第59話:「全自動・異次元洗濯機」と、聖獣のモフモフ乾燥祭り
星屑の夜食を楽しみ、一夜明けた『アネモスの尖塔』。清々しい朝日が差し込む中、ゼノスは一つの切実な問題に直面していた。
「パパ、お洋服、ベタベタ……」
ステラが、昨夜の星屑ソースや雲のシフォンケーキのクリームがついた服を見て、少し悲しそうに眉を下げている。
さらに、ポメ化した聖獣ウルも、度重なるブラッシングとグルメ三昧の結果、その神々しい白い毛並みにキャラメルソースが絡まり、自慢のボリュームが半分ほどに萎んでしまっていた。
「……ゼノス様、女神の浄化魔法でも汚れは落ちますが、この未開の大地の濃厚なマナが染み付いた汚れは、魔法だけでは『ふんわり感』が戻らないのです」
ミーシャが困り顔で、ゴワゴワになったウルの尻尾を持ち上げる。
女神の力を持ってしても、「洗濯」という日常の家事には、また別の専門的なアプローチが必要だった。
「よし、任せてくれ。未開の大地の汚れたマナごと洗い流して、新品以上の手触りに戻す『究極のクリーニング』をしよう」
俺は工房から、西の最果てで採取した「次元の隙間に吹く風の石」、教皇庁の地下で眠っていた「純潔の聖水」、そしてアステリオスの農場で採れた「汚れを吸着する不思議な粘土」を取り出した。
「トントン、と……」
今回の槌音は、川のせせらぎのように清らかに、かつ泡が弾けるような軽快なリズムを刻む。
【スキル:純聖洗浄・存在復元発動】
【神話級アイテム:『全自動・異次元ドラム式洗濯乾燥機「白銀の泡」』】
それは、旅路号の外壁に接続された、美しいクリスタル製のドラム式マシンだ。
次元の隙間から「汚れのない新鮮な時間」を呼び込み、聖水とマナを混ぜ合わせたナノバブルで、分子レベルから汚れを剥ぎ取る。
さらに、乾燥工程では南の魔王レオンの情熱(を模した熱風)と、北の魔王ガストフの清涼(を模した冷気)を交互に当てることで、繊維の一本一本を「覚醒」させる。
「さあ、ステラ。その服を貸してごらん。ウルさんも、ちょっとの間だけ中に入ってみるかい?」
『――む、我を洗濯機に入れるというのか……。……いや、主の道具だ、信じよう』
ウル(ポメ姿)が覚悟を決めてドラムの中へ。ステラの服や、ミーシャの旅装も一緒に放り込み、スイッチを入れる。
「洗浄開始!」
ドラムの中で、虹色の泡が踊り、聖なる風が吹き荒れる。
数分後。ピーッという軽やかな音と共に扉が開くと……。
「わあ……! お洋服が、お空みたいにふわふわ!」
ステラの服は、まるで新品の雲を纏っているかのように輝き、ほのかに『アネモスの風』の香りが漂っている。そして何より驚いたのは、ウルだった。
『……おお……おおおっ!? なんという軽さだ! 我の毛が、我の毛が、かつて神々に創られた時以上に立ち上がっておる!』
ドラムから飛び出してきたウルは、元のサイズの三倍ほどに見えるほど毛が逆立ち、一歩歩くたびに「ぷにっ」と音がしそうなほどの弾力を取り戻していた。
もはや白狼というより、巨大な「光り輝く綿あめ」である。
◇
その頃、地上の「ドーム・シティ」では。
「お、おい見ろ! 上空から『最高の石鹸の香り』がする雪が降ってきたぞ!」
「これを浴びただけで、俺の使い古した雑巾が、王族のハンカチみたいにピカピカになった!」
ゼノスの洗濯機から排出された「浄化の余波」が、地上に『全自動・大掃除の雨』として降り注いでいた。
四魔王たちも、自分たちのマントが勝手に綺麗になっていくのを見て、「ゼノス殿、今度は洗濯屋を始めたのか……」と遠い空を仰いだ。
「ふぅ……。やっぱり、身の回りが綺麗になると気持ちがいいね」
俺は、限界までフカフカになったウルの背中(もはや沈み込んで戻ってこれないレベル)にステラを乗せ、満足げに頷いた。
「ゼノス様……。便利なだけじゃなく、心を真っ白にする。……あなたの道具は、本当に魔法よりも優しいです」
ミーシャの微笑みが、洗い立てのシーツのように眩しい。
家族全員がピカピカのフカフカになり、俺たちの旅は、さらなる清潔感に包まれて、未開の大地の深奥へと進んでいく。




