第千六百九十七話
夏に空飛ぶ乗り物。だったらいっそ、水鉄砲を搭載して戦うっていうのは?
そんな提案がカゲくんから出てきた。
ゴーカートでも、競争するのが楽しい。がんがんぶつかるのもなんだかんだ盛りあがるところあるけど、あんまり執拗だと怖いし、あまりに狙い撃ちされるとしんどい。だったらルール整備して、ぶつかっちゃったら、三秒間うごけなくなるみたいな機能を乗り物につけちゃえば? レースに勝つなら、なるべくぶつからないようにしようってなる。やがては。
ルールの調整は、遊びながらやっていけばいい。
みんなの話が徐々に「あそこのあれいいよねー」だの「富士山近くんとこのお化け屋敷やばいらしいよなー」だの、だらけてきたし?
だったらと、ぐしぐしめげてる子たちも抱えて、一度お外に出た。
実際に金魚の空飛ぶマシンを出して、乗っけてみるのもいいかと思ったんだ。空飛ぶレース、興味ある勢もついてきた。魔女であるユニスちゃんのホウキの飛行術、どうせならやってみたいとミナトくんが言いだして、興味を覚えた人もけっこういてさ?
繰り返しになるけど、だらけてきたところだからね!
結論は保留にして、一度お外に出たわけ。
親も先生も、みんな大人たちでわいわいやってる。刀鍛冶は刀鍛冶で集まっちゃってるからさ?
ひとまず遊ばせろって気持ちが高まってるのかもしれないぞ?
お祭りを回るよりもアガることやりたいのかもしれないぞ?
じゃ、やるか。
といってもね? 私はまず、いかに安全にぷちたちが遊べるものを作るか気をつけるべし。
空飛ぶタイヤ、七つの会議。お父さんが好きな小説家さんの本では、安全を守ることと利益を得ることが共存しないことの大変さを描いているらしいよ?
たとえば、ネジ。
あらゆるものに使われる、大事な大事な部品だ。
巨大なものを作るときほど、必要な数が増える。求められる品質だって、もちろん上がる。でも、ちょっと待って? 配合する金属の配分を、ちょおっとばかしごまかして、ケチったら? 材料費が浮くんじゃない? 納品する数が多いほど、実質的な負担が減って、そのぶん儲かるんじゃない?
い、いやいや!
万が一にも事故が起きたら、どうするの?
検査される。検証される。仮にネジの破損が原因で、問題となるネジが見つかったら? 責任を負わなきゃならなくなる。多額の賠償責任が生じるし、記者会見を通じて世間に謝罪をするとなれば企業のイメージを損ねる羽目になり、売り上げにだって営業するかも。
いや待て。
ネジ作るの、うちじゃねえぞ? と、発注元が気づいたら?
というか、そもそも発注元からしたら「安くしろよ、部品はよう。おめえんとこ、うちから注文なきゃ困るんだるぉおお!? おおん!?」と迫る側だ。いいものを安く。じゃなきゃ買わないよ? なんとかするのが企業努力でしょ? 大人の責任ってものでしょおおお!?
そんな圧をかけられたネジの製造企業は、どうするの? 中小は大手の発注を取れなかったら、資金繰りが苦しくならない? 社員を抱えていたら? マシンを新しくして、その借金を銀行に返済しながら操業しなきゃいけなかったら? 従うしかないけど、かといってない袖はふれない。じゃ、どうすんの? 材料、けちろ。それが一番やさしい道だ。
そんなことにならないように「優越的地位の濫用あかんぜよ」と国は監督・指導している。
発注元の企業が、受注元の企業や個人事業主を相手に、仕事や報酬、業界での立場を人質にとって脅迫し、不当な取引を迫ることは、結局のところ、あらゆる場所へと負債が広がっていく。故にそれを取り締まり、健全な取引をするよう求める。
けれど、実態が伴っていない状況が隠蔽されたり、事件が起きたあとに動く警察のように、悲惨な事故や事件が起きたあとに指導が入るようじゃあ「ネジが壊れてはいけない環境で、壊れるであろうネジが出回る状況」を予防することができない。
加えて内部告発者に対して賞賛する社会にはなっていない。そこに至るまでに必要な機構も歯車も、なにもかも足りていない。だから取引で甘い汁を吸おうとする人はいるし、いろんな業界に、そういうたちの悪くてアウトな取引は蔓延しがち。
最悪なのは、監督すべき立場の組織や個人が見過ごして、癒着しているケース。
逆に言えばフィクションだと、そこまでいってるケースを描くよね。
たとえば、さっきのネジ。
大手企業が中小企業に優越的立場の濫用をして、中小企業が取引を成立させ、かつ売り上げを維持するべく必要な性能を満たしていないネジを出荷していた場合。それが自動車に利用されていたら? 大規模なリコールに繋がるかも。そこでの負担のみならず、株価にだって影響が出るんじゃないかな?
