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『また従妹に譲ってくれ』が四十八回目だったので、儀礼台帳を白紙に戻しました  作者: ヲワ・おわり


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第44話 王太子の来訪

 馬の蹄の音が聞こえたのは、昼前だった。


 アシュリーは自室にいた。窓から外を見るつもりはなかった。見てしまうと、何かが変わる気がした。来ることは分かっていた。来ることに備えてきた。だから窓の外を確かめる必要はなかった。音だけを聞いた。三頭、あるいは四頭分だった。少人数だった。予告通りだった。正式な訪問でありながら、大きな行列ではなかった。エドワルドという人は、これ見よがしな移動を好まなかった。それはアシュリーも知っていた。


 シエルが来た。


「殿下がいらっしゃいました」


「ロドリク様は?」


「正面で出迎えていらっしゃいます。お嬢様は昼食の席にお招きされています」


 アシュリーは頷いた。準備は昨日から整えていた。今日は特別なことは何もしなかった。いつも通りの支度をした。際立たない色合いの衣装を選んだ。目立とうとするでも、消えようとするでもなかった。ただ、昼食の席に座れる格好だった。それだけで十分だった。特別な装いをしてエドワルドに何かを伝えようとは思わなかった。怒りも未練も、衣装に込めることではなかった。


「緊張していらっしゃいますか」


 シエルが静かに聞いた。


 アシュリーは少し考えた。胸の中を確かめた。緊張、と呼べるものがあった。なかったと言えば嘘になった。しかしそれは身動きを奪うような緊張ではなかった。これから何かが起きるという事前の張りだった。それは怖さとは少し違った。


「少し」と答えた。「でも大丈夫です」


 シエルが頷いた。余計なことを言わなかった。この侍女の節度は、一ヶ月でアシュリーの中に馴染んでいた。


 廊下を歩く間、アシュリーは呼吸を一度整えた。深く吸って、ゆっくり吐いた。それだけのことだった。何かを確認したわけでも、祈ったわけでもなかった。ただ、息を整えた。歩いている自分の足音が聞こえた。石の床は硬かった。その硬さが、地に足がついていることを教えていた。


 昼食の部屋は城館の中央にあった。石造りの壁に、窓が二つあった。晴れた日だったから、光が入っていた。テーブルは長くなく、四人分の席があった。ロドリクが上座に近い端、エドワルドがその向かい、アシュリーはその隣に座る形だった。


 アシュリーが入室した時、エドワルドはすでに席についていた。


 視線が合った。一瞬だった。アシュリーは礼をして、席についた。エドワルドも礼を返した。それだけだった。言葉はなかった。互いに何かを言う場面ではなかった。ロドリクがいた。昼食という場があった。個人の言葉を置く前に、場の形式があった。それはアシュリーにとって、都合がよかった。


 以前より少し顔が変わっていた。疲れていた。目の周りに影があった。表情を作っているのが分かる疲れ方だった。エドワルドという人は、いつも人前では整った顔をしていた。王太子としての様式が身についていた。今もそれをしようとしていた。しかし完全には整っていなかった。その隙間が見えた。隙間が見えたことを、アシュリーはどう受け取ればいいか分からなかった。かわいそうだとは思わなかった。しかし無関心でもなかった。疲れているという事実を、ただ見た。


 昼食が始まった。


 ロドリクが城館の冬の話をした。北方の気候のことを、事実として短く話した。今年の冬は例年より雪が少ない、春の来方が早い、そういう話だった。エドワルドが聞いた。北方には視察で来ることがある、以前来たのはもう三年前だったと言った。会話は形式的だった。丁寧で、どこかで言葉が止まらない程度に続いていた。アシュリーは聞きながら、料理を食べた。問われれば答えた。問われなければ聞いていた。


 ロドリクが北方の交易路について説明する間、アシュリーはエドワルドの顔を横目で見た。聞いていた。しかし少し上の空だった。何かを考えている顔だった。この昼食がある種の準備の時間であることは、三人とも分かっていた。昼食そのものが目的ではなかった。しかしいきなり話し始めることは誰もしなかった。それがこの三人の、無言の了解だった。


 しばらくして、儀礼担当の現況が話題になった。王都側から引き継いだ担当者が対応に苦労していること、来年の式典に向けた準備が遅れていることを、エドワルドが口にした。アシュリーの方を見ながら言った。直接言っているのか、会話として出しているのか、判断のつかない言い方だった。ロドリクが少し間を取った。その間の中に、続けてもいいかどうかという問いがあるような気がした。


「その話はできれば二人で」


 エドワルドが、静かに言った。


 言葉は短かった。しかし何かが含まれていることは分かった。謝ろうとしているのか、頼もうとしているのか、確かめようとしているのか。どれかは分からなかった。どれでも構わない、とも思っていた。自分が動揺しないことに、アシュリーは少しだけ驚いていた。この一ヶ月で、何かが落ち着いたのだろうと思った。


「……わかりました」


 アシュリーは答えた。


 ロドリクがそれを聞いた。少し間を置いた後、椅子を引いた。


「私はそちらの部屋にいます」


 それだけ言って、席を外した。自然な動作だった。急ぐでもなく、引き留めるでもなかった。ロドリクという人はこういう時に余計な何かを加えなかった。場の空気を変えずに動いた。だからこそ、去り際が軽くなかった。ここにいるのが当然の人が、いなくなった。その存在感だけが残った。


 扉が閉まる音がした。


 部屋が静かになった。外から光が入り続けていた。テーブルの上に、食事の残りがあった。エドワルドの手が杯の近くにあった。何かを言う前の手だった。アシュリーは自分の手を膝の上に置いた。


 二人になった。エドワルドが口を開いた。

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