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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
2030/2984

第二千三十話

 



 翌日、先生たちにお願いして宝島の烏天狗の館、謝肉祭遊園地を確認しにいく。

 犬たちがいるはず。少年も。

 ユメたちは彼らの声を聞く力があるのかもしれない。謝肉祭遊園地のあるビルへと向かったときにぷちたちが教えてくれた。助けを求めているって。

 侍隊の協力も得ながら状態を監視して、可能な限り助けようという方針だと聞いていた。

 けれど、いざ訪ねてみるとどうだろう。

 幅およそ七メートルほどのガラス道。周囲に漂う黒い御珠たち。あまりに数が多すぎて、集合体のよう。隙間がなくて、四方八方すべてが黒いいくらまみれみたいな感じ。空も底も見えやしない。屋内なのかどうかもわからない。


「ママ、ここやだ」

「わんちゃん、寝てるよ?」


 さっきまで遊びに出かけるテンションだったのが、扉を抜けて状況を目の当たりにした途端、気持ちが窄んでしまった。みんなして尻尾に集まってきて、気弱な子から逃げこんでしまう。

 そう。

 わんちゃんが寝ている。ガラスの道のうえで。宙に浮かんで。黒い御珠の手前に奥、上に下に、いろんな犬種の子たちが眠り続けている。

 通路の先を見ると犬比率が増している。漂う犬が黒い御珠に触れても弾かれるだけ。反応しあう気配はない。

 なにより、なんだ。

 この数えきれない黒い御珠は。


「おぉおおい!」


 通路のずっと先から久しぶりに耳にする声が。

 ホノカさんだ。燃える炎の鳥の背に屈んでやってくる。すぐそばに来ると、手で叩いた。一気に燃え広がって消えた鳥の速度のまま、軽々と着地。軽く歩きながら速度を緩める。

 あまりに派手で怯む子もいれば喜ぶ子もいた。

 腰に短刀を差していた。生地が薄くてゆるい長袖ブラウスに、ゆるめの半端丈パンツ。サンダルを履いて、すごくラフな感じ。だからこそ、ベルトに提げた黒い鞘が目立つ。


「ひさしぶりじゃない? 春灯ちゃん」

「ど、どうも」

「なあに? 元気ないな。そりゃないか! あっはっは!」


 笑っている場合じゃないが!

 聞きたいことしかないが!?


「わかってるよ? 式神なんだよね。でも実質、子だくさんだもの!」


 そうじゃない! そうだけど!


「それより来るって連絡あったから迎えにきたよ。そうは言っても伝えられる進捗なんてなにもないんだけどね?」


 笑い飛ばす。豪快に。胸を張って。

 エネルギッシュな人だ。前に会ったときよりも元気に見える。

 すごく華奢なままだけど顔色がいい。メイクでごまかしているわけでもないみたいだ。


「なんにもないんです?」

「なぁんにも! 見てよ、このおっかないものたちの数を」

「いくつ、あるんですか?」

「数えてないよ。多すぎるんだもの」


 はっきり断言されてしまった。

 この光景から容易に想像がつくことだったけど、それでも怯む。


「通路の先に広間があって、さらにその先のホールにもびっちり。隔離世で見かけるものと完全に一致していることはわかったけど、邪は出ない。そこがまた不気味」

「ここの力なんですかね?」

「刀鍛冶たちの見解では。少年の状態をここで詳しく調べようとしたら、この空間に。元に戻ったと言ってもいいかもしれない」


 黒い御珠で満ちあふれた場所。

 たったひとつだけでも動き出したら?

 どれほどの惨事になっても不思議はない。

 だから生徒の立ち入りは固く禁じられているのかもしれない。

 今回、私がここに来ることだって、マドカや姫宮さんに間に入ってもらって、やまほど約束してようやく実現できたことなんだ。お付きの人がつくことも条件のひとつ。

 あと実現した理由をひとつ、実感してる。

 こんなのもう、どうしようもない。

 一手で解決できるようなことじゃない。

 黒い御珠ひとつとっても、いままでのやり方だと? 都内の侍隊総動員、うちの学校の精鋭全員たしても「犠牲がでないように、やっとなんとかできる」もの。体感ではね。

 他にやり方を知らない。

 穏やかな状態の黒い御珠なんて、私たちは知らない。侍隊さえ同じだ。

 だから、どうしたらいいのかがわからない。

 逆に言えば調べるのに、これほどうってつけの機会もない。

 ないのだが。


「黒い御珠の研究と少年の研究、進み具合は?」


 私なりの精いっぱいの踏みこみ。

 答えは?