そんなネジはなかったことにして、ネジのせいで起きた事故は、事故を起こした人間のせいってことにしちゃえばさ? 隠蔽しきれれば、なかったことにできるわけだからさ。
手を回してもみ消しちまえっていう話の筋になりません?
いかにも巨悪! なので。
ひとつひとつの選択をした人々に対して「大人なんだから、しっかりやれ」は、さしたる意味も持たないでしょ。
利益を出す。
目的によって、手段が正当化されると?
利益を出す以外の条件は、クリアされる。ただし、この場合のクリアは達成を意味しない。消去される意味をもつ。
すると「利益を出す」という目的は「罪が明らかになることを隠す」目的を生むし「明らかにしようとする人間を排除する」ことを肯定するし「現状を改善する」ことを否定するし「あらゆる手段は、利益を出すために肯定される」という認識を強化させてしまう。
全力で! 不祥事は! もみ消したい!
不祥事を正して、組織を改善しようとなんて、しなくていい! そんなやつは? いらない! なので内部告発者だとわかったら? そんな奴を雇うつもりもない! そんな奴が出てきそうになったら? 窓際だ! 自分から望んで退職したくなるような閑職に追いやれ!
アウトな選択へと突き進んでいくばかりだ。
そこで登場、主人公と、主人公の理念に賛同する者たち!
はじまる逆転劇。さあ、どうなるのかぁ!?
なんてね。
作中で主人公たちを突き動かすのって危機感であったり、倫理観であったりするのかな?
どうだろ。
お父さんと私とでも、意見が異なりそう。
見る人によってちがうか。それもそうだね!
でも、実際、大事だよなあ。
利益しか見えないようじゃあさ?
悲惨な事故が起きる。そうでなくても、発注する側の立場で、そうと気づかず暴力を振るう人が出続けるし? すると受注している側が抗いがたい。なんで優越的かって話。
もちろん、どちらも噛みあってしまうとき、ある程度は確信犯な部分もあるだろうけど。
それで淘汰されて作りあげられる状況って、相当悲惨だろうなあ。目に見えるようだよ? 事故る可能性だけじゃない。事件が起き続けているんだから。あらゆる暴力が肯定されていくんだろうなあ。なにも世紀末の「ひゃっはぁ!」という意味じゃなくってさ? もっと陰湿な意味でね。暴力は殴る蹴るだけに限らない。
そう考えるとね?
利益と、そこに至る過程が健全に安定した状態で保てる仕組みって、実はまだないのでは? それか集合ごと、たとえば企業ごと、なんなら内部の部署や、上司と部下、先輩後輩、個人個人でかなりのばらつきがあるのでは?
仮に私が歌手を引退して、会社員になったとして、人によって言うことがぜんぜんちがうくらいの状況が余裕であり得るのでは?
そんな中で、試行錯誤しながら、面倒をみる人が苦労して、新人はびくびくするか、逆にぶっとびすぎて、現場で回すの大変すぎる結果が「大人ならしっかりやってよぉ!?」という悲鳴に落ちついちゃうのでは?
でもって「大人ならこうして」っていうのは、要望や要請であるよりもっと以前に、それを成立するために解きたい問いがやまほどありすぎて「もうむりー!」っていう悲鳴なのでは?
案外みんな、やれてることにしてるとか? それか、できることを精いっぱいやってるとか?
そういう状態だとしたら、わかるなあ。
私もそういうことばっかりだもの。
ぷちたち相手に、私ぜんぜん大事にできてないとか、こういうことができないのとか、言いにくい。不安にさせちゃいそうで。嘘を吐く。あるいは嘘を吐かずに隠しごとをする。
交渉は素直にやれば、うまくいく?
