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『また従妹に譲ってくれ』が四十八回目だったので、儀礼台帳を白紙に戻しました  作者: ヲワ・おわり


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第55話 4年間の記憶(後半)

 ロドリクが紙を手に取った。ゆっくりと読んでいた。ヴェルナーは隣で別の紙を見ていた。二人とも黙っていた。アシュリーは紅茶を一口飲んだ。ようやく飲めた。温度が下がっていた。


 沈黙が続いた。


 窓の外では曇りが続いていた。光が変わらなかった。時刻の感覚がなかった。それでも部屋の中は静かで、落ち着いていた。ロドリクが紙を読む音だけが聞こえた。


 ロドリクが一枚目から二枚目に移った。視線が細かい文字の上を滑っていた。アシュリーは自分が書いた文字を遠くから見た。机の上の三枚が、知らない誰かの書いたもののように見えた。自分の手で書いたが、書いている間はほとんど考えることなく書いていた。頭の中から出てきたものを紙に移したというより、紙が引き出してくれたという感覚に近かった。


「……カリアスは紫を忌避します」


 アシュリーは口を開いた。


「過去の喪の儀礼と関連していると、台帳の補記に書いてありました。白や薄灰色は既に周知されていましたが、紫については誰も補記していなかった。私が使節との会話の中から拾って追記したものです。十年以上前の話になりますが、旧代の使節の一人が紫の飾り布を持参しなかった年がありました。その年の気候のせいだと周囲は解釈していた。でも私は別の可能性を考えて、以来観察を続けました。三回観察してから補記に追加しました」


 ロドリクが顔を上げた。


「根拠はどこに」


「私の頭の中です」


 アシュリーは答えた。


「ただ当時の台帳には、原典となった各国の慣習書記録を紐付けていました。宮廷書記局の棚の、外交分類の第四区画に置いてあるはずです。今でもあるかどうかは分かりませんが、参照できるなら確認はできます」


 ロドリクは少し考えてから頷いた。


 ヴェルナーが紙を机に置いた。表情が読みにくかった。何かを考えているときの顔だった。


「……一つ聞いてもいいですか」


「どうぞ」


「これが、宮廷外交局の公式資料より詳しいのはなぜですか」


 ヴェルナーの問いは静かだった。責めているわけではなかった。ただ事実を確認しているような声だった。


 アシュリーは少し間を置いた。


「……私が毎年、使節が来るたびに会話から拾って追記していたので」


 そう答えた。


「公式資料は式典の前後に正式な書簡のやり取りで確認できたことだけを記録します。でも使節との直接の会話で出てくる細部は、書簡には残りません。席次の話をしているときに誰かが口にした言い方の癖。贈り物を受け取るときの仕草の変化。そういうものを書き留めておくのに決まった書式はありませんでしたから、補記という形で書き足していました。続けていたらだんだん量が増えた、というだけのことです」


 ヴェルナーがアシュリーを見た。


「それを、四年間」


「それを、四年間」


 アシュリーは繰り返した。誰かに褒められたくてやっていたことではなかった。役に立つかどうかも分からなかった。ただ次に同じ場面が来たときに、同じ失敗を繰り返さないようにと思って続けた。それだけのことだった。誰かに指示されたわけでもなかった。台帳の補記という形式さえ、アシュリーが自分で決めたものだった。儀礼局の先輩がやっていたやり方を真似て、少しずつ自分の形に変えた。最初の一年は書き方も整っていなかった。二年目から分類を決めて、三年目に索引を付けた。四年目には他の書記が補記を参照するかもしれないと思って、読み返して文章を整理した。誰も読まなかったかもしれない。でも読めるように整えておいた。


「席次については、もう一つ注意があります」


 ロドリクが次のページに視線を移した。アシュリーは自分の書いた文字を思い出しながら言葉を選んだ。


 アシュリーは続けた。


「功績序列に加えて、長老格の人物を正面に置く必要があります。横並びにしてはいけない。功績で席を決めると長老が端に来ることがあります。長老がどこにいるかを把握した上で配置を組まないと、先方は形式を守れなかったと判断します」


「長老格の人物がいるかどうかは、どう確認する」


「今回の使節の中に誰が含まれているかによります。事前に使節の構成を確認できるなら把握できます。もし分からない場合は、到着後に相手の敬称の使い方を観察すれば分かります。長老格の人物には他の使節が先に視線を向けます」


 ロドリクが少し考えた。


「挨拶文は」


「敬称が二段階あります。外交文書に使うのは上位敬称のみです。下位敬称は口頭での会話に使うものなので、文書に使うと相手を軽く扱ったと取られます。過去にヴァルディア側が文書で下位敬称を使ったことがあって、先方から非公式の申し入れがありました。正式な抗議ではなかったので記録に残っていないかもしれませんが、私は当時の担当書記から話を聞いて補記していました。その方はすでに退職されていましたが、当時の話を覚えていてくださいました」


 少し間が空いた。アシュリーは紅茶の杯を両手で包んだ。話しながら記憶が戻ってきていた。補記を書いていたあの頃の感覚が戻ってきていた。細かいことを丁寧に書いていた日々の感触だった。誰かのためになるとは思っていなかった。ただそれが自分のやり方だった。


 ヴェルナーが立ったまま腕を組んだ。少し間があった。窓の外で風が鳴った。


「……これだけの情報があれば、交渉の土台は組める」


 静かな声だった。断言ではなかった。しかし確信が滲んでいた。ロドリクが同じように、静かに頷いた。


「この情報があれば、交渉ができるかもしれない」


 少し間があった。


「ただし——」


 ロドリクが言った。


「交渉の場で通訳と補佐が必要になる。この情報を持っているだけでは足りない。場で使える人間が要る」

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