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波打ち寄せる世界を往く  作者: 川崎春
一章 法国編

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二つの約束

「分かりました。謝罪を受け入れます」

 泣き止んだレイシアはそう告げる。

「お前が思うよりも、我は己の行いを悔いている。……謝るだけではなく、今後も力になると約束しよう」

「ありがとうございます」

 思ったよりも平坦な声が出たが、さんざん泣いた後だったから取り繕うのを諦めた。父の死が単なる事故死ではなかった衝撃はまだ抜けきっていない。

「信じていないな?こう見えて、妖怪は懐いた者には尽くす性なのだが」

(懐いたのはお父様でしょうに……)

 レイシアはそんな風に思いながら藍兎レザンを見る。

「まぁ、それはこの件が済んでからだな。ラーナがここに来た理由は、お前の推察でほぼ正解だ。正しくは玉座をリオンに与えに来たのだ」

「リオンを……玉座に座らせようとしたのですか?」

「そうだ。ラーナは生まれ持った王女の運気の半分をロハンに渡す為にその上掛けを贈った。ロハンがそのまま座れば良かったのだが、座る前にカシギに殺されてしまった。故に己のほぼ全ての運気を込めた布をリオンに渡したのだ。それを持ってリオンが玉座に座れば、リオンは法国の王だ」

「王女である証の運気と王杯。それが揃えば王女そのものは必要ないという事ですか?」

「そうだ。ラーナは本人と見紛う程にあの布に運気を注ぎ込んでリオンを逃がした。ロハンがどうやって殺されたのかは分からなくても、カシギが殺した事は分かっていたからだ」

「ロハン様の式は、何故消えてしまったのですか?」

「侍女のカリンは主人の夫であるロハンに懸想していた。カシギが言祝ぐと言ったら喜々として部屋から式帳を持ち出した。カシギは限界まで式帳を言祝いで、カリンの目の前でロハンの式帳を砕いた。カシギに脅され、自死する気概も無いカリンは裏切った主に本当の事を言えないまま仕え、カシギになぶられ続ける事となった」

 確かカリンはレザンの従姉だ。藍兎の血族の筈だ。それも藍兎がここで話している理由の一つなのだろう。

「それで新たなベルネア。どうかリオンとその布を法都の城まで届けて、交代を見届けてくれないか?我の言葉はこの国ではお前以外に届かない。頼れる者はお前だけなのだ」

 父はカシギに殺された。放置する訳にはいかなかった。これに理屈は無かった。

「分かりました。やってみます」

 死んでしまうかも知れない。意識の混濁したラーナが追ってくるのだ。追いつかれない様に王都を目指すのだ。そんな事できるのかもわからない。それでも逃げようとは思わなかった。

「この恩は必ず返す」

 藍兎はそう言うと、レザンの中から消えた。 

 虚ろだったレザンの表情が元に戻り、メルルが驚く。

「お嬢!」

 メルルが駆け寄って来て顔にハンカチを当てて来る。

「何故一瞬でそんなお顔に!」

 気づいていなかったが、藍兎が居る間の事をメルルは認識していないらしい。

 レザンを追い出すと、メルルが鏡を持ってくる。その顔を見てレイシアは小さく悲鳴を上げ、目元を冷やして腫れを取った。

 メルルが化粧を直してくれている間に考える。王気にカシギの意志が入っている以上、これに無理矢理抗う様な事は出来ない。となれば、説明するよりも命令すべきだろう。

 リオンはきっとついてきてくれる筈だ。あそこまで記憶が鮮明なのだから。レザンも自国の事だから協力してくれるだろう。……ラガールには、命令するしかない。

(お父様の仇を取って、法国を救う)

 カシギ自身にも、同情すべき点はあった。王になるべく生まれたのに、王位は繋ぎで始祖にも忌み嫌われたのだ。それはカシギのせいではなかった。しかし……彼は選べる道が幾つもあった筈なのに、王になる事に固執して道を全て閉ざしてしまった。それによってどれだけの人が不幸になろうと己の不幸を大事に温め大きくし続けている。それに何の意味があるのかもわからないまま。

