第35話:東の魔王の「挑戦状」と、究極の「全自動・洗濯乾燥機」
南の魔王レオンが、伝説の魔石と引き換えに「サツマイモ用の肥料」を大事そうに抱えて去ってから数日。
今度は東の空から、耳をつんざくような「雷鳴」と、風を切るような高い音が響き渡った。
「ゼノス様、次は東の鳥女ですね。……騒がしい。あちらの羽毛も、以前の聖騎士たちの鎧のように、肉の油でギトギトにしてやりましょうか?」
ミーシャが冷たく空を見上げる。現れたのは、東の「大嵐魔領」を統べる魔王、天嵐の魔女『シルフ』率いるハーピーの軍勢だった。
彼女は空中から旋回しながら、俺の家の庭に一通の「巻物」を矢のように突き立てた。
「呪具師ゼノス! 北の爺や南の巨漢が貴様に屈したと聞いたが、この私は騙されんぞ! 我が領地の至宝『神風の風切羽』……これに触れ、その『便利道具』とやらが、大自然の猛威に勝てるか証明してみせよ!」
シルフが投げ落としたのは、周囲の空気をカミソリのような真空の刃に変え、常に音速の気流を纏い続ける伝説の素材だった。それは触れようとする者の指を容易く切り刻む、制御不能の「暴風の塊」だ。
「……なるほど。常に強風が吹き荒れていて、中に入ったものを瞬時に乾燥させるのか。それは助かる」
俺はシルフが「ぎゃあ!?」と叫ぶのを余所に、真空の刃を素手で掴み取った。もちろん、ミーシャが周囲の空間を「絶対停止」の呪いで固定してくれているおかげだ。
「よし。これで、雨の日の洗濯物も怖くないな」
俺は工房から、教皇庁の宝物庫から「転送」されてきた『聖女の祈りが込められた水槽』と、魔王レオンの部下が置いていった『耐熱合金のバネ』を取り出した。
「トントン、と」
【スキル:気流循環・概念洗浄発動】
【作成完了:神話級アイテム『全自動・高速旋回式・洗濯乾燥機(東の魔王モデル)』】
俺はその『風切羽』をドラムの回転軸に組み込んだ。
そして、ミーシャが昨日汚したエプロンや、ポメラニアンたちが泥遊びをしたタオルを放り込む。
シュバババババッ!!
凄まじい回転音。
だが、装置からは一切の振動も漏れない。
シルフが「世界を切り裂く嵐」と誇っていた力は、今やドラムの中で洗濯物を「一秒間に一万回転」させ、汚れを原子レベルで弾き飛ばし、直後に真空乾燥で「極上のフワフワ」に仕上げるための動力にされていた。
「よし、終わったぞ。見てくれ、このタオルのボリューム。新品より柔らかい」
「……な、……私の『神風』が……パンツを乾かす道具に……!?」
シルフは空中で翼をバタつかせながら、あまりのショックに墜落しかけた。
彼女たちが数世代にわたって畏怖し、崇めてきた自然の猛威が、今や「家事の時短」という極めて世俗的な目的のために、完璧に飼い慣らされている。
「あ、シルフさん。そんなに驚かなくても。お礼に、この『絶対にシワにならないアイロンがけスプレー』をあげよう。羽のお手入れに使うと、ツヤツヤになるよ」
俺がスプレーをシュッとかけてやると、シルフの乱れていた羽は、一瞬で「宝石のような輝き」を取り戻した。
「……っ、……な、何これ!? 私の羽が、生まれて初めてこんなにまとまってる……! 悔しい……悔しいけど、この手触り、最高だわ……!」
東の最強魔王は、アイロンがけスプレーの虜になり、「次はトリートメントも作って!」と叫びながら、部下を引き連れて(整列して)帰っていった。
「ゼノス様。これで四魔王のうち三人が、実質的に『うちの家電のテスター』になりましたね。残るは西の魔王だけですが……」
「西の魔王か。どんな便利なパーツを持ってきてくれるかな」
俺たちのスローライフは、世界の脅威を「家電のアップグレード」へと変換しながら、いよいよ世界規模の「快適革命」へと突入していく。




