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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第千六百九十四話

 



 ぷちたちと別れて数歩で予定が狂った。

 というのもさ?


「ご主人!」

「おっふ!」


 なにかが後頭部に飛んできて、がしっと掴んでくる。

 気分はフェイスハガーさんに不意打ちを食らった気分。だけどここは映画エイリアンの舞台じゃない。宝島だ。聞こえたのも「ふしゅるるるる」という無気味な呼吸音ではなく、ぷちの元気な声だった。

 続いて背中や尻尾になにかがタックルを仕掛けてきて、そのまましがみついてくる。

 ダッシュで近づいてくる気配はなかった。ただ、遅れてたくさんの鈴がやまほど鳴った。ふり返るまでもなく、ぷちたちが戻ってきたのだ。私の鈴を使って!

 早いね!? お早いお帰りだね!?


「なんでこないのー?」「いくでしょー、そこはー」「ぷちたちになにかあったらどうするのー?」「ところでどこいくんだっけー」「ねーねーさみしいー」「というか、遊んで?」

「ああああ……あはははは」


 みんなして、両手でしがみついて足で蹴ってくる駄々こねキックをお見舞いしてくる。

 痛いし、しんどいし、もはや笑うしかない。

 遅れて「あおすみいいい!」って、血相を変えた茨ちゃんの声が続く。


「「「 あのヨーヨー手に入れて、ご主人といく! 」」」

「「「 そんなの当たり前じゃん 」」」

「いこー?」

「ねーねー」

「はやくー」

「なんでついてきてくれなかったの!」


 ああああ、もう。

 狐は子育てをしていて、ある日、巣からこどもたちを追い出すそうだ。

 だけど、こどもたちはしつこくしつこく戻ってくるという。

 いや、そりゃあそうだよなあ。狐同士でコミュニケーションを取っている中で、もし巣から巣立つことを伝えられていたとしたら? それでも粘りを見せて「やだー! もうちょっといるー!」って言いたくなりそうなものだ。怖がりな子なら、尚更ね。そうじゃなかったら「な!? え、なに? 急に。え、新しい遊びかなにか!?」ってなりません? ならないか。

 そういう話じゃあないんだけども。

 いや。茨ちゃんたちと遊んでおいでって話だったやん。

 聞いてなかったのかな。

 なかったのかもなー!

 私の心配は!? 岡島くんと茨ちゃんの決意は!? ねええええ!

 って、ぷちたち相手にぷりぷりしてどうするというのか。

 みんなにとっては、私が一緒にいるのはもう大前提なのね。そりゃそっか。

 いきなり戻ってきて、真っ青な顔してぷるぷる震えながら「うんち」って言われるよりはマシだな! あと、それ今日あり得そうな展開だな! あ、あはは、あははは……。

 しゃあねえ!


「水ヨーヨー取ってから行くか!」

「「「 とうぜんでしょー! 」」」


 ええ。もう。開き直って生きていきましょうとも!


 ◆


 待ちくたびれた顔して待ってたマドカたちの元に辿りついて、シロくんに「それは金色を化かして作った水ヨーヨーじゃだめだったのかな」とつっこまれ、カゲくんに「わかってねえなあ、自分で取って遊ぶからいいんだろ」とフォローされました。

 居たたまれないねえ!

 カゲくんの言うとおりだし、お母さんに断りを入れたし、スマホでキラリにメッセージを送ったんだけど。なかなかね。

 ぷちにゃあ勝てないぜ! すまねえ……っ!

 っていうのは、わがままなんじゃないか問題。勃発!?

 かと思いきや、そうでもなかった。

 というのも、変身アイテムの調整で時間を食っていたんだ。正直、いくらでも時間が欲しいみたいな状況だってさ。なにせ、宿の入り口で出迎えてくれたのも、通された大部屋で待っていたのも、みんな侍候補生。刀鍛冶はひとりもいない。ただのひとりもだ。

 塗る神水の調整はいい感じだと聞いている。それをファンデや泥に転用していて、そちらも上々。ただし霊衣のように繊維に塗り込むとなると、これがむずかしい。既存の衣服に練り込むのが大変。他にも、実験に参加する生徒の数が増えちゃったもんだから、あれやるこれやると話が増えてきていて、追いついていないそうだ。

 カナタもいないし、ノノカもいない。ノンちゃんだって席を外している。

 そりゃあ侍候補生でぶらぶら祭りを冷やかすわけだよ。

 そんなことしてる場合かって意見も出てきそうだけど、部屋を別にしてあれこれ試している刀鍛冶のみんなの楽しそうな声が聞こえてくるので、野暮な話かな。

 私たちにできることといったら、邪魔をしないことくらい。

 なにせ聞こえてくる会話の中には「もういっそ機織りから始めねえ!?」なんだから。


「さて……」


 畳に敷かれた座布団の上に座って、マドカが時間と暇を持てあましまくりで呟く。

 何度目になるかわからないレベルで聞いたよ。その「さて」は。

 私は私でぷちたちの水ヨーヨー遊びで起きる「すごいもんね」からの「ああああああああん!」という大号泣に大慌て。ひまじゃねんだ! こちとらよう!