「秘宝とやらの仕組みについても含めて、ぜろ!」

「あっ」


 からぶりーっ!

 踏んだ途端に足がつるっと滑った感じ。


「ないよー。JR渋谷駅の乗降客数、一日あたり平均で七十五万として。共通項はせいぜいJR渋谷駅の乗降客であることだけ。ひとつずつ調べるにして、どれだけわかる?」

「――……う、ん」

「また、それを調べて得られるものをどう活用する?」

「え、と」

「活用する術はあるだろうけど、絞れたほうが効果的。では、それを事前にどう探る?」

「うう、ん」

「みんなわからないまま試行錯誤しているの。先にある遊園地なんかは、もっとひどい有様でね。傷と痛みは自覚すると祟るのよ。それを無理や我慢でごまかすほどにね」


 わからないまま、おとなたちは時間の隙間に探っている。

 けど仕事の合間にやっているし、そもそもどうすればいいかの前例や型のような手段がない。利用できる材料がなければ、いちからやらなきゃいけない。

 先人の知恵や技術が使えない。

 ボタンひとつで火がつくコンロなどなく、卓上ガスボンベもなく、マッチもなにもなければ? 私たちは火をつけるのにひどく手間取る。アウトドアで周囲の木々や落ち葉などを利用した火のつけかたを知っているかどうかの差も大きいし? 知っていたとて、なんだよね。汗だくになりながら、できるかどうかで大変な時間を消費する。おまけにとびきり疲れるし? 風が吹けばたやすく消える。

 前例だけしか利用しないのも、型だけやっていればいいっていうのも、私は嫌う。

 なにせ極端だ。先がないもの。

 かといって、それらの利便性を無視するのは?

 やっぱり極端。

 だよね?

 じゃあどう判断するの?

 よく調べ、よく学び、よく実践していかなきゃね。

 もちろん、そんな曖昧さじゃ足りないよね?

 だから苦心する。

 これがいいのでは? と思っても、集団でことに当たるとなれば? それでいいのかな? となる。そこで実践に向かうために必要なことも? やまほどある。

 集団の規模が増えるほど、要素が倍々なんかじゃ足りないくらいに増えていく。

 会社だと、みんなでなんとかまとめていても、維持していても、偉い人が「なんかちがくね?」っていうだけでひっくり返る。現場の人がみんな否定されていなくなったり、モチベを失っていなくなったりするんだって。

 頼れる人が、実はみんなの依存を引きうけて無理していて、ここぞという場面でポンコツお披露目しちゃったりしてね? あるいはみんなが圧をかけすぎていて、耐えていただけかもしれないしなあ。

 ままならないよね。

 仕事のあとや合間でやっているとなれば?

 疲れたあとでしょ?

 ままならないよ。

 大事なことなんだけど、お金にならない。

 だから雇いようがない。

 かといってレオくんちの住良木株式会社がお金だして研究しますって言いだしたら「え、それだいじょうぶ?」ってなるし、ミコさんに聞いたら「収益に繋がらないと、なかなかね」と言われそう。

 そういうところへの投資ってほんとに大事なことなんだけど。よそで収益をあげながらやりくりできないとね。人件費けずるくらいだと、そういうお金の使い方する発想もなさそうだしなあ。利益だけの捉え方だと、先がない。極端さは多くを痛めつけて傷つけて腐らせてしまう。

 さりとて、それはそれで?

