第54話:星の子の「夜泣き」と、究極の「全自動・神級ベビーサークル」
星の心臓部で誕生した光の幼体『ステラ』が仲間に加わり、俺たちの旅路は一気に「子連れキャンプ」の様相を呈してきた。だが、相手は星の意志そのもの。その「赤ん坊」としての振る舞いも、また規格外だった。
「ゼノス様! 大変です、ステラちゃんが泣き出してしまいました! 彼女がひと泣きするたびに、未開の大地の重力が浮いたり沈んだりして、お茶の葉が天井に張り付いています!」
ミーシャが、浮かび上がるティーポットを必死に追いかけながら叫ぶ。
ステラは「悠久の旅路号」の中央で、淡い桃色の光を明滅させながら「えーん!」と声を上げた。その泣き声は次元を震わせ、窓の外では火山が噴火したかと思えば、次の瞬間には一帯が凍土に変わるという、気象パニックが起きていた。
「よしよし、ステラ。お腹が空いたのかな? それとも、少し環境が刺激的すぎたかな。……よし、星の子供が安心して『子供』でいられる場所を作ってあげよう」
俺は工房の床に転がっていた、聖獣ウルの「抜け毛(星屑の輝き入り)」、先ほど修復した原初の工房から出た「次元のネジ」、そして地上の王太子アステリオスから『絆くん』経由で届いたばかりの「究極のモチモチ白パン」を取り出した。
「トントン、と……」
今回の槌音は、子守唄のように優しく、心臓の鼓動に近いリズムで打ち鳴らされた。
【スキル:神格包摂・因果緩衝発動】
【神話級アイテム:『全自動・神級ベビーサークル「アストラル・ベイビー・ルーム」』】
それは、旅路号の内部に展開された、物理法則から切り離された特製空間だ。床はアステリオスのパンのように柔らかく、壁はウルの毛並みのように温かい。そして、ステラがどれだけ魔力を爆発させても、すべてが「可愛いおもちゃ」や「心地よいメロディ」に変換される魔法のゆりかごである。
「さあ、ステラ。ここでゆっくり遊んでおいで」
ステラをその中へそっと置くと、彼女の泣き声はすぐさま「キャッキャ」という鈴を転がすような笑い声に変わった。彼女が放った破壊的な魔力エネルギーは、サークルの中で「全自動・ふわふわポメラニアン」へと変換され、ステラの周りを元気に駆け回り始めた。
「……ふぅ。これで一安心だね、ミーシャ」
「はい、ゼノス様。……見てください、あんなに幸せそうに。……世界を直すのも大切ですけど、一人の子供を笑顔にするのも、同じくらい素晴らしい偉業ですね」
◇
一方、その頃。
地上の「エルフレードの塔」では、四魔王たちが集まって緊急会議を開いていた。
「聞いたか! ゼノス殿に『隠し子』……いや、『星の子供』が生まれたそうだぞ!」(南の魔王レオン)
「星の子だと!? ならば我らも『叔父』として、相応の祝いをせねばならん。我は北の最果てで採れる『絶対に溶けない氷のガラガラ』を用意した!」(北のガストフ)
魔王たちは、誰が一番ステラに気に入られる「叔父」になれるかを競い合い、大量の貢物を『絆くん』に押し付けていた。
「あの、魔王様たち……。私の焼いた『全自動・離乳食パン』も、一緒に持っていってください。ゼノス様なら、きっとこれで新しい道具を作ってくださるはずですから」
アステリオスが誇らしげに差し出したパンも加えられ、超次元ポストはパンパンに膨れ上がって空へと飛び立っていった。
「おや、みんなからお祝いが届いたよ」
届いた荷物を見て、ステラはさらに大喜び。彼女が喜ぶたびに、未開の大地の空には見たこともないほど巨大で美しい虹が、幾重にも重なって現れた。
「ゼノス様……。ステラちゃんが笑うと、世界がどんどん優しくなっていきますね。……でも、私たちも親として、もっとしっかりしなきゃいけませんね」
「そうだね。……よし、明日はステラを連れて、この大地のさらに奥にある『星の記憶が眠る湖』へ行ってみようか。家族三人、いや、ウルさんも入れて四人の、最初の家族旅行だ」
『――我が背に乗るが良い、若き星の主よ。……ただし、あのお腹のブラッシングも、移動中にお願いできると嬉しいのだが……』
聖獣ウルの背中に、神級ベビーサークルを積んだ荷車を繋ぎ、俺たちは再び歩き出す。
家族という新しい絆を得たゼノスの「スローライフ」は、もはや一つの星を育むという、壮大な「子育て日記」へと進化していた。




