第千百九十六話
歌ったら歌ったでダメ出しが飛び交う。
別に本録じゃないし、そもそも仮なのでブラッシュアップの余地があるわけで。
私が作り込んでもしょうがないっちゃしょうがないけど、でもダメ出しはされる。
そもそもの私の実力がまだまだなので、トシさんは原石を磨くというよりトンカチで叩いて余計な岩とかを壊して宝石を取り出そうとする。
「ないんだよなあ……片思い感がさ」
「片思い感」
トシさんの次の曲は現在進行形の片思いがうまくいかない、距離を詰められない哀切を歌うもの。
とはいえストレートに「好きになってよ!」ってものじゃない。
好きな人がいて、その人と自分から見てぴったりハマるヤツがふたりでいるときの死にかけそうな焦燥感みたいなものが一番でダメだしされまくるテーマ。
好きな人しかいないんだ。自分を救えるのは。
対してハマってるヤツは自分にはないものをたらふく持っていて、私の好きな人じゃなくても幸せになれそうなんだよね。ただ好意だけで選んでる。
そっちのほうが純愛っぽい。
対して自分が相手に渡せるものなんて、ヤツと比べたらなにもないわけ。むしろ救っておくれよ! ってノリが、相手からしてみたらうざいはずなわけ。
そんなの百も承知だからさ。ヤツが相手をかっさらっちゃったほうがさ? ハッピーエンドになりそうなの。
だけど譲りたくないじゃん?
かっさらわれたら、自分はもっと不幸になるの。
好きで好きでたまらない気持ちは誰にも負けないけど、でもそんな生やさしいストレートさじゃないわけ。
煮えたぎるような欲も絡んでるわけ。
思春期の片思いなめんなよってトシさんに何度も言われては、やり直してるんだけどさ。
どうもうまくいかない。
なにがうまくいかないって、具体的にどう歌えば片思い感が出るんだってところがまるで掴めない。
そりゃあ、私なりの引き出しの中身を探してはトライしてみたけど、エラーの連続。
ギンのときのも、カナタが小楠ちゃん先輩と映画でキスシーンするときのもやもやも、なんなら中学時代のキラリへの鬱屈具合さえも活用した。それでダメならとツバキちゃんが歌詞にこめてくれた思いを一生懸命感じながら歌ってもみた。
でも、ダメ。
切々と。ちがう。ふつふつとした怒りをこめて。ちがう。もうどうにでもなれっていう捨て鉢と、どうにかなったら困るっていう焦りの葛藤。それもちがう!
じゃあなに!?
ニュアンスレベルで掴めないようじゃあ、アレンジのしようもない。
「おい膝カックン」
「やめて!? ライブとかラジオとか番組でそれ絶対いわないで!? 定着しそう!」
「お前ないの? 片思いで死にかける感覚」
「春灯ちゃんに言えるようなの~? ええええ? んん? あー」
待って、とスティックをスネアに置いて腕を組む。
どうでもいいけど私も膝カックンは覚えやすさと弄りやすさが好きですよ!
トシさんが弄るぶんならまだしも、私には笑いで済ませられる力量がないから弄れないなあ……!
「前はけっこう惚れっぽくて、事務所の猛プッシュで初めてやったドラマのヒロインが、いわゆる国民的美少女ふんちゃら~の子で。めっちゃかわいいし、話してみるとすんげえ地味だけど優しくて、すんげえおっちょこちょいで可愛くて。ガチ恋したっすね」
「はやく片思いターン」
「欲しがるなあ!」
週刊誌でも微妙に弄られたんすよ? とぼやきながらも、天井を見上げる。
懐かしんでるのかな。
「言っても向こうはガチガチに事務所が守ってるから。最初で最後のふたりきりが、地方ロケの泊まりでさ? ふたりきりでしたい話があるって言われて、こっそり抜けだしたんすよ! やあ、あんときゃ舞い上がってさー! 絶対告る、んで内緒で付きあう! くらいのテンションだったんすよ!」
「なげえ」
「ひでえ! で! でね!? 地方で澄み渡る星空! 手なんか繋いじゃってさ。ばっちりのロケーションで、彼女の話を聞いて、それっぽかったら告白する気だったわけ! なんなら彼女の話って、俺と同じかも!? くらいには舞い上がりまくってたわけ!」
くるくると手を回すトシさん容赦ないし「ここからがいいとこだから」とぶれないカックンさんも強い。
「そしたら彼女の話がさ? ここまでしてくれる俺にしか相談できないことなんだけど、地元にいる好きな子が死ぬかどうかの手術受けるから、いますぐ抜け出したい。いまの立場捨てても構わないくらい、大事な人だから、どうしたらいいかわからないっていうわけ!」
「おぅ……」
そんな漫画じゃあるまいし、と思いながらも。
「嘘でしょーって思ったよ。キスシーンもやったよ!? そうとう話題になる予定だったよ! ぶっちゃけ俺より彼女メインだったよ! ドラマも!」
売り出し中の少年アイドルのひとり、よりも国民が選ぶ美少女の彼女が主役。
ないわけじゃあない、かな。かなあ? かも。ね?