日本のドラマだと冷笑されがち。嘘も方便。
アメリカドラマだと、弁護士モノでこの手の話はでがちで、スーツだと? 情報伝達としての効率と合理性が重視されがち。主人公のマイクは、最初の頃ほど、それに馴染めずに、なんでも素直に、良心だけを頼りに明らかにしちゃう。彼のメンターとなるハービーは? 依頼人が裁判に求める目的と結果にとって、最善を尽くして伝える。
けどハービーのやり方ができるほど交渉に慣れていないし、マイクのやるようには素直にできない。冷笑されがちな日本のドラマのキャラの素直さはマイクに似ていて、ハービータイプはあんまり見かけない。自分の立場、会社の立場に帰する。ハービーはというと、依頼人と事務所の目的の一致を見るから、さらに依頼人の立場にも帰するよう依頼を受ける。そこが違いかな。
なので彼は依頼人の虚偽や隠蔽に物凄く敏感だし、それを見抜けなかったときには大いに荒れるし、メジャーリーガーを自負する彼は、それでも成果を出す。対して、私のあっさいあっさい、すくなすぎる日本のドラマの登場人物たちの知識でいうと、甲子園で優勝に導くような立ち振る舞いが多い気がする。チームの規範の内側で、自分の役割の中に留まり、そこで求められ、許される中で最良の結果を目指す。それはそれですごく大事なプレイヤーだ。ただ、私の好みじゃないっていうだけ。
理由はある。
チームを乱さない。変えない。なのでチームがおかしくなったとき、プレイヤーはチームに関与しない。責任を分けると言えるし、同時にひどく無責任だとも言える。
役割をまたぐ機能がない。育ちにくい。そういう土壌が私はひどく苦手だ。
繰り返すよ?
私のあっさいあっさい、すくなすぎる知識だと、そういう印象があるっていうだけ。
あらゆる集団で異なるというのなら、私はその一万分の一さえ知らない。
そこで主語を大きく語ってみせても、知らないことがあるという前提を隠すことはできない。また隠して得られる利点は、明らかにして経験値にする利点を越えない。
そんなことを考えてみせたって?
交渉は苦手!
なにせ経験してないし? 勉強もしてないもの!
どしろうと! なのです。
たとえばねー?
ドラマの孤独のグルメが大好きなんだけどさ? 五郎ちゃんの仕事風景、見てるのすっごく好きだ。いわばドラマパート! あそこが地味に好き。営業として接するとき、ほんっとに! いろんなお客さんが出てきてさ? 朴訥とした五郎ちゃんが振り回されたり、案外しれっとうまくやったり、大失敗したり。ときには自分の至らなさに気づいたり。ご飯を食べたあとに、じんわり救われたり。
そういうこと、すっぽり抜けちゃう。
利益に固執しちゃうとやばいし、視野が狭くなっちゃうようにさ? 交渉だけに固執しちゃうのも、だよね。五郎ちゃんはご飯を食べて、心機一転! って場面もあるでしょ?
手段なんだよね。交渉って。
あれはどのシーズンの回だったかなー。
ホテルかなにかの、大事な記念のインテリアのテーマと発注を五郎ちゃんが熱意で勝ち取ってさ? わくわくしていた依頼者さんが、五郎ちゃんの提出したものに「ここにはあなたの、あの熱意がない! あの熱意があったから、あなたに決めたのに!」と、すごくがっかりするシーンがあったのね?
手段で完結しないんだ。前後に繋がりがあって、縦横無尽に先がある。
さっきいった利益も一緒じゃないかな?
あと、見方だってひとつに固執することもないよなー。
私が苦手だといったプレイヤーのあり方もね? 人次第でうまく回るんだ。それぞれが専念できると、ますますいい。なので、うまく噛みあうように、歯車や機構をセットするように、環境を整備していくと? 一気に進みが早くなるんじゃないかな?
これがだめ、で留まらずに、いろいろ考えてみる。私の苦手意識やきらいの先にも、私の知らないことがやまほどある。それを知ってからでも遅くはない。
これにも、もちろん先がある。
急げ急げ、早く片付けてかないと、とてもじゃないけど間に合わないぞ~!? ってスピード感になっちゃってるとき、早足や駆け足になっちゃってるときって、考えるどころじゃない。
あるいは、そればっかり考えちゃうこともあるかも。いまの私みたいに。
先って、なにも前にしかないわけじゃないからさ?
十や百を一でずばっと語るのって、すごそうに思えるけど、やっぱずれてるよなあ。
急かされて、もう頭が「わー」ってなっちゃったら、惹かれるのかもしれないね?
