第53話:世界の心臓「原初の工房」と、「全自動・万物修復ハンマー」
聖獣ウルの広大な背に揺られ、俺たちは未開の大地の最深部へとたどり着いた。そこには、空を突くような巨樹の根元に、クリスタルで形成された巨大な洞窟が口を開けていた。
『ゼノスよ、ここが世界の心臓――「原初の工房」だ。かつて神々がこの星を設計し、最初の道具を打ち出した場所。だが今やその火は絶え、残されたのは壊れた「世界の設計図」のみよ』
ウルの言葉通り、洞窟の奥には、星の自転や魔力の流れを司る巨大な歯車や、虚空に浮かぶ魔法陣の残骸が、錆びつき、あるいは砕け散った状態で放置されていた。かつて神々が「管理が面倒だ」と放り出した、いわば「神のゴミ捨て場」である。
「……なるほど。ここが詰まっているから、時々世界の魔力バランスが崩れたり、変な『呪い』が生まれたりしていたんだね。……よし、ミーシャ。ここを大掃除して、全部直しちゃおう」
「はい、ゼノス様! 女神としての私の力、今こそこの星の『健康』のために使わせてください!」
ミーシャが祈りを捧げると、彼女から溢れ出す黄金の光が、埃を被った装置たちを照らし出す。俺はその光の中に、かつてないほど巨大な「可能性」を見た。
俺は工房の隅に落ちていた「神が打ち捨てた折れた槌」、聖獣ウルから貰った「原初の体毛」、そしてアステリオスのパン作りで使われる「粘り強い小麦の精髄」を取り出した。
「トントン、と……」
今回の槌音は、星の鼓動と同調するように、深く、等間隔に、洞窟全体を震わせた。
【スキル:万象修復・概念再構築発動】
【神話級アイテム:『全自動・万物修復ハンマー「一打ち(ひとうち)くん」』】
それは、一見すると小さな銀のハンマーだが、軽く叩くだけで対象の「あるべき姿」を読み取り、瞬時にそこまで時間を巻き戻して修復する、文字通りの神具だった。
「よし、まずはこの『自転の歯車』からだ。……トントン、と」
俺が巨大なクリスタルの歯車を叩くと、数万年の錆が一瞬で剥がれ落ち、歯車は軽やかな音を立てて回り始めた。続いて「魔力の循環パイプ」を叩けば、詰まっていた澱が浄化され、星の血液たるマナが清らかに流れ出す。
その瞬間、地上の各地で「奇跡」が起きた。
◇
ドーム・シティでは、噴水から溢れる水が「飲むだけで寿命が延びる霊水」に変わり、四魔王たちの領地では、土地の肥沃さが十倍に跳ね上がった。
『な、なんだ!? 我が「灼熱魔領」の火山から、最高級の「焼き立てピザ」のような香りがする煙が立ち上っておるぞ!』(南の魔王レオン)
◇
『おのれゼノス殿……。また我らの想像を超えた「リフォーム」をしておるな……!』(北のガストフ)
◇
さらに「エルフレードの塔」では。
アステリオスが、自分がこねていた生地が、叩いてもいないのに「勝手に一番美味しい形」に膨らんでいくのを見て、天を仰いだ。
「ゼノス様……。あなたはついに、この星そのものを『全自動』にしてしまわれたのですね……」
「ふぅ……。これで星の調子もバッチリだ。……おや?」
修復を終えた「原初の工房」の中央に、一つの小さな光る卵が現れた。それは、星が正常に機能し始めたことで生まれた『星の意志』の幼体だった。
『……パパ? ……ママ?』
光の玉から聞こえてきたのは、幼い子供のような声。どうやら、この星を直してくれた俺とミーシャを、親だと認識してしまったらしい。
「ゼノス様、この子……とっても可愛いですね。……私たちの旅に、この子も連れて行ってもいいですか?」
「そうだね。名前は……『ステラ』にしようか。星の子供だからね」
聖獣ウル、女神ミーシャ、呪具師ゼノス。そして、新たに加わった星の子ステラ。
最強にして最愛の「家族」となった一行の旅は、もはや一つの世界の枠を超え、次なる次元の物語へと進み始める。




