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『また従妹に譲ってくれ』が四十八回目だったので、儀礼台帳を白紙に戻しました  作者: ヲワ・おわり


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第66話 受け取っていいのだと

 翌朝、アシュリーは早く目が覚めた。


 いつもより一時間ほど早かった。眠れなかったのではなかった。目が覚めて、しばらくの間、天井を見た。昨夜のことを考えた。


 ロドリクの言葉が頭の中にあった。「あなたにここにいてほしい。妻として」「あなたの名前を、今度は私のそばで生かしてほしい」「後悔したくなかったからです」。その言葉を、夜の間、何度か思い出した。思い出すたびに、同じ場所が揺れた。胸の中の、どこか静かな場所が。


 答えは決まっていた。いつ決まったのかはわからなかった。昨夜の話を聞きながら、すでに決まっていたのかもしれなかった。眠りにつく前に、決まっていたのかもしれなかった。


 「少し考えさせてください」と言った時は、本当に考えていた。受け取っていいのかどうかを、もう一度確かめたかった。部屋に戻って、暗い中でひとりで確かめた。受け取っていいのかどうか。答えはわかっていた。でも一度確かめてから言いたかった。焦って答えを出したくなかった。この人はそれを許してくれるとわかっていたから、時間をもらった。


 起き上がった。顔を洗った。着替えた。シエルが来る前に部屋を出た。


 廊下を歩いた。城館の朝は静かだった。まだ使用人の多くが起きていない時間帯だった。石の床を歩く音が聞こえた。遠くで、誰かが炉に薪をくべる音がした。厨房の人間が早くから働いていた。廊下の窓から外を見ると、空が少し白んでいた。夜明け前の色だった。


 ロドリクの書斎の前に来た。


 扉の前で立ち止まった。一度だけ息を吐いた。準備ができているかどうかを確かめた。できていた。


 ノックした。


「どうぞ」


 ロドリクの声がした。もう起きていた。早起きな人だった。


「お時間をいただけますか」


 扉を開けた。ロドリクが書類を持ったまま顔を上げた。卓の前に立っていた。アシュリーを見た。すぐに書類を置いた。


「どうぞ」


 部屋に入った。向かい合った。朝の光がカーテンの端から差し込んでいた。書斎は少し暗かった。でも二人の顔は見えた。


「昨夜、考えました」


 アシュリーは言った。


 ロドリクが何も言わずに待っていた。


「受け取っていいのかどうか、ずっとわからなかったのです。大切にされることを、受け取っていいのかどうか」


 言いながら、それが本当のことだと思った。四年間、大切にされることを受け取る方法を知らなかった。誰かにとって必要だということと、誰かに大切にされるということが、どう違うのかをずっとわからないでいた。必要とされることには慣れていた。役に立てば必要とされる。役に立てなければ必要とされなくなる。そういう仕組みはわかっていた。でも大切にされることは、役に立つかどうかとは別の話だった。その別の話の受け取り方が、わからなかった。どこに置けばいいかわからなかった。


「ずっと、わからなかった」


 アシュリーは続けた。声が少し変わったことに気づいた。落ちていくような声だった。


「受け取っていいのかどうか。誰かにそばにいてほしいと言ってもらえることを。誰かが自分のために動いてくれることを。大切にされることを。受け取っていいのかどうかが、ずっとわからなかった」


 声が震えた。


「でも今は……受け取っていいのだと思えます」


 言葉が出た瞬間、何かが動いた。胸の中で。喉の奥で。四年間、ずっとそこにあったものが、今日この言葉で少し動いた。


「……はい、と言います」


 言い終えた後、アシュリーは自分が泣いていることに気づいた。声は立てていなかった。ただ目から涙が出ていた。止めようとしなかった。止める必要がなかった。


 四年間、泣かなかった。泣くべき場面がいくつもあって、一度も泣かなかった。台帳に横線を引いた夜も、鍵を返した朝も、馬車で王都を離れた時も、泣かなかった。泣かないことが正しいと思っていた。泣くと動けなくなると思っていた。涙が出そうな瞬間はあった。でも出なかった。体が許さなかったのかもしれない。まだ終わっていなかったから。


 今日は泣いていた。もう終わっているからだと思った。終わって、次のことが決まったから、涙が出ていた。涙というのは、何かが終わった後に出るものかもしれなかった。


 ロドリクが静かに言った。


「ありがとうございます」


 「よかった」でも「うれしい」でもなかった。「ありがとうございます」だった。アシュリーが答えを出してくれたことへの、感謝だった。感謝という言葉が、ここで最も正確だと思った。その言葉の選び方に、この人らしさがあった。


 涙が頬を伝った。


「……おかしいですね」


 アシュリーは言った。


「こういう時に泣くとは思いませんでした。泣く場面がいくつもあって、一度も泣かなかった四年間だったのに。今頃になって」


「泣いていいです」


 ロドリクが静かに言った。


 その言葉を聞いた時、もう少し涙が出た。泣いていい。誰かにそう言ってもらったのは、初めてかもしれなかった。自分でも許可していなかった。でも今日は、泣いていいですと言われた。それだけで、少し涙が増えた。


 少しの間、アシュリーは泣いた。声を立てずに。部屋の中で、朝の光の中で、静かに。ロドリクは何も言わなかった。待っていた。その待ち方が、この人らしかった。


 窓の外が明るくなってきていた。朝の光が増していた。一日が始まっていた。


 婚約が成立した。その知らせはすぐにシエルに届いた。

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