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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十六章 期待外れのメンバーシップ?
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第千百九十五話

 



 聖歌や美華からの抱擁なら常時大歓迎。ルイの抱擁はふたりきりのときなら。

 でも黒宮マオの抱擁はいつでもNG。拒否したいのに、


「ねえ理華ぁ。どこにいってぇ、なにをしらべてきたのぉ?」


 学生寮の正面フロアのソファでくつろいでいたら、背中から抱きつかれて手でまさぐられている。衣服の隙間やポケットを。センシティブな場所を弄る合間に。目的が盗みならバカにしているし、セクハラなら達成されているところが腹立たしい。

 この手のヤツとの縁は切るに限る。

 告発したら離れられる世の中というわけじゃないから、場所を変えるのが手段になり得るし、人によっては選べない。私もそうだ。


「変なところを触るな弄るな、のしかかるな。契約条項に加えておきましょうか」

「マオの占い、必要なんじゃなあい?」


 うぜえしきめえ。言ったところで聞きやしねえ。

 魔女の相手は厄介だ。春灯ちゃんは苦労していないのだろうか?

 マオの師匠である八雲マリに。

 私は早速辟易してる。予想どおりに。

 そんなわけで立沢理華、ただいまだいぶしんどいです。


「いりませんてば」

「兄弟子の不始末、つけたいなあ?」


 無理矢理される頬ずりって、しんどい。

 身内はおろか彼氏でもNO! なので魔女は余計になし。

 彼女の言葉は虚実を混ぜている。もっとも単純な嘘のごまかし方。

 腹を晒さないヤツは信用ならない。

 暴く側で自分に自信があるなら、隠した腹の底も見えると思いがち。

 そして隠す側で自分に自信があるのなら、腹の底のことを隠しきれると思いがち。

 どちらもわりと片手落ちになりがちだ。要するにバレるのだ。

 だから晒して困らない腹を見せ、晒して困る腹の底を隠す――……なんて、それっぽかったですか?


「狙いはなんですか? 本当はウィザードを助けたいんじゃないですか?」

「んーん? 理華が彼に用事があるんじゃないかと思って。マオとの事件、あいまいな記憶――……許せるたちじゃあ、ないよねえ?」


 胸の谷間を指先でなぞってくるの、心の底からうっとうしい。

 加えて弱いところを突いてくるあたりが憎たらしい。

 そうとも。私は彼に用がある。

 ただし警察が調査している最中にあいつの懐に転移するのは最後の手段にしたい。

 だからまずは穏便な手段を選びたいだけ。とはいえ、放置する気もない。

 まずはウィザードを捕まえたい。

 狼少女の件にあいつが関わっているのは間違いない。

 赤髪少女たちに関与した罪まで暴ければ?

 どの程度の関わりか次第にはなるが、うまくすれば長期間のムショ暮らしは間違いないのではないか。

 裁判で確定する罪刑次第。それにはやっぱり一にも二にも証拠がいる。

 怖いのは、ウィザードの術の真価が不明な点だ。

 記憶の操作。

 消去だけなのだろうか。

 ねつ造もあるかもしれない。

 離れていても発動できる魔法だったら?

