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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第千九百五話

 



 予想はしていたけど、とにかくぎゅっと丸めた塊とか、まだ内側が粉っぽいのとか、出来はなかなかにバリエーションに富んでいた。けど、それでもまあまあ食べられる範囲で失敗が収まっていたのは、リビングの床にうつ伏せで大の字になって寝ているカナタの奮闘に、ぷちたちが「しぶしぶ付きあってあげた」おかげだろう。

 おつかれ、カナタ。

 起きて。掃除するんだよ? あなたの発想なんだから。

 お母さんはうちでお仕事。お腹も目立ちだしてきた時期だけに、そろそろ休んだら? ってお父さんとふたりで言っているんだけど「夏の新刊は!」なんて言っていて不安。

 嘘でしょ。サークル参加してるの? 怖くて聞けないんだけど。美希さんと最近よく通話しているみたいだから、親戚の葛葉さんちも仲間の予感。なにやってんだか!

 とにかくお掃除グッズを出して、ぷちたちとカナタと一緒に片付けを終えて、ひと息ついたらもう三時が近い。おやつはそば作り中に、こっそりそば粉をもらって作ったかりんとうを振る舞ってある。そこら中からぽりぽりかじる音が聞こえる。

 今度こそ起き上がれなくなったカナタをよそに、私はソファに寝そべってスマホで検索。

 高城さんが言っていた私塾について探してみる。

 実はなにげに地獄めいてません? 教育絡みって。


『さきほどと考えが真逆になっていないか?』


 あ、十兵衞は引っかかる?

 たしかにね。高城さんと話していたときにはさ? 私は教育絡みの運動なら真面目そう、みたいに考えた。でも時間を置いてふり返ると、これが意外と問題が多いの。


『そうなのか?』


 そうなの。

 文部科学省の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」に、各年度の調査結果のファイルが置いてある。

 それによれば、不登校などの長期欠席者は増加傾向にある。

 この調査は概要ページを見ると、沿革になにを問題視しているのかがわかる。曰く「暴力行為、いじめ、不登校、自殺等」。

 少子高齢化が進む中、生徒にとって「暴力行為、いじめ、不登校、自殺等」という望んでもいなければ好ましくもない状態になるか、なりかねないか、狙われてしまいかねない状況下。長期欠席が増加している、ということは学校は居心地がいい場所とは言い切れなくなっている。

 あるいはだれにとっても居心地がいいわけじゃない、という事実がどんどん広まってきていて、選択肢のひとつとして「不登校」を選べるようになってきた、とも言えるかもしれない。

 身体的か精神的な暴力を受けるより、いじめられるより、いじめに加担するよりも、いっそ学校に行かない。

 こういうとまるで行くか行かないかの間がゼロか一かしかないかのよう。

 でも実際はちがうよね。

 行くにも行かないにも、いろんな背景と負荷がある。

 泣くほどつらかったり、行こうとすると吐き気が止まらなかったり、とにかく行きたくないって心が必死に訴えてくるけど「行く」子もいる。それは本当は行かざるを得ないのかもしれないし、家がつらい場合もあれば? 親に言えなかったり、悲しい思いをさせたくなかったりする。

 行かないことを選んだ人たちみんな、つらくないわけでもない。本当は行く、普通は行く、いまがこんなで将来だいじょうぶかな、。いろんな不安や恐れがつきまとうのに。行きたいのに。行けば済むと思うのに。でも、行けない。それは行かないのと結果だけは同じに見える。

 だからほんとはひとつの選択の背後にいろんなグラデーションがある。

 おまけにそれぞれに、それぞれのいろんな理由があるし? 簡単には解決しがたい。

 こういうときに「うちにくればだいじょうぶ」と謳う場所もある。

 不安や脅威を感じるから外に出ることができない。

 それが事実なのに「本人の根性が未熟」だから「たたき直せる」し「社会に出られる」と謳って人を集め、多額の費用を受けとる。場合によっては国や自治体の補助金を受けとる。だけど、実際にやっていることといえば劣悪な環境に押し込め、飼い殺しにする。内職かなにかをやらせはするけど、あがりは奪う。社会復帰に繋がる回復もケアも一切なく、ただただ補助金の獲得維持と新規顧客を得るための実績として利用しているだけ。そんな現代の奴隷商人みたいな組織もあるという。何度か記事があがっていた。

 いまのは大人の引きこもりの話だ。

 だけど中高生の不登校が狙われていないとも限らない。

 どの家も余裕溢れて円満なわけがない。親もさまざま、子もさまざま。私はこのところ、よくケアという単語を利用するけれど、その具体的な手法については知識ゼロ。資格と経験を求める専門家のお仕事としてみると、学ぶことがやまほどある。

 ところで素人なのは、たいがいの親子も私と変わらない。一緒に過ごしていくなかで、関係性が結ばれていく。その手持ちだけで常に対応が可能かっていったら「んなこたあねえ!」って、たくさんのご家族から声が飛んできそうじゃない?