 どうしてそうなった、と驚いてばかりだ。ビビり散らかすごとにおもらしするなら、いまごろ大洪水だね。ははっ! なんて言っている場合じゃないのである。

 遊びすぎてヨーヨーの紐がなぜかちぎれて、泣くし。ヨーヨーが無茶な遊び方で壊れたら? やっぱり泣くし。なんとなく「あっちのがいいな」って思うと、怒るし泣くし。また取りにいくーってなるし?

 四の五の言っていられないので、シロくんのツッコミを採用して水ヨーヨーを直してみせたり、もっといいのにしてみたり。すると今度は、自分がとって気に入っていたヨーヨーがけなされた気がした子がギャン泣きを始める。

 やべえ。

 がちでやべえぞ……。

 なんでこんなにいるんだって今更かんじちゃうくらいには、やべえぞ。

 逃げ場がないので、なるほど。そりゃあ安全基地が稼働してなきゃ、参っちゃうわけだよ!

 ついでにいえばさ?

 自分が育つうえでため込んできた、強すぎる感情や求めや願いは危うさになるね? それも無視できないレベルで。

 別にぷちたちと過ごしているうえでってだけじゃなくってさ?

 カナタと接するのでも、トモといるのでも、キラリとマドカと三人でなにかするんでも、だれかと過ごすだけで関わってくる。

 まずは、心を許せる相手ほどというケースを思い描く。

 なんでもいえる相手だからこそ。素直に甘えられる、ないし、甘えさせてほしい相手だからこそ? 自分には解決できない、しようのない、つらい痛みや、深すぎる傷口の刺激なんかを、相手になんとかしてもらおうとしてしまう。

 それはヒーローを求めるようであり、ヒロインになるようであり、ヒーローもヒロインも性別年齢立場を問わず当てはめられてしまえるものであり。

 これこれこういう問題がある。自分は、あるいは大事なだれかはそれで苦しんでいる。そして、それにアプローチできる専門的な立場は、ほにゃらら。さあ、ほにゃららよ! 助けろ! ちゃんとやれ! ぼやぼやするなぁ? しっかり見てないと、どうにかなっちゃうぞ!?

 みたいな構図を安易に思い描いてみたりして。それじゃなんの救いにもならない。困っている、なんとかして! という立場を見て、逆算して思い描くだけで浮かぶ程度のものでしかないからさ。先がないんだ。これじゃあ、進めない。

 繊維を編み込んで生地を作る。だったらもういっそ、機織りしちゃえっていう発想くらい、できる領域に引きずり込んで、やれちゃえれば? 進める。

 けれど痛みに喘いで、ギリギリ皮の一枚つながっている状態で「とにかく笑えれば」とライン際で自分を必死になって保っている人に「自分でできることからやれよ」だなんて言うのは、どうかしてる。あまりにも無体な話だ。

 順序はたぶん、安全基地の整備。ギリギリ保っている状態から、余裕をすこしずつ獲得していく。軽視したり、後回しにしたものは? 結局のところ、全体へと波及していく。なぜか。そもそも全体から波及して個人に流れ着いたものばかりで、しかも、相互に作用し続けるからだ。どこまでいっても、どこまでいってもね。

 気持ちを逸らすために、金色を出して化かして、宙を泳ぐ金魚に変える。ぷちたちの間を泳がせてみせる。なにもないところを泳ぐのだと、なんだかさみしい。数も多いほうが華やかだ。金色をやまほどだして、川に見立てて金魚たちを泳がせる。

 ネズミくんが看板キャラの世界的企業の映画で、大人がこぞってこどもたちを楽しませようとする。エンターテイナーであろうとする。とんちんかんなことをしちゃう人もいるし、勘所がずれちゃう人もいて、それが過ぎれば「じょおじぃ」って言いだすピエロみたいになっちゃうのかな? いや、あれはホラーだし、原作は小説だってば。

 なんの話をしてるんだか!

 変顔したり、手品をしてみせたり。指が消えて見えるやつとか、いないいないばあとか。ぷちたち相手に挑戦した人がけっこういる。この部屋についてからもだ。ちなみにシロくんは軒並み滑った。滑り散らかした。苦手みたいだ。そういうところがらしくて超好き! でも、ぷちたちは見た目ちびでも、両手を使って交差させ、そのとき指を曲げて消えたように見せるやつくらいじゃあ、さすがにもう驚かない。

 なぜかって?

