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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第千九百十三話

 



 マシンロボが夜を走る。

 疾走といってもいい。巨大だから、歩幅も大きい。

 わかってるよ? そんな単純な話じゃないよね。

 ご長寿アニメシリーズの機体を再現した実物大立像が建設された。けっこう人気があるよね。だけど劇中ほど派手に動いてもらうには負担が大きすぎる。

 一輪車、自転車、原付、大型バイク。軽自動車、普通自動車のセダンタイプ。SUVにバン。トラックやバス。部品数が増えて、重量も増えていく。じゃあ軽くて単純なものと、重くて複雑なものとでは、どれほど経年劣化に差があるんだろうね? どれほど整備がしやすいだろう。

 単純に言って整備でいえば、部品数がすくなくて、複雑じゃないほうが楽じゃない? 覚えやすそうだしさ。だけど複雑で、手間がかかり、部品数が多いと? 大変だ。

 整備の重要さを学べるものといったら? 飛行機? それともスペースシャトル? どちらの事故も悲惨だ。ネジひとつ、ちょっとした整備不良が大惨事に繋がる。

 車なら、定期的に車検で見てもらう。

 仮にそのとき「いくつか部品が余っちゃって」って言われたら?

 もちろんそんなことにはならないのだけど。なったら困るもの。

 そうならないように、きちんと学んで知識と技術を習得したことを示す免許と、取得制度があるし? 取得を目指す勉強ができる学校だってある。

 負担。それがどれくらいの影響を与えるのか。

 構造を理解して、消耗度合いを連想できて、ひとつひとつの部品の意味がわかるといい。

 ただ、お父さんがこの手のうんちくが好きでさ?

 たとえば、ネジ。それは振動によって緩んでしまうものだという。車のボンネットは動いたあとだとあったかくなる。車の中も、それなりに。なので、冷却は大事。大事な理由はいくつかあるけれど、金属は? 熱せられるとどうなる? なんにも変化しない? そういうわけにはいかない。だから部品ごとに、どういう素材でどう作るのかは大事になってくるんじゃない?

 映画で見た七つの会議は、その素材がごまかされていたから問題だった。

 このあたりも国家資格の整備士の免許を取ることになったら、学ぶし覚えるし、興味津々になるのかな?

 火星の人、オデッセイ。原作小説にせよ映画にせよ、火星任務でも月探査任務でも、ローバーは大活躍。見た目は不思議な特殊車両って感じだ。だれでも読めば整備できるマニュアルがついていたし、探査任務に向かう人が整備できるようになってなかったっけ。学ぶし試す。

 現状では宇宙探査って覚えることが多いわりに、一度に行ける人数は少ないから、どうしたって行くのにハードルがある。

 けど現代の学問はどう?

 世界中の学問の総数ぜんぶ漏れなく言える?

 無理だ。私の場合、知らないし。一覧表を見たって、すぐには覚えられないよ。

 それくらい、あまねく知識は増えすぎて、すべてを把握するのが非現実的な量になっているという。にも関わらず論文は出続けるし、読みながら研究しながらできることにはどうしたって限界があるみたい?

 それくらい膨大に増えた知識の海の中で、人がひとりで泳げる範囲には? 繰り返しになるけれど限界がある。

 過去はそうでもなかった。現代と相対的に、という話になる予感がするけれど。でももう既に追いつけないくらいになった。

 それでもまだ、ロボットは地上を走れない。歩けない。歩けるようになったとしても、たとえば一年中歩き続けられるほどの耐久性はない。

 代わりに犬型ドローンができたり、二足歩行型の歩き動作の実験をしていたりするじゃない?

 だからいつかはその日がくるかもしれない。

 やまほどある問題を解決して。いずれ。

 けれど、それはひとりで達成できるものじゃない。

 このマシンロボもそう。だれにも騒がれずに走っている、いまだってそう。

 相談してなんぼのもんだなあ。

 ひとりでできないからなんだ。

 そもそもそうなってない。知識は先人たちの積み重ねあればこそ。情報の確かめ方、守り方だってそう。学ぶにしても、ひとりで閉じこもってなんのテキストもなしよりずっと、いろんな人たちのいろんな遊びと蓄積に触れて刺激を受けたほうが世界の広さに気づきやすい。

 これでもかって繰り返してるのになあ!