 実際、無理だよね。

 その無理さと、あまねくすべての家族が向き合えるのか、個人個人が付きあっていけるのかっていたら? それもやっぱり、むずかしい。

 一筋縄じゃいかない。

 ひとりひとりの問題は、それくらい複雑。

 だからわかりやすいのが受ける、とも言う。

 いずれにせよ需要はある。供給がすべてもれなく悪いです、とせずに見てみると?

 中学時代にお母さんからいろいろ教えてもらったんだけど、不登校にするならするで、その間かよえる居心地よさげなスクールもいろいろある。カウンセラーさんが常駐している場所もね。

 高校にしても、通信校で高卒になれて、勉強はもっとやりやすくなって、クラスとかもあいまいになって、フランクなスクールもけっこうあるそうだ。編入する人もけっこういるそう。

 私立になればさ? 公立に比べると、やっぱり学費は高くなる。選択肢が増えることを歓迎して終わりにするよりも、実際に足を運んで観察し、こどもに相談してみて「行ってみる」というなら行ってみて、みたいに段階を踏んで、自分たちに合った場所を見つけられるといい。そんな風にお母さんに話してもらった。

 実際に足を運び、質問をして実態を探るのはとても大事な段階だ。

 親子そろって厄介払いのように安易に選択すると、だれの得にもならない場所に通う羽目になる危険性を避けられない。かといって、あまねくすべての親子関係が穏やかっていうと、そうでもなく。これもゼロイチじゃなくて、グラデーション。気持ちが余裕がなくてすれ違っている、みたいなケースもある。

 つらいがおうちで循環するとき、みんなそれぞれにがんばってるまである。

 気持ちで動くのが限界になっていることさえ。

 かといって、だから自分がこうすればという妥協は回り回って怨みになりやすいから。

 なだめ、落ち着き、休みながら選べるといい。心のガードを意識してしっかりあげられる状態になってから、しっかり探っていけるといい。

 悪徳業者を省くのはもちろんだけど、それよりずっともっと、自分たちに合った居場所を増やすための大事な行動だから。

 なんだけどねー。

 世間体を気にしたり、揉めたり責めたり責められたりがつらくて逃げの一手で家族か自分を追いやることがあり得る。そういう人ほど「待ってました」とあくどいのが狙ってる。

 日本に限らず、いろんな国であるんじゃないかな。

 アメリカの犯罪捜査ドラマでも、たびたび出てくるし? 日本に戻れば、やっぱりニュースになってもいるし。

 教育だけじゃなくて医療や介護でも起こりえる。極度の貧困僧を狙ったりね。社会に存在するバリアに排除される人ほど対象に狙われる。なのに「自己責任」は通らないでしょ。バリアを広げて商売の材料に入れたい人を増やしたいんじゃなければ。そしてバリアはどんどん和らげて、排除される人はゼロを、苦しんでいる人は戻れるような福祉を目指すのが社会だ。

 なんだけどもー。

 まだ道半ばなのかさえろくに知らない私は、いざその瞬間がきて初めて困惑するのだ。

 たとえば、ぷちたちのことで困惑しきっているいまのように……っ!

 ま、とにかくさ?

 弱り目に祟ろうっていう不届き者がいるの。

 あとね? もっと厄介なのが「本気で自分が導いてやる!」っていう人たち。


『善意の押し売りか』


 そ。おまけに「自分は正しいことをやっている」のだから、それを邪魔する相手は「だめ!」と判断するの。

 日頃の人付き合いでも、自己分析でもしがちな危うさなんだけどさ。

 それを仕事でしたり、子育てでしたりするのは怖いよね。

 お医者さんが患者さんにそういう態度だときつそうだしさ? 先生が生徒にそういう態度なのも、やっぱりやばい。

 それこそ<叱る依存>がとまらないで見るような叱りがやまほど炸裂するんじゃないかな?