 苦労、あるよね。苦労はどこにでもある? 苦労は苦労。しんどいのも一緒。

 ままならないのもねー。いっしょ。


「犬は、どうなんですか?」

「それがね? 少年が遊園地なら犬は一緒に消えるのかと思ったら、消えなくて。調べても、なーんにも! わからないの」

「なーんにも?」

「なーんにも」


 犬がいったいなにを示すのか。

 探ろうにも、手立てがないのだろう。

 推測はできるけどね。

 答えはわからない。

 なので進んでいるのは推測まで。答えはなにひとつないまま。


「きみたちみんな、意欲に溢れて困っているって聞いたけど。なにをやるにせよ、役立つ情報をあげられそうにないよ」


 それでも見ていく? と問われる。

 ユメたちは私たちの会話が「たいくつなやつだ!」と気づいているし、この場のおぞましさにうんざりしたり怖がったりしている。

 目の当たりにしてみて実感した。

 もしもあの男がビル爆破に関与しているのなら、この黒い御珠だらけの状態にだって。

 可能性はある。


「黒の御珠ひとつひとつは、これまでのものと同じなんですよね?」

「そのようね?」

「つまり、できあがった経緯も、同じかもしれない」

「同じじゃないかもしれない。証明するための情報はまだない」

「ここには大勢の人が呼び寄せられてきていた」

「それは、そうね。私もチケットをもらって運ばれたくちだし、実際に見たよ。吸い寄せられるように集まっていた人たちの姿を」

「大勢の人たちから生み出されたものが、ここにある黒い御珠であるという可能性は?」

「調査中」


 答えは、まだ、ない。

 可能性しかない。

 解明するには人手と時間がいる。人手がいる以上、お金とか健康とか調子とか、もろもろサポートがいる。いますぐとはいかない。

 安易に答えを求めたくなる性分だし、刺激に負荷を感じたら解決したくなる性分だから、苦手なんだよね。こつこつ育てていかないと? すぐに解決したくなる。ついつい安易さと仲良くしたくなる。

 なにかいい知らせがあったら。

 なんとかできそうなものがあったら。

 そういう見方で捉えていた。

 これ、なかなか抜けないや。

 私の質問ぜんぶ、いままで何度も確認してきたことなのだろう。

 ホノカさんは気軽に答えてくれたけど、口ぶりからして慣れきっていた。

 それもまたつらい。


「じゃあ、外に出てすこしお茶しませんか?」

「こどもたちが遊びたそうにしてるよ? お茶してるひまなんて、あるのかな?」


 そっちが先でいいんじゃない? と身体を寄せて、ひそひそ話をする。

 けどそれ、私に対してじゃない。

 まだ終わらないの? もうやだって顔してる子たちに対してだ。

 ずるい。そういう味方の仕方!

 ねえ行こう? と尻尾を引っ張られたり、膝下を執拗にはたかれるので「はいはい」とうなずいた。用事は済んだから、ホノカさんのことを教えてもらいたい。雑談交じりに聞けたらいいなと期待するのに、烏天狗の館の入り口に差し掛かったあたりで彼女にお呼び出しがかかる。

 忙しくしているみたいで、引き留められない。次の約束をしてお別れして「おやつー!」というユメたちを連れて商店街を目指すことになった。

 はあ。ちょっと泣きそう。

 宝島の物価は高いのだ。

 でも正直、お腹すいちゃった。

 うちに帰ってお菓子つくろっか? と提案したけどね?

 やだ! の一点張り。あの手この手の提案も空振り。

 ほーんと!

 ままならねえなあ!

 振る袖があるけど、心許ないからつらい。


 ◆


 休憩を挟んでマドカたちと合流して、策を練る。

 ノンちゃんたちに即席立体地図を作ってもらった。

 すごーく雑に。スマホやタブレットの地図アプリじゃなくて、紙の地図を広げて、それを元にしてね。相も変わらずぷちハウスの空き部屋を利用して、みんなで唸る。

 探査術を使って、男の居所を突き止める。その先は?

 肉柱となった少女と同じ犠牲者の居所を突き止める。その先は?

 どれほど具体的にする?