逆に私は、むしろあらゆる方向に伸びた先が知りたいんだなあ。そして、数えきれない先を知るうえで、あるほどうれしい知識も、技術も。
「ねえ、必殺技はー?」
「えっ」
ぎゅっと抱いてる子の問いかけに、揺さぶられる。
「なんか、すっごいのがいいー!」
「必殺技、だせるようにできる?」
「それできたら、もう泣かないよ?」
みんながあれこれ言い始める。
あとね? もう泣かないっていうのはね? いっしょうのおねがいー! と、大差ないって私しってるよ?
「や、やってみよっか」
「「「 イカちゃんみたいなのがいいー! 」」」
今週、トウヤとコバトちゃん、お姉ちゃんとみんなで遊んでいたゲームだ。
私は苦手なので、やっていない。みんなの撃墜数になるのが関の山だからね!
そばで見ていて、いろんな技があることは知っている。
インクの雨を降らせたり、バズーカみたいに強力な一撃をお見舞いしたり、インクがびしゃびしゃ出る巨大なハンマーをせっせと上下に振ったりするんだよね? たしか。
インクかあ。
色つきの水を発射するっていうのも、わかりやすいかも?
ああでも、特定の子同士で揉めちゃったら、どうする? そこでのトラブルに、交渉人としての青澄春灯は立ち向かえる?
まず無理! スキルもレベルも足りないよ!
なので変えようとしたくなる。撤退だ! 戦力不足が否めないもの! 立ち向かえないぞ?
なんて具合に、先が見えなくなるわけ。自分の見たい先しか見えないや。
単純に、あのゲームみたいな技が出れば、みんな満足かな?
それで終わり? そこで終わっちゃうんじゃない?
だったら、ゲームの真似っこしてみました~でいいわけで。
それはそれで楽しいはず。
なん、だけ、ど。
ほんとかな?
それで済ませていいのかな?
中二病の六花ちゃんたちみたいなさ? バニッシュメント・ディスワールド! あのシーンみたいなの、ちびっこに戻っていくほど、私にとっては身近なことだった。
ほんとに出ると思って身振り手振りをしてた。没頭度が、いまとは段違いに高いんだ。没入しまくってた。ついでに言うとさ? なんか足してなかった? 分かれない? 忠実再現派か、自分の技を作りたがる派か。
私はだんぜん! 後者!
あ、どっちじゃなきゃだめとか、どっちがどうだからどっちより上だの下だのとか、そういう話じゃないんだよ?
そうじゃなくてさ。
ぷちたちが挑むぞー、やりたいぞーってなったとき、私が済ませたら、楽しめない。
それって、なぁんか……やだな?
ぷちたちは、どんな先を見ているのかな? 点を打ったとき、みんなのそれぞれの座標はどこにあるのかな? そこには、どんな心の先が見えるのかな?
おんなじゲームをやっていても、おんなじ体験をしているのかな? おんなじ世界をみて、おんなじことだけを感じているのかな?
んなこたぁ、ないな!
よし! 水にも仕掛けをしよう。
必殺技も、ぷちたちの気持ちに応えられる仕掛けを入れよう。金魚のマシンには、ぷちたちの願いを感じとる力がいる。
それって、いまの金色にできるかな?
足りないなら、足すっきゃないな?
それでも足りないなら、私がやるっきゃないな?
それでも足りないなら、どうする? ぷちたちと一緒にやってみればいいんじゃないかな?
さっきのドラマの話でいくとさ?
ハービーはそれが苦手だ。なにせひとりでメジャーのスター選手。影響を受ける必要も、だれかと一緒にやる必要もない。マイクが入って、いろんな事件が起きて、どんどん影響を受けるようになって、変化していく。彼の魅力が、どんどん出てくる。そこが彼を好きになるとこ!
逆に言うと、日本のドラマ、とくに仕事ものなんかはさ~? 一緒にやるときの影響の与え合いが、すっごく味のあるとこじゃない? 人情とかさ。変化してみえる味みたいなとことかさ! やっぱり海外モノより文化圏的な意味で身近だし。
ま。
私の好みの話だ! いまのはあくまでも!
そんでもって、好きがいまひとつ見えたって話でもあるぞ?
だんだん、尻尾の穴が愛しく思えてさえきた。
教授に与えられたトラウマなら、それは愛せない。傷は、痛みは、まだ、私は先の見えない点になる。
でもこれは、そういう話じゃない。
おもいきり?
あそびたく?
なってきたぞ?
ぽん・ぽん・ぽん・ぽーん!
っていう話だ。
そんじゃ、具体的に考えていこっか!
つづく!