「地方ロケが最後のロケ地でさ? 撮影終わればクランクアップなわけ。だから決める予定だったわけ。それに彼女の得た立場ってさ? もう捨てるとかそういう類いのもんじゃないじゃん? ドラマもがっつり撮ってんだしさ」
お金がかかってるし、契約回りの問題にも発展するよなあ。
でもって、そんなところで諦めきれる人と、絶対に諦められない人がいるだけの話で。
カックンさんが片思いをした子が、まさに諦められない人だったんだろうね。
でもって、彼女の立場を欲しがる人は大勢いる。だからコンテストもすごい熱気なんだろう。
受かった彼女は成功が約束されているといっても過言じゃない。歴代の優勝者はみなさんバリバリ仕事してるわけだしさ。それこそ就活だよね。
それほどの立場だから、大勢の人が関わっている。ドラマの時点でもそう。となると、めちゃめちゃ迷惑かける。最悪、首を切られちゃう人も出てくるかもしれない。人生がかかっている。
なので「もう、あなたひとりの人生じゃないの」と言う人がいるかもしれない。
辞められたら困るからね。そういう言い方をしてるだけ。ほんとはそれ以外に引き留め方が思いつかないか、プレッシャーでどうにかなんないかなーって淡い期待を寄せているだけ。
言っても私もよく同じようなこと考えるけどね。
でも私の人生の責任は、他の誰にも取れない。逆もまた然り。
保証はないんだよね。
契約さえそう。
だから世の中で契約絡みのトラブルが起きるし、違約金を払うみたいなシステムがあるし、本当に払うべきなのかどうかを巡った裁判だって起きてる。
絶対はないし、完璧もまたないのだ。
そのあたりを前提にして、きつい言い方をする人もいる。
この程度で現場をほっぽりだすなら、今後も続かないからいいんじゃない? 好きにさせれば、とか。
でも、そこまできつく言う必要は、実は一切ない。
行って、様子を見て、無事かどうかわかればいいならさ? 行かせてあげたほうがいいんじゃない? それで済むなら。
もちろん実際には済まないんだよ?
スタッフの滞在費、仕事の費用が余計にかかる。具体的には彼女が戻らない日数分だけ。
だったら彼女がお見舞いに行っている間は解散にするなら、今度はスケジュールの調整と交通費、機材の移動費がかかる。経費が余計に増す。そのあたりの調整はすべて予算次第、契約次第だ。円滑に回せる人がいれば済むだけの話と言えるし、逆にいなければ各々が「で、誰が詰め腹きらされんの?」って緊張状態になる。
早い話、彼女が我慢してくれたほうが、みんな楽ちんなんだよね。お金もかからないしさ。揉めずに済むんだよ。
ぶっちゃけちゃえばそういう話だ。
同調圧力って言ってもいい。
だからどれほど人生の恩人だろうと、特別大事な人だろうと、死に目は見ないで葬式にでもいってよ、ということになるわけ。
そんなメッセージに対して、自分の人生を委ねたいのなら、従えばいい。いやなら手を考えればいい。それだけの話。
仕事が人よりも優先されるか、はたまた人あっての仕事かっていうだけの話だ。
動画配信アプリのおかげで、世界中の映画が観られる。もちろん、作品によってどの程度リアリティを重視しているか、逆に壊しているかが違うよね。リアリティが重視されているにしたって、たとえば料理屋さんだってやまほどあって、そこで働く人がみんな金太郎飴みたいな感じで同じ境遇、同じ人じゃないわけじゃんね?
だから、いろんな職場がある。
普段は人を優先するけど、社運をかけた一大事業の最中だったら仕事を優先しがちになるところもあるだろうし。
納期やばやばなときは仕事優先ってところなんて、それこそやまほどありそう。
自分優先、仕事ばっちり! バランスとって調整きかせられるし、成長に貪欲で失敗を成功に繋げられる人材!
そんなのどこも欲しい気がする。でも実際、いない。ばしばし文句言っても、そういう風には育たない。
なりたいと思った人が、なれる場所で育っていくだけの話じゃないのかなあと思う。
カックンさんが十代の頃に出たドラマってことは、ヒロインの子も十代でさ?