 どれほど事前に備える? 予行練習ができるほど成功率があがる。急場にちょっとじゃ微々たるものかもしれないけれどね。焼け石に水でもやらないよりは、と身構える。

 怖いのだ。

 不安だよ。

 楽観視したいし、過小評価したい。

 不安なほどに、安く見積もって、安易に済ませたくなる。

 すぐに解決したくなる。

 そうもいかないから、ストレスがたまる。

 そのストレスは私たちの心身を蝕む。

 これだと隔離世の力はうまく発揮できない。

 なにごともぉ? へい! じょう! しん! なんていうと言い過ぎだけどね。

 平常心は大事だ。


「肉が徐々に女の子を包んでいる。他のケースも同じかもしれないし、ちがうかも。ただ、目、鼻、口から漏れ出る黒い液体が例の薬と同じなら?」

「人を怪物に変える可能性がある。少女を包んでいる、あの肉も怪物なのかもしれないね」

「そういうこと。現世で戦うことになると、尋常じゃない被害が出るから、浅草の一件と繋げて考えている人たちほど止めたくてたまらないはず」


 レオくんと話しながらマドカが提示する可能性は、とどのつまり警察内部で生じているストレスでもあるのでは。


「ノンたちがレプリカで隔離世へ行くように、あれらの霊子や邪をまるごと隔離世に飛ばせることができればいいのですが」

「したら、あとは隔離世で討伐するなり、被害者を救助するなりできるからな。現世で行動するのとちがって周囲の人にも建物にも被害が出ねえわけだ」

「そんな方法、だれも探ったことないですし。受け継がれてもいなければ、残されてもいないので。ぶっつけ本番になっちゃいますね」

「できなくても不思議はない」


 ノンちゃんや柊さんたち刀鍛冶とギンの会話も気になる。

 不安が多い。多すぎる。

 わくわくがない。

 そりゃそうだ。起きてる事態が悲惨なんだから。

 高二にもなるとさ? 実は「私もうおとなでは?」って思う。すくなくとも「もうこどもじゃないでしょ」って感じる。

 でもね? おとなにせよこどもにせよ、概念じゃない?

 ある日かちんと切りかわって、なにかとつぜん変化するってものじゃない。

 成長する過程で変化は生じるけどね。

 定義次第なところ、ある。利用次第なところも。

 人に幼さや幼稚さを見出す瞬間もあるだろうけど、そのとき「ガキが!」とか「まだこどもだな」とか言いがち。「おとなだなあ」って言うこともあるよね。

 じゃあ、こどもってなんだろう。

 おとなってなんだろう?

 大辞林や広辞苑に載っている意味もあれば? 私たちがそれぞれに思い浮かべる定義もある。

 たとえばかつて過ごした幼い時期の自分をこどもとしたらさ。

 三歳児の私は消滅している? 存在しない? 欠片もない?

 ないの? ほんとに?

 あるとしても、ないとしても、それらはどういう定義を積み重ねて行なわれるのかな。

 あ。否定したり、ダメ出ししたりが目的じゃない。

 突きつめていくと、私の中には幼い部分がある。比較して幼いのか、こういう状態があるとして具体的に幼いのか。そもそも幼いの定義とはなにか。積み重ねていかないと語れないので、どうしたって簡潔にはいかないけど。

 それでも氷山の一角を示すなら?

 こわい!

 はやくなんとかして、こわいのなくしたい!

 こんな気持ちがある。

 おとなになるのは「そんなのねえから!」って黙らせることじゃない。

 よしよし、ほうほうの術をしてから、具体的にできることを積み重ねていけるよう、整えていくこと。それに、ホノカさんに会ったときに考えた投資と備え、準備はもちろん、サポートの確保と維持をするってこと。

 そういう土台を構築しながら対応できることだし? そのために必要な「これは失敗だった」と認めたり、悪いことしたら「ごめんなさい」したり、意地悪な気持ちになっても意地悪しないことだったりする。

 幼稚園や小学校低学年あたりで教わりそうなこと。

 成長していくにつれて「あれ? 意外とできないな?」って気づくこと。

 やっぱ長くなっちゃうな。足りないしなあ。

 ユメたちみたいにお目々きらきらさせてるちっちゃな頃は当たり前で、なのに成長するにつれて失われていくものはなに?

