第64話:星の揺りかごと、「全自動・次元移動式キャンピング・コテージ」
『重力の星園』で遊び、銀河のわたあめでお腹を満たした一行。しかし、未開の大地の最深部は、夜になると「概念の嵐」が吹き荒れる過酷な環境へと変貌した。
外では、昨日までの常識が嘘のように、時間の流れが早まったり、空間がねじれたりしている。
「ゼノス様、ステラちゃんが眠たそうですが、この嵐の中では『悠久の旅路号』の寝室でも、少し外のノイズが響いてしまいますわ」
ミーシャが、嵐の音に少しびくついているステラを抱き寄せ、眉を曇らせる。神域の夜は、どれほど強固な装甲も「音」と「概念」までは遮断しきれない。
「そうだね。ステラには、どんな嵐の中でも、お母さんの腕の中にいるような安らぎが必要だ。……よし、このキャンピングカー自体を、『外の世界の影響を受けない別次元のコテージ』に改装してしまおう」
俺は工房の棚から、かつてエルフレードの塔で見つけた「静寂を封じた琥珀」、聖獣ウルの「空間を安定させる咆哮の記憶」、そしてアステリオスが焼いたパンの「焼きたての温もりを保つ香気」を取り出した。
「トントン、と……」
嵐の轟音を打ち消すように、等間隔で力強いリズムを刻む。槌の一打ごとに、キャンピングカーの周囲に透明な「層」が重なっていく。
【スキル:位層隔離・極致安眠発動】
【神話級アイテム:『全自動・次元移動式キャンピング・コテージ「星の揺りかご号」』】
それは、旅路号が物理的な移動を止め、一瞬で「最も安全な異次元の隙間」へと隠れ住む機能だ。内装は一瞬にして、最高級の白木とアステリオスのパンのように柔らかなクッションで埋め尽くされたログハウス風へと変化した。
「さあ、ステラ。もう嵐の音は聞こえないよ」
俺が暖炉に「魔法の薪」をくべると、部屋全体がミルクのような温かな光に包まれた。外では空間が裂けるような嵐が荒れ狂っているが、このコテージの中では時計の針の音さえも心地よいリズムに変わっている。
「パパ、あったかい……。ふわふわ、きもちいい……」
ステラは、俺が新しく作った『全自動・快眠ポメ枕(ウルの毛並みを再現)』に頭を埋め、一瞬で寝息を立て始めた。
◇
一方、その頃。
地上の「エルフレードの塔」では。
「お、おい! 今、夜空の一角が『おやすみなさい』という文字の形に光ったぞ!」(南の魔王レオン)
「うむ。あの光を見ただけで、我が魔王軍の不眠症軍団が全員一斉に泥のように眠りだした。……ゼノス殿は、安眠の魔法までも全自動で世界に振りまいているのか」(北のガストフ)
地上では、ゼノスがコテージを異次元に隠した際の「余剰エネルギー」が、優しい夜光となって世界を包み込んでいた。かつては魔物の襲撃に怯えていた夜が、今や世界で最も「深く眠れる時間」へと変わっていた。
「……ふぅ。いい夢が見られそうだね」
俺は、暖炉の火を見つめながら、ハーブティーを飲むミーシャの隣に座った。
「ゼノス様。……あなたはいつも、私たちが『欲しい』と思う一歩先を、道具で形にしてくれますね。……でも、このコテージの一番の魔法は、きっとこの『静けさ』そのものです」
「……そうだね。便利になるのは、大切な人と向き合う時間を増やすためだから」
ポメ姿のウルも、暖炉の前で丸くなり、幸せそうに「ふごっ」と鼻を鳴らした。
嵐の夜を「最高の安眠」に変えた俺たちの旅は、家族の健やかな寝顔と共に、明日という未知の光へと繋がっていく。




