表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/68

第3話:呪いの姫と「神の金槌」

「……狂うたか、人間。我が身を苛むはこの世の理から外れた『終焉の呪い』ぞ。触れれば魂ごと凍てつき、砕け散るのみ」


少女の唇は動いていない。だが、拒絶の意思は冷気となって俺の頬を削る。

確かに凄まじいプレッシャーだ。普通の人間なら、この場に立っているだけで心臓が止まるだろう。

だが、俺は確信していた。

この呪いは、彼女が望んで持っているものではない。制御できずに溢れ出し、彼女自身を檻に閉じ込めている「悲しい素材」だ。


「いいや、狂ってないさ。俺は呪具師だからな。君のその苦しみ、放っておくにはあまりにも……『もったいない』」


「……何?」


俺は『因果応報の指輪』を全開にする。

指輪が赤黒く脈動し、彼女から放たれる凍てつく呪気を、ダイソンも驚きの吸引力で飲み込み始めた。


「なっ……我が冷気を吸うているというのか!? 貴様、何者だ!」

「ただのクビになった職人だよ」


俺は少女を閉じ込めている氷の結晶の前に膝をつき、愛用のハンマーを構えた。

そのまま、結晶に巻き付いた漆黒の鎖――彼女を縛る呪いの実体に、ハンマーをコツンと当てる。


「さあ、お仕事の時間だ」


【スキル:解呪錬成ディスペル・クラフト発動】


俺は彼女の体から溢れる「絶望の冷気」を、その「漆黒の鎖」の中に叩き込んでいく。

バラバラに暴走しているエネルギーを、一つの形へと編み上げ、固定する。

キン、キン、と高く澄んだ音が凍った森に響く。

それは破壊の音ではない。新たな命を吹き込む、創造の旋律だ。


「う、あ……熱い……? 我の魂を焦がす冷気が、収まっていく……?」


少女の閉じていた瞼が、ゆっくりと持ち上がる。

深紅の瞳が、驚愕に揺れながら俺を見つめた。


「よし、仕上げだ。……形は、そうだな。ずっと一緒にいられるものがいい」


俺は最後に、彼女の魔力を結晶化させ、鎖と融合させて一つの「指輪」へと凝縮した。


パキィィィン!!


激しい音と共に、彼女を閉じ込めていた氷の結晶が霧散する。

拘束から解き放たれた少女の体が、ふわりと崩れ落ちる。俺は慌ててその細い身体を受け止めた。


「……終わったよ。もう大丈夫だ」

「信じられぬ……。神々ですら解けなかった我が呪いを、人の手で御したというのか……?」


彼女の指には、今、俺が作ったばかりの指輪がはまっていた。

漆黒の台座に、凍てつく銀色の宝石。彼女の強大な魔力を完全に制御し、むしろ彼女の生命力を活性化させる「補助装備」へと変貌した逸品だ。


【作成完了:神話級アイテム『凍てつく魂の守護指輪ソウル・バインド』】


「これ……は……?」

「君の呪いを、君を守る力に変えておいた。それがあれば、もう周りを凍らせることもないし、君も自由に動けるはずだ」


少女は信じられないといった様子で自分の手を見つめ、それから俺の顔をじっと見上げた。

その瞳には、先ほどまでの拒絶ではなく、得体の知れない強い感情が宿っている。


「……主様ぬしさま

「えっ、主様?」

「呪いを統べ、我を救いし者。我が名はミーシャ。かつて世界に絶望を振りまく魔女として封じられた者……。だが、今この時から、我が身も心も、そしてこの呪いすらも、全ては貴殿のものだ」


ミーシャは俺の胸に顔を埋め、驚くほどの力で抱きついてきた。

ひんやりとしていて、でもどこか温かい。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺はただ、いい仕事がしたかっただけで……」

「離さぬ。二度と離さぬぞ。貴殿を捨てるような愚かな世界なら、我が今ここで凍らせてやろうか?」

「いや、それはやめてくれ! 頼むから!」


俺が必死に彼女を宥めている頃。

王国では、王太子アステリオスが絶叫していた。


「な、なんだこれは!? ハンス! 貴様の作った聖具が、なぜ粉々に砕けている!?」

「そ、そんなはずは……! ゼノスの呪具を捨てた途端、装備のバランスが崩壊して……ぎゃあああ!?」


王都最強のパーティを襲う、自業自得の崩壊。

その足音が近づいていることを、俺と、俺にベッタリと甘え始めた最強の「呪い姫」は、まだ露ほども知らない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