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波打ち寄せる世界を往く  作者: 川崎春
一章 法国編

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「城まですぐです。ご準備を」

 ラガールの言葉にレイシアは頷く。

 馬車が城の門を入る際に、衛兵はレザンの顔を見ると泣きそうな顔になった。

「どうした?」

「分かりません。ただ城へ戻ってはならないとガザン将軍が城内の者に触れを出し、ほぼ全員が城を出たのですが将軍がお戻りにならず、ここでお待ちしていました」

「父上が?」

 レザンの父は法国軍の将軍であるらしい。

「何か、様子がおかしいわ」

 レシアイが馬車から頭を出して城を見据える。青に白の入り混じった渦が城を中人に見えるのだ。その渦はゆっくりと広がりつつある。

 ラガールが焦った声で言う。

「地獄が……地上に重なっています。恐らく、始祖に何かあったのでしょう」

(疲弊した白狐が地上のカシギに契約違反で殺意を向けた……)

 藍兎は言った。この世界への介入をする際に地上の人間を殺さないと約束を結んだと。誰との約束なのか分からないが、それは決して破ってはいけないのだとレイシアは察した。

 しかしカシギが産まれる前からだとすれば三十年以上白狐は、始祖交代を阻まれ続けて耐えている事になる。疲弊して苦しんでいるなら、約束が破綻してもおかしくない。

「リオンは?」

 出る前に互いの場所を知る魔法を、リオンとレザンはかけ合っている。

「法都のすぐ側です。間もなく来られます」

 レザンが即答する。

「あまり時間が無さそう。リオンを信じて先に玉座に向かうわ」

 ラガールは頷く。

「三階へ一気に飛翔して飛び込みます。荒っぽい方法になるので、体を丸めて衝撃に備えて下さい」

「分かったわ」

 ラガールはレザンの方を向く。

「父上の事は気になるだろうが、今はお嬢を頼む」

「はい」

 レザンは真剣な表情で返事をする。

「では行きますよ!」

 ラガールがそういうと、一瞬の浮遊感と激しい揺れでレイシアは反射的にロハンの衣の入った肩掛け鞄を抱きかかえ、体を丸めた。レザンはレイシアを庇って上から彼女の体を覆う。

 城は三階建てになっている。白い漆喰と木でできた城に向けて雷獣は空中を飛翔し、三階の壁に向けて、一斉に雷撃を浴びせかけていななく。

 壁に穴が開き、雷獣は勢いよく三階へと突入した。

 それと同時に雷獣達は馬車から己を解き放ち、三階に馬車だけ放り出す形で元来た穴から空へと駆け去った。

 ラガールは三階に入ると同時に御者台から飛び降りて、勢いを殺せずに転がりながら壁にぶつかった。

 馬車は雷獣の勢いのままに三階に投げ出され、横倒しになりながら、火花を上げて轟音と共に三階を破壊して進み、やがて止まった。

 凄まじい衝撃の中、レイシアは上掛けの入った鞄を抱えてうずくまっていた。

「大丈夫ですか?」

 レザンの呼びかけで恐る恐る顔を上げたレイシアは、レザンに抱きかかえられていた。レザンは額から血を流している。

「レザン、血が……」

「木端が当たっただけです」

 懐から紙を取り出し、額に当てると紙は空気に溶けるように消え、額の傷は跡形もなくなっていた。

「便利ね」

「札です。そちらで言う傷薬です」

「万能薬でなくて良かったわ」

 歪んだ馬車の扉が天井側にあり、それをメキメキと音を立ててラガールが外して顔を覗かせた。

「お嬢、怪我はありませんか?」

「大丈夫よ。レザンが守ってくれたから」

 ラガールは頷いて手を差し出した。レザンが支えてくれたので、ラガールの手を取り横倒しになった馬車から外に出る。

 先には、歪んで異常な色彩と化した廊下が見える。

 レイシアはとっさに防御魔法を使っていたのだが、それは発動しなかった。しかし目の前でレザンの魔法は発動した。

(ここは法国の城。違う始祖の管轄だから私の魔法は発動しないのだわ)