 なかなか身につかないね? たいへん。

 寝巻き姿の生徒もたくさんいる中、エレベーターを乗り降りしてあいさつ回りをする。結果的にそうなっちゃっただけで、本命はギンたちやノンちゃんたちと話したかったから。

 こないだ来てくれた人にもあいさつしたかった。ノノカたちとはすぐに話せたよ? ヒヨリちゃんは半分寝てた。他にも夜に弱い人がけっこういて、みんなうつらうつらしてたり、抱き枕を抱いて寝てたりする。それでも動いちゃう。

 潜水艦とか、飛行機とかって、自動操縦できてなんぼのものなのかな。

 長期航行が前提になるとき、交代要員を含めてチームをふたつ以上に分けて、勤務を交代制にするんじゃなかったっけ。じゃないといざっていうときの補充要員がないから、対応できなくなっちゃう。

 端的に超過勤務は集中力が下がるしモチベも下がるし、健康に悪い。悪循環になるから、勤務時間はなるべく短く。定期的に息抜きを。ほっとできる休憩を。インターバルなしにはあり得ない。劇的かつ短期的になにかを成し遂げようとするのは、たぶん人には合わない。こつこつ地道に毎日つづけてく。のんびり続けられて、かつ、やってる時間をぴしっとばしっとできるように。できないときには、何度くりかえしても能率が落ちるだけだから、さっさとやめて他のことをする。そんな、のめり込まず、集中できることを、ほどほどに毎日やるノリがいい。

 それでいうと?

 カゲくんが私を誘ってくれたときのノリそのままに、いちおう行くーってくらいハードルを下げて、みんなで集まっちゃう。だけど、がんばりたい人、やりたい人が動く。それくらいでいいんだなあ。気晴らしの夜散歩くらいのノリだもの。

 時折、模型部や化学部が配線を調べていたり、霊子刀剣部の刀鍛冶の有志が「関節部の負担、予想よりきつい」「直してくるー」と声を掛け合っていたりする。

 ひとりじゃ到底、維持できない。すごい人を少数精鋭でっていうんでも間に合わない。

 みんなでやるんだぞっていう象徴みたいな存在だ。

 その中を移動しながら挨拶まわりをしていたら、とうとう残すところはトモとシロくんだけになった。ふたりともいない。エンジンに入って「うおおおお!」と走り回っているのかと思ったけど、そうでもないみたい。頭にある司令部でレオくんたちとひとしきり話したら、ルミナが教えてくれた。胸部フロアの下、医務室にいるって。

 エレベーターで降りて、通路を進む。なんであるのかよくわからないケーブル類が壁や天井を這っているものの、通路自体は歩きやすいようにものがない。それぞれがなんのためにあるのか、正直さっぱりわからない。ただ、逐次マイナーチェンジを繰り返して、マシンロボを維持するうえでの霊子消費を緩和させたり、可動部を広げたり、摩耗しにくくしたりしているそう。

 どうやってるんだろうね? さっぱりわからない。

 案外「ぼくらのゆめときぼう」で動いてるって言われても納得しちゃうまである。

 野暮な疑問をみんなが感じて、マシンロボを動かす私たちの霊子に乗っかると? 途端に瓦解するんだから、脆い装備と言えなくもない。

 ノリと勢いの浪漫装備。ただ信じるだけじゃなくて、うまくいくよう試行錯誤の繰り返しのうえで、なんとか動いている。それもひとりじゃ、なかなかね。

 動かしながら、やってみながらよくしてる。完成はなし。

 いろんなヒーロー活動もそう。

 バットマンにせよアイアンマンにせよ、フラッシュだってそう。負けたり、やらかしたり、傷ついたりして、バージョンアップや回復に努め、ひとりじゃ限界あるぞと思い返している。

 生活の営みすべて、そういうとこあるよなあ。

 だれかの手が掛からないようにしなきゃ、だとさ? かなり無理あるよなあ。無理しかないまであるもんなあ。そのわりに抱え込んじゃうの、なんでだろうね?