 なんでもありじゃないか。


「ほら、ねえ? マオに聞きたいことがあるんじゃなぁい?」

「――……あなたじゃなくても別にいいんですよねえ。ユニス先輩や八雲先輩がいるわけなので」

「あっ、それずっるい!」


 気づかないほうがどうかと思う。


「ねえねえ。マオに聞いてみよ? で、マオに理華の悩みを打ち明けて? 協力したいの。ねえ?」


 クレイジーでサイコなこいつにまとわりつかれる時間が増えたおかげで、聖歌たちとの時間が持てない。ほんっと迷惑。

 いや、わかってる。会わせればいいと。ワトソンくんやスバルたちもいる。信用して、仲間を頼れと。

 しかしこいつの脅威度がまだまだ未知数だ。

 特にこいつが示唆する過去のあやふやさが、私の計算を乱す。

 ランダムな数値じゃ困るのだ。

 どんな値が出ようと対処できる自信がない限り、敵側のジョーカーになりかねないマオをみんなに会わせたくない。

 みんなが傷つくどうこうもあるが、それで私が自分を許せなくなるのが目に見えている。

 そんなストレス、耐えきれない。

 小学生時代にマオが見せた殺人儀式が真実なら、二度目になる。

 ママと揉めていた時期のパパが、自分の失敗に本気で苛立って吐きだしていた言葉がある。二度同じ失敗を、無策に繰り返すヤツはバカだ。そんなの許せないと。

 プライドの高さを、普段はあまり人に見せようとしない。パパは自分の成長のためにプライドを活用している。けど、それが行きすぎてたまに自分を責めてしまうのだろう。

 かつての私はパパの言葉を額面通りに受けとった。いまではちがうイメージを持てるけど、でもやっぱりふとしたときにパパと同じ感覚に陥ってしまっている気がする。

 たとえばいまがそう。

 あのときの失敗を繰り返すのはごめんだ。二度目はない。あってはならない。

 重すぎる責任だと投げ出したがる気持ちは、とうに捨てている。けど、怖さが消えるわけじゃない。消えるはずがないのだ。聖歌たちを大事だと思うほど、失いたくなくなるのだから。直接的に奪うのが自分じゃないとしても、止められなかった自分が許せない。

 そして、マオは不確定要素の固まり。

 盤面を狂わす存在は、わかりきった状況に誘導するのが鍵になる。


「じゃあ八雲先輩とユニス先輩あたりに相談しにいきましょうか。ふたりで」

「ええええええええ!? マオはぁ! 理華とふたりきりがいい!」


 首に抱きついてこられてもうっとうしいだけだから。

 すんごく単純な手を選ぶが、すぐには浮かばないので許せ。

 私は万全を期したい。マオに関しては。


「だめ。あなたを信頼できるようにならない限り、ふたりきりは禁止」

「実質、ふたりきりのようなものじゃなぁい?」


 背中に抱きついた彼女が指を鳴らす。

 そして、世界は凍りつく。

 学生寮の外に出ようとする人も、食堂から二階にあがっていく人も。

 それに、なぜだか怒った顔してこちらに歩いてこようとしているマドカちゃんさえも。

 静止していた。


「いつでもなれるよ? ふたりきり」


 耳元でささやく声の熱量が本気すぎてドン引きだ。

 指輪から感じる熱のままに指を鳴らす。

 そして世界は動き出す――……のではない。

 マオが指を鳴らして見せた世界と私が指を鳴らすまでの空白を補うように、いきなりマドカちゃんがぐっとそばに迫る。

 幻像を見せて、止まったように錯覚させただけ。音も聞こえないように細工したかもしれない。

 ただしマオの魔法も、さすがに姫ちゃんのような力が使えるわけではないようだ。

 認知できない限り、ふたりきりのようなものではないか。

 ある意味、哲学的ではあるけれど。やっぱりうっとうしいことには変わりない。


「理華ちゃん、ちょっと相談があるんだけどッ!」


 怒りが溢れているマドカちゃんの呼び声に苦笑い。

 やらなきゃいけないことが盛りだくさんだ。

 現状、うちの学校でウィザードか清川未来に近い人ほど大変。

 助かる道がひとつある。

 清川未来からピアスをもらえ。

 奪ってもいいが、しかし活躍されたら面倒だ。ウィザードが彼女を狙いかねない。

 すべきことがいつ殺すかに集約される社会がなぜ存在するのか。

 単純だ。

 余裕がないし、保証が欲しいのだ。

 そうして殺人者が今日もどこかで人を殺す。

 それを止めるために、人が生きることの権利を強化する。

 生かす社会を望むのは、明日を生きる余裕と保証が欲しいから。

 殺す社会を望むのは、自分からなにも奪われないという余裕と保証が欲しいから。

 どちらも現状の余裕を説明はしない。担保の必要性もない。

 生かす者がいて、殺す者がいる。

 同じように、助けるか、追い出すかの二択が存在する。

 けれど、二択を強いられても常に第三、第四の選択を作っていいし、結局なにを欲するかで、どのような選択をしようと生き様が露わになっていく。

 春灯ちゃんを旗印に掲げた私の選択はとうに決まっている。

 それが最も困難な道だとしても。

 未来は救い、救われるためにこそある――……なんて、ネタバレになりますかね?

 ネタバレにしたいですね!

