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『また従妹に譲ってくれ』が四十八回目だったので、儀礼台帳を白紙に戻しました  作者: ヲワ・おわり


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第67話 シエルの反応

「お嬢様!」


 シエルが部屋に飛び込んできた。


 アシュリーは少し驚いた。シエルがこんな勢いで扉を開けるのを見たのは、四年間で初めてだった気がした。


 婚約成立の知らせがシエルに届くのは早かった。ロドリクが侍従長のオルバーに一言告げて、それが伝わったのだろう。城館は小さかった。小さいから、良い知らせも早く届く。


「……そんなに驚かなくても」


「驚いてないです、うれしいんです!」


 珍しく大声だった。シエルは普段、声を上げない。感情を表に出す人ではなかった。どんな場面でも静かで、何を感じているかを言葉より行動で示してきた。王都の四年間で、シエルが声を上げたことがあっただろうか。記憶になかった。


 アシュリーはどう返していいかわからなかった。少し目を逸らした。


「……ありがとう」


 照れていた。自分でもそれがわかった。嬉しいと言われたことに対して、照れるということが。この四年間にそういう感覚を持ったことがあっただろうかと思った。「助かるよ」と言われた時は、照れていなかった。「よくやってくれた」と言われた時も、照れていなかった。「うれしい」と言われた時だけ、照れた。それが少し不思議だった。嬉しいという言葉の重みは、役立つという言葉の重みとは、種類が違った。受け取る場所が違った。


 シエルが少し落ち着いた。扉の前に立ったまま、小さく息を吐いた。


「4年間……本当に大変でしたね」


 今度は静かな声だった。少し泣きそうな顔だった。シエルが「大変でしたね」と言った。いつもは「お疲れ様でした」と言う人だった。「大変でしたね」と言う時は、言葉の種類が違う。労いではなく、共感だった。


「シエルも大変だったでしょう」


 アシュリーは言った。


 そう言いながら、本当にそうだったと思った。シエルは四年間、ずっとそばにいた。アシュリーが仕事に追われている間も、眠れない夜がある間も、黙って傍にいた。「何も言わない」ということを選び続けた。その選択の重さを、アシュリーは今まで十分に見ていなかったかもしれなかった。


 シエルがまた泣きそうな顔をした。


「私は……ずっとお嬢様に『やめてください』と言いたかったんです」


 シエルが言った。


 静かな言い方だった。でも言葉の重さがあった。ずっと言いたかった。でも言えなかった。四年間、その言葉を飲み込み続けたということだった。


「でも言えなくて」


「言ってくれていたら」


 アシュリーは言った。


「もう少し早く気づいていたかもしれない」


 シエルが少しの間黙った。何かを考えているようだった。


「言える雰囲気じゃなかったんです! お嬢様が、止まれない感じで動いていたから」


 シエルが言った。声が少し大きくなった。言葉に勢いがあった。四年間ためていたものが、今日この場面で少し出てきた言い方だった。


 アシュリーはその言葉を聞いた。


 止まれない感じで動いていた、という言葉が正確だと思った。止まれなかったわけではなかった。止まる選択をしなかった。止まることが怖かった。でも傍から見るとそれは「止まれない人間」に見えたのだろう。そういう人間のそばで、四年間、シエルは何も言わずにいた。言える雰囲気ではなかった、とシエルは言った。そうだったのかもしれなかった。


「……そうでしたね」


 アシュリーは言った。責める言葉ではなかった。ただ確かめる言葉だった。


「これからは言ってください。止まった方がいいと思ったら」


 シエルが少し驚いた顔をした。それから「はい」と言った。その「はい」は今までの「はい」より少し違った。これからも一緒にいる、という意思が込められていた。


 部屋の中が静かになった。でも重くなかった。窓から昼の光が入っていた。シエルが少し目を拭った。それから「お茶を用意してきます」と言った。シエルらしかった。泣きそうになっても、手を動かす。四年間、そういう人だった。


 アシュリーはシエルの背中を見ながら、この人がいてくれてよかったと思った。言葉にはしなかった。でも思った。


 シエルがお茶を持ってきた。卓の上に置いた。二人で座った。久しぶりに、こういう形で座った気がした。王都でも、よく茶を飲んでいた。でも王都での茶は、仕事の合間に飲む茶だった。次の予定を考えながら飲む茶だった。今日の茶は違った。座って、お互いの顔を見て、特に話すことがなくても、飲んでいた。


「ここは、来てよかったです」


 アシュリーは静かに言った。


 シエルが少し驚いた顔をした。アシュリーが「よかった」という言葉を使うことが珍しかったのかもしれなかった。


「私も、そう思います」


 シエルが言った。


「最初は、お嬢様がここで大丈夫かどうか、心配でした。何も言わないでいるのが正しいのかどうかも、わかりませんでした。でも今は……」


 シエルが続けなかった。続きを言う必要がなかったからだろう。今は、という先に何があるかは、二人とも知っていた。


 アシュリーはお茶を一口飲んだ。温かかった。シエルが淹れるお茶はいつも温度がちょうどよかった。外から風の音がした。城館の中は静かで、暖かかった。


 四年間、ここに来ることができなかった、と思った。この静けさの中に、来ることができなかった。そんな場所があるということを、知らなかった。でも今日はここにいる。シエルも同じ場所にいる。それだけでよかった。


 アシュリーが、ロドリクに一つお願いをした。翌日のことだった。

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