 すでに私がやったからね! 一度や二度じゃない、何度もだ! 残念だったな!

 なにに勝ち誇ろうというのか。

 お姉ちゃんは挨拶回りで離席してる。カゲくんや茨ちゃんが率先して、百人一首を出して、ぷちたちをもてなしてくれている。

 ぷちたちが戻ってこなかったのなら、外に出るのもありだった。けど、たぶん私がついていかない限り、同じことの繰り返しになるからね。一緒になってお世話してもらっている。

 浴衣に着替えようかとも思ったんだ。けど、まさにいま突貫工事中の布地を使った浴衣をこさえて、私とキラリとマドカの三人で着る方向性にもっていきたいみたいで、待機。

 まさに!

 完全に!

 持てあましているのである!


「忍ぶれど~。色に出でにけり、わが恋は~。ものや思ふと」

「「 はい! 」」


 ユメとココロがハモりながら、札をたしっと触れる。

 一瞬、ユメのほうが早くて札を稼いだ。ふたりが抜きん出ている。

 ぷちたちの間でも戦績は疎ら。飲み込みが早いのは、いま名前を挙げたふたり。

 上の句を覚えると早いよって教えたら、どうなるだろう。

 興味があるか、楽しんでいるか、あるいは両方だと、飲み込みは早くなる。

 いっぽうで興味が湧かない子も、それより先にだれかに取られちゃう子もいる。

 なので二回戦を始める頃には組を分けた。幸い、この手の遊び道具に事欠かない。もうひと組なんて、余裕であるわけで。

 ゆっくりと読む。札の説明をする。一度聞いたらそれで十分ってことはない。おまけに、こっちからお話すればいいかっていうと、そうとも限らない。

 聞いてないよ、そんなのってうんざりされちゃうだけ。

 一方的じゃ、結局は意味がない。

 なんだか握手に似てる。キャッチボールはよく例えられるよね。ボールをうりゃあああああって、めいっぱい投げてもさ。ぷちたちの立場からしたら、なにやってんの? って感じだ。

 そういうものだ、自分はそれで過ごしてきた、だから他の人も受け入れるべきだ! っていう筋も、世の中にはけっこうあるよなあ。それをよしとするかどうかは別として、その枠組みが排除している立場の人ってけっこういるよね。

 だって、思考停止スイッチなんだもの。

 ただ、社会的儀礼と化していて、それを利用すれば短縮できる手間みたいなものは確実にある。手間を省ける利点しか知らない、あるいは面倒を省きたいばかりに、普及に努めること、利用者の幅を拡張・拡大することを怠ると? それはただの排他的な規則と化す。教える人がいないと、結局のところ、手間を省ける利点が損なわれる。意味がない。社会的儀礼として、利点のある機構があるとき、それだけでは完結しないんだ。他にもやまほど仕組みが必要で、そのための手段も求められるし、それは常に改善の目処があるもの。

 加わる人は、まるで回転する柱にしがみつく重石。減れば減るほど、回転速度は増して、新たに捕まろうとする人を拒む。みんなで掴んで、数を増やして、回転を利用できる機械の動力にするところまでしても、メンテが必要不可欠。そんなノリ。なんだけど、昭和の体育会系の悪い面そのものみたいに、結果的に残った人が生きているなんていうやり方でいくと? あとにはだれも残らないんだろうなあ。

 それは私とぷちの間でも起こりえることだし?

 これまで私がなにかと接するうえで、起きてきたことでもある。

 家庭でも社会でも、学校でも職場でも、どこでもあるよなあ。

 そういうものなんだから、と易しく済まされては困るのだ。易しく済ませたがる人が自分たちのコミュニティに優しくいたいだけ、という側面があるから。

 社会における女性の立場もそう。世界に拡大すると、それは人種や生まれにさえ焦点が当てられるもの。

 声高に社会運動に出よ! みたいな話じゃあない。

 そういう道を進んでいる人もいれば、そういう人たちを避ける人もいるし、一歩はなれて我関せずという人もいれば、その中で身の回りのことを整えようとする人もいるし、そんなの偽善だふざけんなーってキレ散らかしてる人もいる。その他、もろもろ。いろいろだ。

 結局のところ、国境を越えて医療活動や学習の普及活動をするっていうんじゃないなら、身の回りのことをするわけで。意識のあるなし、知識のあるなしは言動に出るし? あらゆる人の言動の集積が「そういうものなんだから易しく済ませる」か「それじゃ困るから、ま、ちょっとずつ変えてこうや」か、ゆっくりと、ゆっくりと、大陸が動くくらいの速度で変化していくのかなー、なんてことを考える。