 馬車の上からラガールに抱えられて卸された後、地面に立つ。

「レザン、玉座への案内を頼む。俺達では正しい道筋が分からない。お前なら始祖の導きでたどり着ける筈だ」

「玉座への道を探索できる術を作って唱えるので、少し時間を下さい」

 そう言ってレザンはなにやら呟き始める。

 レイシアはレザンを邪魔しない様に小声でラガールに尋ねる。

「ラガール、あなたは魔法が使える?」

「多少なら」

「私、使えないわ」

 レイシアは自分が魔法を使えなかったので、ラガールも同じだと思っていたが、違う様だ。

「他国の魔力を吸収変換するにはコツが必要です。しかもここは地上用に調整されていない始祖の魔力が溜まっています。異国人である我々にとって、多くの吸収は毒となります。無理に魔法を使おうとなさらないで下さい」

(本当に、見守る事しか出来ないのね)

「万一の場合には、私が必ずお守りします」

「ラガールも異国人よね。大丈夫なの?」

「私はこう見えて三十年、ベルネア商会でお世話になって旅をしている身ですから」

 そう言ってベルネア商会のコートを開いて見せる。

 そこには、あらゆる「魔法具」と呼ばれる帝国の魔法科学で作られた品々がじゃらじゃらと付いている。

(頼もしいのに、たまにおかしいわよね。ラガールって……)

「変換術式では全世界対応型の最新モデルです!」

 誇らしげに胸を張りコートの内側を見せびらかす姿に、レイシアは若干引き気味に言う。

「そ、そう……」

 そうこうするうちにレザンが振り向いた。

「お待たせしました。行きましょう」

 レザンは先を歩み始める。

 レイシアとラガールもレザンの後に続く。

 進むにつれて、廊下がなじれて見えて来る。レザンは先を壁に張り付いたように歩む。

「お嬢、レザンを見失わない様にしてください」

 ラガールがそう言って背中をぽんと押すので進むと、足が壁に張り付いた。

(レザンの周辺だけは普通だから離れてはいけないのね)

 レイシアやラガールには捻じれて見える空間も、レザンには普通の廊下に見えているのだ。


『あははは』

 幼い少女の幻が笑いながら駆けていく。幼い頃のラーナだろう。

「時間も捻じれて幻影が見えます。レザンにもこれは見えているみたいですね」

 レザンが目を見開いて立ち止まったからだ。

 レザンははっとして止めていた足をすすめる。

 その間も、幻影は成長するラーナばかりだった。少女から女性へと、あっと言う間に美しく成長する姫は始祖に愛されていた様だ。

 そこで唐突にレイシアの見た事の無い男性が現れた。背は高いが細い。顔立ちは女性と見紛う程に美しく、ラーナに良く似ている。

(カシギだわ……)

『カリン、お前の望み通り、ロハンは二度とラーナの所に帰らない』

 呼びかける先には、愛らしい顔立ちの若い女性が泣きながら立っていた。

『違います。こんな事望んでいません。陛下が言ったのです。式帳に言祝ぎを受ければ、ロハン様の式がより強くなると。ラーナ様より愛される方法はこれしかないと仰ったではありませんか』

 カリンの物言いは酷く幼い。

『愛?』

 カシギが歩み寄る。カリンは青ざめて後ろへとじりじり下がる。

『成長して盛りが付いた途端、男を物色し始めたお前に愛の何が分かる?堅物のリオンはお前に見向きもしない。ラーナに愛を囁くロハンを奪おうとしただけだ。そこに愛など無い』

 カリンの喉が鳴る。

『本当は分かっていたのだろう?愛を囁かれるにふさわしいラーナを不幸にしたかっただけだ』

 カリンの目から溢れた涙が次から次へと零れ落ちていく。

『どうしてですか!私は幸せになりたかっただけなのに』

 カシギは追い詰めたカリンに酷く疲れた顔をして告げる。

『俺もお前も正しい道を見つける事が出来ない。望めば歪んで壊れるだけ。何一つ残りはしない』

 諦念を滲ませる声に、カリンは絶叫してその場にしゃがみ込んだ。そこで幻が消える。

 レザンが呆然としてその光景を見ている。

「しっかりしろ!」

 ラガールの言葉に我に返り、レザンは軽く頭を振ってから先に進む。その顔には戸惑いが浮かんだままだ。

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