私もそうだけど、無理じゃんね? って思っちゃうなあ。
そんな風になれる教育ではないよね。はっきり言っちゃえば。
できるを伸ばすは当たり前でさ?
できないをどうできるに変えるかが大事でさ。
それが馴染まないと失敗とか問題を避けがちになるでしょ? できなきゃだめになっちゃうんだから。
できないがあるから、できるように変えるの。
常に万全や完璧はないんだから、いかにして省くか。
コスト削減から人を引っこ抜けたらいいよね。問題を人から切り離してさ? 解決も切り離せたらいいよね。
スーパードクターじゃないとできない手術を、機械が担えるようになって、しかも大量生産できたら、スーパードクターはさらに別の仕事に取りかかれる。機械のアップグレードに集中できたら、スーパードクターの手術を世界中で受けられるようになる。
技術革新にはそれだけの夢がある。
もちろん万能じゃない。
上の例えなら、スーパードクターの技術は大きな利益を生む。もちろんそう。機械の権利元になってさ? 権利管理で巨額の富を生むことだってできる。それだけの機械がもし発明されたばかりの頃には、絶対的に偽物で儲けようとする人も出てくる。
そもそも大量生産の段階にならない限り、そうとう高いかもしれない。高価な技術を手にできる国や組織は限られる。そこでも貧富の差による影響が出る。
技術だけに完結しない。
理想どおりにいかない。できないことがある。
でも、できないことがあるから、できるようにすることには価値がある。
だからねー。SF映画で技術を独占する企業が主人公サイドによって滅ぼされたりさ? 製薬会社が敵に回ったりさ? 国とか巨大軍事組織だの、国を操る謎の組織だのの巨大な敵みたいなさ? 権利を握れる団体を攻撃しがちなんだろうね。
他にもあるといいよね。利益を全体に循環させる方法が。あるいは、一部で止めないようにするための手段が。
あればいいけど、正直カックンさんの片思い相手にそれだけの手段がないから、きわどい状況になっちゃってるよね。
「残った撮影は早朝のシーン。ふたりいないといけない。でも撮れない。ロケ先の全景の絵が欲しくて、天候的にも明朝がベスト。台風きてるから、次はいつになるかって微妙なタイミングだ……マネージャーは撮影したらすぐに行こうって言ってくれたらしいんだけどさあ?」
「好きな子の好きな奴が死にかけってか?」
「そ。話しか聞いてないし、どんなもんか医者でもないから知らないけど! 今夜にも出発しないとやばいんだと。どのシーンよりもすんげえいい顔して、どれほど恩人か語られたらさー。諦めるしかないじゃん?」
「どうしたよ」
「いろいろ考えたけど、クラゲが出る時期だったわけ。で、夜中に海で泳いでばちばちに刺されまくってマネージャーとふたりで土下座して延期してもらったし、その後のドラマ出演はすべてなくなりましたとさ」
自業自得っすわと笑う元アイドル。
「彼女はいまも女優やってるし、独り身みたいだけど。会ってない。つか共演NGだし、向こうからもNG食らってる。表向き、撮影スケジュールを遊びで壊して迷惑かけたままだから」
男前っちゃ男前だし、でも仕事先に迷惑をかけた下手人っちゃあ下手人だし、罪をかぶって彼女を助けたところはすごいなあって思いつつも、それにしたって報われなさすぎだし!
「……お前それ、いまでも引きずってんだろ」
「やああ? なんのことっすかねえ。アイドルじゃなくなってもファンが恋人なんで」
よく言うよなあ。
浮いた話は特にないって前に言ってた気がするけど、たんに一途なだけっぽい。
そういうの私はめちゃめちゃ好みですけども!
「じゃあ彼女がドラマでラブシーンやってたら?」
「やー。見ないんで」
「え。一度も?」
「見ないんで。それよりトシさんどうなんすか?」
笑顔でバッサリ流すの、珍しい。
カックンさんにとって、本当に特別な思い出なのかも。
どの女優さんかなんて、カックンさんの情報ページでも見ればすぐにわかるよね。
あとで調べとこ。いまは気になるじゃんね?
「私も気になる! 曲つくってるのトシさんだし、聞きたい! なんならトシさんがどう歌うかも聴きたい!」
「あほか。俺の答え聞いたらお前そこから抜け出せないだろ。まだそこまで器用じゃねえだろうが」
「あうち!」
ゆるめのローキックを太股に当てられてしまいました!