 そんなことをつらつらと考えながら医務室の扉を開けると、中から嘔吐する声が聞こえてきた。トモの声だった。苦しそうに、必死に吐きだそうとしていた。だけど、聞こえてきたのはぽた、ぽたと。なにかがささやかに垂れる音だけ。


「もう出ないな? わかった。口をゆすげるか? よし」


 霜月先生の声が聞こえる。

 カーテンが引かれたベッドがいくつか並んでいた。一番奥のカーテンの前で、シロくんが口元を手で覆って顔を歪めて立っていた。カーテン越しに、トモを見ているんだ。

 なるべく音を立てないように気をつけて、扉を閉める。


「風早、これ頼む」

「なにか持ってくるものは?」

「一気に痩せすぎて無理が祟ってる。点滴して寝かせておきたいくらいだが、ここでできることはせいぜい霊子の供給くらいだな」

「じゃあこないだ教えてくださった経口補水液を元に神水にするやつは?」

「頼む」


 カーテンを開けて、洗面桶を手にしたコユキ先輩が出てくる。

 私に気づいたし、シロくんが立ちつくしていることにも気づいた。


「ほらこれ。流して洗ってきて。ほらほら行った」


 シロくんにバケツを押しつけると、今度は私に手招きをする。


「こっち来て。ちょっと手を貸して」

「は、はい」


 医務室にある小さな冷蔵庫を開けて、ペットボトルを取り出す。

 市販されている経口補水液だ。


「両手で持って。合図したら、金色を出して」

「りょ、了解です」


 なにをする気なんだろう。

 わからないけど、テーブルにペットボトルを置いたコユキ先輩に睨まれて促されるので、急いで指示に従う。私が両手で持つと、先輩がさらに両手を重ねて包んできた。


「霊子を溶かして神水にする。あなたの霊子も借りるよ」


 あ、それで。合点がいったとうなずいていたら、ますますきつく睨まれた。


「さあ、出して」


 あわててうなずき、両手から金色を出す。

 先輩の両手からじんわりと熱を感じた。ペットボトルの容器を通り抜けて漂う私の金色が、経口補水液に溶け込んでいく。


「まだまだ。もっと。めいっぱい出して」

「はい」


 切羽詰まった声で言われるから、それだけトモはきつい状態なのかと思い知る。

 そういうときこそ、思い返す。神水は思いを溶かしたもの。

 トモには何度だって助けてもらってきた。

 ひとりじゃだめ。それを教えてくれたトモへの気持ちを、めいっぱいこめて、ありったけの金色を出す。

 ほのかに金色に染まっていく。


「よし。もういいよ」


 向かいあうコユキ先輩が手を離して、引ったくるようにペットボトルを持ちあげた。

 すぐさまベッドに向かう。

 そこでやっと、トモを見た。

 ベッドに横たわり、青ざめた顔をしたトモは制服姿。見慣れた格好だからこそ、いつもとのちがいに気づく。出会った頃からは想像もできないくらいに、そして先日会ったときからどうしてそうなったのかわからないくらいに痩せていた。手足が枯れ木のようにさえ見えた。


「ほら、飲んで」

「う――……おしっこみたい、やなんだけど」

「冗談いう暇があったら、早く飲んで。薄めのスポーツドリンクみたいなものだって」


 またまたと笑う顔さえ、頬が痩せている。

 コユキ先輩が蓋を開けて、ペットボトルを口元に運んだ。

 そっと傾ける。いやそうな顔をしながらも目を閉じて、かさかさに荒れた唇を開いた。

 飲み始めたら、ふたくちほど音を立てて飲み、止める。

 さっき吐いていたばかりだから、直後に一気に飲むのはさすがにね。

 霜月先生が「ゆっくりとでいい。ぜんぶ飲んで寝てなさい」と言って、そっと離れた。

 私のそばまで歩いてくると、先生が教えてくれる。


「圧倒的な霊子不足と、あとはあまりにも過剰な運動だな。力を使いすぎて、がんばりすぎたんだ」


 なにを?

