第57話:天空の「全自動・気象パン焼き窯」と、雲の上の収穫祭
ポメ化した聖獣ウル(通称:ウルちゃん)を連れて、一行が次に向かったのは、未開の大地の中央にそびえ立つ、雲を貫く巨大な岩山『アネモスの尖塔』だった。
ここは星の「風」と「雲」が生成される場所であり、周囲には綿あめのように甘い香りのする雲が漂っている。
「パパ! お空が美味しそうだよ!」
ステラが指差した先には、夕焼けに染まってイチゴジャムのような色をした入道雲が広がっていた。
驚くべきことに、この地の雲は純粋な魔力の結晶であり、適切な温度で熱を加えることで、この世のものとは思えない「食材」へと変化する性質を持っていたのだ。
「なるほど、これが世界の『味』の源流か。……よし、せっかくこんなに良い素材があるんだ。地上のみんなにも届けられるような、最高の『空の恵み』を調理しよう」
俺は工房から、教皇庁が儀式で使っていた「聖なる火を灯す燭台」、北の魔王ガストフから貰った「永久凍土の冷気石」、そして先ほどウルが抜いた「ポメ毛の束(超高密度魔力繊維)」を取り出した。
「トントン、と……」
今回の槌音は、上昇気流に乗って空へと響き渡り、周囲の雲を渦巻かせていく。
【スキル:気象変換・神域調理発動】
【神話級アイテム:『全自動・気象パン焼き窯「天上のオーブン」』】
それは、旅路号の屋根から空へ向かって展開される、巨大なクリスタル製のオーブンだ。周囲の雲を吸い込み、雷の電気で発酵させ、太陽の光で焼き上げるという、文字通り「空を調理する」道具である。
「さあ、ステラ、ウルさん。手伝ってくれるかな?」
「わん!(任せろ!)」
「ステラ、魔法でくるくるする!」
ステラが魔法で雲をかき混ぜ、ウル(ポメ姿)が尻尾を振って風を送る。すると、オーブンからは香ばしい香りと共に、焼き立ての『入道雲のシフォンケーキ』や『雷鳴のクロワッサン』が次々と溢れ出してきた。
「……ゼノス様、これ……口の中でシュワっと溶けて、その後に星の輝きのような甘さが広がります。……こんなに幸せな味が、空にあったなんて」
ミーシャが頬を押さえてうっとりとする。
◇
その頃、地上の「エルフレードの塔」では。
「……ん? 空から何か降ってくるぞ?」
アステリオスが空を見上げると、そこから小さな光の粒が雪のように降ってきた。それは『絆くん』を介さずとも、ゼノスのオーブンから溢れた「幸せの香り」が、雨となって世界中に降り注いだものだった。
「この香りは……ゼノス様だ。間違いない。……みんな! 鍋を出せ! 空から『全自動・キャラメルソースの雨』が降ってくるぞ!」
アステリオスの呼びかけで、ドーム・シティの住民も、四魔王たちも、一斉に空に向かって器を掲げた。
世界中が、ゼノスのお裾分けによって「全自動・収穫祭」の状態になったのだ。
「ははは! ゼノス殿、相変わらず派手にやってくれる! この雨を浴びただけで、我が軍の筋肉が心なしか柔らかくなった気がするぞ!」(南の魔王レオン)
◇
「ふぅ……。世界中にお裾分けが届いたみたいだね」
俺は、ステラの口元についたクリームを拭いながら、夕焼けの空を見上げた。
かつて「無能」と蔑まれ、たった一人で王国を追われた俺が、今や家族と聖獣と共に、世界中の食卓を笑顔にしている。
「パパ、あしたは、なにをつくるの?」
「明日はね……あの星の光を捕まえて、『全自動・星屑のキャンディ』でも作ってみようか」
「わーい!」
幸せの香りに包まれて、俺たちの旅路はどこまでも高く、そして美味しく続いていく。




