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波打ち寄せる世界を往く  作者: 川崎春
一章 法国編

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死の真相

「ツルギは、宰相の娘を妻とした。王位に就くにしてもまだ十四歳と若すぎた。だから結婚したものの男女の関係が無かった。……愚王はこれを襲ったのだ」

 レイシアは息を呑む。

 宰相の始祖は目の前で憑依して語る藍兎。その娘で先王の妻であったファランは当時十三歳だったという。

「愚王はファランを襲って息子を身籠る様に己の生命力の全てを使った。そしてファランの目の前で干からびて死んだ」

 それを見たファランは発狂したという。このままでは彼女と彼女を深く愛しているツルギも死んでしまいかねなかった。宰相はこの事で藍兎に懇願した。この記憶を二人から奪って欲しいと。藍兎は宰相の命と引き換えにこの願いを叶えた。その時はそうする以外に方法が無かったのだ。

(カシギは、ラーナ殿下の叔父であり異父兄……)

 レイシアは背筋が泡立つ感覚と同時にカシギが王になり得なかった理由に納得した。

「白狐はもう一世代我慢する事を厭い、夢枕でツルギに次代はラーナに王位をと告げた。本来の予定通りだからな。しかしツルギは愚王に妻が襲われた事件の記憶を持たないから、カシギを実子と信じている。息子を一度も王座に就けないまま廃嫡にする事はできないと白狐に訴えた。白狐とは平行線のままだった」

 ツルギは苦悩したという。特に不出来と言う訳でも体に欠陥がある訳でもないのだ。しかし始祖の命令だ。カシギは城下に出る事も控えさせられ、王城でひっそりと軟禁されるように暮らす様になっていった。その中、妹であるラーナには二人の城育ちが付けられた。教育もカシギより厳しい物へと変わっていく。

 カシギには課せられていない激しい訓練をこなし、二人の幼馴染に囲まれて笑うラーナをカシギは城の窓からいつも眺める事となった。

 白狐はカシギと対話する気が無かった。何故自分は王族なのに何にもなり得ないのか知りたいと願っても白狐は呼びかけに応えない。それこそが答えなのだと言われても、彼には分からなかった。

 ツルギは人民から中途半端にカシギを遠ざけたもののファンラからの懇願と罪悪感に負け、繋ぎの王として玉座に就ける事にした。ラーナが女王として立つのは婚姻の後としたのだ。

 その後は、玉座に就いたカシギの起こした惨事しかなかった。

「まず王位継承の為に得た妻を殺してラーナの婚姻を遅らせた。その後、ラーナが結婚した直後に父であるツルギを殺して王位の譲渡を先延ばしにした。……そしてラーナの夫を殺し、その次はリオンを城から追い払った」

 何と罪深いのかとレイシアはその非道さに言葉を失い、体を震わせる。

「法国の始祖は、どれだけ害になるとしても地上の半魔も人間も……呪い殺す事が出来ない。これが『法国』の妖怪が地上に介入して半魔を産み、防波堤を作る契約だったから。愚王を忌々しく思っても殺せなかったし、カシギも同様に止める術を持たない」

「何故、その契約が必要だったのですか?」

 レイシアは王族の力を怖れている。その大元となる始祖が契約に縛られている事が不思議だったのだ。

「内容は知らぬが、何処の国も魔族は契約を課せられている。我らの本性は地上を滅ぼす猛毒の様なものだ。だから大きな代償を支払い弱体化する必要があるのだ。……人型の魔族と違い、獣が元となっている妖怪は、食い殺すという最も強い本性を抑え込む契約以外ではこちらに干渉する事が出来なかったのだ」

 藍兎は語る。昔は今以上に地上世界が削られて少なかったのだと。このままでは彼らの次元も道連れにされる。先に何が起こるかなど考える余裕も無く、干渉できる所まで弱体化しなければならなかったと。