 処罰感情を満たす。自分の正しさを証明し、どんどん気持ちよくなる。

 独りよがりに過ぎない自己中言動を繰り返す。

 人はだれかを変えられない。それを利用して「変わらないお前が悪い」として、さらに叱ることで、ますます気持ちよくなっちゃうけれど、表面的には怒り狂っているんじゃないかな。

 そのための行動として相手を否定し、きついことばを多用し、強く押したりはたいたりする。露骨に無視をしたり、周囲に向かって嘲ることばを吐いてみたりする。

 実態は暴力。

 それも陰湿なもの。

 そういう類いの指導者問題も、徐々に問題視されるようになってきたけどね。

 根深い話じゃないかな。

 学校の先生は問題でも、職場の上司だったら?

 職場全体がそういう雰囲気だったら?

 いじめに加担できて暴力に依存できない人は、叱るしかない。そんな環境も存在する。

 曰く「教えてやる」し「ついてこれないあいつがだめ」で「わるくないもんね!」の流れ。

 人は変えられないし、ひとつひとつの言動は氷山のほんのささやかな一角に過ぎない。そのことを忘れて、小手先のことでどうにもできなきゃ相手の責任にして攻撃する。深く関わるには忙しすぎて、余裕の欠片もない生き方をしていて、腰を据えてやれないだけ。なのに相手のせいにして攻撃して気持ちよくなりたい人がいる。

 そういうところまで話が及びかねないんだ。

 教育絡みの話って。

 だから地獄めいてるなって思うの。


『面倒な話だな』


 そうなの。

 でもさ?

 面倒なことほど、地道に取りかからないと取りこぼしちゃうでしょ?

 そしたら、後々たたるじゃない?


『まあ、なあ』


 重みのあるうなり声!

 ただ、そうなのよ。

 子育て修羅の道、と聞く話の中で揉めるネタのひとつが、こどもの教育。

 でもそれに留まらない。書店で見かけるビジネス書籍の棚には、けっこう並んでるよね。部下の育成本から、上司になる自分の育成マニュアルまで。立場に限らず職種においてもいろいろ盛りだくさん。

 みんな、教え育むことに思い悩む。

 一度きめたらもう二度とどうにもならない。一方通行、決められた線路の一路線! なんてことはない。ぜんぜんないんだけど、お金があるかどうか、精神的に余裕があるかどうかが関わってくるから格差問題の話にも繋がっていく。

 そういう問題の結びつき、厄介さも相まって、頭も心も「わー」ってなっちゃうからさ?

 断定口調で「なんとかします!」と詰め寄られると弱くなっちゃう状況もあり得るわけで。

 たいへんなんですよね。


『馴染まなければ行かず、馴染む場所を目指せばいいというわけにはいかないのか?』


 肩に力が入っているのに、抜き方がわからないままひどくつっちゃってさ? おまけに筋肉痛になって、なのに痛みがちっとも引かないみたいな感じになると、どう?

 力、抜ける?


『それどころではないか』


 そうなの。

 それどころじゃないの。


「お」


 考えつつ十兵衞と話していたら、見つかった。

 恐らくは私塾の生徒さんか、元生徒さんたちと並んでいる日に焼けたおじさんの写真。

 おじさんがセンターで、斜め上の不思議な空間をみんなで見上げて笑っている。

 この時点で「ん?」という感じだ。

 お母さんに教えてもらったいくつかのスクールをネットで調べてみたことがある。基本的にはこどもが主役。大事なのはこどもが、どんな生活をしているのか。テーマも訴える層も、漏れなくこども。なのに、どんなページにもおじさんが出てくる。

 沿革には、おじさんがどんな人生を過ごして、どのように使命感を抱いて私塾を始めたのかがドラマチックに描かれている。そんな必要はない。

 これでうちの事務所にけっこうな金額のオファーを出すって、謎だ。いろんなところからオファーが来たと言っていたけど、伝手をいくつも持っているってこと?

 地元の政治家や有力者と懇意にしている、とかだろうか。ううん。

 場所は千葉。でも神奈川と埼玉に私塾のミニ版があるそうだ。

 人が集まっているのが不思議。

 どうやら動画を掲載しているブログのURLがあって、開いてみたら動画のサムネイルが漏れなくおじさんの顔と強いことばの文字。「こどもが従わないのはなぜか」と始まるのが一発目の動画の時点で「うえ」って引く。正直、ドン引きだ。

 高城さんの言うとおり、これはない。

 ブログも私塾の紹介というより、生徒たちをネタにしたおじさんの主張ブログだった。

 動画アプリを開いて検索する。再生はしたくなかったからね。再生数はどれも二桁止まり。チャンネル登録者数も多くない。私塾の名前で検索したときのサジェストに目がいく。詐欺、問題、暴力、ハラスメント。

 検索エンジンで改めて私塾の名前を入力したら? こちらのサジェストも同様のワードが並ぶ。おまけに虐待、訴訟の字まで加わるんだから! とどめに大型掲示板の名前まで出てくるから「おーぅ」と脳内アウト判定。


「真っ黒けやんけ……っ!」


 これでよくCMを、なんて思い切ったな!

