13
家につくなり俺は布団で眠りこけた。寝不足だったのだ。それに気も張っていたのだろう。どっと疲れが出た、という感じだった。
両親は買い物に出かけている。家にいるのは俺だけだった。
……ぼんやりとした夢の中、甲高いチャイムの音が聞こえる。
ピンポン、ピンポン、ピンポン。
うるさい、やめてくれ、うるさい。
「やめろっ!」
叫んで俺は起きた。次の瞬間気づく。誰かが来たのだ。おそらく、宅急便かセールスかが。
よほど居留守を使おうかと思ったが、チャイムが鳴り続けている。俺は腹を立てながらインターホンのカメラ画像を見た。
小鳥遊操が、赤い傘をさして立っていた。
「ごめんなさい」
会うなり彼女は頭を下げた。
「……とりあえず、入れよ」
「いえ、ここでかまいません」
「いいから。俺があんたを家に入れたいんだよ」
「……では」
居間に案内し、テーブルを挟んで向かい合った。
「嘘ついてたんだな、小鳥遊」
「はい」
「官能演習なんて小鳥遊家にはなかった。全てあんたがでっち上げた、フェイクだったんだ」
「……ええ、その通りです」
「何でだ。何でそんな嘘を俺に吹き込んだ? 俺を巻き込んで、結局何がしたかったんだ? あの涙は何だったんだよ!」
いま俺が抱いている感情は、怒りとは少し違っていた。落胆、という言葉が一番近い気がする。そう、俺はがっかりしていたのだ、小鳥遊操という存在に。
「答えてくれよ、小鳥遊」
「……だって」
「だって?」
「だって私、高城さんと一緒にデートしたり語り合ったりしたかったんですもの!」
「はあ?」
「でも高城さん、私のこと忘れてるみたいだし、それでも何とか付き合いたいし、こうするしか思いつかなかったんですよお!」
それは……つまり。
「つまり、俺のことが好きだってことか?」
「鈍すぎるんですよお!」
彼女は泣きそうな顔をしていたが、涙を流すわけではなかった。想いが止まらないという状況なのだろう。何だかそれは、美しい姿であるように思えた。
「じゃあ、泣いてたのは?」
「たぶん、高城さんと触れ合えるのが、嬉しくて」
そんなことで泣くのか。乙女か。
いや、彼女は最初から乙女だったのだ。俺が気づかなかっただけで。
「そうか……はあ」
俺は長いため息を吐いた。落胆していた、今度は自分に。
「それでは、私はお暇します」
「帰るのか?」
「ええ。謝罪の意は伝えましたから。もう今後あなたにアプローチすることはありません」
言って彼女は立ち上がる。そして玄関のほうへ向かおうとした。
「待てよ!」
俺は思わず叫んだ。深く考えたわけではないから、それは素直な感情から出た言葉だと思う。
振り返る彼女に向かって、こぼれるように俺は言う。
「官能演習はまだ終わってないだろ?」
彼女の表情がみるみるうちに紅に染まる。
そして小さな声で、「ありがと」と呟いた。
反則だよ、反則。