 立沢理華でした。


 ◆


 捜査本部は混乱の最中。

 男子トイレで刑事部の旧友から緋迎シュウに回ってくる情報といえば、


「狒々と牛鬼な。蜘蛛にされた少女らと同じく植物人間状態だそうだ」

「その診断でいくのか」

「いつだって時間に猶予はないんだよ、緋迎。奴らを討伐した結果かと怒りの声があがりはじめている。そちらの進捗は?」

「既に各国の機関と内々に情報を共有して、対処プランをまとめている。治療は可能だと伝えたとおりだ。遅くても今週中には」

「なら、できるだけ早くしろよ。責任を取らせたくてたまらないらしいからな」


 具体的に誰がどうとは言わずに、旧友は離れていった。

 後ろをふり返る。個室の扉は事前に確認したときのまま、空いている。

 廊下にも気配はない。

 深呼吸して済ませ、手を洗い、乾かしてから廊下に出る。

 対策室に向かいながら思案する。

 既に情報収集は進行中。

 ユラナスから回復手段があると聞いており、手配してもらっている最中だ。

 時間がかかっている。早ければ早いほどよい。

 で、治療が済んだらどうなる?

 捜査が始まる。

 しかし期待はしていない。捜査本部は被害者や被疑者の証言を頼りにしているが、旧友と自分の見立ては絶望的だ。

 それもそのはず、ウィザードは記憶を操作する魔法が使えるという。

 なるほど。便利な力だ。

 日本の隔離世の侍、そして刀鍛冶とは異なる力の使い方をする。

 魔法使い。あるいは魔女。

 自分たちと同じ霊子を力に使っている点は変わらない。

 なのに彼らは霊子を魔力と呼び、己の霊力のみならず、周囲に漂う霊子も自在に操る。

 ただし万能性はないようだ。RPGの魔法使いのようにはいかないようである。そのあたりは自分たちと大差ない。

 みな、なにかに特化しがちだ。

 ならば大勢が集まることには意味がある。

 そこは魔法使いたちの社会でも同じようだ。

 ユラナスたちの組織は魔法使いだけじゃなく、刀鍛冶に相当するブラックスミスなど、多様な能力者を抱えている。

 多様性を羨むことはあるが、今回は恨めしい。

 治療ができる人材が圧倒的にすくない。

 士道誠心にいる夏海聖歌の噂が警視庁の侍隊に一瞬で広まるほどに、人材不足だ。

 恥ずかしながら、被害者たちの治療に彼女へ協力を依頼して、空振りだった。罪の意識を感じさせてしまったようで、彼女はこちらが申し訳なくなるほど謝罪し、落ち込んでいた。

 成功体験を積ませて、自信をつけてもらえれば尚いいが、それを着実に実行できるほどの先達がいない。結果として、彼女に負担を強いてしまっている。

 そもそも消耗が激しいのだ。侍隊は。なのに治療ができる人材が圧倒的に足りていないから、邪が育ちすぎると被害が出てしまう。実に歯がゆいじゃないか。

 夏海くんほどピンポイントではないにせよ、青澄くんの広範囲に渡る癒やしの奇跡は毎回頼りたくなるほどだ。

 侍隊の中には「若い子は夢があって」や「戦いを知らない世代なんすかねえ」などと言うヤツが出てきて、本当に参る。ちがうだろう。自分になにができるかを考え、行動するのが自分たちの霊力を育てる術ではないかと訴え続けている。

 冠である自分が頼りないせいか、と。何度も自分を責めてきたけれど、そういうことでもないとカグヤに叱られる。荷物として背負うなと。追いたくなる背中を見せずにどうすると。

