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『また従妹に譲ってくれ』が四十八回目だったので、儀礼台帳を白紙に戻しました  作者: ヲワ・おわり


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第43話 ロザリーの末路

 シエルが追加の情報を持ってきたのは、来訪まで残り三日という朝のことだった。


「昨夜また実家から連絡があって」


 シエルは言いながら、少し言葉を選んでいる様子だった。選んでいるということは、伝えにくい内容だということだと、アシュリーは知っていた。こういう時のシエルには、先に「聞きます」と言った方が話が早かった。


「聞かせてください」


「……ロザリー様が、社交界から距離を置き始めているそうです」


 アシュリーは手元の本から目を離した。シエルの方を見た。


「エドワルド殿下との婚約は、結局成立していないとのことで。陛下からのお叱りの後、殿下側からも話が止まっているようです」


 シエルが続けた。言葉を一度止めて、「ベルジュ伯爵家も対応に困っているようで」と付け加えた。ロザリーの実家の名を出すことを、シエルは一拍だけ止めた。アシュリーに対して、その名がどう響くかを考えたのだろうと思った。慎重な侍女だった。伝えるべき情報でも、受け取る側の心に引っかかるものは、一度抱えて選んでいた。


「そうですか」


 アシュリーは言った。


 部屋に少し沈黙があった。窓から光が入っていた。来訪まで三日という事実と、ロザリーが社交界から退いているという事実が、同じ朝の中にあった。二つの話は直接つながっていなかった。しかし何かが重なっていた。エドワルドという人の周辺で、いくつかのことが同時に動いていた。


 シエルがもう少し続けた。「複数の貴族家からも証言が出ているようで、病弱の演技については今さら否定できる段階ではないとのことです。ベルジュ伯爵家は静観しているようですが、ロザリー様ご本人はもうほとんど人前に出ていない、と」


 アシュリーは窓の外を見た。庭の木が見えた。枝が剪定されていた。葉は落ちていた。しかし枝の形はよかった。切られた後も、形を保っていた。


 ロザリー・ベルジュのことを、この一ヶ月で何度か思った。怒りの形で思ったことは、一度だけだった。その一度は、来てすぐの頃のことだった。夜に目が覚めて、思い出して、少し胸が燃えた。しかしそれは長続きしなかった。翌朝には冷えていた。その後は、怒りよりも静かな問いが続いた。あの人は何をしていたのか。何を欲しがっていたのか。どうしてああなったのか。問うたびに、答えは一つの場所に戻った。欲しいものがあった人だった。それだけだった。方法が誠実でなかっただけで、欲しがること自体は、人として珍しいことではなかった。


「……ロザリー様は悪い人ではなかった」


 アシュリーはそう言った。


「え?」


 シエルが目を上げた。驚いた顔だった。そう言われることを予想していなかった顔だった。この侍女はアシュリーの味方で、だからこそロザリーへの怒りをどこかで肩代わりしようとしていた。怒っていいのだと、アシュリーの前で何度か表情に出していた。だからアシュリーの言葉に戸惑った。


「欲しいものがある時に、使える方法を使っていた。それだけのことだと思う」


 アシュリーは言い続けた。「私が頷き続けたことも含めて、ああなった」


 シエルが言葉を失った。


 口を開こうとして、閉じた。何かを言いたかったのだろうが、言葉が来なかったのだろうと、アシュリーには見えた。反論したいわけではなかっただろう。慰めたいわけでもなかっただろう。ただ、アシュリーがロザリーを悪く言わないことに、どう応じればいいかが分からなかっただけだと思った。


 アシュリー自身も、この言葉がどこから来たのかを、口にしてから確かめた。


 ロザリーを庇っているわけではなかった。あの人がしたことは確かにあった。四年間、体調を理由にして席を外した。重要な場に来なかった。アシュリーに課題が積まれる構造を、意識的に使っていた。そのことに気づいていなかった自分の部分も、今となっては分かっていた。しかし、悪い人だったかと問われると、何かが引っかかった。欲しいものを手に入れようとした人だった。方法が誠実でなかっただけで、欲しがること自体は、誰でもすることだった。問題は、アシュリーがその構造を四年間許し続けたことにもあった。頷き続けた自分が、その構造を支えた部分があった。一方だけを責めることが、今のアシュリーにはできなかった。両方が合わさって、そうなった。それが正直な理解だった。


「……お嬢様は」


 シエルがようやく口を開いた。それから止まった。続きを探していた。


「私に怒ってほしかったですか」


 アシュリーが問うと、シエルが少し困った顔をした。


「怒ってほしいわけじゃないんですけど……ただ、怒らないお嬢様が少し心配で」


「怒る気力が別のところに向いているだけかもしれない」


 アシュリーは答えた。それを聞いてシエルが、何とも言えない顔をした。笑おうとして、泣きそうになって、どちらにも行かない顔だった。そういう顔をするようになったのも、ここ最近のことだった。


 シエルが部屋を出た後、アシュリーはしばらく窓の外を見ていた。


 ロザリーのことは終わった話だった。社交界から距離を置いているなら、それはあの人が選んだ結果だった。幸せかどうかは分からなかった。不幸であればいいとは思わなかった。ただ、もうアシュリーには関わらない場所にいるのだということを、静かに確かめた。関わらない場所にいる人のことを、これ以上考え続ける必要はなかった。関わらない場所になった、それだけのことだった。


 三日後のことを、少しだけ思った。


 エドワルドが来る。それは事実だった。来ることへの恐れは、今は薄かった。来ると分かっているから、怖くない、というわけではなかった。ただ、来ようと来まいと、今のアシュリーはここにいる。それが変わることはなかった。その一点が、どこかで支えになっていた。


 エドワルド殿下が来た日、空は晴れていた。

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