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第5話:聖遺物の「農具」と、凍りついた刺客たち

「いたぞ! あそこだ!」


瘴気をかき分け、五人の騎士が姿を現した。

彼らが手にしているのは、王家直属の証である白銀の長剣。だが、その剣身は森の毒気に当てられ、薄汚く曇っている。


「ゼノス・マクレーン! 貴様が森に放った『呪いの残滓』のせいで、王太子殿下をはじめ多くの方々が体調を崩された! 毒を撒き散らした罪、その首で贖ってもらうぞ!」


……なるほど。

俺が置いてきた呪具が壊れたせいで起きた不調を、俺のせいにしに来たわけか。


「……ゼノス様。やはり、塵にしてもよろしいでしょうか?」


俺の背後から、ミーシャが静かに、しかし確実な殺意を伴って歩み出る。

彼女の足が触れた地面から、結晶化した氷がバキバキと音を立てて広がっていく。


「な、なんだこの女は……!? ひっ、ひるむな! 所詮は呪具師にたぶらかされた不浄の女だ! 構わん、まとめて斬れ!」


騎士たちが一斉に踏み込んでくる。

彼らが剣を振り上げた、その瞬間――。


「主様の休息を邪魔する不敬。その罪、万死に値する」


ミーシャが指にはめた『凍てつく魂の守護指輪』が、冷たく輝いた。

彼女が右手を軽く一振りする。それだけで、森の瘴気そのものが巨大な氷の槍へと姿を変え、騎士たちの足元から突き出した。


「ぎゃああああ!?」

「あ、足が……! 氷が、離れない……!」


必殺の一撃ではない。ミーシャは俺の「死なせない程度に」という言葉を律儀に守り、彼らの機動力を奪うためだけに、膝から下を完全に凍土へと縫い付けたのだ。


「熱い……! 凍っているのに、魂が焼かれるように熱い……ッ!」


ただの氷じゃない。彼女の魔力は「呪い」を核としている。

凍りつきながらも、その肉体には永劫に続くかのような「凍傷の苦痛」が刻まれ続ける。


「さて。せっかく来てくれたんだ。手ぶらで帰すのも悪いしな」


俺は地面に転がっていた騎士の一人の剣を拾い上げる。

王家御用達の業物のはずだが、俺から見れば素材の使い方がなっていない。


「……少し、加工してやろう」


俺は愛用のハンマーを取り出すと、騎士たちの目の前でその長剣をガンガンと叩き始めた。

火花ではなく、黒い火花と紫の火花が散る。


「な、何を……我が王家の誇りである名剣を、汚れたハンマーで……!」

「黙ってろ。今、使いやすくしてやってるんだから」


【スキル:変転錬成シフト・クラフト発動】

【素材:王家の長剣 + 騎士の恐怖心 + 森の毒素】

【作成完了:等級不明アイテム『全自動・草むしり鎌』】


「よし、できた」


俺が作り替えたのは、剣ではない。

先端が歪に曲がり、ひとりでに「ガチガチ」と刃を鳴らす、禍々しい見た目の鎌だ。


「……ゼノス様。それは?」

「ああ、拠点の周りの雑草が邪魔でさ。これなら、勝手に動いて呪毒を含んだ草だけを刈り取ってくれる」


俺がその鎌を地面に放り投げると、鎌は生き物のように騎士たちの周りを這い回り、彼らのマントの裾や、森の枯れ草を「ヒヒヒッ」と笑うような音を立てて刈り取り始めた。


「ひっ、ひぃぃぃ! 剣が……俺の愛剣が、化けゴーレムに……!」

「それを持って帰って、殿下に伝えてくれ。『俺のことはもう放っておいてください。こっちはこっちで、楽しく耕してますから』ってさ」


俺はミーシャに目配せし、彼らの足の氷を解いてやった。

騎士たちは腰を抜かし、勝手に草を刈り続ける

「元・名剣」を引きずりながら、脱兎のごとく王都の方へと逃げ帰っていった。


「……ゼノス様。少し優しすぎませんか? 我としては、彼らの魂を抽出して、テントの街灯の燃料くらいにはしたかったのですが」

「ミーシャ……その発想はちょっと怖すぎるぞ」


俺は苦笑いしながら、彼女の頭を軽く撫でた。

彼女は一瞬、驚いたように目を見開いたが、すぐに蕩けたような表情で俺の手のひらに頬を寄せてくる。


「……あ、温かい。やはり、貴殿は我の『特別』だ」


こうして、俺たちの奇妙な辺境開拓生活が本格的に始まった。

だが、逃げ帰った騎士たちが持ち帰った「動く鎌」が、後に王都の農政と軍事バランスを根底からひっくり返す大騒動を巻き起こすとは、この時の俺はまだ予想だにしていなかったのである。

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