。望むだけでもだめ。
機会がいる。一度や二度じゃ足りない。
信頼を、信用を求めるほど、回数と内容の充実が欲しい。
そもそも、きっかけがいる。
お互いにね?
それも一回じゃだめだ。
たとえばふたりで会っているときさえ、いくつものきっかけを重ねて、それを栄養源にして好意が育つ。よさげな出会いがあって、それがきっかけのひとつだとしても、それだけじゃ弱いんだ。
時間も気にしないと。
平日真っ昼間に祭りを始めようものならひんしゅくを買う。学校も、会社も。こちとらいまそれどころじゃないんだが!? ってなるよ? かといって休日にやっても同じだ。結局みんな思い思いの時間を過ごしている。土日だろうと働く人はたくさんいる。
もういっそ、海の日にやる?
ちがう。そういうことじゃない。
祝日を目安にするのはいい。けど、他の大部分で改善を求められている。
負担を求めるほど達成は困難になっていく。当たり前だ。
お父さんもナチュさんも、高城さんや真壁さんたちにしたって愚痴を聞いたことがある。仕事に関しては、お互いの負担なくして進まないことだらけ。これがプライベートになると、愚痴る人がやまほど増える。
だからやりたいことに加工して、やりたいことに比例するか、問題がないと感じるように改善する。利は常に損より大きく多くなければ。あるいは必要な損だと感じられれば。
花火大会なんか人混みだらけ、交通機関も混雑。真夏にやると蒸し暑いし虫に刺されるし、ちゃらい人も多い。そういうのやだーって人を誘っても無理。ジェットコースターがだめな人を誘うくらい、無理。損がでかくて。必要な損だと本人が思えない。また、周囲がそう思わせるよう働きかけるのもなしだ。同調圧力、なし。
「裏技になるかもしれないけど、発想の転換次第ではあるよ」
唸る私にシロくんが人さし指を立てる。
「ひとつめ。隔離世で騒ぎ、霊子体に影響を与えて、犯人を隔離世へと引きずり込む。シャルロットに可能かどうかを尋ねる必要があるね」
隔離世にいながらにして、現世の人を隔離世へと引きずり込むか。
霊子体に影響を与えるためにお祭り騒ぎをすることになる。やまほどの霊子を放ちながら、霊子体の反応を見て、犯人を探すことになりそう。
さらにシロくんが中指を立てた。
「ふたつめ。気にせずやるだけやっちゃって、希望者が参加できる仕掛けを用意する。それも犯人をあぶり出すのに有効なもの。たとえば仮装。僕らがその人を読み取れる証でもいい」
「タグ付けだね」
「そう。東京中を狙う時点で対象が多すぎるから、どうしても雑になるけどね。それはむしろ、僕らがたびたびこういう遊びをすることの周知と、こういうことがあったら乗っかると楽しいかもしれないって思ってもらえるきっかけ作りと割りきってしまえばいい」
ものは考えようか。
あとでどれほど怒られようと叱られようと、仕掛けちゃうんだ。
どうしたって、どこまで備えたって限界にぶつかる。
いますぐ越えられるものばかりとも限らない。
でも、工夫する余地がある。だから、欲求する目的を修正する。現状で選べる手段に寄せて。
いきなり望む結果を求めても得られないなら?
いまと望みの間に段階を設ける。
初心者ならまずなにから練習するのかなって考えるように。求めるものを一から十か百にして、一を考え直すためにゼロがどんな状況かを整理する。
お父さんが好きなパトレイバーなら?
警視庁警備部特車二課、第二小隊っていうロボット犯罪の警察官たちが「仕事はするけど、お騒がせで残念」って定着してるっぽい。ちなみに第一小隊は「仕事をするし頼りになる」かな。追加するなら「でもロボットは旧式」くらい?
その定着が、私たちにはまだない。ほとんどない。
あってもせいぜい、カナタが酔っ払いおじさんに言われた「オカルトだろ? なんとかしろよ」くらいだ。浅いし薄い。なによりそんな風に押しつけられるのはいやだ。
どこを目指すか考えても、たぶん弱くて足りなくて。
私たちがどんなかの自己紹介かな。定着を目指してするとしたら。
好きの一点突破じゃないかな。
それをどう受けとるかはそれぞれにお任せするとして。
多くを求めすぎている。徐々にこつこつやっていかなきゃね。
つくづく勝負は日常だなあ!
おのれ!
窮地に陥ってからどうにかしようじゃ足りないなあ! もう!
明日やろうはばかやろうって聞いたことがあるけどね?
やばくなったときに考えようこそばかやろう! なのでは?
いたーっ! 心に刺さるぜ!
「どっちも要検討で!」
四の五の言ってらんないなあ!
だけど私はいまの日常で限界なんです! くうっ!
つづく!




