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『また従妹に譲ってくれ』が四十八回目だったので、儀礼台帳を白紙に戻しました  作者: ヲワ・おわり


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第45話 2人の会話(前半)

「ロザリーのことは……すまなかったと思っている」


 エドワルドが言った。


 部屋には光があった。昼の光だった。テーブルの上に食器が残っていた。二人の間に距離があった。遠くもなく、近くもなかった。アシュリーはエドワルドを見ていた。顔を見て、言葉を受け取った。


「そうですか」


 怒りではなかった。悲しみでもなかった。確認だった。あなたはそう思っているのか、という確認だった。


 エドワルドが少し目を細めた。答え方を予想していなかったのかもしれなかった。「そうですか」という言葉は、謝罪への応答としては短すぎた。しかしアシュリーにはそれ以上が出なかった。出なかったのは、言葉が足りないのではなく、それで終わっているからだった。謝罪を受け取った。受け取ったことは伝えた。それ以上でも以下でもなかった。


 短い沈黙があった。


 窓の外で、鳥の声がした。一声だけだった。それから静かになった。


「ロザリーは体が弱いと思っていた。信じていた」


 エドワルドが続けた。声は穏やかだったが、どこかに力があった。言い訳ではなく、説明しようとしていた。この人は誠実に言おうとしていると、アシュリーには分かった。自分が信じていたこと、それを疑わなかったこと、その結果を今受け入れようとしていること。一言一言に、その重さがあった。


「ロザリー様はそういう方でした」


 アシュリーは静かに答えた。


 嫌味ではなかった。本当にそう思っていた。あの人は体が弱いと言い続けた。言い続けながら、その言葉を丁寧に維持した。誰かが疑う前に先手を打った。具合が悪そうに見せることに長けていた。エドワルドが信じたのは当然だった。信じない方が難しかった。あの人はそれほど巧みだった。問題は信じたことではなく、その信頼がどう使われたかだった。しかしそれも、今さら言うことではなかった。言ったところで、変えられるものは何もなかった。


 エドワルドが少し押し黙った。


 何かを探している沈黙だった。言葉を探しているのか、アシュリーの反応を読もうとしているのか、どちらかは分からなかった。アシュリーは待った。急かさなかった。


「……お前は怒っていないのか」


 問いだった。戸惑いが混じっていた。怒りを向けられた方が、この人には対処しやすかったのかもしれないと、アシュリーは思った。謝罪をして、怒りを受けて、それで何かが終わるはずだった。その順序を想定してきたのだろう。しかしアシュリーからは怒りが来なかった。来ないことが、かえってエドワルドを戸惑わせていた。


 アシュリーは少し考えた。


 怒っているかどうか。一ヶ月前なら答えが出たかもしれなかった。あの頃はまだ、何かが燻っていた。その何かを怒りと呼べたかもしれなかった。夜に目が覚めて、胸が熱くなる瞬間があった。あれは怒りだった。しかし今は、その熱が来なかった。来ないのは、忘れたからではなかった。起きたことは起きたこととして、変わらずそこにあった。ただ、それに対して怒りを燃やし続けることが、今のアシュリーにはできなかった。できないのか、する必要がないと感じているのか、自分では判断がつかなかった。


「怒っているかどうか、わからなくなりました」


 アシュリーは答えた。


 エドワルドの表情が変わった。困惑だった。整った顔が、少し崩れた。予想していなかった言葉だったのだろう。怒っていないと言われるより、分からないと言われる方が、扱いが難しかったのかもしれなかった。怒りなら向き合える。謝ればいい。受け取ってもらえば終わる。しかし「わからない」は、どこに向き合えばいいのかが見えなかった。


「怒りなら、対処できた」


 エドワルドが、どこか独り言のように言った。声が少し小さくなった。


 アシュリーはその言葉を聞いた。否定しなかった。その通りだと思っていた。怒りは形がある。受け皿が作れる。しかし今のアシュリーには、怒りという形がなかった。形がないものに対処することは、難しかった。その難しさを、エドワルドは感じているのだろうと思った。


 テーブルの上の食器が、光を受けていた。静かだった。二人の間の空気に、何かが漂っていた。過去でも現在でもない、何かが。


 エドワルドは杯を手に取ったが、飲まなかった。また置いた。その動作の中に、何かを探している感覚があった。アシュリーが怒っていないという事実を、どこに収めるかを探しているのかもしれなかった。怒りがないなら、悲しみがあるはずだった。悲しみもないなら、未練があるはずだった。しかしアシュリーの顔は、どれとも違っていた。静かで、ここにいて、何かを待っているわけでもなかった。


 それが、エドワルドには難しかったのだと、アシュリーは感じていた。


 かつて婚約者だった人が、怒りも悲しみも見せずに座っている。謝罪を受け取って、「そうですか」と答えた。責める言葉が来なかった。泣きもしなかった。怒鳴りもしなかった。その代わりに来たのは、静かな確認だった。それは対処できないものだった。対処できないから、エドワルドはまだ何かを言おうとしていた。この場を何かで終わらせようとしていた。


 光が動いていた。雲が流れているのかもしれなかった。部屋の明るさが、わずかに揺れた。


 外で風の音がした。春先の風だった。この地で過ごした一ヶ月が、アシュリーの体に染みていた。北の風の音を、今は知っていた。


 怒っていないのか、ではなぜ帰ってこないのか。エドワルドがそれを聞こうとした。

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