「あるよ? そりゃあ元ネタはな。でもそれじゃあ俺が歌えば済むだろうが」
「そりゃあ、そうなんですけどお」
「トシさん、俺らに言いたくないだけなんじゃ? もしかして、相当みっともない片思いだったとか!?」
「うっせ」
たった一言で黙らせちゃうの、暴君すぎませんかね!
「お前さあ。なげえ話のわりに、年相応のがんばりが見えただけじゃねえか!」
「えええ!? 話せって言ったのトシさんでしょうが!」
「さっきまでの俺のフリを思いだせ! どうにもならない片思いなんだよ。自分より適当な相手がいるわけだよ。でも、自分には相手が必要なんだよ」
「ずっと聞いてて思ってたんすけど、なんかペットを預けた人がもう返したくないって言ってきてそりゃないよってなってる人みたいな心境っすね……」
「お前さあ」
それはないだろって突っ込んでるトシさんにとっては急所だったのかも?
たまーに! 聞く話かな。
タマちゃんを私から引っこ抜いたファリンちゃんへのジェラシー?
んー。
近いような、遠いような……。
『遠いじゃろ』
タマちゃんまで断言しないでよ!
『幼いのう。己の不徳を誰かに押しつけ解決を頼むなどと』
『それが人の欲というものだろう。妖狐であったわりに、覚えがないか?』
『おのれ十兵衞!』
ぷんぷんタマちゃんの怒りを受け流す十兵衞の会話を聞きつつ、腕を組む。
や、でもありがちだと思うよ?
お互いさまっていうか、支え合いみたいなところはあるしさ。
でもねえ。
カナタさんの荷物を私がぜんぶ背負えないし、私の荷物をカナタさんがぜんぶ背負えない。
いきなりは特に無理。
結婚したからおしつけちゃれー! って思考だと熟年がつくかどうかはさておき離婚まったなしのような気がするし。そんなこと言ってもさ? 結局は人によるんだろうし。
好きな人となにをしたいのかのイメージって、実はけっこう曖昧だよなあとも思う。
付きあうからえっちなことしなきゃいけないなんて、そんなこと絶対ない。付きあうからほにゃららする、じゃなくてさ。
お互いを特別な人として、尊重したり、許したりすることを増やしていくだけなんじゃないかなあって思うなあ。まずはさ。
カナタとした具体例で言えば、ベッドで一緒に寝るとか。ユニットバスを共有したりとか。ふたりでなんてことない時間を過ごすとか。洗濯や掃除をするとかさ。生きてる人間として、生々しい部分も込みで、一緒に過ごすことで相手との時間を共有するじゃん? アイドルならトイレ行かないって言えるけど、ふたりで過ごせばトイレの音さえ聞かれちゃうよ。そりゃあね! おならで済まないよ? もちろんだよ。
でもそんなイメージない頃でしょ? トシさんが言ってる片思いって、たぶん。
自分の片思い、あるいは自分が相手に見る夢の熱度が高すぎて、しかもそれが脅かされそうな現実にびびってるって話なんだよね?
でもなあ。
それだけじゃどうにもOKもらえないんだよなあ!
トシさんは気難しい!
私への期待があるから、改善要求込みのNGと、その後の相談タイムが生まれる。
どうにかものにしたいけど、まだまだ見えてこない――……。
◆
キラリの現場で揉めごとが起きたみたいで、高城さんが急きょフォローに行っちゃった。
代わりにトシさんがバイクの後ろに乗せてくれる。事務所にいた山岡さんが「あの、春灯ちゃんはいま繊細な時期なんでスキャンダルになりかねないから」と難色を示すも、誰も手が空かず、タクシーを呼ぶ暇もないくらい時間が押しちゃってた。
すべて私がうっかりしてたせいなんですけどね……っ! ほんとすみません……っ!
で、ただいまトシさんの背中に抱きついてバイクで移動中。
都内だとかっ飛ばす以前に信号でよく止まる羽目になる。すると、めちゃめちゃ目立つわけで。最短距離で南下して、高速湾岸線に乗って横浜方面へ向かうことになった。
もしかしなくても電車のほうが早いのでは?
そして私の露骨な見た目はごまかしようがなさすぎるのでは?
金色隠せても尻尾隠せず!
狸な合戦のアニメ映画で尻尾を隠す化け術やってたけど、私はまだできない。レンちゃんあたりに壮絶にバカにされてもいる。おのれ……!
それはさておき、結局は車移動のほうが穏便に済むのって切ないけど、せっかくの機会だから聞いちゃおう。
「トシさんトシさん。宝島で綺麗な妹さんといたじゃないですか」
「あ? おう」
そんなことがあったんですよ。おぼろげながら覚えてるんですが!
