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『また従妹に譲ってくれ』が四十八回目だったので、儀礼台帳を白紙に戻しました  作者: ヲワ・おわり


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第63話 それぞれの末路

 翌日の朝、シエルが詳細を伝えに来た。


 昨日届いた便りの続きだった。要約に三行しか書けなかった分、詳しいことは今朝改めて話す、とシエルが昨夜言っていた。アシュリーは「明日でいいです」と言った。シエルは「わかりました」と言って、その日の夜は何も言わなかった。今朝、食堂での朝食が終わった後、シエルが椅子に向かい合う形で座った。


 ロドリクは今朝は早くから外に出ていた。城館の外周の見回りがある日だった。食堂には二人だけだった。


 シエルが話した。


「ロザリー様の病弱が演技だったことが、複数の医師の証言で社交界に広まりました。今年の社交シーズンに確認された経緯が、貴族の間で共有されています。ロザリー様が館を駆け回っている場面を目撃した複数の人物の証言が出ています」


 アシュリーは聞いた。ロザリーが廊下を走り回っている姿を誰かに目撃された、ということだった。欲しいものがある時に動ける人だと、シエルが言っていた。欲しいものがある時だけ動く人だった。それが裏目に出た。


 ロザリーが「病弱で」と言い訳をする場面が何度かあった。その時のアシュリーは、それを信じていたわけではなかった。だが信じていないことを言葉にしなかった。何も言わなかった。頷いた。それがアシュリーの選択だった。なぜそうしたのかを考えると、波風を立てたくなかったのだと思う。そこで反論しても何も変わらないという諦めがあった。あるいは、反論するほどのエネルギーが残っていなかった。


「エドワルド殿下は婚約不履行の責任問題で国王陛下から謹慎処分を受けています。謹慎の期間と条件は非公開ですが、主要な公式行事への出席は当面見合わせているようです。書記局の台帳管理については、現在も複数の臨時担当者が対応しているとのことです」


 台帳管理が複数人で対応している、という部分を聞いた時、少し止まった。アシュリーが四年間一人でやってきた仕事を、今は複数人がやっている。それを聞いても、特に何かを感じなかった。


 以前なら違う感情を持っていたかもしれなかった。「私がいなければ困っているだろう」という思いか、あるいは「早く誰かが引き継いでくれていてよかった」という安堵か。今はそのどちらでもなかった。ただ、誰かが台帳の仕事を続けてくれている、それだけだった。台帳の補記は残してきた。引き継ぎ資料も置いてきた。あとは誰かが読んでくれればいい。それでよかった。


「ロザリー様のご実家ベルジュ伯爵家は、令嬢を社交界から退かせる方向で動いているようです。婚約の話も、現状では難しいとの見方が広まっています」


 シエルが話し終えた。


「……お嬢様は、何も言わないのですか」


 シエルが言った。いつものシエルらしくない問いかけだった。シエルはいつも相手の反応を待つ人だった。今日は聞いた。少し心配しているのかもしれなかった。


 アシュリーは少し考えた。


「何を言えばいいのでしょう」


 そう言ってから、続けた。


「起きたことが起きた、それだけです」


 シエルが何も言わなかった。


「ロザリー様は望んだものを手に入れようとしただけです。ただ、その方法が問題だった」


 そう言いながら、怒っていなかった。そのことが自分でも少し不思議だった。以前なら怒っていたかもしれなかった。でも今は、整理するとそういうことだ、という感覚の方が強かった。


 ロザリーが嘘をついたことは事実だった。病弱を演じたことも事実だった。でもアシュリーが頷き続けたことも事実だった。どこかで断れなかった、あるいは断ることを選ばなかったのは、アシュリー自身でもあった。二人の間で起きたことは、二人の間の話だった。ロザリー一人の問題ではなかった。そういう整理が、今は自然にできた。


「それに」


 アシュリーは続けた。


「私が怒っても、ロザリー様には届きません。届かないことに怒り続けるのは、自分が疲れるだけです。四年間、そういうことを何度かやりました。どれも疲れただけで、何も変わりませんでした。今は、そういうことに使う力を別のことに使いたいと思っています」


 シエルがアシュリーを見ていた。


「……お嬢様は本当に変わりましたね」


 シエルが言った。珍しい言い方だった。シエルは人の評価をあまり言葉にしない。でも今日は言った。


「変わりましたか」


「はい。以前のお嬢様なら、こういう話を聞いた後、黙って部屋に引っ込んでいたと思います。今日はちゃんと話しています」


 アシュリーは聞いた。以前の自分を想像した。そうだったかもしれない、と思った。台帳を開いて、数字を確認して、何かを整理することで自分を落ち着かせていたかもしれない。それが習慣だった。感情を処理する代わりに、手を動かしていた。今日はそれをしていなかった。ただ座って聞いていた。


「変わったのかもしれません」


 アシュリーは言った。変わったかどうかは自分では判断しにくかった。でも、シエルにそう言われるのなら、そうなのだろうと思った。


「……そうなのかもしれません」


 食堂の窓から朝の光が入っていた。外で鳥の声がした。シエルがお代わりの茶を注いだ。アシュリーはそれを受け取った。温かかった。温かい茶を受け取れるようになった、というのも、一つの変化だった。以前は断ることが多かった。仕事がまだあるから、と。今は受け取った。それでよかった。


 その翌週、ロドリクがアシュリーに「少し話があります」と言った。

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