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第58話:星屑の夜と、究極の「全自動・星捕りアミ」

「天上のオーブン」で空を調理した翌晩、俺たちは『アネモスの尖塔』の頂上で、かつてないほど近くに迫る星空の下にいた。未開の大地の夜空は、地上のそれとは密度が違う。星々がまるで手の届く場所にある宝石のように、チカチカと賑やかに瞬いている。


「パパ、お星さま、さわりたい! きらきら、たべたい!」


ステラが短い手を空に伸ばし、ぴょんぴょんと跳ねる。

星の子である彼女にとって、夜空の光は本能的に惹かれる「おやつ」のようなものらしい。


「よし、ステラ。パパが一番綺麗な星を捕まえてあげるよ。……ついでに、その光で最高に甘い夜食を作ろう」


俺は工房の奥から、以前『星の記憶が眠る湖』で拾った「水面に映った星の影」、聖獣ウルがポメ化した際に抜け落ちた「発光する冬毛」、そしてミーシャが女神として祈りを捧げた時に結晶化した「浄化の琥珀」を取り出した。


「トントン、と……」


静寂に包まれた山頂に、小気味よいリズムが響く。星々の瞬きが、その音に合わせて規則正しく明滅し始めた。


【スキル:天体干渉・概念捕捉スターライト・ハーベスト発動】

【神話級アイテム:『全自動・星捕りアミ「流星りゅうせいキャッチャー」』】


それは、柄の部分が次元を伸縮させ、網の部分が「光」だけを物理的に絡め取る、幻想的な虫取り網だ。

これを使えば、数光年先の星の輝きだけを、温度を保ったまま手元に引き寄せることができる。


「さあ、ステラ、一緒に振ってみようか」

「うん! えいっ、えいっ!」


ステラが俺の手を借りて網を振るたびに、空から「ポロン、ポロン」と、鈴の音のような音と共に、金平糖に羽が生えたような『星の雫』が網の中に収まっていく。


「わあ……! パパ、みて! おててのなかで、お星さまが踊ってるよ!」


網の中の星屑は、ミーシャが用意した特製のクリスタル・ボウルに移されると、芳醇な蜂蜜のような香りを放ち始めた。


「ゼノス様、この星の雫……少し温めると、最高級のキャラメルよりも濃厚なソースになります。これでパンを焼いたら……」

「よし、夜のピクニックの始まりだ」



一方、その頃。


地上の「灼熱魔領」では、南の魔王レオンが、空から降ってくる「小さな光の粒」を不思議そうに眺めていた。


「おい、見ろ。今夜の星は、妙に揺れていると思わんか? ……む、何だこの香りは……。空から『キャラメル味の光』が降ってきているぞ!?」

「レオン様! 大変です、街中の子供たちが『お空が甘い!』と言って、スプーンを持って外に飛び出しています!」


ゼノスが星を捕まえる余波で、地上には「星屑の香りの粉雪」が降り注いでいた。

かつては恐怖の対象だった魔王の領地が、今やゼノスのお裾分けを待つ「スイーツの聖地」へと変貌していた。



山頂のテラス。

焼き立てのパンに、星屑のソースをたっぷりとかけて、俺たちは夜空の下で口にした。


「……っ、美味しい……。ゼノス様、口の中で銀河が弾けるようです」

「わん!(ポメ語:この甘さ、原初の記憶が呼び覚まされるようだ……!)」


ポメ姿のウルも、鼻先にソースをつけて夢中で食べている。ステラは口の周りをキラキラに光らせながら、満足げに俺の膝の上でウトウトとし始めた。


「パパ……また、あしたも……いっしょに……」

「ああ、もちろん。明日も、その次もずっと一緒だよ」


静かな夜のとばりの中、俺は女神となったミーシャと、星の子ステラ、そして小さな聖獣を抱き寄せた。

追放されたあの日の絶望は、今や宇宙で一番甘い、家族の想い出へと上書きされている。

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