 だから次なるスーツを作る社長がいるのだろう。それがコミックの人物だとしても、そこに説得力を見る。よくわかる。

 旗を振る。追いかけたくなる場所へ、ついてこいと示すのだ。

 切りかえろ。

 ウィザードの調査が済めばいい。

 部下ふたりの待つ部屋に顔を出して、尋ねる。


「彼女たち、来てる?」

「待ってますよ」

「けっこう怒ってました」


 自分たちもねと言わんばかりの佐藤に「ごめんごめん」と緩めに返す。

 本番はこれから。

 明坂ミコや八雲マリ、そしてシャルロット教授ら、現状で集められる知識者に力を借りてウィザードの魔力とやらを調べる。

 隠しごとが上手なヤツで、未だに手こずっている。

 そうそうたるメンツを集めて尚だ。

 力を発動させるのが最も手っ取り早いが、しかし誰かの記憶を消せなどと言えるはずもない。

 結果、未だに成果を出せずにいる。

 山吹くんを呼んで、あらゆる角度で試してみたものの、空振りだ。

 中途半端でやめられるわけがない。かといって誰かの記憶を材料に取引するなどという過激な手段を選べるわけでもない。

 蜘蛛女にされた被害者たちの治療が済んだら、ウィザードの霊子が関与していないか調べたい。しかし、治療したら即座に証言を取るという手順を変えられそうにもない。

 如何せん、侍隊はまだまだ立場が低く、対策室も発足して間もないせいで、警察内部を相手にした政治においては身動きが取りにくいためだ。

 本来なら、彼女たちの力を借りるには、治療が済んだ被害者たちに話を聞ける段階になってからが望ましいと思えるくらい、なんの進展もない。

 しかし旧友の手前、ウィザード相手にプレッシャーをかけないわけにもいかず。そんなこちらの手の内を読まれ切っている気もするから、尚更頭が痛い。

 山吹くんの機嫌は損ねてしまったようだし、尾張くんの調査もいまのところ進展なしだ。

 それでもやめるわけにはいかないから、お仕事というやつは大変なのである。


 ◆


 お仕事というやつは大変なのです。


「お前さあ……マジ?」


 スタジオで仮歌を歌ってみることになって、一回歌い出した瞬間にトシさんに止められた。

 で、いま私は信じられないものを見るようなあきれ果てた顔をされているわけです。


「集中してないにも程がある」

「うっ」


 しょうがねえ。しょうがねえんですよ、トシさん!

 私にはいろいろと抱えている事情というやつがありましてん……っ!


「いろいろあるんですってばー、トシさん。こないだもスタジオで切った張ったやったって話題ですよー?」

「膝かっくんみたいな芸名したヤツは黙ってろ!」

「ひでえ!」


 トシさんキレッキレ。ちなみにキレたら怖いナチュさんは自分のバンドの仕事で、今日は合流が遅くなります。不幸中の幸いっ! あとでトシさんが絶対ばらすけど! もうわかってるけど!


「いいよ。いろいろあんのは。みんないろいろあるよ。切り替えの方法とかねえの?」


 ギターを置いちゃった!

 いまの私、歌をまったく期待されてないいいい……。

 凹むんだけど、必要な相談をしろよターンの到来なのは間違いないから、せめて話さなきゃ。


「――……特に? ひぇっ」


 握った拳を掲げるポーズはやめてくだしいっ!

 パワハラでやんすっ!

 ぜったいぶたないけど! トシさんそこまで鬼じゃないけどっ!

 圧がガチなんだもん!


「膝カックン」

「やめて!? いちおう元アイドル! アイドル時代のあだ名!」

「切り替え方法は?」

「スルー! えええ? ……おれえ? 酒?」

「十代でもできることをいえ!」


 くわっと目を見開いてキレるトシさんにカックンさんが「ないっす! 強いて言えばファンの歓声っす!」と返す。

 でもなあ。切りかえるたんびにハイになりすぎるのでは?

 毎回、会場で録音してさ? それを再生して楽しむとかかな?

 ありとは思う。実際、めちゃめちゃありがたいもん。ありがたみの結晶だもん。

 あとねえ。

 お酒はよく聞くよね。大人から。


「友達と遊ぶとか、彼氏と一発とか、いろいろあんだろうが」


 トシさん、すんごいわかりやすいっ!


「もっとそれをこう、ぎゅぎゅっと凝縮して、こういうときにできることねえの?」

「なんだかんだトシさん優しいっすよね。俺、そんなん聞かれたことないっす」

「うちの事務所のアイドル、ばっきばきに怒鳴られてたろ」

「そうなんすよ! ……って、なんで知ってるんすか」

「同じ事務所だぞ? それに有名なんだよ」


 ばりばりの体育会系がどうのとふたりがしゃべっている隙に考えてみる。

 清川さんはスイッチがなさそう。

 必死に耐えるしかない。常に気を張っている。

 それじゃあやがてつらくなるよね。

 なんていうのかな。

 ずうっと廊下に立っているみたいなさ。そんな状態じゃない?

