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第20話:崩壊の王都と、黄金の「どこでも風呂」

リリィとハンスが「玄関マット」で全てを吸い取られ、ただの抜け殻となって追放された翌日。王都の崩壊はいよいよ最終局面を迎えていた。


「ゼノス様、見てください。あちらの空、いよいよ美味しそうな毒の色をしていますよ」


テラスでくつろぐミーシャが指差す先、王都は完全に漆黒の霧に包まれ、時折、アステリオス王太子の絶叫らしきものが風に乗って聞こえてくる。


「救いようがないな。……まあ、俺たちには関係ないけど。それよりミーシャ、避難民の人たちが『最近お風呂に入れていない』って困ってたんだ。ひとつ作ってやろうと思う」

「お風呂、ですか。主様と我の混浴用……ではなく、あの者たちのために?」


ミーシャが少しだけ頬を膨らませ、不満げに俺の袖を引く。


「もちろん、俺たちの分は別で作るさ。最高級のやつをな」


俺はそこらへんに転がっていた「ひび割れた大きなかめ」と、かつて王宮の宝物庫から廃棄物として回収した「火竜の抜け殻」を取り出した。

「トントン、と」


【スキル:反転・熱源循環パーフェクト・ヒーター発動】

【作成完了:神話級アイテム『無限湧出の黄金風呂ラグジュアリー・スパ』】


一見するとただの豪華な五右衛門風呂だが、その機能は狂っている。

お湯は常に最適な42°Cに保たれ、浸かるだけで『全ての状態異常を回復』し、さらに『美肌・若返り』の効果が永続的に付与される。おまけに、入浴者の「ストレス」を魔力に変換して、拠点の防衛エネルギーに回すという超効率設計だ。


「よし、これをゲストハウスの広場に置こう」


俺が風呂を設置すると、避難民たちは歓喜の声を上げて押し寄せた。


「おおお、呪毒でガサガサだった肌がツルツルに!」「腰痛が消えたぞ!」「なんだこの極楽は……王宮の浴場より凄い!」


人々が癒やされていくたびに、俺の拠点の防衛結界はより強固に、より黄金色に輝きを増していく。

だが、その平和な光景を、血走った眼で物陰から見つめる影があった。


王太子アステリオスだ。


彼は、残った数人の近衛兵を引き連れ、もはや騎士の面影もない無様な姿でここまで逃げ延びていた。


「……あ、あのお風呂だ。あの風呂さえあれば、私の呪いも解けるはずだ……! 私のものだ、あの風呂は王族である私のものなのだ!」


アステリオスは我慢できず、狂ったように黄金風呂へ突撃しようとした。

だが。


「――主様の慈悲を、その汚れた体で受けようなどと。万死に値しますね」


湯煙の中から、ミーシャが静かに現れた。

彼女は俺が作った『濡れないバスタオル(概念武装)』を纏い、濡れた髪をかき上げる。その美しさは、アステリオスが知るどの聖女よりも、どの王妃よりも神々しかった。


「ゼ、ゼノスを呼べ! 私は王子だぞ! その風呂に入れろ!」

「いいですよ、殿下。ただし、その風呂には『不純物』を自動で排除する呪いがかかっています。……耐えられるなら、どうぞ」


俺がテラスから声をかけると、アステリオスは「嘘をつけ!」と叫びながら、お湯に手を突っ込んだ。


ジィィィィッ!!


「ぎゃあああああああああ!! 熱い! 熱すぎる!! 溶ける、腕が溶けるぅぅ!!」


実際のお湯は42°Cだ。だが、この風呂は『心の汚れた者』には『業火の地獄』として作用する反転呪具。

アステリオスは、自分の中にある醜い野心と罪悪感によって、自ら焼かれる苦しみを味わうことになった。


「ミーシャ、もういいよ。……殿下、悪いけど、うちの風呂は『人間』用なんです。化け物には刺激が強すぎたみたいですね」

「おのれ……おのれぇ……っ!!」


アステリオスは火傷した腕を抱え、再び森の闇へと転げ落ちていった。

王都は滅び、王族は地に堕ちた。

俺たちは、避難民たちの感謝の湯煙に包まれながら、またひとつ、平和な「ざまぁ」の夜を越えていくのだった。


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