ほとんどまっぱ、あるいは全裸だった気がするんだけど。
妹さんは女神ですって言われても通じそうなくらいの美人さんだった。
「妹に手を出す兄がいるって、信じられます?」
トシさんは絶対そういうタイプじゃないよなあと思うけど。でも、清川さんちはちがうからさ。
なにがちがうんだろうね?
「俺にしてみりゃ、オムツの世話した妹相手にって考えられないけどな。まあでも、世界は広いわな」
「まさかの世界規模?」
「お前もさ。弟に手は出さないだろ?」
「想像する気にもならないですけども」
私だってトウヤがちびっこの頃から、私なりにではあるけどお世話してきた。
むかつく時期もめちゃめちゃあった。正直なかったって言ったら嘘になる。
ケンカだってやまほどしたしさ。ノリと勢いの姉にうんざりした弟は、姉より賢くなる道を選んだようでさ? むしろトウヤにしょっちゅうフォローされるようになってたよね。
うれしくはあるけど、でも百パー家族で、それ以外の感覚はないなあ。感情の湧きようがないレベル。
「ないですねえ」
「でも、いるんだろうな。世の中にはさ。周囲になにかができないヤツがいたらさ。できるようにやれることをするんだけどな。ま、俺はきついほうだと自覚してるけど」
「たまにきついですけど、全般的にトシさんは優しいから、私はいつでもウェルカムですよ?」
「はいはい。で、できないヤツを攻撃するヤツもいるんだよ。攻撃の種類は、それこそやまほどあるんだけどな? その中のひとつが、お前の言うようなことなんだろ」
「はあ……」
「んでもって、攻撃するヤツほど、相手にぶつける言葉がブーメランなんだよな。お前はなになにができないから悪いって言ってるヤツは、なになにって部分にしんどさを抱えてんだろうなあって思うことは多いね」
「あああ」
わかるかも。
「攻撃の内容が執拗だったり、過激なほど、そいつはてめえの傷を治せずに泣く赤ん坊みたいな状態なんじゃねえのかな」
「それだと……なんだか世の中、わりと地獄みたいです」
「だから、そのへん弁えてるヤツは地獄を生きる奴と距離を取るんじゃねえかな? 地獄にいると、地獄の景色しか目に入らないからな。地獄に似合いの行動を取りがちなんだよ」
言い得て妙かも。
「トシさん、うちの学校の卒業生とかじゃないですよね?」
「ははっ。だったら笑えるな?」
豪快に笑って「落ちるなよ」とアクセルをひねる。
あわててしがみついた。
地獄のような行為を繰り返す人には地獄の景色しか目に入らないって、かなりしんどい断絶を示唆してる。
世の中には武装組織に占拠された地域があって、そういう人たちを追い出すには武力しかなかったりするんだろうなあとも思える。
一方で、そういう場所で行なわれている惨たらしい犯罪行為や、そういう場所を利用して儲ける国々の暗躍を暴こうと危険に身を捧げるジャーナリストもいるけど、即効性や結果がはっきりと見えないものに懐疑的なところが私たちにはあって、なかなか応援しきれない。迷惑だと感じてバッシングをする人もたくさんいる。そこは人の感じ方だから、こう思わなきゃいけないなんてメッセージでどうにかなるような単純な話じゃあない。
ただ、ね。
タマちゃんと十兵衞と三人で挑めるようになってさ? 誰かと御霊との絆を繋げられる御珠を宿せるようになってさ。アマテラスさまのお世話になってもいるのに。
私には思いのほか、できることがない。
できないことが盛りだくさん。
それで折れそうになる。
清川さんの兄問題なんか、最たるものだ。
でも、繰り返しているようにさ?
できないことをできるようにするの。
いきなり花丸満点なんて無理。失敗もやまほどするはず。
構うもんか。
失敗がどうのじゃないの。
勝ち取りたい未来があるのです!
――……って、そう考えるとモチベが湧くかな!
清川さんの名前、ぜったい意味があると思うんだ。
親御さん問題に関しては、名前からアプローチをするのもいいかもしれない。
いまひとつ手が浮かんだでしょ?
即効性のある薬はない。これ一錠飲めば万病が治る! なんて、そんなのあったらむしろ詐欺の道具でしかないよね? さすがにさ。
それと一緒でさ? 関係性のこじれもねー。いろいろやることあるよね!
なら、これまでと一緒じゃんね?
こつこつやっていきましょっかね!
つづく!




