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『また従妹に譲ってくれ』が四十八回目だったので、儀礼台帳を白紙に戻しました  作者: ヲワ・おわり


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第64話 少し話があります

「少し話があります。時間をいただけますか」


 ロドリクがアシュリーに言ったのは、昼食の後だった。


 アシュリーは図書室にいた。本を読んでいた。ここに来てから、本を読む習慣ができた。王都では本を読む時間がなかった。読もうとしても途中で仕事のことが頭に入ってきて、最後まで読んだことがほとんどなかった。今は読める。北方の図書室は静かで、ページをめくる音だけが聞こえた。


 その本を読んでいる時に、ロドリクが来た。


「……はい」


 アシュリーは本を閉じた。膝の上に置いた。


 何の話かが、すぐには浮かばなかった。でも何かわかる気もした。婚約解消の書類に署名してから一週間が経っていた。書類は王都に送られた。手続きは完了した。過去の話が片付いた後に何が来るかを、アシュリーは考えていなかった。でも何かが来るような気はしていた。


「今夜の夕食後でいいですか」


「……わかりました」


 ロドリクはそれだけ言って、部屋を出た。扉がゆっくり閉まった。廊下に足音が遠ざかっていった。


 アシュリーはしばらくそのままいた。本の続きを読もうとした。読めなかった。文字を目で追っているのに、内容が入ってこなかった。一段落読み直した。また入ってこなかった。しばらく待った。やはり入ってこなかった。本を閉じた。


 夕食まで、まだ何時間かあった。


 図書室を出て、廊下を歩いた。城館の廊下は広くはなかったが、石の壁と床があって、歩くと少し落ち着いた。王都の管理局の廊下も石だった。あの廊下をよく歩いた。今は別の廊下を歩いている。廊下の形は違うが、石の硬さと冷たさは同じだった。


 歩きながら今夜のことを考えた。何の話かはわかるような気がした。でもわかる気がするということは、期待しているということだった。期待していると、外れた時に何かを失う。そのことを少し考えた。


 でもすぐにやめた。外れてから考えればいい、と思った。今夜はまだ来ていない。今考えても仕方がないことは、今考えなくていい。それも、ここに来てから少しずつ身につけたことだった。


 シエルが廊下でアシュリーを見つけた。


「お嬢様、どうかされましたか」


「散歩していました」


「……ロドリク様に何か言われましたか」


 アシュリーは少し驚いた。シエルが見ていた。


「少し話があると言われました。今夜の夕食後に」


 シエルが少し止まった。それから、何か知っていそうな顔をした。


「シエル。今夜の話、何だと思いますか」


「……お嬢様、わかっているでしょう」


 言い方が少し違った。いつもの控えめな言い方ではなかった。「わかっているはずです」という言い方だった。それに少し嬉しそうな気配があった。


「……わかっているかもしれません」


 アシュリーは答えた。


 自分が思っているような話かどうかを確かめたかった。でもシエルに確かめても仕方がなかった。答えはロドリクが持っていた。今夜の夕食後まで待てばわかる。わかるまで待てばいい。それだけだった。


「緊張しているんですか」


 シエルが言った。珍しく直接だった。


「……はい」


 アシュリーは正直に答えた。


 緊張していた。この四年間で、誰かの言葉をうまく受け取れなかったことが何度もあった。大切にしてもらえるということを、受け取っていいのかどうかをずっとわからないでいた。でも今は、受け取っていいのだとわかっていた。受け取れる。そう思っていても、いざその場に臨む前は緊張する。体というのは、頭でわかっていることを必ずしも知っているわけではない、ということだった。頭でわかっても体が緊張する。それは仕方がないことだった。


 でも以前の緊張とは違った。以前は、何かを失うことへの緊張だった。ミスをしないように、失礼がないように、という緊張だった。今夜の緊張は、そういうものではなかった。何かを受け取ることへの緊張だった。それが少し違うと思った。


「緊張するのは、楽しみにしているからでもあると思いますよ」


 シエルが言った。


 アシュリーは少し考えた。楽しみ、という言葉は使ったことがなかった気がした。四年間、何かを楽しみにしていたことがあったかどうか。思い出せなかった。でも今夜のことを考えると、怖さだけではなかった。怖さと一緒に、何かが混じっていた。それが楽しみというものだろうかと思った。


「……そうかもしれません」


 アシュリーは言った。


 シエルが笑った。珍しかった。シエルはよく笑う人ではなかった。でもここに来てから、少しずつ笑うことが増えた気がした。そうなのかもしれない。シエルが笑うのを見ると、アシュリーは少し落ち着いた。今日もそうだった。


 その後、アシュリーは夕食まで自室にいた。窓から外を見た。北方の夕暮れは早かった。空が赤くなり始めていた。赤い空が山の稜線に沈んでいくのを見た。王都にいた頃、夕方にこうして空を見たことがあっただろうかと思った。空を見る余裕がなかった、というより、空を見ることを思いつかなかった。今は思いつく。窓から空を見て、静かにする時間が、一日の中にある。


 夕食の間、ロドリクはいつもと変わらなかった。特に何かを言わなかった。食事の話をした。城館の外の様子を少し話した。アシュリーも応じた。食事が終わった。


 ロドリクが「少しよいですか」と言った。


 アシュリーは「はい」と静かに言った。


 夕食が終わった。ロドリクがアシュリーを城館の小さな応接間に呼んだ。

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