12
雨降りの音と共に俺は目覚めた。
小鳥遊はまだ横でぐっすり眠りこけていた。その姿は普段と異なり無邪気さに溢れていた。可愛いと、これは素直に思った。
「小鳥遊、小鳥遊」
起こすのは本意ではなかったが、しかし俺は彼女に訊かねばならないことがあった。
「……ふわあ」
あくびをしながら、彼女は体を起こす。そして俺のほうをぼうっと見つめた。
「おはよう、ございます。高城さん」
「小鳥遊、教えてくれ」
「はい?」
「あんたの祖父は今どこにいる?」
「お祖父様ですか? 今はダイニングルームで朝食を取っていると思いますが……」
「ダイニングだな。どこにある?」
「……まさか、お祖父様に会う気ですか」
「ああ」
「やめてください!」
「どうして」
「どうしてもです!」
「ダイニングはこの間フランス料理を食べた場所だな。今から向かう」
彼女は何か喚いていたが、俺はそれを無視して部屋を出た。
俺の中には、明確な怒りがあった。
彼女に対してではない。
彼女にあんな馬鹿げた『官能演習』とやらを強要した、彼女の祖父に対してだ。
一言言ってやらなければ、気が済まない。
食堂の扉を力任せに開ける。
そこには多数の人がいたが、祖父が誰なのかはすぐにわかった。明らかにオーラの異なる存在が、テーブルの端についていた。
俺はつかつかと彼の元へ行く。とっさのことで、他の人達は完全に固まっていた。
「あんたが小鳥遊操の祖父か」
「……君は確か、操の恋人の」
「恋人? 何言ってるんだ。そんなことより今は官能演習の話だ。あんなものを一六歳の孫娘にけしかけるなんて、どうかしてるだろ! あいつ、泣いてたんだぞ! 馬鹿馬鹿しい決まりは即刻やめて……」
「ちょっとまっとくれ。官能演習とは何のことだ?」
「しらばっくれるな! あんたが決めたしきたりだろう!」
「いや、本当に知らんのだよ。官能演習? 初めて聞いた単語だ」
「……」
嘘を言っているようには見えなかった。大体、ここで嘘をつく理由がない。
迷っている俺は、唐突にぐいと体を掴まれた。
「何をやっているんだおまえ!」
「何だよ、離せよ」
しかしもちろん離してはくれなかった。
俺はそのまま屋敷の外へつまみ出された。傘すら渡されなかった。大降りの中、俺はうつむいて帰った。