 わくわく感じゃないのかな。

 人によるけど。

 いまの私には足りないもの。

 こわいときほど、うまくいかないときほど、みるみる減ってしまうもの。

 減る速度の何十、いや何百、いやいやいっそ何万倍も増やすのたいへんなもの。


「いくつか案があるの」


 ならばゆこう。


「見つけるのはマスト。だから探査術を使う。見つけてどうするかだけど、肉柱には私たちの霊子を注いで反応を見たい。隔離世に引きずり込めるなら、それをしたい」

「で、でも、いまは試すことさえできなくて」

「シャルに術がないか聞こう。教授だったときに、現世と隔離世の移動を肉体と魂そのままに実行してみせた。あれをやってもらう」


 心が騒ぐ。感情が噴き出てくる。

 だいじょうぶ。ここにはみんながいて、私はひとりじゃなくて、すくなくともいまここで同じことは起きない。そんなんじゃ足りないから、そばにいたキラリにお願いして手を握ってもらう。深呼吸を何度かしてから、続ける。みんなが待ってくれているから。


「キラリの願い星が有効だと思うの。あの肉にさえ、もしも願いがあったなら? これまでのやり方で、どうにかできるかもしれない。できないとして、人を殺す男の霊子や、それに類する危険な霊子が邪魔をするなら、隔離世で討伐するほかない。いずれにしても侍隊の協力が必要不可欠」

「ま、そうなるわな」


 まくしたてすぎかもしれない。

 落ちついて。ゆっくりといこう。

 既に思いついている人もいるだろう。マドカは特にね。

 それでも構わず、言っちゃおう。


「あの気味の悪い肉と、絡め取られている人たちは、それで。問題は、男のほう」

「きみを襲った少女も。もしかして、他にもいるかもしれない仲間も」


 もちろんだ。

 レオくんの指摘に大きくうなずく。

 空いている手を胸に当てた。鼓動が早い。

 言うのもこわいし、考えていることもこわい。

 だから黙っていたいし、嵐が過ぎ去るのを閉じこもって待っていたい。

 なにもせずに、そうなるのなら? それで済ませてしまいたい。

 私の中のこどもはこわがっている。

 でもね? よしよしほうほうしてから実行したいんだ。


「肉の柱に人身御供。そのすべてに男が待機できるわけがない。単純に七人いて、一箇所は警察が張り込んでいるからね? 残り六人を同じ場所に留めても、二箇所になるでしょ? 男と少女が分かれる必要がでる」

「仲間がいても、手分けする必要があるかもしれない、と」

「カメラ設置して見てる可能性もゼロじゃないけどね」


 タツくんがうなずく後ろで日下部さんが呟く。

 それはそう。もちろんそう。


「そもそもマスコミがこれだーって報道してるから、張り込む必要なんかないくらい」


 な、の、で。


「見せちゃおうよ。これはすごいことが起きたぞ? って、私たちが偽装するの」

「謀り、誘導するのか。おびき寄せて一網打尽と?」

「盤面の筋をいくつも読んで、対応策を練らなきゃだけど。そうなったら一番いいね」


 タツくんの問いにうなずいて答える頃には、すこし気持ちが落ち着いてきた。

 キラリに感謝して手を離す。

 お鼻でめいっぱい息を吸いこんだ。

 胸の内が萎むような勢いで吐きだす。ぜんぶ出しちゃうくらいにね。

 はい! ゆううつすこし、出ていった!

 という気持ちになったことにして、マドカやシロくんに話した策を言うの。


「男を化かす。そのために、世の中みんなを化かす」


 胸を張って言っちゃおう。

 狐憑きになったんだ。修行もしてる。

 それなら?

 盛大にそれっぽい遊び、したくない?