 ヒーロー活動をじゃない?

 実際、聞いていた。がんばってるって。トモからだけじゃなく、いろんな人から。

 ユリア先輩ともちがう。ルルコ先輩と似通うようで、やっぱりちがう。

 そりゃそうだよ。

 みんなそれぞれの苦しみがあるもの。

 そのわりに、私は先生に返事もできないくらいに打ちのめされていた。

 トモならだいじょうぶなんじゃないかって、無意識に信じてた。それが当たり前だとさえ感じていた。でもそれって、忘れていただけだ。

 ライオン先生の最初の授業で、神社のそばで刀を得て、私を守ろうとさえしてくれたトモはどうなった? 引き抜いて使おうとした力が強くて倒れちゃった。いろんな場面でトモはすごいことをいっぱいしてきたけれど、なんの代償もなしとはいかない。無敵に思えた技もギンが華麗に打ち破ってからは、長いこと使っているのを見ていない。

 なにかに追い立てられているかのようにがんばっている。

 無理してる。

 トモは私よりよっぽど人とよく話す。

 そのわりに、私と同じか私よりもっとこじらせ気味で、弱さを相談できない。

 私よりもよほど、トモは強くありたい人だから。

 それって、私の「ママだから私が」って抱えるのと大差ない気がする。カナタも抱え込んで苦しんじゃう可能性、大ありだ。進路にせよ、仕事の現状にせよ、食欲にしたってそう。私たちを大いに悩ませ、孤立に追いやり、苦しめる。

 ひとりじゃどうにもならないんだってば。

 浅くていいし、支援に繋がるのでもいい。だれかひとりとべったりしなきゃって話でもない。

 そうじゃなくて、ひとりを持てあますことないって話だ。

 私をめいっぱい助けてくれるトモほど、私にそれを教えてくれる人はいないのにな。

 そんなトモに私は伝えられてないじゃんか。

 助けなんて求めてなんぼのものですよ? 学びもそう。なんでもそうだよ。

 ひとりで噛みしめたり、自分を掘り下げる時間もいると思うの。

 人によって、特性によって、自分と世界の距離感って様々あると思うから。

 でもさ。

 いまの私も、トモも。

 これまでのユリア先輩やシュウさんがそうだったように。ルルコ先輩やマドカがそうだったようにさ?

 とっくに助けを求めて繋がり増やすターンじゃない?

 今夜のカゲくんの提案そのものじゃない?

 なまじできちゃうときほど、できないものをどうにかしたくなるのかもしれないけど。

 トモはそれこそフラッシュみたいに走れちゃうから、走らずにはいられないのかもしれないけど。

 それでトモが死んじゃいそうなくらい無理しちゃったら、つらいよ。

 私たちも混ぜてよ。トモひとりじゃなきゃだめなんてことないよ。

 言いたいのに、言葉にできない。

 コユキ先輩がゆっくりと、トモの様子を見ながら休み休み経口補水液を飲ませている。

 浮かんだことば全部、ブーメラン。

 私に強く刺さる。

 これまで自分にかけてきた呪いがそのまま返ってくる。

 中学時代も、小学生時代だって、私はぜんぶ抱え込んでた。そんな私は高校でもなかなか言えずに抱え込みがちだ。いまだってそう。まだまだもっと、足りないからいくらでも。キラリたちにはよく言われることだ。

 ぜんぶ私のだめなとこじゃんか。

 線を引いて。

 いまの私のこと。

 仮にトモに重なる部分があるからって、それをそのまま伝えてどうするの。

 苦しんで、吐いて、しんどそうなトモを叱ってどうするの。


「――……」


 深呼吸をしながら、感じていた。

 カゲくんの狙いが見えた気がしたんだ。

 幽霊退治とか、邪がどうとかそれっぽいこと言っていたけどさ?