 人の数だけ巨大に膨らむ動きは、増えれば増えるほどゆっくりになる。

 干渉しあってぶつかるとき、巨大なもの同士になるほど、摩擦の熱は高まりやすくなりそう。

 それは学校の部活の中で、ふたつの派閥に分かれて揉めちゃうレベルでさえそうで。

 こういうものなの~! って回転する柱が二本に増えたらどうするかなんて、複雑すぎてわからなくなっちゃう。

 ぷちたちの「よくわからないの~!」と私の「百人一首はこうするといいの~!」という柱がぶつかりあうだけだと? 意味がない。

 ふたつの動力を利用した機械が作れたらいい? そもそもふたつの動力を絶対に組み合わせなければならない? 目的はなに? 易しく済ませるっていうのは、結局のところはひとつの手段に過ぎないけど、どうすんの? と問いかけると?

 私の動力って、ぷちたちにとって、必要なん?

 逆に私の動力って、私にとって、どう利用できるのかな?

 謎やん?

 わからんやん?

 だから考えてみるやん?

 ぷちには必要ないやん……っ!

 いまぷちたちが遊ぶものが、百人一首である必要は?

 それもないやん!

 せっかくミナトくんがいるのだし、いろんな遊び道具をお借りできないかお願いしてみたし、百人一首が響かない子も、なにかしら楽しいものが見つかればと協力してもらえた。

 ユメとココロは燃えているけど、それはそれでいいのだ。

 みんながみんな、同じことをやらされなきゃいけないいわれはない。

 そのつもりになったとき、一緒にやればいい。

 交渉する。

 それを唯一無二の手だとまではいわないよ? 私は新米で、手探りでやってるので、まずそれを大事にしたいという話であって、ただただそれだけ。

 人は対等である、という状態を是とするとき、交渉を大事にしたいと考えている。

 ふわっとね?

 そう思ってる。

 ただし、ぷちたちと過ごしてみると、思いのほか「そうなってねえな!? 世の中!」だし「世の中どうこう言う前に、そもそも私が交渉下手すぎだな!?」だし「そうなってねえ世の中だって、交渉下手なお前がよくも言えたもんだな!?」だし「そもそも自分の感情とも折り合いつけるの交渉下手な私がやるとなると大変そうだな!?」だし「おめ、それで対等だなんてよくも言えたもんだな!? けど志は持っとけ!?」なんだよね。

 たいへん。やべえんです。

 あと、ぷちたちの遊びをいろいろと変えて、みんながそれぞれに満喫できる術を探ってみるのって、なんだかとっても示唆に富んでいる。

 百人一首にしても、ココロとユメ、それに参加してくれてるシロくんたちも、それぞれに好きな札がちがうみたい。ふたりに好みができていることに驚きを隠せないけど、同時にはちゃめちゃにうれしい。そして、ちがうんだなあって、当たり前のことに目から鱗が落ちるよ。ぼろぼろと。

 たまにハイになったテンションのままに「ママ、とれた!」って自慢げにしてくるココロとユメに、顔が終始にやける。他の子たちの「みてみて!」っていうアピールにも。

 これがくたびれすぎて常時、頭がやんわり痛い状態だったら、呼ばれるたんびにしんどくてたまらないのだろうなーって感じてしょうがない。

 にやけながらも、そう気づけちゃうあたり、過酷だ。

 たくさんの子たちの心の圧力が、私の中に流れこんでくる。

 自分の圧力の制御さえままならないのに。

 案外、回転が早くてしがみつけちゃって、逆に離せなくなっちゃった人たちしか残っていない柱の内訳ってさ? どうにもできないし、その余力もない状態なのかもしれないね?

 ままならないなあ、人生。

 予定を立てても、すべてを計算し尽くしたとしても、乱数があって、そのすべてに対処できるよう準備しきって、整え尽くして、さらに改善するには、人生ってたぶん短すぎるし、余裕もないのかも。

 それでも言うよ。

 何度でも言うよ。

 だからなんだ? それでもやるさ。

 開き直って生きていきましょうとも!

 やれる限りをやるとしよう。


「――……はい!」


 ユメの会心の叫びが部屋に響き渡る中、刀鍛冶の「お待たせ!」登場はまだ。

 さすがに遅くない!? まだかかりそうだね!?

 しゃあねえ! 突貫で、急ピッチで無理して進めてるのは、みんな承知のうえなんだ。

 なら、いっちょなんかやってみるとしますか!




 つづく!

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