「ショーをするの。彼らが思わず引きよせられるようなショーをして、男を誘導しつつ警察のみなさんに逮捕してもらう」


 蜂事件のときと同じ、現世と隔離世の両面作戦。

 そして関わるみんなと連携しあう、大規模な化かし作戦なのである。


「それには交通規制や誘導が欠かせないし、いろんなところに許可取りをしなきゃいけない。学生にはむずかしいじゃない? だったら、おとなのみなさんにも、がんばってもらおうよ」


 だれかに任せてはい終わり、じゃないんだ。

 みんなそれぞれにできることやるぞ、だ。


「みんなでヒーローになるの。みんなでみんなをヒーローにするの」


 そんで?

 法律に則り、公務のもと、警察に捕まえてもらおう。

 働いている人たちもいて、遊びにきている人たちもいて、ホノカさんの言うとおり、わかりきることなんて無理だし? 時間がかかりまくり。

 だっていうのに、一緒くたにまとめようとすると無理が出る。

 ハロウィンなんか、渋谷は大ごとじゃんね?

 人が大勢あつまると犯罪も起きる。

 走るな押すなと言ったってコミケの開始ダッシュはなくならないし?

 警察やスタッフがいなかったり、こういう風にしようねって呼びかけがなかったりしたら?

 もっとひどいことになるじゃんね?

 今回の一件は、そういう集団へのサポートも欠かせない。

 いい?


「持てる力のすべてを駆使して、盛大に騒いで、めいっぱい厳戒態勢しいて、現世との合わせ技で絶対に捕まえて、そこまでやるかよってところを見せつけるよ」


 隣のキラリが「なんでだよ」って呟く。

 わりと引いてるね? でも私は押しちゃう。


「私はね? 悔しいんだ。みんなと楽しいことがどこまでもできる力を、人を傷つけて、殺して、もっとひどいなにかをしようと利用されるのが。でもそれはきっと、もはや止められない流れだ」


 男ひとりで済む話じゃない。

 似たようなことしてる人、他にもいるだろう。


「だったらいっそ、抑止力として見せつけてやろうと思って。これほどまでのことをして化かされたら、きっと恐ろしい相手にちがいないぞーって」


 語彙が貧弱ぅ! 私の頭、そろそろ限界かも!

 心は沸騰していて、怒りと興奮が沸き立ってきて止められない。

 たとえ深呼吸しながら六秒待ったところで消えるはずがない。

 ぶつけたくてたまらない。

 そういうときは場所を変えたりしながら、ダメージを防ぐというけれど。

 言うよ。いまは。


「でもって、知らない人には「こういうのもっとやってよ」って思われるようなお祭り騒ぎをする。反発したり、うるさいって思ったり、迷惑がる人も絶対に出てくる」


 そのうえで。


「だからこそ各所と協力してめいっぱい最大限に安全に気を配って、全力で隔離世を見せつける」


 制限は多いだろうし、下準備もやまほど必要だ。

 なので既にマドカとシロくんには伝えてあるのだ。

 仕込みがいる。予行演習も。必要なものも多い。

 ド派手じゃないと注目を集められないから、そっち系の力がある人には手を貸してもらいたい。トモのようにね。


「コンセプトがあってね? やっぱりさ。東京も昔は江戸だったわけでしょ?」

「うわっ」

「やな予感してきた」

「火事はトラウマ抱えてる人もいるからよくないと思うな」


 反応がいきなり増えるじゃん。

 岡島くんの指摘はごもっともじゃん?


「もちろん! 火事は起こさないよ」


 やだなあ! プロメアじゃあるまいし。アニメ映画でめっちゃ熱い作品にちなむのも悪くないけれど。消防に通報がやまほど入るようなことしちゃ、連携の協力さえ得られない。

 ただ、ちょいとかぶるところもある。


「そうじゃないの。せっかくなら派手にいきたいんだ。男の大それたことなんか到底及ばない大それたことがいいの」


 火事と喧嘩は江戸の華なんてことを申しますがね?

 そもそもすでに東京なわけでしょお?

 だったらさ。


「実はね? 私」


 期待と恐怖に九尾を思いきり膨らませる。

 まんまるく、欠けはない。


「東京中をみんなまるごと江戸に化かしてやろうと思いまして」


 胸を張って一世一代の大勝負といこうじゃないか!




 つづく!

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