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第21話:隣国の視察と、最高級の「ただの石畳」

王都が静かに自滅を続ける中、俺の拠点周辺は「避難民キャンプ」というよりは、もはや「世界で最も幸福な自治領」と化していた。

人々が黄金風呂で癒やされ、聖なる消臭炭で暖を取る中、新たな来訪者が現れた。

今度はボロボロの敗残兵ではない。

整然と整列した白銀の騎兵隊。そして、豪奢な紋章を掲げた馬車。

隣国・帝国レギウスの第三皇女、アイリス・レギウスが直々に視察へやってきたのだ。


「……ここが、あの呪具師の拠点? 冗談でしょう。王宮よりも魔力濃度が高くて、空気が透き通っているなんて」


馬車から降り立ったアイリスは、地面を見て目を見開いた。


「皇女殿下、お気をつけください。足元に罠が……」

「違うわ。見て、この石畳……これ、すべて『重力制御』と『自動清掃』の呪印が刻まれているわ。歩くだけで足の疲れが取れる……こんな贅沢、帝国でもあり得ない!」


アイリスが興奮気味に拠点へ足を踏み入れると、テラスでミーシャが俺の膝枕でくつろいでいるのが見えた。


「ゼノス様。また、派手な羽虫がやってきましたよ。今度は帝国のお姫様のようですが……羽をもいでもよろしいですか?」

「ミーシャ、物騒なこと言わないの。……アイリス殿下ですね。遠路はるばる、こんな辺境に何の用ですか?」


俺が欠伸をしながら立ち上がると、アイリスは深々と頭を下げた。


「ゼノス・マクレーン殿。帝国の威信にかけて、あなたを我が国の『総帥呪具師』としてお迎えしたい。報酬は望むまま、領地も、あるいは私との婚約すら検討しましょう」


その言葉が出た瞬間、周囲の温度がマイナス50°Cまで急降下した。


「……今、なんと? ゼノス様との『婚約』?」


ミーシャが立ち上がる。その瞳には、かつて世界を絶望させた「呪い姫」の冷酷な光が宿っていた。

アイリスの騎士たちが恐怖で剣を抜こうとするが、指一本動かせない。自分たちの影が地面に「凍りついて」固定されているのだ。


「ミーシャ、ストップ。……殿下、せっかくの申し出ですが、お断りします。俺はここで、彼女と静かに暮らしたいだけなんだ」

「ですが! あなたがいれば、帝国の軍事力は一気に大陸一に……」

「軍事力、ね。……俺の道具は、誰かを傷つけるためのものじゃない。ほら、見てください」


俺はアイリスに、庭の片隅で回っている『全自動・洗濯乾燥機(神話級)』を見せた。


「これは汚れを落として、ついでに服の修復リペアまでする。俺はこういう、生活をちょっと便利にする『呪い』を作ってる方が楽しいんですよ」


アイリスは、洗濯機から放たれる「世界樹の息吹」に近い神聖な波動を感じて絶句した。

彼女たちが兵器として欲しがっている技術が、ここでは「家事の時短」に使われている。そのあまりの価値観の差に、皇女としてのプライドが音を立てて崩れていく。


「……分かりました。スカウトは一度諦めましょう。ですが、せめて一晩、ここに留まらせてはいただけませんか? この石畳の上で眠るだけでも、人生の価値がありそうですから」

「まあ、ゲストハウスなら空いてますよ。自炊は自分たちでやってくださいね」


こうして、隣国の皇女までもが俺の拠点の「居心地の良さ」の虜になってしまった。

一方で、アステリオスたちは泥水を啜りながら、ゼノスが他国の皇女と仲良くしているという噂を聞き、嫉妬と逆恨みでさらに正気を失っていく。


「ゼノス様……。次は、あのお姫様を『自動草むしり機』の動力源にしてもいいですか?」

「ミーシャ、嫉妬が斜め上すぎるって」


俺たちの夜は、また少しだけ騒がしく、そして甘く更けていった。


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