第42話:聖地巡礼と、究極の「全自動・観光ガイド・ドローン」
世界滅亡の危機を「レモン香る掃除機」で吸い取ってから数日。王国の自滅的な暴走は完全に鎮圧され、生き残った兵士や宮廷関係者までもが「自首」という形で俺の理想郷『ドーム・シティ』へと流れ込んできた。
もはや、この街は一地域の拠点ではない。世界中の人々が「ここに行けば救われる」と信じる、文字通りの『聖地』と化していた。
「ゼノス様、困りました……。街の入り口に、各地の王族や商長、果ては辺境の部族長までが列をなしています。皆、あなたを一目拝みたい、あるいはこの街の『奇跡の家電』を一つでいいから譲ってほしいと、一歩も動こうとしません」
ミーシャが、街の外を埋め尽くすテントの群れを見て溜息をつく。かつて彼女を恐れた人間たちが、今や彼女の主である俺を求めて、殺到しているのだ。
「うーん、直接会うのは流石に疲れるな。でも、せっかく遠くから来てくれたんだし、手ぶらで帰すのも忍びない。……よし、彼らの『願い』を自動で整理して、ついでに街のルールを教えてくれる『あれ』を作ろう」
俺は工房の棚から、以前教皇庁から届いた「神の託宣を録音する貝殻」と、西の魔王クロノスが持ってきた「過去と未来を映す水晶の破片」、そして庭に落ちていた「ポメラニアンたちの抜け毛」を取り出した。
「トントン、と」
【スキル:概念翻訳・広域誘導発動】
【作成完了:神話級アイテム『全自動・おもてなし観光ガイド・ドローン「案内くん」』】
俺がその、ポメラニアンの形をしたふわふわの小型ドローン(抜け毛製)を空に放つと、それは瞬時に数千体に分裂し、街の外で待機する群衆のもとへ飛んでいった。
「ワンワン!(ようこそ、ゼノスの理想郷へ。ご用件をどうぞ!)」
ドローンが可愛い声で鳴くと、群衆の言語に合わせて適切な回答が脳内に直接響く。
「喉が渇いた」と言えば、ドローンのお腹から冷えた聖水(ゼノス特製ジュース)が出てき、「病気を治してほしい」と言えば、ドローンが放つ『浄化の光』が一瞬で体調を万全にする。
「おお……! この犬型の使い魔、私の難病を一瞬で治しおった!」
「見てくれ! 提示された『移住条件』が、私の得意な『パン作り』で貢献することだ。これなら私でもこの街の役に立てる!」
群衆は熱狂した。かつての「選民思想」にまみれた王国とは違い、ゼノスの街は「何ができるか」よりも「どう楽しむか」を重視する。ドローンたちは、一人一人の適性を瞬時に見抜き、最適な『居場所』を割り振っていく。
◇
その様子を、ドームの外縁で泥水をすすりながら見ていたアステリオス王太子は、絶望に顔を歪ませていた。
「……ガイドだと? あの奇跡のような力を持つ道具を、ただの『案内役』にしているのか!? あの犬一匹で、我が国の宮廷魔術師団全員を合わせたよりも価値があるというのに……!」
アステリオスがドローンに近づこうとすると、ドローンは無機質な、しかし丁寧な声で告げた。
「ワン。(お客様、あなたは以前『ゴミ』をポイ捨てしましたね? 当街のブラックリストに登録されています。再教育キャンプにて『全自動・トイレ掃除機』の補助業務から始めていただきます)」
「な……王太子の私が、トイレ掃除の補助だとおおお!?」
王太子は、自分がかつて「無能」と蔑んだゼノスが、今や「世界の神」のような存在として、自分に最も相応しい「最も低い場所」を提示したことに、プライドを粉々に打ち砕かれた。
◇
その日の夜。
四魔王たちは、新しくできた『全自動・展望露天風呂』に浸かりながら、夜空を舞うドローンたちの光を眺めていた。
「ゼノス殿……。貴殿は、力で世界を支配するのではなく、圧倒的な『サービス』で世界をひざまずかせたのだな」
南の魔王レオンが、湯気に巻かれながら感嘆の声を漏らす。
「支配など興味はないよ。ただ、みんなが笑って、ミーシャとゆっくりお茶を飲める場所が欲しかっただけさ」
俺がそう言うと、隣で一緒に(仕切り越しに)お風呂を楽しんでいたミーシャが、幸せそうに「はい、ゼノス様」と答えた。
「……ゼノス様。明日は、あのドローンたちの機能を使って、『世界中の美味しい食材を自動で集めるスタンプラリー』を開催しませんか? 最高の晩餐が楽しめそうです」
「いいね。じゃあ、明日は忙しくなるぞ」
俺たちのスローライフは、今や世界中の「希望」を整理し、一粒の「楽しみ」へと変えながら、かつてない平和な朝を迎えていく。




