第41話:亡国の「禁忌召喚」と、全自動・害虫駆除機「ゴッド・クリーナー」
ゼノスの理想郷『ドーム・シティ』が四魔王の守護のもと、空前絶後の繁栄を謳歌していたその裏で、腐り果てた『王国』の残党たちは、絶望の淵で最後の狂気に走っていた。
「ゼノス……ゼノス……! あのゴミめ、我が国をこれほどまでに辱めるとは……!」
王都の地下深く、カビと腐敗臭が漂う禁忌の祭壇。アステリオスの父である国王と、彼に媚びを売ってきた宮廷魔術師団が、血走った目で巨大な魔法陣を囲んでいた。彼らの周囲には、王国に残されたわずかな民から強引に徴収した魔力結晶が、山のように積み上げられている。
「陛下、準備は整いました。古の契約に基づき、この世界を一度無に帰す破壊神『虚無の王』を召喚します。ゼノスの理想郷ごと、不遜な魔王どもを消し飛ばしてやりましょう!」
宮廷魔術師長が、狂ったように笑いながら呪文を唱え始める。
彼らにとって、自分たちが統治できない世界など、滅んでしまった方がマシだったのだ。
ドォォォォォォォォォォンッ!!
王都の空が真っ黒に割れ、そこから「概念としての死」を具現化したような、巨大な異形の腕が這い出してきた。それは触れるものすべてを風化させ、存在そのものを消去する終焉の化身。かつて神々が数千年の封印を施した、文字通りの『禁忌』だった。
その頃、ゼノスの拠点では、平和な昼下がりのお茶会が開かれていた。
「ゼノス様、北の空から……とても『汚いもの』が近づいています。例えるなら、千年放置された生ゴミに、最悪の呪いを煮詰めてかけたような……生理的に受け付けない臭いです」
ミーシャが、手にしたティーカップを置き、眉をひそめて空を見上げる。
四魔王たちも一斉に立ち上がった。彼らの顔からは余裕が消え、かつてない戦慄が走っている。
「……あり得ん。あのプレッシャーは……まさか『虚無の王』か!? 王国の馬鹿ども、世界ごと心中するつもりか!」
南の魔王レオンが、煮えたぎる大剣を抜き放つ。
「ゼノス殿、ここは我らが命に代えても食い止める! 貴殿はその間に、民を連れて避難を――」
北の魔王ガストフが叫ぶが、俺は椅子から立ち上がることもなく、静かにお茶を啜った。
「いいよ、みんな。そんなに慌てなくても。……ちょうど、街の路地裏に住み着いた『魔物化したドブネズミ』を掃除しようと思って、新しい道具を作ってたところなんだ」
俺は工房から、教皇庁の『聖遺物の廃材』と、東の魔王シルフが持ってきた『超高速振動する羽の化石』、そしてキッチンにあった「古くなったレモンの皮」を取り出した。
「トントン、と」
【スキル:概念消去・超振動洗浄発動】
【作成完了:神話級アイテム『全自動・害虫駆除機「ゴッド・クリーナー」』】
見た目は、どこにでもある小さな手持ち式の「ハンディ掃除機」だ。だが、その吸い込み口からは、この世の物理法則を無視した『絶対的な秩序』の波動が漏れ出している。
「よし、ミーシャ。ちょっと窓を開けてくれるかな」
俺が掃除機のスイッチを『強』に入れる。
シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!
次の瞬間、世界から音が消えた。
王都の空を覆い、世界を滅ぼそうと顕現した『虚無の王』の腕が、まるで見えない巨大な掃除機に吸い込まれるように、掃除機のノズルへと引き摺り込まれていったのだ。
「ギ……ギャアアアアア!? 破壊神である私が……ゴミのように吸われるだとおおお!?」
破壊神の絶叫も空しく、数千メートルの巨体は瞬時に圧縮され、掃除機の紙パック(教皇の法衣で作った特別製)の中に「ポンッ」という軽い音と共に収まった。
「……ふう。レモンの皮を入れたから、吸い込んだ後も爽やかな香りがするだろ?」
俺が掃除機のフィルターをポンポンと叩くと、そこからは破壊の波動など微塵も感じられない、清潔感溢れるシトラスの香りが漂ってきた。
「「「「…………は?」」」」
四魔王が、口をあんぐりと開けて固まっている。
自分たちが命懸けで挑もうとしていた世界滅亡の危機が、わずか数秒、レモンが香る「お掃除」として処理されてしまったのだ。
「……ゼノス様。……あの『虚無の王』が入った紙パック、そのまま王宮に送り返しましょうか? 破壊の概念がレモン風味に浄化されていますから、あちらの王様も少しは頭が冷えるでしょう」
ミーシャがクスクスと笑いながら提案する。
「いいね、ミーシャ。ついでに『これからは、ゴミはちゃんと分別して捨てましょう』ってメモを添えておこう」
◇
その頃、王都の地下祭壇では――。
召喚したはずの破壊神が「掃除機のノズル」に吸い込まれて消えるという、あまりにもシュールな光景を目の当たりにした国王と魔術師たちが、ショックのあまり精神を崩壊させていた。
さらに、彼らの元へ「空間転移」で届けられたのは、中身がパンパンに詰まった『レモン香る紙パック』。
それが開封された瞬間、王宮全体が「潔癖すぎるほどの清潔さ」に包まれ、不浄な野望を持っていた彼らは、その『あまりの眩しさ』に耐えられず、自分たちの罪を叫びながら自首するために街へと飛び出していった。
「さて、掃除も終わったし、お茶のおかわりを淹れようか」
俺たちのスローライフは、神話級の脅威すらも「家事の延長」で解決し、世界をレモンの香りで包み込みながら、さらなる高みへと進んでいく。