「あの当時、魔族の選択肢は少なく余裕などなかった。故に歪みが出ている。……それを調べ、助言する事がベルネアの役目だ」

「私ですか?」

「そうだ。お前の父は、愚王の悪事に気付き、宰相に調べるように助言した。結果悪事が明るみに出てツルギが王位を継いだ。その際に愚王を譲位させた後は城から出せという助言もしていたのだが、宰相はそれをツルギに進言しなかった。まだ若い王に決断させるのは酷だと。……結果はさっき話した通りだ。宰相はベルネアの助言に従わなかった事を酷く悔いて死んだ」

『法国の焼酎は原材料が芋でな、安くて美味いのだ。法国絵師の描いたラベルは季節ごとに違う。それも素晴らしいのだ。今回は夏のラベルだ。美しいであろう?来年の夏はまた違うラベルになるのだ。今年の蛍もいいが、花火のラベルは見事であったな』

 父は酒の事ばかり話して、何をしているのか殆ど教えてくれなかった。

(言える訳がないわね。国家機密だもの……)

 何も教えずに旅立たせるのも、そのせいなのだろう。……前々から知っていたら怖気づいて旅に出られそうにない。


「それで、ようやく謝罪の話になる」

 レイシアはそう言えば藍兎が詫びねばならないと言っていた事を思い出す。表情は虚ろなままだが、声音には申し訳なさそうな感情が載っている。

「お前の父を殺したのはカシギだ」

 レイシアは耳を疑う。

「父は王国内で事故死しております!」

「結果だけ見ればな。この国の王族は玉座から始祖の運気を受け、国中に振り分けている。人にとって良いとされる事しか出来ない様に出来ている。悪しき事に使用する方法は無いと思っていた」

 始祖がそうして地上に干渉したのだからそうなのだろう。

「しかし、カシギはその方法を見つけてしまった。それがお前の父を殺した」

「何をしたのですか?」

「言祝ぎだ。カシギは白狐に嫌われている事を知っていた。城に居ればその殺気を感じる。故に守りの魔法を過剰にかける癖が幼い頃からあった。そしてある日気づいたのだ。かけすぎると壊れるのだと」

 王国では魔法をかけすぎると物が壊れるという現象がある。なかなか壊す程の力を込める事はできないので理屈でしかレイシアは知らない。しかし王族が無制限に湧き出る運気と呼ばれる始祖の力を使うとすれば……。

「お前の父の乗っていた馬車は、カシギから大事な客人として念入りに言祝ぎを受けてから法国を出た。今までそんな風にした事は無かったが、おかしいと止める者は居なかった」

 王が祝福を与えるのだから、誰も止めないだろう。

「ラーナが殺されてはこの国の玉座を継ぐ王族が居なくなってしまう。王女の王杯が玉座に座らねば始祖の交代は起こらない。故にお前の父はこの国を去る前にカシギ本人に忠言したのだ。速やかに譲位せよと」

 ベルネア商会はリオンを保護している。王杯として戻せば代替わりは終わる。

「カシギは王気を国中に流す際に他者から己を隠蔽する意思を乗せている。これは守りの魔法の領域である為、王気が拒絶しない。故に国中がこの有様だ。お前の父は貴族達を介して伝える術を持っていなかったからカシギに直に告げるしかなかったのだ」

 レイシアの目に涙が盛り上がる。

「では父は……過剰な言祝ぎを受けた馬車で」

「王国で馬車は脱輪したのではなく、法国を出て負荷を失った途端に壊れるように言祝ぎが調整されていたのだ。あの馬車は、意図的に壊された。言祝ぎによる圧迫が高齢には堪えたのだろう。崩壊の際の衝撃で心の臓も止まってしまった」

 レイシアはボロボロと涙を流す。

「レザンの体を使い、お前の父に馬車に乗らない様に私は忠告をした。しかしお前の父は……それをしなかった。大丈夫だと言い張って本当に何もしなかった」

「……お父様」

 虚ろな顔のまま、レザンは頭を下げた。

「我が国の不始末でお前の父を死なせてしまった。……どうか謝罪させてほしい」

 レイシアは黙って涙を流し続けた。

 藍兎が己の眷属である宰相との契約でツルギ達の記憶を消している為、同等の大妖怪である白狐(それも疲弊している状態)が語っても記憶が戻らないし伝わりません。だから白狐は余計に苛立っています。

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