 それこそカゲくんの言うように、今日あつまっただれかがなんとかできることだ。

 背負い込んで、抱え込んで、ひとりでどうにかしなきゃなんて思い詰めることじゃない。

 トモが走らなきゃいけないことだって、ないんだ。

 みんな集まれば、現世で作るには不可能で、おばかの塊みたいなマシンロボで真夜中を疾走できるんだから。

 自分を傷つけて、危うくさせるようなやり方でしなきゃいけないなんてこともない。

 だけどそれをそのまま伝えたところで響かない。

 きっとトモ自身が思い浮かべている気がする。

 それにシロくんたちがとっくの昔に伝え続けていた気がするの。

 そんなのはさ。

 話を聞きたいな。

 百を語るよりも、一を聞きたい。まだ足りないな。十を聞きたいから、千を飲みこむよ。


「そばにいてもいいですか?」

「彼女がよければどうぞ」


 先生はそれだけ伝えて、椅子に腰を下ろす。

 痕はお好きにどうぞと言わんばかりだ。にくいなあ、そういうとこ。

 最後の一口を飲み終えたトモに「おかわりいる?」と尋ね、だいじょうぶと聞くなりコユキ先輩は私にベッド脇の椅子を譲ってくれた。

 シロくんはまだ戻ってこない。先輩も距離を置いて、先生のそばにある椅子に座る。

 移動中、ずっとトモの様子を見守っていたのだろう。


「なんか、かっこわるいとこ見せちゃったな」

「ううん」


 いつもより疲れた声をするトモに首を横に振る。

 そうせずにはいられなかった。


「めいっぱいがんばってた姿だよ」


 言葉に詰まりそうになる。

 想像したことさえなかった。こんなに弱っちゃうトモの姿を見ていると心が乱暴に引きちぎられていくよ。痛くてたまらないよ。

 それをぶつけたくない。


「どうしたの?」

「んー。どうしたんだろ。どうしたのかなあ」


 喉が、鼻の奥が音を立てる。

 か細い息を聞くのがつらい。

 上下する胸には確かに息吹を感じるのに、消え入りそうにも見えて。


「急がなきゃ、守れない気がしてさ」


 心を鷲掴みにされて、思いきり床にたたきつけられて、巨大な鉄槌を思いきり振り下ろすくらいに効いた。

 教授の強襲。ヘリからの銃撃。そのすべてを切り裂いた、あの瞬間を連想せずにはいられない。

 私とはちがう傷を、あの日、トモも負っていたんだ。

 ちがうけど、でも深い傷を負っていた。

 守れたからいい、とか。いかにもかっこよかったしすごかったからいい、とか。

 そんなことじゃないよね。そんな簡単じゃ、ないよね。

 そもそも怖かったはずで。なのに自分のこと置き去りで。

 だめだ。

 こんなやり方してちゃ。

 私たち、このままじゃだめだ。

 ひとりで強くなってちゃだめだよ。

 ひとりでなんとかしようとしてちゃ、だめなんだよ。

 ごめん。

 ほんとにごめん。

 やまほど謝りたいのに、それさえ傷つけてしまいそうで、どうしたらいいのかわからない。

 ただただ涙が溢れて止まらなかった。


「まあ、今夜はいいや……」


 私の目元に手を伸ばして、拭うと。


「これで、よしとするかな」


 なんて冗談を言う。

 無理して。気を遣って。

 ちがう。ちがうのに。

 トモの手を両手で包んで、額を当てて縋る。祈るように。

 せめて元気になって。どうか、弱さを見せて。

 打ち明けられる私になるよ。なんでなれていないんだろ。

 私が弱さを打ち明けられないから? 抱え込んじゃうからなのかな。

 それじゃだめだ。だめなんだよもう。このままじゃ。

 わかってるのに、言葉が出てこない。

 頭も心もぐちゃぐちゃだ。

 ばか、と。

 それしか言えなかった。




 つづく!

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