 うちの事務所はしっかり断ってくれてたんだなあ。

 ありがたい。

 おかげで私は安心して仕事ができてる。

 ただ、高城さんが連絡してきた理由もわかる気がしてきた。

 どのページにも現われるおじさん。名前もあるけど覚える気になれない。

 かなり主張が強い。

 名前をコピーして、検索してみると、そちらのサジェストもなかなかにきつい。

 中傷系の記事を見る体力はないので、私塾のホームページに戻って沿革を確かめる。

 今年になって一気にミニ私塾を開いているし、千葉の私塾は新館を現在建設中なのだという。ここからして、妙に羽振りがよさそうだ。このご時世にどうやって?

 いつでも生徒募集。必ずおじさんが面接するそうだし? 連絡をくれれば二十四時間いつでも受けつけるそうだ。親の連絡大歓迎、こどもは自分が説き伏せる。ただし真夜中の通話は不機嫌だからご注意を、なんて一文が携帯電話の番号と一緒に添えてある。

 私個人としては近寄りたくないタイプだ。ただ、これだけじゃ羽振りのよさについて背景がわからず、なんとも判断しがたい。

 悪評を含めた評判は、それだけこの私塾に関わった人が多いということ?

 だとしても流行る要素が見当たらない。

 そこで、そもそも私塾の費用はいくらなのかを探してみるけど。


「――……ううん」


 見つからない。

 ますますうさんくさいし、このうさんくささで生徒が集まるとは思えない。うさんくささポイントが天井知らずに増していく。

 ただ、いくつか偏見を持てた。

 自己主張が強く、フットワークが軽い。自分の枠組みがかなり強固なタイプ。こどもを説き伏せるとして、親の味方であるかのように示し、自分のやり方に利用しているように見えるところからして、かなりのエゴイスト。

 同時に疑問が生じる。

 そんなタイプがここまで「おれがおれが」をやっているのに、なぜ人が?

 失礼だけど「それほど人が集まらず問題が起きて金も続かず潰れました」みたいな結末になりそうなのに。


「なんだろ」


 疑問。

 あと、こういうタイプが私を利用したい心理ってなに?

 たぶん、いや間違いなく古くてだめな男尊女卑タイプだろう。コテコテの。

 偏見が強そうなタイプに見える。もしかすると私とぷちたちについても、相当失礼で不愉快な妄想をしていそうな気がする。

 仕事を断るだけならまだしも、あの高城さんが通報なんて相手に言いだすくらいだ。押しかけてきただけじゃなく、高城さんを相手にかなりひどい発言もしたんじゃないかな。

 そういうタイプで、おまけにフットワーク軽くてお金に糸目をつけない、と。

 お金を出せば使えるという駅や電車、渋谷のディスプレイとかで自分の広告でも出せばいいし、いかにも出しそうなタイプなのに。

 なぜに私。


「なぁんか」


 やな感じ。


「ママちょうぶす顔してる!」

「こわー」

「きもー」

「どうしたの?」


 ソファのそばから、四人の子が顔をぴょんぴょんぴょんと覗かせる。

 きみたちね。ぶすって。きもいって。怖いはまだしもぶすときもいって。

 傷ついちゃうからやめて?


「お仕事のこまーった話を調べてたの。みんなはどういう顔が好き?」

「えー?」

「なんだろー」

「にこにこ!」

「くわだて!」


 それぞれに顔を見あわせていろいろ言ってくれるんだけどさ。

 頭に入ってこないんだわ。

 にこにこはいい。くわだてってなに。どこでどう覚えたの?

 私、そんなにみんなの前で企ててます?

 おっかしいなあ。そんなつもりなかったんだけど。


「にこにこしてるとうれしいよ?」

「ぶす顔のとき、おっかないね」

「いえてるー」

「それな!」


 うーん。私もいつもにこにこしてたいけど、そういうわけにもいかないんだ。なかなかね。

 でも、覚えておこう。

 身体を起こして「じゃあ、こんな顔はどうかな?」とどや顔をすると「まるーい!」とみんなして声をそろえる。あんまり見事にハモって言うものだから、うつ伏せ寝しているカナタが「ぶっ」と吹いた。

 さては、だれかが入れ知恵したな!?

 おのれ!




 つづく!

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