表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/68

第19話:聖女の失墜と、最高の「泥落とし」

王都が『終焉の眷属』の残滓によって汚染され、もはや居住不可能となった頃。

俺たちの湖畔の家「永劫を刻む安息所」の前には、かつてないほど無様な姿の男女が倒れ込んでいた。


「ゼ、ゼノス……お願い、助けて……。わたくしの、わたくしの肌が……」


泥だらけの顔で這いつくばっているのは、聖女リリィだった。

かつての純白の聖衣はボロ布のように裂け、誇りだった美しい肌は、王都に充満した呪毒によって黒い斑点が浮かんでいる。

その後ろでは、宮廷呪具師ハンスが、魔力が枯渇して白目を剥きながらガタガタと震えていた。


「……あら。ずいぶんと汚らしい『野良犬』が迷い込んできましたね、ゼノス様」


ミーシャが冷たく微笑みながら、玄関のポーチに立つ。

彼女は、俺が今朝プレゼントしたばかりの『純潔のシルクエプロン(神話級:汚れを概念ごと消去する)』を身に着けていた。


「ゼノス! あんた、呪具師でしょう!? 早く、早くこの呪いを解きなさいよ! 命令よ、このわたくしが元の姿に戻れるように……!」


リリィが震える指で俺を指差す。だが、その言葉にミーシャの瞳からハイライトが消えた。


「――命令? その汚れた口で、主様に『命令』と言いましたか?」


ミーシャが一歩踏み出すと、湖の水が意志を持った蛇のようにせり上がり、リリィの喉元を氷の牙で威嚇した。


「待て、ミーシャ。……リリィ、悪いが俺の呪具はもう、あんたたちを『主人』とは認識しないんだ。俺が捨てられた時に、登録はすべて解除したからな」

「そんな……! じゃあ、わたくしはこのまま醜い姿でいろと言うの!?」

「まあ、せっかくここまで来たんだ。人道的支援として、うちの『自動泥落としマット』だけは使わせてやるよ。ハンス、あんたもだ」


俺が指差したのは、玄関前に敷いてある、なんの変哲もない茶色のマットだ。

だが、これは俺が『反転・強制抽出』の呪いを編み込んだ試作品。


「あ、ありがとうゼノス……! やっぱりお前は優しい……」


ハンスとリリィが、救いを求めてそのマットに足を乗せた、その瞬間。


「ぎゃあああああああ!!?」


マットから無数の不可視の触手(魔力)が伸び、二人の体から「呪毒」だけでなく、ハンスの「盗んだ魔力」や、リリィの「偽りの聖気」までもを、容赦なく根こそぎ引き剥がした。


「あ、あ、力が……わたくしの聖女の力が吸い取られて……!」

「……ふむ。二人の体についていた汚れを『エネルギー』として抽出しておいたよ。おかげで、今夜の庭の街灯が少し明るくなりそうだ」


【作成完了:希少級アイテム『搾取の玄関マット』】


呪毒と魔力を完全に吸い取られた二人は、ただの「無能な一般人」以下の存在へと成り下がった。もはや聖女でも宮廷呪具師でもない。ただの、泥まみれで力の抜けた抜け殻だ。


「さあ、掃除が終わったら退きなさい。そこは主様が歩かれる場所です」


ミーシャが軽く指を鳴らすと、二人は結界の外へと、ゴミ袋のように放り出された。

かつて俺を見下していた二人は、今や自分たちが「ゴミ」として処理される側になったことを、虚脱した瞳で受け入れるしかなかった。


「……ゼノス様、少し空気が汚れましたね。もっと浄化を強めますか?」

「いや、いいよ。それよりミーシャ、夕飯の支度を手伝ってくれるか?」

「はい! 主様のためなら、世界を煮込むことだって厭いません!」


王都の権威を象徴していた二人が、俺の家の「玄関マット」の肥料にされた。

そのニュースは、避難民たちの間で瞬く間に広まり、ゼノスの「絶対的な力」への信仰をさらに深めることになったのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