第65話:目覚めの「全自動・神域ブレックファスト・メーカー」と、未知なる門
『星の揺りかご号』の完璧な静寂の中で、一行はかつてないほど深い眠りから目覚めた。異次元の隙間から現実世界へと戻ると、昨夜の嵐は嘘のように去り、未開の大地の最深部には、夜明け前の紺青色の空が広がっている。
「ふわぁ……よく寝たぁ。パパ、おなかすいた!」
ステラが、ウルのモフモフの毛の中から元気よく飛び出してきた。ポメ姿のウルも「わん!(我も極上の目覚めだ!)」と、尻尾をメトロノームのように振っている。
「おはよう、ステラ、ウルさん。……さて、最高の睡眠の後は、最高の朝食が必要だね。でも、ここはもう『世界の果て』。普通の食材じゃ、この澄み切った空気に負けてしまう」
俺は、キッチンの収納から『絆くん』が今朝届けてくれたアステリオスの「天然酵母の種粉」、昨日ステラが収穫した「銀河わたあめの結晶」、そして女神ミーシャが朝露から精製した「聖なるバター」を取り出した。
「トントン、と……」
朝の静寂を破らないよう、軽快で透き通ったリズムで槌を振る。
【スキル:概念調理・至福給仕発動】
【神話級アイテム:『全自動・神域ブレックファスト・メーカー「暁のキッチン」』】
それは、旅路号のカウンターからせり出す、白磁と金細工で飾られた魔法の調理器だ。
これには、食べる者のその時の体調に合わせ、最適な栄養と「最も食べたい味」を瞬時に構成する機能がある。
「さあ、召し上がれ。今朝のメニューは『星屑クロワッサンのエッグベネディクト・雲のスープ添え』だよ」
オーブンから飛び出したのは、サクサクと星が弾けるような音を立てる黄金のパン。
その上に、とろりと溶け出す太陽のような卵が乗っている。
ステラが一口食べると、彼女の体からキラキラとした光の粒子が溢れ出し、未開の大地を優しく照らした。
「おいしーい! パパ、お口の中に、お日さまがきた!」
◇
その頃、地上の「ドーム・シティ」では。
アステリオスが店を開けると、街中に「信じられないほど食欲をそそる香ばしい香り」が立ち込めていた。
「……この香りは! ゼノス様が、ついに『朝食の真理』に到達されたんだ!」
香りだけで満腹になり、病人が起き上がり、不機嫌な子供が笑顔になる。
ゼノスが放った「朝の幸福感」は、魔王領から王都の隅々まで行き渡り、その日、世界中で争い事の報告は一件も入らなかった。
「ふぅ……。お腹がいっぱいになると、新しい景色が見えてくるね」
俺がコーヒーを飲み干したその時。
旅路号の行く手に、これまでの未開の大地とは明らかに異質な、巨大な「光の門」が現れた。
門の表面には、古の文字でこう刻まれている。
『――これより先、道具に魂を、魂に安らぎを与えし者のみが通ることを許される』
「ゼノス様、あれは……『世界の境界線』です。私たちが歩んできた旅の答えが、あそこにあるのかもしれません」
ミーシャが真剣な表情で俺の手を握る。ステラも、ウルも、門の向こう側から漂う「懐かしくて新しい気配」を感じ取っていた。
「よし、行こう。どんな場所でも、俺がみんなの『便利』と『笑顔』を作ってみせるから」
旅路号はゆっくりと光の門をくぐり抜ける。
追放から始まった物語は、ついに世界の理を超え、伝説の「その先」へと加速していく。




