第63話:「全自動・星屑のわたあめ機」と、銀河の「甘い」衝突
『重力の星園』の開園により、未開の大地の最果ては、かつてない多幸感に包まれていた。だが、遊び疲れたステラが、観覧車の特等席で小さなお腹を「ぐう」と鳴らしたことで、次なる創作の火が灯る。
「パパ、あそこの、きらきらした雲、たべられる?」
ステラが指差したのは、遊園地の外周を漂う、七色の星間ガス――いわば「星の燃えカス」が蓄積してできた美しい星雲だった。
それは見た目こそ美しいが、そのままでは魔力が強すぎて、星の子といえども口にするのは少し刺激が強い。
「なるほど。あの星のエネルギーを、ステラでも食べられるくらいフワフワで甘いお菓子に加工すればいいんだね。……よし、ウルさん、ちょっとあの雲をひと束、集めてきてくれるかい?」
『――承知した、主よ。ポメの姿とて、風を操るは造作もない!』
ポメ化した聖獣ウル(ウルちゃん)が、遊園地のコースターよりも速いスピードで空を駆け、尻尾をプロペラのように回して、七色の星雲を「モフモフの塊」としてテラスへ持ち帰ってきた。
俺は工房の引き出しから、教皇庁の宝物庫に眠っていた「祈りを吸い込む銀の筒」、地上の魔王レオンから届いた「火山の熱を封じ込めたスパイス」、そしてミーシャが女神の慈愛で精製した「純白の砂糖結晶」を取り出した。
「トントン、と……」
今回の槌音は、遠くで鳴るお祭りの太鼓のように、弾むようなリズムを刻む。
【スキル:物質昇華・甘味変換発動】
【神話級アイテム:『全自動・銀河わたあめ機「ギャラクシー・スピン」』】
それは、宇宙の自転エネルギーを回転力に変え、取り込んだ星雲を熱と魔力で一本の細い「光の糸」へと引き伸ばす特製マシンだ。
「さあ、ステラ。棒を持って、ここでくるくる回してごらん」
「うん! くるくる、くるくる……わあぁっ!」
ステラが棒を回すと、マシンの中心から溢れ出した光の糸が、見る間に巨大な、それこそステラの体よりも大きな「七色のわたあめ」へと形を変えていく。
一口かじれば、口の中で超新星爆発のようなシュワシュワ感が広がり、その後に宇宙の誕生を思わせる濃厚な甘みが押し寄せる。
「おいしーい! パパ、お口のなかが、虹色だよ!」
◇
その頃、地上の「ドーム・シティ」では。
空から、キラキラと輝く「甘い雪」が降ってきた。ゼノスのわたあめ機から溢れた、微細な砂糖の粒子が次元の壁を越えて、世界中に降り注いだのだ。
「なんだ、この雪は……。舐めると、初恋のような甘酸っぱさと、全知全能になったような活力が湧いてくるぞ!」(南の魔王レオン)
「うむ。我が領地の兵たちが、この雪を食べて『もう戦うより、みんなでピクニックがしたい』と言い出した。……ゼノス殿、貴殿は菓子一つで、魔族の闘争本能を完全に去勢してしまったのか……」(北のガストフ)
魔王たちは、降ってくる「甘い雪」を瓶に詰め、それを肴に「ゼノス殿の健康を祝す宴」を始めていた。もはや世界に敵はいない。いるのは、空から降るお菓子を待つ「腹ペコな隣人たち」だけだった。
「ふぅ……。甘いものは、やっぱり世界を救うね」
俺は、顔中をわたあめだらけにしたステラとウルを、例の『異次元洗濯機』で綺麗にしながら、隣で優雅にわたあめを嗜むミーシャを見た。
「ゼノス様、あなたの作る道具は、不便を解決するだけでなく、こうして『笑顔の理由』まで生み出してしまう。……私、この旅が終わらなければいいのにと、時々思ってしまうのです」
「……終わらせないよ、ミーシャ。世界が広がり続ける限り、俺たちの『便利で楽しい日常』も、どこまでも続いていくんだ」
遊園地のネオンが星空に溶け込み、甘い香りが次元を越えて広がっていく。
追放されたあの日の空腹は、今や全宇宙を満足させる「至高のスイーツ」へと姿を変えていた。




