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第22話:皇女の戦慄と、究極の「おもてなし」

帝国レギウスの第三皇女アイリスは、案内されたゲストハウスで震えていた。

恐怖ではない。あまりの「異常」に、五感が悲鳴を上げているのだ。


「……信じられない。この部屋、ただの木製に見えて、全ての木材に『害虫忌避』と『精神安定』の呪いが二重に掛けられているわ。ベッドに至っては、横たわるだけで魔力が全回復していく……これ一つで、帝国の国庫が空になるわよ」


アイリスが震える手でシーツに触れていると、コンコン、と控えめなノックの音が響いた。


「夜分にすみません。夜食を持ってきました。自炊と言いましたが、ミーシャが『作りすぎた』と言うので」


俺が差し出したのは、銀色のプレートに乗った「何の変哲もない」サンドイッチだ。だが、そのパンには『神の恵み』と名付けた特殊な酵母を使用し、具材のハムには『火竜の肉』を低音調理して挟んである。


「いただきます……。っ!? な、何これ……! 噛んだ瞬間に脳を揺さぶるような旨味が……。それに、食べたそばから全身の血管が浄化されていく!? ゼノス殿、これは一体……?」

「ああ、ただの『余り物』の呪具飯ですよ。食べると一晩中、一切の疲れを感じなくなる程度の呪いがかかってます」


アイリスは涙を流しながら完食した。

彼女はこの時、悟ったのだ。武力や財力でこの男を屈服させるなど、太陽を素手で掴もうとするほど無謀なことだと。

翌朝。

アイリスが目を覚ますと、窓の外からガガガガッという凄まじい音が聞こえてきた。


「な、何事!? また魔王の眷属が現れたの!?」

慌てて外へ出たアイリスが見たのは、昨日までただの荒れ地だった場所に、一瞬で「完璧な舗装道路」が出来上がっていく光景だった。


「よし、これで避難民の子供たちも走り回れるな」


俺が手に持っていたのは、小さな『おもちゃの車』のような呪具。

地面に置くだけで、自動的に障害物を消去し、最高級の石材を錬成して敷き詰めていく『全自動・道路公認カー(レジェンド級)』だ。


「ゼノス殿……。その、今あなたが片手間に使った装置……。それがあれば、帝国の難所である山脈越えも、数日で終わってしまいます。どうか、どうか帝国と技術提携を……!」

「いいですよ。ただし、軍事転用は禁止です。もしそんな気配があれば、道路が勝手に『逆走』して、軍隊をスタート地点に押し戻す呪いを仕込んでおきますから」


俺がさらりと告げると、アイリスは「ですよね……」と苦笑いして、帝国へ帰還する決意を固めた。

彼女は、ゼノスを「敵」にするのではなく、世界で一番の「お得意様」になることが、帝国が生き残る唯一の道だと確信したのだ。



一方その頃。

王都の廃墟で、アステリオス王太子はついに最後の禁忌に手を染めていた。


「ハァ……ハァ……。帝国までもが、あの男に媚びを売るか……。ならば良い。私は……人間であることを捨てるぞ!」


アステリオスが掲げたのは、魔王の残った心臓の一部。

彼はゼノスへの嫉妬に狂うあまり、自らの肉体を器として捧げようとしていた。


「ミーシャ。……なんか、王都の方から凄まじい悪臭がするな」

「ええ、ゼノス様。……ゴミの最終処分場が、溢れ出そうとしているようです。そろそろ、我(魔女)の力で完全消去してもよろしいですか?」

「いや、まだだ。……どうせなら、あいつの悪意すら『便利な道具』に変えてやろう」


俺は、これまでで最大の錬成を行うべく、地下の工房へと向かった。


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