 座っちゃダメなの。足を曲げるのもダメ。

 そんな状態で強風だの、ぶつかられたりだのしても耐えなきゃいけないみたいな状況。

 ほんとは座っていいし、足を曲げてもいい。

 どれほどきつい状況でも、なにかしら気を紛らわせて、次にいくためのスイッチがあると便利だよね。

 常に全力で走り続けられるもんじゃないもの。

 私もおんなじ。

 山盛りなタスクを「なんとかしなきゃいけない壁」として、たったひとつの巨大な壁のように捉えて「うおおおおお!」って体当たりしたり「でっ、でかすぎる!」ってびびったりしてちゃあね。

 歌のときは歌!

 清川さんと話すときは清川さん!

 そんな具合に、壁をきちんと分解して捉えないとさ。

 集中以前の話だよね。

 やらなきゃいけないことがたくさん増えるほど、時間ごとにきちんとひとつだけに集中するのが大事かも。少なくともいまは。

 理屈はだいたいイメージできたけど、気持ちが追いつかない。

 心と体にがつんとスイッチが入らないと、魂のらない。

 なんだろう。

 手のひらに人って書いて飲むとか?

 座禅?

 深呼吸?

 できるできるできるできるぅ~! って唱えるとか?

 腕を組んで考え始めたときだった。尻尾がぐっと重たくなったのは。

 ふり返ると、ぷちたちがぞろぞろ出てきたの。

 私の前に並ぶ。ユメが「そこ、もうちょっとうしろ。そこはもちょっと前」と指示を出して、三角形のフォーメーションを組むんだ。

 トシさんもカックンさんも、もちろん私もみんなでぷちたちを見る。

 するとね?


「ゆゆゆっ!」


 以下省略するけどもね!

 じわじわ流行り、もう絶対今年の覇権とるでしょって勢いで爆発しそうな曲を歌いながら踊り始めたんですよ!

 教えたことないよ?

 ハロウィン用のきぇひひシェフな遊びで取り入れようと相談したこともない。

 なのに、プロモ見て完コピしてる……っ!

 いっ、いつの間に……っ!

 そりゃあキラリが羽村くんたちとじゃなく、ユニスさんとコマチちゃんとアリスちゃんとで、四人で踊ったショート動画あげてたけど!

 私は話きいたあとに動画チェックした程度だよ!?

 みんなして必死だし、ちょこちょこ遅れてる子や、逆に弾けすぎて中盤で息切れしてる子もいるけども。

 私の大好きなぷち劇場に新曲登場の瞬間だったよ……なんてこったっ!

 最後までやりきったみんなが、わあああって歓声をあげてハグしたりハイタッチをして、きゃっきゃと盛りあがっている。

 私ってば完全置いてきぼりだけど、でも正直びっくりした! 感動した! いつの間に! すごい! 睡眠学習!? ほどがあるでしょ! さすがにそれはないよ! じゃあ天国でこっそりアマテラスさまと練習してたとか!? あり得る! そっちのほうがあり得るよっ!


「ご機嫌じゃんか。俺の好みじゃねえけど」

「ええっ? 俺は好きですけどねえ」

「いやいや……いやいやいやいやいや……」

「まままっ、好き嫌いはありますからね! トシさんの好みはさておき! ぷちちゃんたち、すっげえじゃん! え? 楽しそうじゃん!」

「「「 どやああああ! 」」」


 ユメを筆頭に主張するぷちたちが率先してアピールする中、ひいこら言ってる子が他の子に背中を撫でられてたりもする。なんならユメたちだって汗だくだ。

 でもなんかスッキリしてるんだよねえ。

 集中できてるから、なのかなあ。

 対する私には集中力が欠けていた。それはもう、まちがいなく欠けまくっていた!


「んんんっ! かわいい! すごいねえっ!」


 みんなを褒めまくりながら、頭のどこかで考える。

 集中スイッチだ。

 それってたぶん、ゼロから百にがつんと切りかわるほど便利なもんじゃない。

 でもって不思議と、閃くと全力投球できちゃうもの。

 やる気なのかなあ。それって。

 願っていても「いまはむり~」って凹むときはある。

 欲していても「それどころじゃない~」ってうだうだするときもある。よね? あるよね!?