「ありがとう。メルル」

 化粧直しを終えたメルルに言うと、メルルは笑顔になる。

「ねえ、ラガールに理由の伝わらない事を命令するならどうしたらいいかしら?」

 メルルはきょとんとしてから考え、物凄く悪い顔をして言った。

「命令なんて固い事を言わないで、お願いすべきです」

「え?」

「ラガール様にとってお嬢は唯一無二の主、いえ女神ですから」

「大袈裟よ」

「大袈裟でも何でもありません。上手く行ったら法都で小物を入れる可愛い巾着袋が沢山売っているのでそれを一つ買って下さい」

「上手く行かなかったら?」

「それは無いです。いいですか?坊ちゃんにお願いをする時みたいにですよ」

 上手くメルルに乗せられた気がしたが、レイシアはその通りにしてみた。


 レイシアはメルルが言っていたので、半分やけになって理由を何一つ語らず『法都の城の玉座へ一刻も早く連れて行って欲しいの。お願い』と言ってみた。

「分かりました。すぐにでも法都に向かう様に手筈します。城がどうであれ、必ず突破して玉座までお連れします」

 いい笑顔でそういうラガールを、レイシアは唖然として見る。

「いいの?」

「問題でも?」

「いえ、助かるわ」

 ちらりと見ると、メルルがにっと笑うのが見える。

(本当だった)

「ラーナ殿下をふりきって法都に辿り着かねばなりません。メルル、あれの準備だ」

「あれですか……わかりました」

「レザン、ちょっと力仕事があるから一緒に来い!」

「え?は?」

 三人が出て行き、暗い顔のリオンとレイシアが残された。

「お願いです。一緒に来てください。私は、法国を本来のあるべき状況に戻そうと考えています。それを試すには、リオンにはどうしても玉座まで来てもらわないといけません」

 リオンが一瞬黙った後、何かを悟った様に目を見開く。

(ラーナ殿下が王位継承に己を介さない様に、あの品を下賜した事を考えられるようになったのね)

 柔らかい若草色の光がリオンから出ている。レイシアが真相を知った事で、リオンの始祖が王気を撥ね退ける手助けをしているらしい。

 リオンが玉座に就いた後、汚れを受けたラーナがどうなるか分からない。助ける方法を藍兎は告げなかった。そんな方法をリオンが実行に移せるのか。それがまず不安だった。

「私は除籍された際にラーナ様に託された王気を護ってきました。いつかあの方がこれを取りに来られ、女王になられると信じて。しかし本当はラーナ様が、私が玉座に就くのを待っているのだとも分かっていました」

「どうして?」

「ラーナ様の夫はロハンだけです。代わりにはなれません。あの方は代替わりをしたら自害するおつもりだったのです」

 リオンは苦い表情で黙って項垂れる。

「あなたはそのいつかが避けられないのを知っていた。どうするかを考えなかったの?」

「考えていました。……ただ上手く行かなかったらと考えてしまうのです」

「今更よ」

 リオンは驚いてレイシアを見た。

「望まない方法で何かをやろうとすれば躊躇いが出る。それこそ大勢を巻き込むわ。……あなたの望む方法が何なのか教えて」

 リオンは頷いて語り始めた。それは確かにただリオンが玉座に就くよりも難しい方法だった。何よりもそんな方法が通る事すらレイシアには驚きだった。しかし、リオンから出る若草色の光に揺らぎが無い。……始祖は出来ると判断している。

「あなたはそれでいいの?」

 リオンは凪いだ表情でレイシアに頷く。

「何度考えてもこれしか考えられませんでした。ラーナ様が女王になる決意をしたらこうしようと……ずっと考えていました。しかしラーナ様が汚れに触れ、お嬢は会長になられて日が浅い。どちらも失うかも知れないと考えると躊躇いが産まれました」

 レイシアはリオンを見据えて言う。

「躊躇いを捨てて進むのよ。そしてあなたの願いを叶え、私とラーナ殿下を救って」

 レイシアが言うと、リオンは頷いた。

「はい。必ず」

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