 じゃあ、よっしゃやるぞう! ってなるために必要なのって、なんなんだろう。

 意欲のために必要なの。

 ぷちたちを見てみるとね? みんながちらちら私を見てくる。

 ひとりひとり褒めてよしよしする。めいっぱいする! 愛でまくるよ! そりゃあもう!

 かわいくてしょうがないもん!

 どの子もね? 聞きたいことはひとつだった。


「うれしい?」


 すごかった? とか、よかった? とかの問いかけのあとに続く言葉。

 気を遣ってくれたんだ。元気出してって思ってやってくれた。

 その気持ちがありがたいじゃん?

 でもって、ついでに「ごほうびある?」なんて欲張りな子もいたけど、今日のはもうあげちゃう!

 いろんな意欲がきっとあったろうけどさ。

 喜んでくれたらいいなあっていう気持ちがあって、がんばったんだよね。

 踊るのしんどいとか、覚えるの大変とかでがんばれないもんなあ。

 正直ね。そうじゃない? そんなもんじゃない? 結局さ。嬉しいことが待ってるからがんばれるし、しんどいぞ、でもやれよって言われたらがんばるの大変じゃない? そんなもんじゃんね。

 高城さんのオススメでもらったモチベに関する大百科の本の言葉と重なるんだ。

 目の前にたとえば仕事があるとしたらさ?

 意識や意欲というモチベと、仕事を実行する心身の健康と、達成するための時間の管理が大事じゃんね? って話があった。

 実際にナチュさんあたりに話を聞いてみたらね?

 モチベを潰したり、健康を損ねても気にしなかったり、時間の期限がやたらシビアな現場だと、人って簡単に潰れちゃうらしいよ? それか、能率がぐんぐん下がるんだってさ。期待していたクオリティにならないだけじゃなく、次の仕事に繋がらないくらい関係性が悪化することもあるから、三つの柱を大事にできない人が仕切る現場は依頼の時点で絶対に断れるように準備するって言ってた。自分と仲間が損するだけだからってさ。

 逆に言えばさ?

 ぷちたち元気。時間もあった。で、意欲が持てた。それがやるぞって気持ちと行動に繋がった。結果論かもしんないけど! 大事だ。

 私は今日のスタジオで働ける時間を見失っていたし、モチベをそもそも意識できてなかった。これがハードル。次はどう越えるか。

 テンパってた。トシさんの顔も、カックンさんの顔も見れてない。そもそもぷちたちが企んでたことにさえ気づけてない! いくらなんでもテンパりすぎてた。

 楽しい時間じゃんね?

 楽しまなきゃ損だ。つまらなく退屈にしちゃってた。

 めいっぱいぷちたちをまとめてはぐしながら、トシさんをちらっと見た。

 おせえって唇だけで言われたし、隣でカックンさんが笑ってた。

 きつい状況に陥ると、きつくなる人は多い。私もそうだ。

 清川さんと兄の関係は、そう見える。お父さんやお母さんとは、まだわからないけれども。

 ぷちたちがくれたような気持ちと気づきを、清川さんに渡せたらいいのかもしれない。

 すぐにどうにかなるわけじゃないけど。

 暗中模索の状態なら、ライトを渡したい。海の中みたいな状態なら、酸素ボンベとかがいるし、潜水艦で迎えに行けたらいい。道具を渡すんだ。彼女が切り開きたい道へ、彼女が求めるように進める道具を。

 私が押しつけてもしょうがない。

 彼女が自ら気づき、選べるものがいい。

 たくさんあればあるほど、気づきやすいかな。

 それはまだわからないけど、方向性が見えてきた。

 この調子で、いまはスタジオでやるべきことに集中しよう。

 スタジオで歌。歌のお仕事でいえば、次の楽曲販売やライブのための時間だ。

 なにが待っているのか、ありがたいことに一通り経験させてもらったと思っている私ならさ?

 前よりも、なにが待っているのかイメージできるはず。

 次に向かうポイントを見失うと、途端にテンパる。なら? ポイントを設定すればいい。

 うっし!

 いっちょ歌って、あげていきますよ?




 つづく!

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